さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

ヤンキー岩本くん 〜喧嘩編①〜




---------------





付き合う前の方が楽しかった。



誰かがそう言っていたのを
昔聞いたことがある気がする。







「お前スカート短けぇ」

「そんなことない」

「短けぇんだよ」

「あたしより短い子他にもっといるじゃん」

「他の女がどうとか言ってねぇよ馬鹿。
お前だよお前。」

「なにそれっ」

「とにかくもう少し長くしろや」

「嫌だ」

「しろや」

「いーやーだー」

「てめぇなぁ…コラ」


最近の岩本くんは
小言がうるさい。

いちいち小言がうるさい。


「まぁまぁ」


ふっかがなだめてくれるけど
効果は一切なし。

岩本くんは階段に座るあたしを
上から見下ろして「チッ」って舌打ちした。


こんなにうるさくなかった。

付き合う前はこんなにうるさくなかった。


あたしのことを想って
言ってくれてる事くらい分かるけど

頑固ジジイみたいなその小言に
ちょっと頭が痛くなってくる。

自分を縛られてるような
気がしてくる。


そんな岩本くんの小言だけでも
十分過ぎるくらい疲れるのに、

あたしの悩みのタネは
それひとつだけじゃない。


実は、
あたしは最近バイトを始めた。


特に理由はないけど
今まで部活に専念してた分、
家と学校の往復しかしない生活に
変な焦りを感じていた。

焦り…と言っても変な意味じゃない。

何かしなきゃ!とか、
こんな生活ダメだ!とかじゃなく…

なんていうか、、

手持ち無沙汰?

兎にも角にも。

自分の時間が多くなったおかげで
何かをしたくなった。


あと、

“ごめん!今日バイト!”

っていう学生っぽいフレーズを
使ってみたかった。


だからバイトを始めた。


でもバイトするまでも大変だった。


「バイトしようと思うんだよね〜」
なんて軽く言ったあたしを
あのヤンキーが放任してくれるわけがなかった。


「遅くまでシフト入れさせられるところはヤメろ」
「変な奴が来そうなところはヤメろ」
「酒を出すところはヤメろ」
「男が多いところはヤメろ」
「家から遠いところはヤメろ」


まさかバイトひとつするだけで
こんなに条件を出されると思ってなかった。

ヒィヒィ言いながら
いろんな求人募集を見たけど

岩本くんから出された条件に
合うバイト先がなかなか見つからなかった。



「別にバイトなんて
しなくたっていいだろーが」


って言いながらチョコケーキを
食べる岩本くんの隣に座って、


「…働ける場所がない…」


絶望の中そう零したあたしに、


「バイト先探してるの?」


声をかけて来たのは
最近よく行くようになった
カフェの店長さんだった。

ちょっと前に岩本くんが見つけて来たカフェで、
できたばっかのおしゃれなお店。


お店の看板メニューは
店長手作りのチーズケーキ。

もちろん、味もとても絶品。


「そうなんです。でも条件が合わないんです。」


しょんぼりしながらチラッと
横目で岩本くんを見ると死ぬほど睨み返された。


「条件そんなキツイの?」


全てを察知したかのような店長さんは
岩本くんに視線を向けてクスクス笑う。


「そうなんです」

「ふーん」

「もう無理。あんな条件合うお店ない。」

「そうなんだぁ」

「…はぁ…」

「そういえばウチさ…
ちょっと前から募集始めたんだよね」


あたしの前に看板メニューの
チーズケーキを置いた後に、

そのままその手で入り口付近の
ガラス壁に貼ってある紙を指差した。


太陽の光に透けたおかげで読める
反転してる文字をじっと見ると

“バイト募集”の文字。


「人手が欲しくなってさ」

「そうなんですか…」

「そうなの。困ってるの。」


顎に手を当てながら
大げさに「う〜〜ん」って言いながら
こっちをチラ見してくる店長。

何をそんなに唸っているんだろ…

ぼーっと店長のことを
見つめていたら、


「○○ちゃん!○○ちゃん!
気づいて!気づいてあげて!!」


向かいに座っていた
ふっかの言葉にハッとした。


グリン!っと岩本くんに目線を向けると
苦い顔をした岩本くんがこっちを見ていた。


「…んだよ」

「バイトしたい!」

「……」

「バイト!したい!」

「……」

「したい!!ここで!!」

「……」

「したい!!!!」

「……」


怯んでいる!!

何でもかんでも頭ごなしに
ダメだと言っていた岩本くんが

怯んでいる!!!!!!


ここぞとばかりに
熱い視線を送り畳み掛けるあたしに
岩本くんは決まり悪そうに頬をかく。


「……」

「したいぃぃ〜〜ッッ」

「で、その条件ってなぁに?」


いつの間にか岩本くんの顔が
超至近距離になるくらいまで
顔を近づけて視線を送っていたあたしに
店長さんの声が届く。


「…ヒェッ」


自分から顔を近づけたくせに
今やっと気付いたあたしはアホな声を出しながら
岩本くんから離れる。

最初に座った距離よりも
岩本くんからちょっとだけ離れて
店長さんへ向き直った。


こんな条件揃う方が難しいと思うけど
この機会を逃したくない…!

そんな気持ちを抱いて
岩本くんから出された条件を口にすると、

店長さんは「うわぁ…」って言いながら
顔をピクピク引きつらせた。


「照、お前それ流石に引くわ」


店長がゲラゲラ笑いながら
岩本くんの頭をポンポンと叩いた。


「やめろよ」


嫌がって店長の手を
払いのける岩本くん。


…ん?

なんだ、この感じは…。


「○○ちゃん。大丈夫だよ、安心して」

「はい…?」

「照、俺には絶対逆らえないから」

「へ?」

「あれ?聞いてない?」

「何をですか…?」

「俺ら、いとこなんだよ」

「は!?」


目ん玉が飛び出るかと思った。


びっくりしすぎて膝をテーブルの
裏側に思いっきりぶつけた。

その衝動でグラついたオレンジジュースを
慌てて両手で掴む。


ものすごい音がするくらい
強く打ったはずの膝の痛みなんて感じないくらい
びっくりしたあたしは


「いと、こ?」


と、生唾を飲みながら
店長さんに問いかける。


「うん、いとこ。
俺の父親と照の父親が兄弟なんだよ。
その感じだと知らなかったみたいだね」


初耳だわ!

と言いたい気持ちを飲み込んで、
ふっかと岩本くんの方を見ると


『あれ?言ってなかったっけ?』


って顔しながらこっちを見ていた。


「だから大丈夫。安心して!」

「…はぁ…」


あんなに頑なにどんなバイトも
ダメって言っていた岩本くんが
なんであんなに怯んでいたのかやっと納得した。

でも、逆らえないって言っても
岩本くんはゴリゴリのヤンキー。


店長さんはどっちかって言うと

背だって…
あたしよりはもちろん高いけど
男の人にしてはそんなに高くないし
喧嘩とかもしなそうな雰囲気。


逆らえないって…本当?


胸に残る少しの不安に、
オロオロとしていると
それに気づいたのか店長さんが笑い出した。


「もっかい言おうか?
大丈夫だよ、本当に。」


脳内を覗かれて焦るあたしに


「照に喧嘩の仕方教えたの、俺だから」


爽やかな笑顔で物騒な事ぬかしやがった。


軽いジョークかなとか
思いたかったけど、


「俺マジで怒ると照なんかより
100億倍怖いよ」


って言った店長さんに
岩本くんがアイスココアを
無言、無表情のまま
ストローでじゅるじゅる飲んでいたから
本当のことなんだと思わざるを得なかった。


「○○ちゃん、いつ来れるの?」

「へっ!?」

「いつからバイト来る?」


あぁ、もうダメだ。

岩本くんより怖いって思うだけで
もうダメだ。

ここでバイトするのが嫌になってきた。


「あ、明日からでも…」


引きつりながら笑顔を向けて
そう言うと、


「じゃあまず明日来てもらおうかな。
そこで出勤の日とかいろいろ決めようか」


白い歯を見せてそう返された。

そして店長はいつまでも不貞腐れてる
岩本くんの方をチラ見すると、


「本当は○○ちゃんがバイトしちゃうと
一緒にいる時間が減るから嫌だったんだろ?
素直にそう言えよな」


って言い出すからビックリした。


「うっせぇな…」


って言いながら少し顔を赤らめる
岩本くんにもっとビックリした。

そして正直少し…

いや、かなり嬉しい気持ちになった。








それが1ヶ月ほど前の出来事。


火曜と木曜。
あと隔週で土日のどっちか…

って感じのペースで週に2、3回
シフトを入れられている。

もちろん、早めに上がらせられる。

従業員は店長さんと店長さんの奥さんと
あたしの3人だけ。

お酒はメニューに含まれていないし
お店は学校とうちの間にある。


条件はきっちり満たしていた。


怒るとクソ怖い岩本くんのいとこ…
もとい、店長さんは
怒らないとすごく優しい良い人で
丁寧かつ分かりやすく仕事を教えてくれた。

あたしはコーヒーを淹れたり
ケーキを作ったりなんてできないから

オーダーを取ってきて、
出来上がったものを運ぶだけの仕事だけど
すごく楽しくバイトをしていた。




…そんな中、
ちょっとした事件が起こった。


えーくんがいきなり
私のバイトするカフェにやってきたのだった。






「いらっしゃいま……」


開いた扉に目を向けたまま
固まったあたしをえーくんは
ゲラゲラ笑いながら店に入ってきた。


店の中に唯一いた女の子2人組が

えーくんの着ている制服と
その整った顔を見て、

「やばっ」ってちっちゃく
声を上げているのが聞こえた。

えーくんはその声が聞こえているはずなのに
照れてもいないし喜んでもいない
普通の顔で近くの空いている椅子に座る。

きっと言われ慣れているんだろうな感が
安易に感じ取れてなんだか腹立たしかった。


「ホット1つ」


メニューも見ずに人差し指を
自分の顔の前に立ててオーダーして来た。


「…なんでいんの」

「来ちゃダメなのかよ」

「ダメ」

「テスト勉強しにきたんだよ」

「家でやりなよ」

「家だと寝ちまうからここでやんの」

「はぁ!?」

「ホラ、僕のとこ進学校なんで
勉強しなきゃヤバイんですよぉ」


ワザとらしく語尾をのばしたえーくんに
ため息が溢れる。


「ホットだけ?」

「オススメあんの?」

「チーズケーキ」

「甘いの好きじゃねぇんだけど」

「知らん」

「じゃあホットだけでいーや」

「ヘイ」


あたしが席を離れると、
えーくんはリュックから
参考書やらノートやらを出し始めたので

勉強するって言うのは
本当だったんだ。って思った。


岩本くんになんて言おう…って
すごく悩んだ。


あたし1人じゃ決められなくて


「○○ちゃんの友達?」


って聞いてきた店長に
サクッと事の流れを話した。

岩本くんと仲が悪いっていうか
ライバル的な存在の人で、
ちょっと前にその2人の
因縁に板挟みにされて
いざこざに巻き込まれた…と。

告白されたこととかは
自分で言うのが恥ずかしいから
言わないでおいた。


「面白そうな話すぎるんだけど」


店長はクスクスと笑いながら
あたしの話を聞いていた。


「結構真剣に悩んでるんですけど…」

「あははっ。まぁ、別にわざわざ
言わなくてもいいと思うけど」

「そうですかね…」

「うん、だってホラ彼見てみなよ。
普通に勉強してるだけじゃん」

「まぁ」

「別に悪いことしてる訳じゃないし
大切なお客様の1人に変わりはないし、ね?」

「…はい」

「人の気持ちを思いやってあげよう」


店長の言ってることが正論すぎて
大人しく頷いた。


それまでは良かった。

それまでは別に良かった。



でも、そのえーくんは


「よっ!」


あの日から毎週お店に来るようになった。


そう、これがあたしの
もう1つの悩みのタネ。


なんでこうみんなして
ありとあらゆるめんどくさいことを
してくるのかなぁ…


いつも以上にげんなりしながら
えーくんお気に入りの端っこの席に
オーダー用の小さいバインダーを持ちながら近づく。


「えーくんまた来たの?」

「悪いのかよ」

「暇人かよ」

「接客態度がなってねぇなぁ」


腕を組んで踏ん反り返って座る彼は、
バイト先の制服に身を包んだあたしを


「相変わらず似合わねえ」


って馬鹿にしたように笑う。


「そんなおしゃれなエプロンより
割烹着姿の方が合ってるだろ」

「注文は?」

「給食当番みたいなやつ」

「注文!」

「はいはい。ホットね」

「フンッ」

「てめぇクレーム入れんぞ」


言葉とは裏腹に
楽しそうな声を出すえーくんの机から
メニューを回収してカウンターにいる
店長の元へ向かう。

カウンターの中に入って
店長に、「ホット1つです」って声をかけると
ニヤニヤした顔で振り返ってくる。


「ありゃりゃ〜
今週もしっかり来ちゃってんな〜」


私の心内を知ってか知らずか
楽しそうな店長に頬を膨らます。


「あの男の子さ、明らか狙ってるよね」

「何をですか」


膨らました頬のまま
問いかける。


「何もかもだよ」


店長は慣れた手つきで
中挽きにしたコーヒー豆を
サイフォンの中に入れた。


「彼がお店に来るのは毎週木曜日。
その曜日は照はジム行ってて
絶対ここには来ないでしょ?」

「……」

「勉強する為に来ているのが
事実だとしても、なんでこの曜日だけ?
他の曜日はどうしてるの?
どこで勉強してるの?」


フラスコのお湯が沸騰して
ゴポゴポと音を立てる。


「騙されやすいなぁ、○○ちゃんは。」

「あの…」

「ね、全部狙ってのこと。
照に邪魔されないように
○○ちゃんに会うために。」


コーヒーのいい匂いと、
店長からの甘くて重い言葉に
頭がクラクラしてくる。


「さしずめ、照にやり返す為に
手出した女の子に
本気で惚れちゃったってやつかな?」


話していないはずの事まで
言い当てられてギョッとするあたしの前に
抽出されたコーヒーを注いだカップを置く。


「こりゃますます照に言いにくくなったね」

「…あ、あたし悪いこと
1つもしてません!」

「うん。してない。
なーにも悪いことしてない」

「し、てない」

「分かってるって、俺は」

「それに…ッ、店長さんが言わなくても
いいって言いました…ッ」

「うん、俺がそう言った。
もし照に聞かれたらちゃんとそう答えるよ」

「なら」

「でも、照はどう思うのかね、
あの筋肉馬鹿はそこまで器が広いとは思えないな。」

「え…」

「いくら俺が照に彼がお店に来てることを
言わなくてもいいって言ったって伝えても
あいつは怒ると思うよ」

「でも岩本くんは大人だからッ」


身を乗り出して反論しようとしたあたしに
店長さんは優しく笑いながら
コーヒーカップを指差した。


「冷めないうちに、持ってってあげて?」

「……はい」


仕事が最優先。


おとなしく横の棚から
ソーサーとなるお皿と
ティースプーンを取り出す。


ソーサーの上にカップ
その脇にティースプーンも乗せる。


「○○ちゃん」


不意に呼ばれて振り返ると
さっきと変わらず笑顔の店長。


「照が大人に見えてるなら、
それは照がカッコつけてるからだよ」

「岩本くんはカッコつけなくても
カッコいいです。」

「うん、そういう惚気はいらない」

「……」

「とにかく…他のことはカッコつけられてても
多分、○○ちゃんに関しては
無理だと思うんだ。」

「……」

「いつもはでかい器も
○○ちゃんに関しては小さくなっちゃう。」

「…あたしに関してはって
どういう意味ですか…?」

「今回のバイトの条件がいい例。
過保護すぎる。ホント独占欲強すぎ。」


「ただのクソガキだよなぁ」って
含み笑いをした店長は、


「今度こそ冷めるからヨロシク」


って言いながら奥へと消えた。


トレンチにコーヒーを乗せて
えーくんの席に向かう。


席に近づくあたしに気づいたえーくんは
目を細めて開いていた参考書を閉じる。


「お待たせ」

「サンキュ」

「ちょっと冷めたかも」

「なんだそれ」

「あたし悪くないけど」

「まぁいーよ。俺猫舌だし。」


あたしがこのカフェに来ていることを
岩本くんに告げ口をしたら

えーくんのあたしに向ける
とびっきりの笑顔は消えてしまうのだろうか。


誰が悪いとかじゃない。


でも、人の気持ちを思いやるって
こんなにも難しい。


あたしは曖昧に笑って、
えーくんの前にコーヒーをそっと置いた。





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実は書きためていた
ヤンキー岩本くん。

書いていて1番楽しい人…


1話で終わらせるつもりだったのに
またしても。

岩本くんったら罪な人。笑


お付き合い頂ければ。
いつもすみません。

童顔てんてー。【3】

---------------




「大丈夫?」

いきなり目の前に彼氏のドアップが現れて
ビックリしながら後ろにのけぞった。


「え?なに?」

「いや、名前呼んでも全然気づかなかったから」

「ごめん」

「謝らなくてもいいけど…」


なんだかきまりが悪くなって
乱れてもいない前髪を直す私に、


「どうしたの?なにかあった?」


不安そうな顔をしながら
もう一度私の顔を覗き込んでくる。


「何もないよ」


今までだったらなんとも思わずに
続けられていた会話も
たどたどしく感じてしまう。

自分の行動がちゃんと出来ているのか
不安でたまらない。


私の中の奥底に閉まってる気持ちが
バレちゃってるんじゃないかって。


先生のせい。

全部全部
あの日の先生のせい。









今、私は椅子に座っていて、
目の前には安井先生が仁王立ちしている。


3階の1番端っこから2番目の教室。
“化学準備室”
そこに私はいた。

薄暗いし、よく分からない薬品とか
標本とかたくさん置いてあって
なんだか不気味な教室内。

放課後の今は
この教室の近くに生徒が通る気配もなく、

正門やグラウンドからも離れているから
部活をしている生徒たちの声が
かすかに聞こえるくらい。


そんな不気味な教室に
明るい存在である
安井先生はなんだか不釣り合いな感じがする。


「なんで呼び出されたか分かるよな?」

「……」

「何考えてんだ、お前」


珍しく低い声を出した安井先生が
ペラっと鼻につくくらいの距離で
私に見せてきたのは、
今日の3時間目に受けた化学の小テストで…


「どうゆうことか説明して」

「……」

「無記名の満点解答用紙なんて
教師してて初めて見たぞ、俺は」

「…それなら今日はお赤飯ですね」

「こらっ」


先生は目も合わせずに
答える私の頭をぽこっと叩いた。


「こう見えても結構真面目に怒ってんだけど」


それはなんとなく分かってたけど
気まずい空気に耐えられない私は
余計に先生から目をそらした。

先生はその無記名の解答用紙を
私の体の横をすり抜けて
後ろの机の上に置いた。


「無記名なくせにしっかり全問正解って
何がしたいんだよ」

「…別に」

「別にでこんな事すんな」

「……」

「理由言え」

「……」

「無視すんな」

「……」

「なに?また感情どっか行った?」

「……」

「俺はお前の彼氏じゃないんだけど?」

「…だからそうゆうとこだってばッ!!」


叫んだ私に、
先生は小さいため息をつきながら


「はぁ、やっと出てきた。」


って呆れながら笑った。


「出てきたってなによ」

「お前の感情」

「はぁ?」

「突っ突かねぇと出ないからなぁ」


またしてもやられたと思った。

前にこうされたのが原因で
ずっとイライラしてたのに。

また同じことを繰り返してしまった。


「そんじゃあ、
理由、教えてよ」


先生は口をつぐんだ私の髪の毛を
優しく撫でた。

喋るつもりなんてなかったのに、
撫でられた髪の感覚に
“怒った顔可愛いね”って言われた日を思い出して

勝手に口が動いてた。


「先生のせいだし」

「は?俺?」

「先生が余計なこと言うから」


先生は眉間にしわを寄せて
“なんで俺?”とでも言いたそうな顔をしながら


「いや、人のせいにすんなよ」


って言った。


「先生のせいだって」

「お前の無記名テストに
俺がなんの関係があんだよ」

「今まで上手くやれてると思ってたのに」


その言葉を聞いて、
先生がはっはーんって顔をして
少しニヤリと笑った。


「え、何?こじれた?喧嘩した?」

「してない!」

「してねぇのかよ!」


食い気味に否定した私を
思いっきり笑い飛ばした先生は
少し離れたところからもう一つの椅子を引っ張ってきて
私の目の前で座った。


「でも今ので認めちゃったね」

「…なにがですか?」

「彼氏の前で感情出せてないって」


クスクス笑う先生に
自分の顔が赤くなっていくのが分かる。


「本当に…やめてください…」


反論しようとする声は驚くほど弱々しい。


「先生に言われてから、
もうどうしていいか分からなくなってるんです…」

「うん」

「今までどうやって会話してたのかも
分からなくなって…」

「うん」

「全部上手くいかなくなってる…」

「うん」

「もう…ほんと、どうしていいか分かんない…」


私が何を言っても
先生は単純な相槌しか打たないくせに
変な威圧感がある。

逃げ場を無くされるような。

それでいて素直にさせるような。

怖いけど怖くない、変な威圧感。


溢れる涙をこらえきれなくて
一筋流して、鼻水をすすった瞬間
カバンの中に入れていた携帯が音を立てた。


ハッと我に返って
込み上げてきた恥ずかしさを誤魔化すように
ものすごい勢いでカバンを掴んで
中から携帯を取り出す。

携帯を起動してラインを開くと、
そこに映るのは彼氏からの連絡。


『どこにいるの?』


安井先生に暴かれた
今まで蓋をしていた感情が顔を出したせいで
“もうどうしていいか分からない”状態
になった私はその画面を開いたまま動けなくなった。


なんて、返そう…


考えながら固まっていると、


「あ」


手の中から携帯をヒョイと奪われた。


もちろん奪ったのは安井先生で。

呆気にとられる私をよそに
勝手に携帯を操作してから
もう一度私の手の中に戻した。


「まぁとりあえず、
怒るってのと、泣くって感情は出てきたから
次は楽しいことするか」


恐る恐る携帯画面に目を向けると、


『今日はちょっと寄りたいとこあるから
先に帰ってて💓ごめんね💓💓』


なんて、
ハートがガンガンに使われた
文章が送られてて目玉が飛び出た。


「ちょ、先生!?何ですかこれ!!!」


慌てて何かフォローをしようと
文字を打ったり消したりするけど
そうこうしてるうちに既読がついて
「アッ」とか「ウッ」とか
変な声が出るだけで結局何も出来ず、

彼氏から
『了解。気をつけてね。』
と言うメッセージが来て諦めた。


「慌てるって感情も出てきたねぇ」


お菓子に付いてきたオマケみたいな
言い方をされて少し頭にきたけど
そんな事よりも、
先生が彼氏に打った文章の方が問題だ。


「私、こんな文絶対に打たない」

「まぁハートマークなんてね」

「使った事すらないかも」

「ごめんね〜
まぁ感情なかった人間がハートマークなんて
使うわけないか」


気持ちがいいくらいの嫌味に
もう怒る気力さえも失せた。


「先生…テスト、すいませんでした。」


先生の目は見れないまま
謝った私に笑いながら肩をポンと叩いた。


「もうすんなよ」

「先生が私に変なこと言わなければ
もうしないです」

「お前なぁ」


先生は呆れながらも、
私が本気で言ってる訳じゃないことを
いとも簡単に汲み取ったみたいで
それ以上は何も言わないまま
無記名のテスト用紙を私に渡した。

私が「すみません」ってもう一度小さく
謝りながらテストを受け取ると、
先生はそのまま帰り仕度を始めた。


お説教タイムがやっと終わりを迎えたっぽい。

やっと帰れるぜ。


「お前、校舎裏で待ってろ」


理解不能な声が飛び出したのは
もう化学準備室のドアに
手をかけた時だった。


「はい?」


心の底から“意味分かんない”感
丸出しの声を出して驚いた。


「楽しいことするかって言ったじゃん」


先生は自分のカバンから鍵を取り出すと、
私に向かって何かを企む子供のように笑って


「後でな」


って言いながらその鍵を見せびらかすように
ひらに乗せながら手を振った。

先生のペースにまんまとハメられまくって
ドアに手をかけたまま動けなくなった私の
手ごと掴んで化学準備室のドアを開くと
体を横に向けてスルッと通り抜けた。


「…え、なに…」


とりあえず全てにおいて
意味が分からなくて思わず独り言が出た。


…楽しいこと…?


先生の言った言葉を
頭の中で何回も繰り返す。

いろんな考えを張り巡らせながら
ぼーっと歩いてたら校舎裏に着くまで
やたらと時間がかかった。

でも私的には時間がかかった感覚がなくて、
校舎裏にすでに到着してた先生に
少しイラついた様子で
「おっせぇんだよ」って言われて
自分の歩くスピードの遅さに気づいた。


「…ごめんなさい…?」


先生の意味不明な言葉のせいで
時間がかかったわけだから
謝るのも縁落ちないから疑問形にしといた。


「助手席乗って」


私の手からカバンを取って
後部座席の席に投げ入れながら
顎で助手席を指す先生に従って
助手席のドアを開けた。


私は免許さえもまだ持ってないから
車に関する知識は無知で、
先生の車がなんて名前なのかとかは分からなかった。

童顔な顔とかちっちゃめの背丈のせいで
“可愛い”って言われがちな先生からしたら
意外な感じの黒のゴツめの車だった。


助手席に座ってドアを閉めたら
先生も同じタイミングで
運転席に乗り込んできた。


「私どこに連れてかれるんですか?」


ケータイを操作してる先生に問いかけると
「うん」ってから返事が返ってきた。


どこって聞いてんのに、うんって…


明らかにケータイに夢中で
私の言ったことなんて
何一つ耳に入ってない様子なのが
新鮮で少しだけ面白かった。


小さく、よし。
と口にしてケータイをどこからか
出てきている充電器にぶっ刺した先生は
車のエンジンを入れた。

ブロロロロロ
と、体に響く音と共に流れてきた音楽は
聞いたこともないオシャレな洋楽。


「30分くらいかかるから寝ててもいいぞ〜」


…だからどこに行くんだっつーの。


さっきの質問はやっぱり
聞こえてはいたけど
聞こえてなかったようなものだったみたいで

もう一度質問するのもめんどくさかったから
コクンと頷いて目をつぶった。


化学を教えてもらってるだけの
そんなに親しくもない先生の車に乗って
どっかに行こうとしてる今の状況。

そんなの当たり前に初めてで、
からしたらとんでもなく大冒険の体験。


頭にチラつくのはもちろん彼氏の顔。

あんなハートマークたくさんのライン
私が送るわけない。
送ったことなんて一度もない。


今度こそ本気でこじれるかも。


まぶたを閉じたまま、
動き出した車の揺れに身を任せた。



「着いたぞ、起きろ」


先生に頭をポンポンされて
目を開けると、車の外には
見慣れた景色とは違う景色が広がってた。

薄暗くなっている空。

魚の鱗みたいに並んだ雲に見入っていると
いきなり膝の上にパーカーが投げられた。


「とりあえずブレザーとカーディガン
脱いでそれ着て」


手にとって目の前に広げると
よく聞くスポーツメーカーの
ロゴが書かれたグレーのパーカー。


「…なんでですか?」

「もろ制服ってのはちょっとアレだから」


エッ。
未成年が入っちゃダメなとこなのッ!?


思わずビクついたら、
先生はケラケラ笑いながら


「お前結構分かりやすいな〜」


って言って、
ネクタイを外してジャケットを脱いだ。


「ライブハウスだよ」

「…ライブ、ハウス…?」

「ちっちゃい箱だから
そんなビビんなくても大丈夫だよ」

「はこ…」


聞き馴染みのない単語を繰り返す私に、
何が面白いのか先生は
大爆笑しながら手を叩いてた。


「別に未成年も出入りできるし
暗いから制服もそんなに見えないけど一応な」


未成年云々というよりは、
安井先生と“一緒にいる”人間が
先生が勤務している学校の生徒。

っていうのが1番まずいんだろうな。


大人は色々大変だ。


オトナの事情を理解した私は
大人しくブレザーとカーディガンを脱いで
先生が貸してくれたパーカーを羽織った。

チャックをしっかり上まで閉めると、
先生はニコッと笑って


「よし、行くか」


と言った。


私が車を降りてドアを閉めたのを
確認した先生は
車に鍵をかけてその鍵をポケットにしまった。


「…なんでライブハウスなんですか?」

「それはお楽しみ」


意地悪な顔でニカッと
歯を見せた先生の後について入り口へと向かった。




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童顔てんてー。 【2】


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友達を追いかけて校舎に戻ったはいいけど
安井先生はやっぱりまだ卒業生たちに捕まってて
帰ってくる気配がない。


「…帰りたい…」


もう友達も帰っちゃって一人ぼっちになった教室で
机に突っ伏しながらこぼす愚痴。


「だいたいさぁ…
何で私が送辞読まなきゃなんないんだよ…
生徒会長でいいじゃん……」


口に出してみると余計に腹が立ってきた。


「しかもこんなに待たされて…
眠いしお腹すいたし寒いし帰りたいし…
眠いし眠いし眠いし…
あんの……」


“チビ教師”って言おうとした瞬間に
髪の毛を撫でられた。


「はいはい、待たせて悪かったな」


むくりと顔を上げると、
少し疲れ気味の顔をした安井先生がいた。


いつの間に教室に入ってきたんだろ。

チビ教師って言う前で本当よかった。


「つ〜か〜れ〜た〜〜」


欠伸をしながら私の前の席に横座りする。

安井先生のポッケには
お菓子がパンパンに詰められてる。

それを私の机の上に1つ1つ置いていく。


「…なんですか、これ」

「ん?もらった」

「誰にですか」

「3ね…卒業生の女子たち」


言い慣れてる学年呼びが
まだ抜けてないのか少し言いかけてから
今日の呼び方として
正しい肩書きに言い直す安井先生。


「何で送られる側に貰ってるんですか?」


呆れ気味に言う私に
にひひって笑った先生は


「人気者だから、俺」


って言いながら
机の上にある並べられたお菓子の中で
一番大きいチョコのお菓子を私の前に差し出した。


「あげる」

「えっ」

「お礼」

「貰ったものを人に渡すんですか?」

「細かいことは気にするなよ」


これ安井先生にあげた卒業生、
きっと先生のこと好きだったんだろうなぁ。

顔も知らない先輩を不憫に思いながら
渡されたお菓子が
大好きなやつだったから
ありがたくもらう事にした。


「で、なんですか?」

「え?なに?」

「こんなに待たせて、何かあったんですか?」

「あ〜…」


安井先生がきまり悪そうに
髪の毛をガシガシ触りながら


「特にそんな用ないんだよね」


と言った。


「えっ」


低い声で反射的にそう漏らした私に
先生は申し訳なさそうにする。


「ちょっと、ありがとなって言おうと
思っててさ、あんなに嫌がってたのに
無理やりやらせたようなもんだったから、送辞。」

「そうですね」

「ちょっとお礼言ってすぐ帰すつもりだったのに
全然離してもらえなかったんだよ」

「捕まってましたね」

「お前すげぇ“早くしろよ”って顔してたよな」

「気づいてたなら早くして欲しかったです」

「だから悪かったって」

「……」


…あ、だめだ。

近過ぎる。

居心地悪いこの空間。


下を向いて目を泳がせる私に
全く気づいてない先生は
チロルチョコを1つ手にとって
包装を剥いて口に放り込む。


「今日は?彼氏は?」


先生はいつも私と話すときは
彼氏の話を出してくる。

この話題こそが
先生との会話が居心地悪く感じる原因の
6割くらいだと思ってる。


「別にいつも一緒に帰ってる訳じゃないです」


ぼそぼそ返事した私に
先生は構わず新しいお菓子に手をつけながら
質問を繰り返す。


「そうなの?」

「…そうです」

「いつから付き合ってんの?」

「はっきり覚えてないです…」

「どっちから告ったの?」

「向こう、ですけど…」

「なんて呼び合ってんの?」

「普通に…名前で」

「てかさぁ」

「はい…」

「お前本当に彼氏のこと好きなの?」


思わず顔をバッとあげた私の目の前には
さっきと変わらない表情で
もぐもぐとお菓子を頬張る先生がいた。


…な、に…こいつ…


眉間にしわを寄せて睨み付けると、
先生はまたお菓子を口に放り込んだ。


「なんかお前たちのカップルさ、
美男美女カップルとか言われてる割には
幸せそうじゃないよね」


サラッと言ってのける先生に
開いた口が塞がらない。


「特にお前、
なんか彼氏にされるがままって感じだし」


その言葉を聞いた瞬間に
私の中で何かがプチっと切れた。

さっき差し出されたチョコのお菓子を
思いっきり先生に投げつける。


「いった」

「なんなんですか!!」

「いきなり投げんなよ」

「お礼言おうとしてたとか言って
本当はこんな事言うつもりだったんですか!?」

「落ち着けって」


投げつけた勢いで椅子をひっくり返しながら
立ち上がった私を
先生は全くビビる様子もなく制して、

はぁはぁ息をしながら
立ちすくむ私の隣を通って椅子を元に戻す。


「座りなよ」


溜まった涙がこぼれないように
必死に睨み付ける私の肩を押して
無理やり椅子に座らせた。


「んだよ、怒れんじゃん」

「…ッ…」


ぐらぐらする。

足場が揺れてる。

暗くて怖くて不安でたまらない。


「いつも見てて思ってたんだよな」


私は先生の全てを見透かすその目が
本当に苦手だ。

だから、お願い。


言わないで。


その先を

言わないで。


「なんでお前そんなに自分無いの?」


いつだったか、
いつからだったのか。

分からなかったけれど、
それは確かな事だった。


「機嫌取るようにして
彼氏のしてほしいようにして
言ってほしいように言って」

「……」

「そこに自分の感情一切無し」

「……」

「そんな相手と付き合って
なにが楽しいの?」






付き合っているなんて、
優しい言葉じゃない。


甘くて重い鎖で繋がれているのが、
私たちだった。






始まりは、もうずっと昔のことだった。



私には初めから父親がいなかった。

他界した訳じゃない。

ただ、私が生まれる前に
親が離婚していただけ。

父がどんな人なのかは
知る由もなかったし、知りたくもなかったけど

私を身ごもってた母を捨てたんだから
大した器の男ではなかったんだろうなって思った。


母は私を愛してくれたし、
父がいない事に何一つ不満はなかったのだけれど、

女手一つで育ててくれていた母は
あまり家にいることが少なくて、

それがたまらなく寂しかった。


私のために働く母は私を
住んでいた小さなアパートのすぐ近くにある
自分の実家に預けていた。


だから小さい頃に
母と一緒に遊んだ記憶はほとんどない。

その頃を思い出そうとすると、
蘇るのは、畳の匂いと祖母のシワシワの手。

それくらいだった。


とある時、


「いつも1人でいるよね」


そう声をかけられた。

それは祖母の家に預けられ始めて
2年くらい経った時だった。


振り返ると、
白いTシャツに半パンを履いて
虫かごと虫取り網を身につけた
いかにもな“虫取り少年”がいた。

その少年は私の手を取って
たくさん楽しい場所に連れてってくれた。

公園だったり、川だったり、空き地だったり
そんなものだったけれど
私には全てが楽しくて仕方なかった。


祖母にも体力的な限界があったのか、
気付いた時には
祖母の家で遊ぶことよりも
少年と遊ぶことの方が増えていた。


『友達ができておばあちゃん安心できた』


その時に言っていた祖母の言葉に
少年が


「俺と遊んでたら、
おばあちゃん安心してくれるんだね!」


って嬉しそうに言った。

私はうんって頷いた。


中学に上がる頃に、祖母が他界した。

悲しみに泣く私に、
少年が言った。


「これからは俺が守ってくから」


もう少年からひとりの男になっていた彼に
何も答える事ができなかった。


『そう言ってくれて、
おばちゃんすごく安心できた』


母がそう言った。

彼は私の手を強く握った。


彼はその日から
片時も私のそばを離れなかった。

思春期真っ只中の私たちは
周りの同級生にずっとからかわれた。

でも、彼は一度も下を向く事なく
私にいつでも笑顔でこう言った。


「俺が守るから」


その言葉は私の胸に重くのしかかった。

言われて嬉しい言葉のはずなのに

いつのまにか、
受け入れられなくなっていた自分が
正直ショックだった。


当たり前のように高校も同じところを
受験した。

別の高校に進むなんて
思いつきもしなかった。


受験勉強が始まる頃には、
もう私たちのことをからかう人もいなくなっていたから
勉強にゆっくり集中できた。


高校の合格発表も2人で一緒に見に行った。


無事に2人とも合格してて
手を取って笑いあった。

その日、いつもの通り
家まで送ってくれた彼は


「キスしてもいい?」


家の前でそう言った。

彼にそう言われて黙ったまま頷いた。


ふ、と彼の顔が近づいて
触れたか触れないか分からないくらいの
キスをした後に、


「好きだよ」


と、彼が言って
私を抱きしめた。


その言葉を聞いて
ただ小さく泣いた私を彼は
さらにきつく抱きしめた。

好きだよと言ってくれた彼に
私は応えることが出来なかった。


そこで気付いてしまった。



私と彼の気持ちは同じじゃない。



でも、積み上げられた時間は
残酷にも長くて…


『高校も一緒にまでしてくれて…
本当に安心だわ』


母にそう言われた時に
この気持ちは周りにバレちゃ
ダメなことなんだと思った。


だから、自分の気持ちに蓋をした。


そのことが彼にバレないように、

いつでも笑顔でいて

彼のしてほしいようにした。
言ってほしいように言った。


私の中の感情は
許してもらえるものじゃない。


私の全てを、彼の為に使おうと思った。





全部、全部上手くやれてると思ってたのに。

周りから憧れられるくらいに
幸せなカップルになれたと思ってたのに。







膝の上に置いた手を握りしめて、
わずかに震わせる私の目の前に
さっき投げつけたチョコのお菓子が
また差し出された。


「意地悪言ってごめんな」

「……」

「でも、本当のことだろ?」


何も言い返せなくなって
黙り込んだ私に先生が言ってくる言葉は
何にも知らないからこそ言える言葉。


「学生なんて死ぬほど出会いあるんだから
もっと他の男に目向けてみろよ」


腹の虫が収まらなくて、
またお菓子を投げつけようとした手を
先生に強く握られた。


「食べ物粗末にすんな」


少しずつ力が抜けていく私に合わせて
先生の私の腕を握る力も弱まっていく。


「そうやって言いたいこと言ったり出来る
相手の方が絶対にいいよ」


「送辞、すげぇ良かったよ」なんて言いながら
残ったお菓子をまたポッケに詰め込んで
教室を出て行こうとする先生に


「この世の中好きとか嫌いとかで
どうにかなる問題だけじゃないんですよ」


って、吐き捨てた。


「まだ10年ちょいしか生きてないのに
世の中知ってるように言うね」

「自分の感情だけじゃどうにもならないんです」

「自分の感情って言っても
一切出してねぇじゃん」


振り返った先生の表情は
私を馬鹿にしてるっていうよりは
哀れんでいるように見えて
ますますどうしようもない気持ちを煽られる。


「そんなこと言ってるうちは
まだまだガキだって証拠だよ」

「ガキって…」

「世の中語るにはまだ早いよクソガキ」


笑いながら先生は私の前まで歩いてきて
ちょん、と私のほっぺを
人差し指で突きながら


「怒った顔可愛いね」


って言葉を残して教室から出ていった。


ムカついてムカついて仕方なかった。

今まで隠していたことを言い当てられたのも、
クソガキ扱いされたことも、

何もかもがムカついて仕方なかった。


でも何よりムカついたのは
怒った顔が可愛いって言われて

少し喜んでる自分にだった。






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童顔てんてー。 【1】

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びゅうっと少し強めに吹いた風が
一本に束ねた髪を揺らした。

リップを塗った唇にまとわりつく
髪の毛を払って目をつぶった。

深く吸い込んだ息は、
少しずつ華やぎ始めた地面に添うように
優しい匂いを届けてくれる。


春が、目の前に来ている。


この時期になると無意識に春の匂いの中に
あの匂いを探してしまう。

もう少しずつ忘れかけているあの匂い。


ため息を吐いて、
やるせない気持ちをいつまでも心に住み着いて
離れないひとりの男へと横滑りさせる。


もうさっさと忘れさせてよね…


深く吸い込んだ分、
長くて大きいため息が出た。

私の中で、一番色濃く残っている。
あの日々を忘れられる日なんて
来るはずもないことは分かっている。

それでも前に進んできて今があることを
否定はしない。

…だから、


「おはようございます!」


今日も大きな声で挨拶をして
笑顔で前を向いた。





***





いつも思う。


制服着て生徒に混じっても、
違和感なんて何1つないんじゃないかって。

むしろ3年生には
後輩に見られたりしちゃうんじゃないかって。


でも、実年齢は全然大人の
私の学校にいる…化学の先生。


そんな先生の職員室の机には
今日も女子生徒からのラブレターや
手作りお菓子とかがたくさん置いてある。


ハートがたくさん散りばめられた
袋に入ったクッキーの形が
これまたハート型で


クドいクッキーだな、オイ。


なんて思っていた私に声がかかった。


「人の話聞いてるかー?」


私の顔を覗き込んで
目の前で手をひらひらさせてくる。


私はこの先生に校内放送で
放課後、職員室に来いって呼ばれた。

だから先生は椅子に座ってて、
私はその横に立ってるから
私の顔を覗き込んで来た先生は
自然と上目遣いでヒョコッと私の目の前に現れる。


「……ハイ」

「嘘言うな。聞いてないだろ」

「…いや、」

「言っとくけどそれやんねーからな」


先生が指差す先には“クドいクッキー”


私は知らず知らずのうちに
クッキーを見つめてしまっていたみたい。


「ミスがくれたんだ〜」


別に聞いてねーし。


「だからそんなに見てもあげねーからな」


別にいらねーし。


ミスコンでグランプリに選ばれるくらいの
可愛い女子生徒さえも魅了してしまう先生。


童顔過ぎるその可愛い顔に
ちょっと低めの身長。

授業も分かりやすい上に面白くて
他の先生より若め…


なんて言ったらもう生徒に好まれない訳がない。


「…安井先生」

「なに?」

「早く帰りたいんですけど…」


ふて腐れながら言った私に
先生がニヤニヤと笑い出す。


「彼氏でも待たせてんの?」

「……」


黙りこくる私に、
さらにニヤニヤする先生。


「早く彼氏に会いたいってか」

「…違います」

「照れるなよ」


はぁ、と小さくため息をついても
先生は笑みを絶やさない。


「別に照れてないです」

「待ってんのか、彼氏。
健気で可愛いなぁ」

「…全然可愛くなんてないし」

「愛されてんなぁ」

「うっさい、まじ。」


舌打ちまでし始めた私に
先生はやっと目線を外してくれて
「んじゃ、もっかい言うな」と呟いた。


「卒業式で送辞読んでほしいんだよ」

「嫌です」

「早っ」

「お断りします」

「もうちょっと悩んでくれても
よくない?」

「嫌なものは嫌です」

「在校生代表としてさぁ…」

「興味ないんです、そういうの。
人前に立ったりとか目立ったりとか。」


中指の二枚爪が気になって
親指の爪でカシカシと
爪をいじっていると…

安井先生は嫌味ったらしい顔をしながら
クスクスと笑い出した。


「目立ちたくない…かぁ」

「……」

「ふーん」

「なんですか…」

「いや、よく言うよと思って」

「はい?」


頬を膨らましながら先生を
上から睨み付ける。


「入学してから…てか入試の時からずーっと
ぶっちぎりの点数で学年1位とって
テスト順位発表のたびに
廊下に名前張り出されてる奴が
言うセリフじゃねーなぁって思って」


面白くて仕方ないって感じの安井先生に
噛み締めた奥歯がギリっと音を立てる。


「それでいて生活態度も真面目な優等生…
お前以外に誰を在校生代表に推薦すればいーの?」

「……」

「な、いいだろ?」

「嫌です」

「なんで?」

「とにかく嫌なんです!」

「いい返事待ってるからな」

「…ッッ…」


会話になってない!!!!!!


自分が馬鹿にされているような感覚のせいで
顔が真っ赤になった私は
「失礼しますッ!」と声を荒げながら
足早に職員室から出た。


若いとかイケメンとか人気があるとか。

何なのか知らないけど。


私あの先生が苦手だ。

こうやって少し話してるだけで
毎回一方的に私だけが気まずくなって

あの全てを見透かしてくるような目に
たまらなく逃げたくなる。


一刻も早く先生のいる職員室から
離れたくて小走りになりながら昇降口に向かう。


昇降口に着くと、
壁に寄りかかる人物が目に入る。


その人物は私を見つけると、
すぐに駆け寄って来た。


「話し終わったの?」

「うん、待たせてごめんね」


首を横に振って「帰ろっか」
と言いながら指を絡めてきた。

私の手が大きな手に握られる。


「あ、ごめん。俺汗臭くない?
さっきまで外でバスケしててさ」

「そうなんだ」

「すごく汗かいちゃった、こんなに寒いのに。
臭くない?大丈夫?」

「全然大丈夫だよ」

「ならよかった」


無邪気に笑って私の手を握る力を
強くする。

伝わってくる。

私を大切にする気待ち。


側から見たら、
仲のいいカップルに見えるのかな。

きっと見えるんだろうな。

実際周りからは羨望と憧れの視線が
注がれている。


「○○」

「…ん?」

「好きだよ」


周りには聞こえない、
でも私にはしっかり聞こえるくらいの
小さな声でそう伝えてくれる。


伝わってくる、大切にしてくれている気持ち。


なのに何で私はこんなに
その場で繕った笑顔でしか笑えないんだろう。


煩わしいくらいに晴れた冬の空の下を、
私を大切にしてくれる彼に
手を引っ張られながら歩いた。













壇上の上でお辞儀をして
軋む階段を降りると、1人の先生と目が合った。


周りにバレないように
親指と人差し指で小さく丸を作って
笑う先生に向かってベッと舌を出した。





まだ咲き切っていない桜の木の下で
あっちこっちから名前を呼ばれている。

その度に可愛い顔をもっと可愛くさせて
全開の笑顔で色んな人のカメラに映るのは、


生徒からとっても人気がある
童顔の安井先生。


“卒業おめでとう”の
文字が入ったリボンが付いた
桜のコサージュを胸につけた生徒たちと
楽しそうに写真を撮っている。


もちろん安井先生の名前を呼ぶ
生徒のほとんどは女子生徒。

男子もちらほらいるけど、
圧倒的に女子の方が多い。


「あ、やっすーだ。」


友達がそう言いながら私の隣に腰掛けた。


私たちが腰掛けている
昇降口の前に三段だけある階段は
石で作られてるからとても冷たくて

友達はしかめっ面をしながら
「ケツがつめてぇ」ってボヤいた。


隣にいた友達が、
私の目線の先を追うようにして
安井先生に目を向ける。


「いやぁ、すっげー人気だね」

「ね」

「てかさ、てかさ、」

「ん?」

「さっき告られてんの見ちゃった」

「誰が」

「やっすーがだよ!3年生に!」

「3年生?」

「そう!よくやるよねー卒業式の日に!
いや、むしろ卒業式だからかな!?」

「なんでよ」

「記念告白?みたいなー?」

「…へぇ」

「いやぁ〜なんか興奮して
そのまま盗み聞きしちゃった!」

「…ふーん」

「……」

「……」

「…心底どうでも良さそうだね」

「心底どうでもいいもん」


乾いた笑いを飛ばした友達は
やっぱりケツが冷たいのか
何度もモゾモゾと座り直した。


「あんたやっすー苦手だもんねぇ」

「うん。嫌い。」


即答した私に友達が笑いながら、
「ウチはやっすー好きだけどな〜
カッコいいし喋りやすいし〜」
って言ってて、

模範解答のような好きな理由に
思わず苦笑いした。


「まぁ、あんた彼氏いるし
他の男なんざ興味ないか!」

「……」

「カッコいいよね、あんたの彼氏。
あんたと付き合ってるって知ってても
好きな子たくさんいると思うよ」

「…へぇ…」

「幼馴染だっけ?」

「…そう…」

「いーなー。幼馴染でくっつくとか。
タッチじゃん、タッチ。」

「なにそれ」

「タッちゃんと南ちゃんじゃん」

「カッちゃんどこだよ」


太陽の光でかろうじて暖かいだけで
やっぱり外の空気は寒い。


「てか何でこんなとこに座ってんの?
早く帰ろうよ」


友達が立ち上がる準備をしながら
声をかけてくる。


「…安井先生に待たされてる…」


不貞腐れながら言う私に
テンションが上がる彼女。


「やっすー待ってんの!?」

「待たされてんの」

「同じじゃん!!」


…全然ニュアンスが違くなってくるわ!


「嫌いとか言って仲良くしてんじゃん!」


ため息をつく私の肩に手を置いて
体重をかけながら立ち上がった彼女は
よく分からないウィンクをかまし
校舎へと入っていった。


…まだまだ終わらなそう。


未だにあちこちから呼ばれる安井先生を見て
私も友達を追いかけるように校舎へと向かった。






------------------

***

 

 

----------

 

 

わざわざ開いてくださってありがとうございます。

ご無沙汰しております。

 

さうです。

 

 

まず、一番最初に

 

勝手に長い休みを頂いてしまい

大変申し訳ありません。

 

勝手な上にそれも急に。

 

本当に本当に申し訳ないです。

 

 

理由としては、

まずなにより書けなくなったのが第一です。

 

“福田くん”シリーズを越すものを

書ける気がしなくて

何を書いていても“福田くん”と比べてしまいました。

 

こんな展開“福田くん”でも書いたな…

こんな言い回し“福田くん”でもやったな…

 

そんなことを考えてばっかりで

全く書けなくなってしまいました。

 

自分の勉強不足なのかなと思って

元々好きだった読書をして

たくさんの本に触れて知識を取り入れていたんですが

 

その間に私の大好きな世界で

色々なことが起こりました。

 

傷ついた方、悲しんだ方、

たくさんいると思います。

 

 

次々と発表されていく

内容に毎回心をえぐられて

悲しい気持ちになって

行き場のない憤りも感じて…

 

私は画面の向こう側や

ステージの上にいる彼らしか見れないから

 

彼らがどんなことを思っているのか

毎日心から本当に笑えているのか

 

今思えばいい迷惑かもしれませんが

そんなことばかり考えてしまい、

自分も心から楽しめなくなってしまっていき、

 

だんだんジャニーズから

距離を置くようになってしまいました。

 

 

他のジャンルに熱を上げて楽しむ私を

裏切り者と思う方もいたかと思います。

 

そんな私に話を書く資格なんてない。

 

そう思っていき始めたのが

話を書けなくなってしまった2つ目の理由です。

 

 

それからずっとジャニーズから目を背けて、

でも少クラとか歌番組はしっかり見て

彼らのキラキラしたところだけをなぞって

楽しんで

 

益々自分が嫌いになっていって……

 

 

でもそんな中でも、

応援DMをしてくださる方がいらっしゃって

本当に嬉しかったです。

 

こんなに間が空いていても、

途中の話の感想。今までの話の感想。

続きが気になるなど、

 

こんな私の話でも読んでくださる方たちの

声がとても嬉しかったです。

 

やっぱり“福田くん”と“ヤンキー岩本くん”は

特に人気が高かったです。笑

 

 

話を書く人の中で私の話が

一番好き、と言ってくださる方もいて

少し涙が出ました。

そのくらい嬉しかったです。

 

こんなにも優しい方々が

自分のブログを読んでくださってることを

とても誇りに思いました。

 

 

そんな中で、先日の発表。

 

今までの発表されたものの中でも

一番の衝撃を受けました。

 

仕事中にツイッターで見かけたのですが、

数秒動けなくなって息もできないほどでした。

 

本当に悲しくて辛くて悔しくて。

 

もう言葉じゃ表せない気持ちが

ばーーー…っと溢れてきました。

 

あの茶封筒を持ってきた安井くんを

今でもしっかり覚えています。

 

らぶは

 

ドリボのバックにも付いてくれて、

えびのバックにも付いてくれて、

らぶのコンサートもカッコよくて、

はっしーのバックに付いたときも

本当に本当にカッコよくて…

 

私のジャニーズ人生の中で、

いつもらぶはいてくれました。

 

特に安井くんは同い年ということもあって

彼が頑張っているから

私も頑張る!そんな気持ちに

何度もさせてくれました。

 

 

なので、この発表は一言では言い表せない

気持ちになりました。

 

きっと、

たくさんたくさん考えたんだと思います。

色々色々考えたんだと思います。

 

まだまだ悲しい気持ちは拭えないけど

彼ら7人が大好きな事には変わりないです。

 

応援したい。

それが素直な気持ちです。

 

 

そんな中で、

彼らへの感謝と応援の気持ちを表せるのは

なんだろうと思った時に

やっぱり私にできるのは書くことだと思いました。

 

こんなに間が空いている。

目を背けた自分が書くなんておこがましいと

分かっています。

 

でも、私はあの7人がいたことを

残しておきたいです。

 

カッコよくて可愛くて

歌もダンスも楽器も出来る

最高な7人がいたことを残しておきたいです。

 

 

自分勝手過ぎますが、

前に一話だけ書いた(消しちゃったけど…)

安井先生のお話を書き上げようと思います。

 

もしよろしければ

7人への感謝と応援にご協力頂ければと

読んで頂ければと、

思っております。

 

よろしくお願い致します。

 

 

さう。

 

 

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Love Liar 【7】


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マスターが、
雄大くんがそう思ってることを知ったのは
つい最近の事だったらしい。


人間観察が好きで、
自他共に認めるほどに勘の鋭いマスターは
私と雄大くんの関係に
少しだけ勘付いていたそう。


雄大くんが私に向ける気持ちは
恋じゃなかったとしても
他の人よりもは特別な好意で

私が雄大くんに向ける気持ちは
恋愛としての好意そのものだと。


私より先に私の気持ちに気づいていた。


そしてとある日に、
何気なく私のことを雄大くんに聞いたら、


「あの子、俺と似てるんですよ」


と、雄大くんが完全なる勘違いを
ご丁寧に説明してくれたらしい。



勘違い雄大くんが
マスターに話した内容によると


彼が早めに仕事が終わった日に
お店に来ていたニカと合流して
そのままお店で飲んだ時のこと。


その日は夜勤明けの私が雄大くんの家に押しかけた
次の日だったらしい。


ふとなんかの拍子に
2人の話の話題が私のことになった。


その日に限らず今までも


「俺の一番仲のいい女友達の話なんだけど…」


って、私の元彼についてのことを
雄大くんにあれやこれやと話していたらしいニカは
その日も私の話題とともに元彼の話に触れたそうな。


なに勝手に話してんだよ!


って思う人もいるかもしれないけど、
こういう人の内側の話って
当事者を全く知らない人の方が
誰かに話したり…というか
むしろ話す人もいないから
漏洩の心配がなく
深く細かに話せちゃったりするもんで。

例外なく私と雄大くんとの間も、
この間自分を迎えにきた時に
顔を合わせた程度だと思っていたニカは

私たちが知り合う前同様
私以上に怒りながら雄大くんに
私の元彼が酷いやつだった。
ということを熱弁したらしい。


今までは雄大くんも
“よく名前を聞くニカの仲良い友達の子”
くらいにしか認識のなかった私の話だけど。

もはやその時、私と雄大くんは

前日に1つのベッドで一緒に寝た仲。


今までなら「ふーん」と軽く流しながら
聞いていた話も
改めて真剣に聞いたそう。


そして話の途中に私の元彼の名前を
ニカがポロっと口にした瞬間に、


「○○ちゃんの元彼って
やっぱりその名前だよね…」


と思わず聞き返してしまったらしい。




そこまでなら
なんだなんだ?って程度の話なんだけど、
重要なのはここから。



雄大くん家に押しかけたあの日、
私は眠さのあまり家に上げてもらってすぐに
ソファにダイブして眠りに入った。


優しい彼は
ソファで寝たら体が痛くなるんじゃないかと
私の身体を心配してくれて、

私に「こんなとこで寝たら身体痛くなっちゃうよ」
と、声をかけてくれた。


でも、起きるどころか反応もしない私に
やれやれ…と思って
ブランケットを被せて自分も寝ようした。


でもその時。


ブランケットを被せて、
私に背を向けた時。


私が男の人の名前を呼んだらしい。


男の人の…下の名前を。

呼び捨てで。


ビックリした雄大くんは
思わずソファで寝てる私に
もう一度声を掛けたらしいんだけど

私はもう一度その名前を小さく呼んでから
一粒だけ涙を流して
いびきをかきはじめたらしい。


そしてそのあとは予想通りというか
なんというか…

私が寝ぼけながら呼んだ名前と
元彼の名前が一緒だったと。


しかも泣いちゃったりなんか
したらしいから

雄大くんは私がまだ元彼に未練があると
思ったらしい。



まぁー…

そう思うのが妥当だろう。

むしろそれ以外無いだろう。


…なんてこった。


雄大くんから見た私への
人物像がどんどん明確になるにつれて

私の肩はガックリと下に落ちていく。



雄大くんが私を“俺と似てる”って言った意味が
やっと分かった。


お互いに辛い恋愛をしてる


だから“似てる”んだ。


だから“似てる”って言ったんだ。



マスターからその話を聞き終わったあと、
店内は呼吸音さえ目立つくらい
静かで暗い空気が漂った。

その空気に耐えられなくなった私は
申し訳なさそうな顔をするマスターに
笑って見せてから足早にお店を出た。


お店のドアが完全に閉まる音がしてから
私は息を大きく吐き出した。





雄大くんの優しさは
私への同情だった。







***






トントンと肩を叩かれて重たい瞼をあけると
雄大くんの顔が逆さまになって
目の前に現れた。


「俺も寝る」

「…はいよ」


いつもの通り雄大くんは
私がベッドに潜り込んでから
少し経って、自分も寝ると言って
ベッドに入り込んできた。


マスターからあの話を聞かされてもなお

私は雄大くん家に行くことも、
お店に行くこともやめられなかった。

何事もなかったかのように
お店に顔を出す私に、

マスターはいつもと変わらずに
笑顔で迎えてくれた。


「ふぁぁ」


あくびをする雄大くんは
きっと今日もあの“先輩”と呼ぶ
女の人のことが好き。


そして私は今日も雄大くんの家に来て
一つのベッドで寝てる。


何もされないし、
何もしない。

でも、2人で寝てる。


雄大くんが寝ポジを確保したのを
確認してから目を閉じると、

またトントンと肩を叩かれた。


今度は瞼を閉じたまま
「んー…」返事をする。


「この間開店前にお店来てたんだって?」

「…ん」

「マスターのお手伝いしたんだってね」

「…そう」

「最近まで俺知らなかったよ」

「…マスターから、聞いたの?」

「そう。謝っといてって言われたけど
何かあったの?」

「……」

「…ん?」

「……」

「どうした?マスターに意地悪でもされた?」

「雄大くん…」

「うん、どうした?」

「恋愛って…面倒くさいよね」


目をこすりながら閉じていた
瞼をうっすら開けると

雄大くんが少しびっくりした顔をしてた。


「なんで、上手くいかないんだろう」

「……」

「…ね?」


いつもより強く、雄大くんの匂いを感じる。

2人しかいないこの部屋で、

まるで2人だけの秘め事を
話しているように
小さく密かに話す。

私の頬に雄大くんの手が触れた。


目と目が合う。


雄大くんは私に触れていた手を引いて
私の顔を自分の胸に押し当てた。


「そうだね」


そう言った彼の声と一緒に、
触れている胸からも振動を感じる。


「……」

「……」

「大丈夫?」

「…大丈、夫…」


絞り出した声は
随分と聞き取りづらかったと思う。


頭を撫でてくれる雄大くんの
優しい手の温もりを感じる。

雄大くんのTシャツを
力一杯握りしめながら、

頭では冷静に物事が整理されていった。


負け試合って最初から分かってるなら
何も失うものなんてない。


雄大くんはあの人のことが好きで、
私は元彼に未練があると思い込んでる。


…なら、このままでいい。

このままそのふりをしていれば
雄大くんのそばにいる事ができる。


誰よりも。

あの人よりも。


心はそばに置けないなら、
体だけでもそばに置きたい。


それが出来るなら、
彼の勘違いしているままに私は動く。


「本当に似てるよね」


独り言のように呟いた
雄大くんの言葉に、


「うん」


ってはっきりと口にした。


この瞬間から私は、

元彼に未練がある女になった。

絶対に届かない人を好きになった雄大くんと
同じような境遇であるがゆえに
辛い気持ちを分かち合うことができる女になった。

そんな女になったからこそ
雄大くんのそばにいて、
こうやって触れ合うことができる。


好きになった人のそばにいるために
私は嘘をつき続けることを決めた。








その日を皮切りに
私は嘘が好きになった。


『嘘をついてはいけません』
『自分を偽る言葉はやめましょう』
『嘘つきは泥棒の始まり』


今まで生きてきた中で、
嘘に関しては
肯定されるより否定される
言葉の方が多く聞かされてきた気がする。

でも、私は今嘘のおかげで
こうして生きている。

好きな人のそばにいることが出来ている。


嘘をついてでも。


それでも、私は彼のそばにいたい。




来る日も来る日も嘘をつき続けるていたら
私の頬をかすめる風が暖かくなった。

春を迎えても
お店にも顔を出して
雄大くんの家にも泊まりに行った。



「あれ?こんな時計持ってたっけ?」


いつもの特等席に座って
ご飯を食べる私の左腕を掴みながら
雄大くんは不思議そうに尋ねる。


「…可愛い時計でしょ?」

「うん。あんまり○○ちゃんが
選ばなそうなデザインだけど…可愛いね」

「今までは付けられなかったんだけど
今は雄大くんがいるから付けられるの」


少し困った顔をして
そう言ってみせれば、

雄大くんは嬉しそうに笑って
私の頭を撫でる。


「そっか…」

「うん」


私が思い描いた通りに、
事は進んでいく。


今私がついた嘘で
雄大くんは私に対して、

『元彼への未練を
前向きに捉え始めることができてる』

って思ってくれた。


「今日も泊まってく?」

「そうしようかな。
お酒飲んじゃったし」

「了解」


はたから見たら付き合ってると思われても

おかしくない会話。

おかしくない距離。


これが私の求めていたもの。



でも、その関係は
とても大きなリスクも背負うことになる。


「ねぇ、○○ちゃん。
休みってどうなってるの?」

「…どうって?」

「再来週、お花見行かない?」

「お花見?」

「うん。誘われたの。
だから○○ちゃんも
一緒に行かないかなーって思って」


突拍子もないお誘いに
私の心は嬉しくて跳ね上がった。


「再来週ならまだシフト出てないから
調整出来ると思うよ」

「本当?じゃあ行こう」


喜んでいたのも束の間で、


「大学の時のサークルの人たちに
誘われたんだけどさ、」

「え?」


ピタッと固まってしまった。


「あれ?もしかして嫌だった?」

「…嫌、というか…」


むしろ、雄大くんは嫌じゃないのかな。

だって、大学の時の
サークルのメンバーって事は

雄大くんが想いを寄せている
あの人の彼氏だっているはず。

会いたくないって思わないのかな。

気まずくなったりしないのかな。


「あ、もしかして
行きにくいって思ってる?」

「えっ」

「大丈夫大丈夫!
奥さんとか彼女とか友達とか
どんどん誘って連れて来てって言われてるの!
だから色んな人くるよ。安心していいよ。」


雄大くんの言葉に
私は全身の毛穴がブワッと開いたのが分かった。


…て事は、あの人も来るんだよね?

来ない訳、ないよね?


「お花見なんて何年ぶりだろ。
すげぇ楽しみ!」


いつもより少しだけトーンの上がった
声を出す雄大くんは
一体何が嬉しくてそんな声を出すんだろう。


純粋にお花見が楽しみなの?

サークルの人たちに久しぶりに会えるから?


…それとも、

あの人に、会えるから?


私をそのお花見に連れて行こうとしてるのも、
もしかしたら

あの人と、
あの人の彼氏であるお世話になった先輩

そのツーショットを見て
万が一傷ついたとしても
すぐに傷を舐め合えるように
連れていくだけかもしれない。


本当はそんな場所行きたくない。

絶対に行きたくない。


でも、そうしたら

私が今まで雄大くんに
嘘をつき続けてきた意味なんてなくなる。


私はとびっきりの笑顔を
顔に張り付かせて


「私も!楽しみ!」


はしゃいだ声を出した。


大好きな人に嘘を重ねていく私は
どれだけ滑稽なんだろう。


ピエロのような自分を
心の中で嘲笑った。




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後輩の宮舘くん 〜春〜 【下】


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美味しいって噂の料理は
確かに美味しかったかも知れないけど

全然食べる気になれなくて
ほとんど手をつけずに残した。


幹事をしてくれたゼミ長に
お会計を任せてお店の外に出る。
会費はもう渡してある。


やっと解放される。


そう思うと自然と気持ちが緩んでくる。

お店の看板のライトで照らされた
夜桜が綺麗…

宮舘くんと今度夜桜、見たいなぁ…


「なぁ」


不快な声はシカトしよう。


「無視かよ」

「……」

「聞いてんのかよ!」


また肩を掴まれる。

さっきよりも掴む力が強くなってるのは
きっとお酒のせい。


「お前二次会行くだろ?」


痛みに顔を歪めながら
その手をどかそうと腕を回す。


「…行かない」

「はぁ?ノリ悪!来いよ!」

「行かない」

「なにお前怒ってんの!?
こっちが気分悪くなってくんだけど!」

「…離してよ…ッ」

「俺は場を盛り上げるために
お前に話しかけてやってたんだよ!
んな事も分かんねぇの?」


周りのみんなが私を
『可哀想に…』とでも言いたげな目で見てる。


本当に…なんで私だけ
こんな目に合わなきゃならないのよ…!

肩を掴まれていた腕を振り払う。

キッと相手を睨みつけて、
息を吸い込んだ瞬間…


「○○」


決して大きくはないけど、
大好きな声が私に届いた。


声のする方に振り返ると、
宮舘くんが右手を軽く上げながら立っていた。


ひどい顔をしていたと思う。

ものすごくひどい顔をしていたと思う。


みかんくらいなら丸々一個
入るくらい口が開いてたと思う。


そのくらいに間抜け全開な顔をした私を見て
口元に手を当てながら少しだけ笑った宮舘くんは


「○○」


って、もう一度私の名前を呼んだ。


こっちに向かって
一歩ずつ近づいてくる宮舘くんが
この場から救い出してくれる
ヒーローみたいに見えた。


「…み…」

「迎えに来たよ」

「…宮舘くん…」

「帰ろうか」


嬉しすぎて宮舘くんに抱きつきたい気持ちを
グッとこらえて
差し出された彼の右手に
自分の左手を乗せようとしたら、


「なんだよ!彼氏迎えに来てんじゃん!!」


バンッ!と突然背中を叩かれて
思わず少し転びそうになった。

前のめりに転びそうになった私を
すかさず手を出して支えてくれた宮舘くんは

私を自分の背中に隠して
右手で私の右手を握りながら、


「こいつか…」


って私にしか聞こえないくらいの
小さい声で呟いた。

その声の低さにゾッと身震いした。


「こんばんは。」

「ん?あ、こ、こんばん…」

「先輩?」


宮舘くんの放つただならぬ空気に
吃りながら挨拶を返そうとしたあいつに
重ね気味に喋り出す。


「女の子の身体、
そんなに強く叩いちゃダメですよ?」

「……」

「弱いんですから、女の子はみんな」

「はあ?」


宮舘くんの背中越しに聞くあいつの声は
明らかにキレていた。

守ってくれるのは嬉しいけど、
喧嘩なんてして欲しくない。

さっき私に言ったみたいな言葉で
宮舘くんを傷つけて欲しくない。

宮舘くんのジャケットの背中部分を
ぎゅっと握りながら
「もういいよ、もう帰ろう」
ちっちゃい声で懇願する私を
宮舘くんは無視した。


「特に○○は、我慢しまくって
内側に溜め込んじゃうタイプなんで
傷つけたりしないでください」

「てめ、」

「俺の彼女です。
傷つけたりしないでください。」


私だけじゃなくて店先に出ていた
ゼミのみんなが
ゴクリと息を飲んだのが分かった。


一触即発


まさにそんな感じ。


バチバチの空気の中で
含み笑う声だけがいきなり響いた。


もちろんその声はあいつのもので、


「いやー、悪い悪い!
俺が悪かったよな!ごめんな!」


ごめんと言いながら
何一つ反省してなさそうな顔のまま
両手をパンッと合わせた。


「俺はその気全くなかったんだけどさぁ、
こいつが勘違いさせるような態度とったんでしょ?

ごめんねー、マジで。
でも俺はこいつとなんもないから!
口説いてるつもりもないし!

むしろある方が不思議ってゆーか?
本当本当!何もない!
だから安心してよ!

てかお前も!
彼氏に勘違いさせるような事すんなよ!
こっちが迷惑だっつーの!」


もしこいつの今の態度が、
“謝罪”っていう意味があるのだったら

人に対しての謝り方を
小学生に戻って学びなおしたほうがいいと思う

そのくらい威圧的で
反省の念なんて微塵とも感じられない。


しかもなんで私がいけない事したみたいに
言われなきゃなんないの…



今までずっと我慢していた涙が
ポロっとこぼれた。

さっきからずっと黙っている宮舘くんの
背中におでこをくっ付ける。

泣いている姿を周りの人に見られたくない。


「…ぅ…ッ…」


ちっちゃく漏れた嗚咽が
聞こえたらしい宮舘くんは
握っていた私の右手を一度強く握る。


「お前お前って
俺の前で自分のものみたいに
言わないでもらえますか?」

「は?」

「別に最初から先輩と○○の仲は
勘違いしてないんで大丈夫ですよ」


ハッキリとあいつにそう言ってみせた。


「それから、口説いてくれたって
構わないですよ?
○○が俺以外の男になびくわけないんで」


周りのみんなが一瞬騒然とした。


…だって、こんな風にまっすぐ
こいつに意見した人なんて
今まで誰1人いなかったから。


「すっげー自信だな」

「えぇ、まぁ」

「でもよぉ」

「はい」

「それって独りよがりの可能性はねぇの?」

「どういう意味ですか?」

「そんな事ばっか言ってると
嫌われるぜって意味だよ」


その言葉についに私はブチ切れた。


もういい。

ゼミのみんなに引かれても。

宮舘くんに引かれても。


こいつだけは許せない!!!


一発殴ってやろうと、
意気込んだ瞬間…


「嫌いになったって構わないです。
好きにさせる自信があるんで」



この言葉を、私は一生忘れないと思った。



「○○、帰ろ」


宮舘くんの声でハッと我に返る。

同じ目線に屈んできた宮舘くんは
私の顔を見て笑いかけると
優しく手を握り直した。


「お、お疲れ様…!」


宮舘くんに引っ張られる形で
みんなから離れていく私の背中に
ゼミ長からの声が聞こえて


「あ、お疲れ様!また月曜…」


って言いながら声のする方に視線を向けると、
さっきまで宮舘くんに
威圧的な態度を取っていたあいつが

放心状態で動けなくなっていたのが見えた。




しばらく歩いて
お店から結構離れた辺りで
腕を引っ張って彼を引き止めた。


「宮舘くん…」

「ん?どうしたの?」

「いつから、お店の外で待ってたの?」


彼の手を握る両手に思わず力が入る。


「内緒」

「…ちょ、」

「だから言ったでしょ?大丈夫だって」

「……」

「俺を信じてって」

「……」


押し黙った私に反して、
宮舘くんは何やら楽しくて仕方ない感じで


「あははっ、喧嘩しちゃった」


って笑い出すから
さっきまで頬を膨らましてた
私までおかしくなって
2人でいつまでもケタケタ笑った。








“帰ろう”って言われて
一緒に歩いてきたけれど、

着いた場所は私の家じゃなくて
宮舘くんの家だった。


「…ふぅ…」


家に入って早々に
宮舘くんはソファに深く座り込んだ。


「…ちょっと気疲れしちゃった…」


照れるように笑いながら
右手で目をこする。

その仕草が子供みたいで
思わず口元に笑みが浮かんだ。


空けられた
彼の隣のスペースに腰をかける。


「…宮舘くん…」

「ん?」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「すごいカッコよかった…」


フッと頭に温かいものを感じた。


「それは嬉しいな」


宮舘くんは私の頭に手を乗せて
穏やかな声を落とす。


なんとも言えない気持ちがこみ上げて
涙がたまるまぶたに宮舘くんがキスをする。


宮舘くんの唇がまぶたから
離れると同時に視線を上げると、

すんごくフェロモン全開の
彼の顔が目の前にあった。

右手がスルッと私の左頬に伸びてきて、
その手にドキドキと胸が鳴り始める。

宮舘くんの全てが私をドキドキさせる。


「…宮舘くん…」

「すぐに終わらせてあげられないかも」

「…え…」

「ごめんね」


力強い両腕に抱きしめられ、
唇を塞がれた。


唇を割って入ってくる宮舘くんの舌は
びっくりするくらい熱くて、
でもすごく優しい。

背中に回される腕の力強さに安心する。


「…んッ…」


思わず漏れる声は私の声なんだけど
聞いたこともないくらい甘い声。


宮舘くんは、さっきから私に
恥ずかしがる隙も与えてくれない。

角度を変えて
たくさんのキスが落ちてくる。


私の首後ろに回った宮舘くんの骨ばった指が
うなじあたりを往復する。


その感覚にゾクゾクする。


宮舘くんの舌の動きに翻弄されて
頭がクラクラしてきた瞬間に
膝の裏と脇の下に腕が回って
いきなりお姫様抱っこされた。


「…わッ…」


ビックリして思わず彼の体を押しのける。


「宮舘く…下ろし、て…」


逃さないと言うかのように
力強い目で私の目を捉えた彼は、


「…黙って…」


と、一言囁いてから
私の口をその唇で塞いだ。

私を抱き上げてキスしたまま
ベッドまで歩いて行って
優しくその場に寝かせる。


下されたベッドの軋む音に
緊張感が増す。


「○○ちゃん」


不意に落とされた声に閉じていた目を開くと
宮舘くんが私の顔を挟むように両腕を付いてて、

あまりの近さに
呼吸の仕方も忘れそうになった。


よく見たことある。

漫画とかドラマとかで。

この格好。


…あぁ、私…ついに…



すごく緊張する。

…でも、

初めての人が

宮舘くんで良かった。


大好きな人で、良かった。


髪を撫でて、優しいキスをしてくれる
宮舘くんに身を委ねてた。


背中に回された手に
一気に緊張がピークになって…


「寝よっか」

「へ?」


一瞬離れた唇から紡がれた言葉に
素っ頓狂な声が出てしまった。


「あれ?足りなかった?」

「ち、違ッッ!」


体をバタバタさせる私に
宮舘くんは楽しそうに笑った。


「しないよ」

「……」

「しない」

「…な、んで…」


本当は少し怖い気持ちがある。

でも、“しない”なんてハッキリ言われてしまうと
それはそれでちょっと寂しい。

女子としては複雑な気持ちになる。


「○○ちゃんが怖がってる内はしない」

「……」


握りしめていた手を開くと、
私の手のひらは
手汗でびっしゃりと濡れていた。


手のひらを見つめる私の左隣に
ゴロンと寝転んだ宮舘くんは
左手を伸ばして私を抱き寄せた。


「今日泊まってってね」

「…う、うん」

「お泊り初めてだね」

「…うん…」

「せっかく初めてのお泊りだから
なんか話そっか」

「何を…?」


手汗を服にゴシゴシとなすりつけて
何事もなかったかのように振る舞う。


「好きな人の話とか」

「…何言ってんの?」

「俺の好きな人はね〜」

「え?始まっちゃうの!?」


慌てる私に宮舘くんは意地悪な顔で笑った。


「頑張り屋さんなんだよね」

「……」

「それから、明らかに自分に向けられてる
人からの好意にぜーんぜん気づかないの。

んで、その人が自分のこと
気にくわない存在だと思ってる…
ってまで思っちゃうの。」

「…え…それって。」

「うん。あのゼミの男の人
○○ちゃんのこと好きだよ、絶対。」

「…え?は?」

「だからあんなに○○ちゃんに絡んできてたの。
そんで俺には敵意むき出し。」

「それは違うと思…」

「違くないんだよ、コレが」

「…あの…」

「鈍感」

「…はぁ…」

「まぁ、俺の気持ちも
告白するまで全然気づかなかったもんね」

「…あぅッ…」


何か反論を言いたかったけど
何を言っても意味不明な言葉にしか
ならないような気がして、

喉までせり上がった言葉を飲み込んだ。


「でもそのままでいいから」

「…う、うん…?」

「俺以外の男からの好意なんて
気付かなくていいから」


そう言ってもっと強く私を抱きしめる宮舘くんを

今度からは「涼太くん」って
呼ぼうって心の中で密かに誓った。







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そして後に、
宮舘くんはゼミの中で
伝説扱いされるのであった…まる。






スランプ中に伴い、
宮舘くんに助けを求めました。

そして宮舘くんは私を助けてくれました。

サンキュー舘様。

(`ё´)ヒェアッ!



でも無駄に長くなりました。

1話分だけで終わらせようと思って
書き始めたつもりなのにな。

まとまった文が書けないから
こんな事になるのでした。


てへっ


こんな長い文を
読んでくれてありがとうございます。



基本私はしょっぱめの
せつなーいかなしーいお話ばっかりだけど
宮舘くんを書くときだけは甘く書けるので

ダブルで助けられてます。


このまま辰巳くんのお話も書けるようになりたい…


それまで他の方達の力を借りて
辰巳くんも書けるように頑張ります。

何卒よろしくお願い致します(笑)