さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

童顔てんてー。 【1】

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いつも思う。


制服着て生徒に混じっても、
違和感なんて何1つないんじゃないかって。

むしろ3年生には
後輩に見られたりしちゃうんじゃないかって。


でも、実年齢は全然大人の
私の学校にいる…化学の先生。


そんな先生の職員室の机には
今日も女子生徒からのラブレターや
手作りお菓子とかがたくさん置いてある。


ハートがたくさん散りばめられた
袋に入ったクッキーの形が
これまたハート型で


クドいクッキーだな、オイ。


なんて思っていた私に声がかかった。


「人の話聞いてるかー?」


私の顔を覗き込んで
目の前で手をひらひらさせてくる。


私はこの先生に校内放送で
放課後、職員室に来いって呼ばれた。

だから先生は椅子に座ってて、
私はその横に立ってるから
私の顔を覗き込んで来た先生は
自然と上目遣いでヒョコッと
私の目の前に現れる。


「……ハイ」

「嘘言うな。聞いてないだろ」

「…いや、」

「言っとくけどそれやんねーからな」


先生が指差す先には“クドいクッキー”


私は知らず知らずのうちに
クッキーを見つめてしまっていたみたい。


「ミスがくれたんだ〜」


別に聞いてねーし。


「だからそんなに見てもあげねーからな」


別にいらねーし。


ミスコンでグランプリに選ばれるくらいの
可愛い女子生徒さえも魅了してしまう先生。


童顔過ぎるその可愛い顔に
ちょっと低めの身長。

授業も分かりやすい上に面白くて
他の先生より若め…


なんて言ったらもう生徒に好まれない訳がない。


「…安井先生」

「なに?」

「早く帰りたいんですけど…」


ふて腐れながら言った私に
先生がニヤニヤと笑い出す。


「彼氏でも待たせてんの?」

「まぁそんなとこです」

「早く彼氏に会いたいってか」

「…違います」

「照れるなよ」


はぁ、と小さくため息をついても
先生は笑みを絶やさない。


「…待たせると怒るんですよ」

「可愛いヤキモチだなぁ、そりゃ」

「…全然可愛くなんてないし」

「愛されてんなぁ」

「うっさい、まじ。」


舌打ちまでし始めた私に
先生はやっと目線を外してくれて
「んじゃ、もっかい言うな」と呟いた。


「卒業式で送辞読んでほしいんだよ」

「嫌です」

「早っ」

「お断りします」

「在校生代表としてさぁ…」

「興味ないんです、そういうの。
人前に立ったりとか目立ったりとか。」


中指の二枚爪が気になって
親指の爪でカシカシと
爪をいじっていると…

安井先生は嫌味ったらしい顔をしながら
クスクスと笑い出した。


「目立ちたくない…かぁ」

「……」

「ふーん」

「なんですか…」

「いや、よく言うよと思って」

「はい?」


頬を膨らましながら先生を
上から睨み付ける。


「入学してから…てか入試の時からずーっと
ぶっちぎりの点数で学年1位とって
テスト順位発表のたびに
廊下に名前張り出されてる奴が
言うセリフじゃねーなぁって思って」


面白くて仕方ないって感じの安井先生に
噛み締めた奥歯がギリっと音を立てる。


「それでいて生活態度も真面目な優等生…
お前以外に誰を在校生代表に推薦すればいーの?」

「……」

「な、いいだろ?」

「嫌です」

「なんで?」

「とにかく嫌なんです!」

「いい返事待ってるからな」

「…ッッ…」


会話になってない!!!!!!


自分が馬鹿にされているような感覚のせいで
顔が真っ赤になった私は
「失礼しますッ!」と声を荒げながら
足早に職員室から出た。


若いとかイケメンとか人気があるとか。

何なのか知らないけど。


私あの先生が苦手だ。

全てを見透かしてくるような目も
逃げたくて仕方なくなる。


一刻も早く先生のいる職員室から
離れたくて小走りになりながら
昇降口に向かう。


昇降口に着くと、
壁に寄りかかって待ちくたびれた様子の
人影が目に入った。


その人物は私を見つけると、
すぐに駆け寄って来た。


「遅かったね」

「ごめんね…」


素直に謝った私に、
「帰ろっか」と言いながら
指を絡めてきた。

私の手が大きな手に握られる。


…逃げられないように…


「今日はどっちの家がいい?」

「…どっちでも、いいよ…」

「じゃあ俺ん家にしよっか。
その方が学校から近いし」

「…うん…」


うん、いいよ…

なんだっていい…


もう、なんだって…

いい…



煩わしいくらいに晴れた
冬の空の下を、
手を引っ張られながら歩いた。











「…んッ、…あっ…」


薄暗い部屋中に甘い声が響く。


「…はぁ、はぁ…」


乱れた呼吸を私の耳元で繰り返しては
何度も何度も私の名前を呼ぶ。


「…俺の、ものだよ…ッ…」

「…ッ、あ……」

「…一生…ッ、俺の…」

「ん…ッ、あ」

「……んッッ……」


仰向けになった私の体の上に
そのまま落ちてくる体。

その重さの下敷きになったせいで
うまく呼吸が出来ない。


私の体の上から
やっと横にズレてくれたかと思ったら
今度はキツく抱きしめられる。

やっぱりうまく呼吸が出来ない。


「俺のもの」


全身が震えるくらいの
甘い声で囁いて、
私の体に緋い華を咲かせる。


「誰にも触れさせない」


少しの痛みを伴って咲く緋い華。


「一生、俺だけのもの」


私はその緋い華が咲いた分だけ、
虚しさが大きくなる。


もうなんだっていいんだ。

なんだっていい。


そう思うのに、

どうして涙が止まらないんだろう。


夢も希望も…

何もない人生だって。


見切りをつけたはずなのに、

どうして涙が止まらないんだろう。


「…愛してるよ…」


私は今日も、

好きでもない男に抱かれる。


自分の身を守るために。

好きでもない男に抱かれる。





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▽▽▽













重くて暗いお話を書いてみたくて。

それでもって大人テイストな
お話を書いてみたくて。


なんでこんな小文で
終わらせたかというと、

皆様の反応次第で続きを書くか
それともコソッと消すか…

様子見だからでございます(最低w)


だって怖いんだもん。

特にこういう系統のお話だと
余計に怖いんだもん。


アイアム チキン!!!




あ、そうです。

安井くんです。


ハートたっぷりの
クドいクッキーをもらっている
化学担当の童顔先生は

Love-tune安井謙太郎くんです。


あれ?
すのふぉゆ以外で初じゃないですか?

友情出演はカウントしないで、
主人公ちゃんとガッツリ絡むの。

すのふぉゆ以外で妄想、
初じゃないですか?


めでたいっ。めでたいっ。


安井くん、好きですよ。

可愛い顔してすごく周りが見れて
誰よりも大人で。
頼り甲斐があって。

同い年ですし。


そんな感じです。



GWで仕事が休みだからって
調子乗って色んな人の話
書きまくってごめんなさい。

更新しまくってごめんなさい。


そんな感じです。(2回目)


安井くんのお話…

続きはどうなるか。
皆様の判断に任せます(笑)


他力本願。

Love Liar 【7】


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マスターが、
雄大くんがそう思ってることを知ったのは
つい最近の事だったらしい。


人間観察が好きで、
自他共に認めるほどに勘の鋭いマスターは
私と雄大くんの関係に
少しだけ勘付いていたそう。


雄大くんが私に向ける気持ちは
恋じゃなかったとしても
他の人よりもは特別な好意で

私が雄大くんに向ける気持ちは
恋愛としての好意そのものだと。


私より先に私の気持ちに気づいていた。


そしてとある日に、
何気なく私のことを雄大くんに聞いたら、


「あの子、俺と似てるんですよ」


と、雄大くんが完全なる勘違いを
ご丁寧に説明してくれたらしい。



勘違い雄大くんが
マスターに話した内容によると


彼が早めに仕事が終わった日に
お店に来ていたニカと合流して
そのままお店で飲んだ時のこと。


その日は夜勤明けの私が雄大くんの家に押しかけた
次の日だったらしい。


ふとなんかの拍子に
2人の話の話題が私のことになった。


その日に限らず今までも


「俺の一番仲のいい女友達の話なんだけど…」


って、私の元彼についてのことを
雄大くんにあれやこれやと話していたらしいニカは
その日も私の話題とともに元彼の話に触れたそうな。


なに勝手に話してんだよ!


って思う人もいるかもしれないけど、
こういう人の内側の話って
当事者を全く知らない人の方が
誰かに話したり…というか
むしろ話す人もいないから
漏洩の心配がなく
深く細かに話せちゃったりするもんで。

例外なく私と雄大くんとの間も、
この間自分を迎えにきた時に
顔を合わせた程度だと思っていたニカは

私たちが知り合う前同様
私以上に怒りながら雄大くんに
私の元彼が酷いやつだった。
ということを熱弁したらしい。


今までは雄大くんも
“よく名前を聞くニカの仲良い友達の子”
くらいにしか認識のなかった私の話だけど。

もはやその時、私と雄大くんは

前日に1つのベッドで一緒に寝た仲。


今までなら「ふーん」と軽く流しながら
聞いていた話も
改めて真剣に聞いたそう。


そして話の途中に私の元彼の名前を
ニカがポロっと口にした瞬間に、


「○○ちゃんの元彼って
やっぱりその名前だよね…」


と思わず聞き返してしまったらしい。




そこまでなら
なんだなんだ?って程度の話なんだけど、
重要なのはここから。



雄大くん家に押しかけたあの日、
私は眠さのあまり家に上げてもらってすぐに
ソファにダイブして眠りに入った。


優しい彼は
ソファで寝たら体が痛くなるんじゃないかと
私の身体を心配してくれて、

私に「こんなとこで寝たら身体痛くなっちゃうよ」
と、声をかけてくれた。


でも、起きるどころか反応もしない私に
やれやれ…と思って
ブランケットを被せて自分も寝ようした。


でもその時。


ブランケットを被せて、
私に背を向けた時。


私が男の人の名前を呼んだらしい。


男の人の…下の名前を。

呼び捨てで。


ビックリした雄大くんは
思わずソファで寝てる私に
もう一度声を掛けたらしいんだけど

私はもう一度その名前を小さく呼んでから
一粒だけ涙を流して
いびきをかきはじめたらしい。


そしてそのあとは予想通りというか
なんというか…

私が寝ぼけながら呼んだ名前と
元彼の名前が一緒だったと。


しかも泣いちゃったりなんか
したらしいから

雄大くんは私がまだ元彼に未練があると
思ったらしい。



まぁー…

そう思うのが妥当だろう。

むしろそれ以外無いだろう。


…なんてこった。


雄大くんから見た私への
人物像がどんどん明確になるにつれて

私の肩はガックリと下に落ちていく。



雄大くんが私を“俺と似てる”って言った意味が
やっと分かった。


お互いに辛い恋愛をしてる


だから“似てる”んだ。


だから“似てる”って言ったんだ。



マスターからその話を聞き終わったあと、
店内は呼吸音さえ目立つくらい
静かで暗い空気が漂った。

その空気に耐えられなくなった私は
申し訳なさそうな顔をするマスターに
笑って見せてから足早にお店を出た。


お店のドアが完全に閉まる音がしてから
私は息を大きく吐き出した。





雄大くんの優しさは
私への同情だった。







***






トントンと肩を叩かれて重たい瞼をあけると
雄大くんの顔が逆さまになって
目の前に現れた。


「俺も寝る」

「…はいよ」


いつもの通り雄大くんは
私がベッドに潜り込んでから
少し経って、自分も寝ると言って
ベッドに入り込んできた。


マスターからあの話を聞かされてもなお

私は雄大くん家に行くことも、
お店に行くこともやめられなかった。

何事もなかったかのように
お店に顔を出す私に、

マスターはいつもと変わらずに
笑顔で迎えてくれた。


「ふぁぁ」


あくびをする雄大くんは
きっと今日もあの“先輩”と呼ぶ
女の人のことが好き。


そして私は今日も雄大くんの家に来て
一つのベッドで寝てる。


何もされないし、
何もしない。

でも、2人で寝てる。


雄大くんが寝ポジを確保したのを
確認してから目を閉じると、

またトントンと肩を叩かれた。


今度は瞼を閉じたまま
「んー…」返事をする。


「この間開店前にお店来てたんだって?」

「…ん」

「マスターのお手伝いしたんだってね」

「…そう」

「最近まで俺知らなかったよ」

「…マスターから、聞いたの?」

「そう。謝っといてって言われたけど
何かあったの?」

「……」

「…ん?」

「……」

「どうした?マスターに意地悪でもされた?」

「雄大くん…」

「うん、どうした?」

「恋愛って…面倒くさいよね」


目をこすりながら閉じていた
瞼をうっすら開けると

雄大くんが少しびっくりした顔をしてた。


「なんで、上手くいかないんだろう」

「……」

「…ね?」


いつもより強く、雄大くんの匂いを感じる。

2人しかいないこの部屋で、

まるで2人だけの秘め事を
話しているように
小さく密かに話す。

私の頬に雄大くんの手が触れた。


目と目が合う。


雄大くんは私に触れていた手を引いて
私の顔を自分の胸に押し当てた。


「そうだね」


そう言った彼の声と一緒に、
触れている胸からも振動を感じる。


「……」

「……」

「大丈夫?」

「…大丈、夫…」


絞り出した声は
随分と聞き取りづらかったと思う。


頭を撫でてくれる雄大くんの
優しい手の温もりを感じる。

雄大くんのTシャツを
力一杯握りしめながら、

頭では冷静に物事が整理されていった。


負け試合って最初から分かってるなら
何も失うものなんてない。


雄大くんはあの人のことが好きで、
私は元彼に未練があると思い込んでる。


…なら、このままでいい。

このままそのふりをしていれば
雄大くんのそばにいる事ができる。


誰よりも。

あの人よりも。


心はそばに置けないなら、
体だけでもそばに置きたい。


それが出来るなら、
彼の勘違いしているままに私は動く。


「本当に似てるよね」


独り言のように呟いた
雄大くんの言葉に、


「うん」


ってはっきりと口にした。


この瞬間から私は、

元彼に未練がある女になった。

絶対に届かない人を好きになった雄大くんと
同じような境遇であるがゆえに
辛い気持ちを分かち合うことができる女になった。

そんな女になったからこそ
雄大くんのそばにいて、
こうやって触れ合うことができる。


好きになった人のそばにいるために
私は嘘をつき続けることを決めた。








その日を皮切りに
私は嘘が好きになった。


『嘘をついてはいけません』
『自分を偽る言葉はやめましょう』
『嘘つきは泥棒の始まり』


今まで生きてきた中で、
嘘に関しては
肯定されるより否定される
言葉の方が多く聞かされてきた気がする。

でも、私は今嘘のおかげで
こうして生きている。

好きな人のそばにいることが出来ている。


嘘をついてでも。


それでも、私は彼のそばにいたい。




来る日も来る日も嘘をつき続けるていたら
私の頬をかすめる風が暖かくなった。

春を迎えても
お店にも顔を出して
雄大くんの家にも泊まりに行った。



「あれ?こんな時計持ってたっけ?」


いつもの特等席に座って
ご飯を食べる私の左腕を掴みながら
雄大くんは不思議そうに尋ねる。


「…可愛い時計でしょ?」

「うん。あんまり○○ちゃんが
選ばなそうなデザインだけど…可愛いね」

「今までは付けられなかったんだけど
今は雄大くんがいるから付けられるの」


少し困った顔をして
そう言ってみせれば、

雄大くんは嬉しそうに笑って
私の頭を撫でる。


「そっか…」

「うん」


私が思い描いた通りに、
事は進んでいく。


今私がついた嘘で
雄大くんは私に対して、

『元彼への未練を
前向きに捉え始めることができてる』

って思ってくれた。


「今日も泊まってく?」

「そうしようかな。
お酒飲んじゃったし」

「了解」


はたから見たら付き合ってると思われても

おかしくない会話。

おかしくない距離。


これが私の求めていたもの。



でも、その関係は
とても大きなリスクも背負うことになる。


「ねぇ、○○ちゃん。
休みってどうなってるの?」

「…どうって?」

「再来週、お花見行かない?」

「お花見?」

「うん。誘われたの。
だから○○ちゃんも
一緒に行かないかなーって思って」


突拍子もないお誘いに
私の心は嬉しくて跳ね上がった。


「再来週ならまだシフト出てないから
調整出来ると思うよ」

「本当?じゃあ行こう」


喜んでいたのも束の間で、


「大学の時のサークルの人たちに
誘われたんだけどさ、」

「え?」


ピタッと固まってしまった。


「あれ?もしかして嫌だった?」

「…嫌、というか…」


むしろ、雄大くんは嫌じゃないのかな。

だって、大学の時の
サークルのメンバーって事は

雄大くんが想いを寄せている
あの人の彼氏だっているはず。

会いたくないって思わないのかな。

気まずくなったりしないのかな。


「あ、もしかして
行きにくいって思ってる?」

「えっ」

「大丈夫大丈夫!
奥さんとか彼女とか友達とか
どんどん誘って連れて来てって言われてるの!
だから色んな人くるよ。安心していいよ。」


雄大くんの言葉に
私は全身の毛穴がブワッと開いたのが分かった。


…て事は、あの人も来るんだよね?

来ない訳、ないよね?


「お花見なんて何年ぶりだろ。
すげぇ楽しみ!」


いつもより少しだけトーンの上がった
声を出す雄大くんは
一体何が嬉しくてそんな声を出すんだろう。


純粋にお花見が楽しみなの?

サークルの人たちに久しぶりに会えるから?


…それとも、

あの人に、会えるから?


私をそのお花見に連れて行こうとしてるのも、
もしかしたら

あの人と、
あの人の彼氏であるお世話になった先輩

そのツーショットを見て
万が一傷ついたとしても
すぐに傷を舐め合えるように
連れていくだけかもしれない。


本当はそんな場所行きたくない。

絶対に行きたくない。


でも、そうしたら

私が今まで雄大くんに
嘘をつき続けてきた意味なんてなくなる。


私はとびっきりの笑顔を
顔に張り付かせて


「私も!楽しみ!」


はしゃいだ声を出した。


大好きな人に嘘を重ねていく私は
どれだけ滑稽なんだろう。


ピエロのような自分を
心の中で嘲笑った。




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後輩の宮舘くん 〜春〜 【下】


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美味しいって噂の料理は
確かに美味しかったかも知れないけど

全然食べる気になれなくて
ほとんど手をつけずに残した。


幹事をしてくれたゼミ長に
お会計を任せてお店の外に出る。
会費はもう渡してある。


やっと解放される。


そう思うと自然と気持ちが緩んでくる。

お店の看板のライトで照らされた
夜桜が綺麗…

宮舘くんと今度夜桜、見たいなぁ…


「なぁ」


不快な声はシカトしよう。


「無視かよ」

「……」

「聞いてんのかよ!」


また肩を掴まれる。

さっきよりも掴む力が強くなってるのは
きっとお酒のせい。


「お前二次会行くだろ?」


痛みに顔を歪めながら
その手をどかそうと腕を回す。


「…行かない」

「はぁ?ノリ悪!来いよ!」

「行かない」

「なにお前怒ってんの!?
こっちが気分悪くなってくんだけど!」

「…離してよ…ッ」

「俺は場を盛り上げるために
お前に話しかけてやってたんだよ!
んな事も分かんねぇの?」


周りのみんなが私を
『可哀想に…』とでも言いたげな目で見てる。


本当に…なんで私だけ
こんな目に合わなきゃならないのよ…!

肩を掴まれていた腕を振り払う。

キッと相手を睨みつけて、
息を吸い込んだ瞬間…


「○○」


決して大きくはないけど、
大好きな声が私に届いた。


声のする方に振り返ると、
宮舘くんが右手を軽く上げながら立っていた。


ひどい顔をしていたと思う。

ものすごくひどい顔をしていたと思う。


みかんくらいなら丸々一個
入るくらい口が開いてたと思う。


そのくらいに間抜け全開な顔をした私を見て
口元に手を当てながら少しだけ笑った宮舘くんは


「○○」


って、もう一度私の名前を呼んだ。


こっちに向かって
一歩ずつ近づいてくる宮舘くんが
この場から救い出してくれる
ヒーローみたいに見えた。


「…み…」

「迎えに来たよ」

「…宮舘くん…」

「帰ろうか」


嬉しすぎて宮舘くんに抱きつきたい気持ちを
グッとこらえて
差し出された彼の右手に
自分の左手を乗せようとしたら、


「なんだよ!彼氏迎えに来てんじゃん!!」


バンッ!と突然背中を叩かれて
思わず少し転びそうになった。

前のめりに転びそうになった私を
すかさず手を出して支えてくれた宮舘くんは

私を自分の背中に隠して
右手で私の右手を握りながら、


「こいつか…」


って私にしか聞こえないくらいの
小さい声で呟いた。

その声の低さにゾッと身震いした。


「こんばんは。」

「ん?あ、こ、こんばん…」

「先輩?」


宮舘くんの放つただならぬ空気に
吃りながら挨拶を返そうとしたあいつに
重ね気味に喋り出す。


「女の子の身体、
そんなに強く叩いちゃダメですよ?」

「……」

「弱いんですから、女の子はみんな」

「はあ?」


宮舘くんの背中越しに聞くあいつの声は
明らかにキレていた。

守ってくれるのは嬉しいけど、
喧嘩なんてして欲しくない。

さっき私に言ったみたいな言葉で
宮舘くんを傷つけて欲しくない。

宮舘くんのジャケットの背中部分を
ぎゅっと握りながら
「もういいよ、もう帰ろう」
ちっちゃい声で懇願する私を
宮舘くんは無視した。


「特に○○は、我慢しまくって
内側に溜め込んじゃうタイプなんで
傷つけたりしないでください」

「てめ、」

「俺の彼女です。
傷つけたりしないでください。」


私だけじゃなくて店先に出ていた
ゼミのみんなが
ゴクリと息を飲んだのが分かった。


一触即発


まさにそんな感じ。


バチバチの空気の中で
含み笑う声だけがいきなり響いた。


もちろんその声はあいつのもので、


「いやー、悪い悪い!
俺が悪かったよな!ごめんな!」


ごめんと言いながら
何一つ反省してなさそうな顔のまま
両手をパンッと合わせた。


「俺はその気全くなかったんだけどさぁ、
こいつが勘違いさせるような態度とったんでしょ?

ごめんねー、マジで。
でも俺はこいつとなんもないから!
口説いてるつもりもないし!

むしろある方が不思議ってゆーか?
本当本当!何もない!
だから安心してよ!

てかお前も!
彼氏に勘違いさせるような事すんなよ!
こっちが迷惑だっつーの!」


もしこいつの今の態度が、
“謝罪”っていう意味があるのだったら

人に対しての謝り方を
小学生に戻って学びなおしたほうがいいと思う

そのくらい威圧的で
反省の念なんて微塵とも感じられない。


しかもなんで私がいけない事したみたいに
言われなきゃなんないの…



今までずっと我慢していた涙が
ポロっとこぼれた。

さっきからずっと黙っている宮舘くんの
背中におでこをくっ付ける。

泣いている姿を周りの人に見られたくない。


「…ぅ…ッ…」


ちっちゃく漏れた嗚咽が
聞こえたらしい宮舘くんは
握っていた私の右手を一度強く握る。


「お前お前って
俺の前で自分のものみたいに
言わないでもらえますか?」

「は?」

「別に最初から先輩と○○の仲は
勘違いしてないんで大丈夫ですよ」


ハッキリとあいつにそう言ってみせた。


「それから、口説いてくれたって
構わないですよ?
○○が俺以外の男になびくわけないんで」


周りのみんなが一瞬騒然とした。


…だって、こんな風にまっすぐ
こいつに意見した人なんて
今まで誰1人いなかったから。


「すっげー自信だな」

「えぇ、まぁ」

「でもよぉ」

「はい」

「それって独りよがりの可能性はねぇの?」

「どういう意味ですか?」

「そんな事ばっか言ってると
嫌われるぜって意味だよ」


その言葉についに私はブチ切れた。


もういい。

ゼミのみんなに引かれても。

宮舘くんに引かれても。


こいつだけは許せない!!!


一発殴ってやろうと、
意気込んだ瞬間…


「嫌いになったって構わないです。
好きにさせる自信があるんで」



この言葉を、私は一生忘れないと思った。



「○○、帰ろ」


宮舘くんの声でハッと我に返る。

同じ目線に屈んできた宮舘くんは
私の顔を見て笑いかけると
優しく手を握り直した。


「お、お疲れ様…!」


宮舘くんに引っ張られる形で
みんなから離れていく私の背中に
ゼミ長からの声が聞こえて


「あ、お疲れ様!また月曜…」


って言いながら声のする方に視線を向けると、
さっきまで宮舘くんに
威圧的な態度を取っていたあいつが

放心状態で動けなくなっていたのが見えた。




しばらく歩いて
お店から結構離れた辺りで
腕を引っ張って彼を引き止めた。


「宮舘くん…」

「ん?どうしたの?」

「いつから、お店の外で待ってたの?」


彼の手を握る両手に思わず力が入る。


「内緒」

「…ちょ、」

「だから言ったでしょ?大丈夫だって」

「……」

「俺を信じてって」

「……」


押し黙った私に反して、
宮舘くんは何やら楽しくて仕方ない感じで


「あははっ、喧嘩しちゃった」


って笑い出すから
さっきまで頬を膨らましてた
私までおかしくなって
2人でいつまでもケタケタ笑った。








“帰ろう”って言われて
一緒に歩いてきたけれど、

着いた場所は私の家じゃなくて
宮舘くんの家だった。


「…ふぅ…」


家に入って早々に
宮舘くんはソファに深く座り込んだ。


「…ちょっと気疲れしちゃった…」


照れるように笑いながら
右手で目をこする。

その仕草が子供みたいで
思わず口元に笑みが浮かんだ。


空けられた
彼の隣のスペースに腰をかける。


「…宮舘くん…」

「ん?」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「すごいカッコよかった…」


フッと頭に温かいものを感じた。


「それは嬉しいな」


宮舘くんは私の頭に手を乗せて
穏やかな声を落とす。


なんとも言えない気持ちがこみ上げて
涙がたまるまぶたに宮舘くんがキスをする。


宮舘くんの唇がまぶたから
離れると同時に視線を上げると、

すんごくフェロモン全開の
彼の顔が目の前にあった。

右手がスルッと私の左頬に伸びてきて、
その手にドキドキと胸が鳴り始める。

宮舘くんの全てが私をドキドキさせる。


「…宮舘くん…」

「すぐに終わらせてあげられないかも」

「…え…」

「ごめんね」


力強い両腕に抱きしめられ、
唇を塞がれた。


唇を割って入ってくる宮舘くんの舌は
びっくりするくらい熱くて、
でもすごく優しい。

背中に回される腕の力強さに安心する。


「…んッ…」


思わず漏れる声は私の声なんだけど
聞いたこともないくらい甘い声。


宮舘くんは、さっきから私に
恥ずかしがる隙も与えてくれない。

角度を変えて
たくさんのキスが落ちてくる。


私の首後ろに回った宮舘くんの骨ばった指が
うなじあたりを往復する。


その感覚にゾクゾクする。


宮舘くんの舌の動きに翻弄されて
頭がクラクラしてきた瞬間に
膝の裏と脇の下に腕が回って
いきなりお姫様抱っこされた。


「…わッ…」


ビックリして思わず彼の体を押しのける。


「宮舘く…下ろし、て…」


逃さないと言うかのように
力強い目で私の目を捉えた彼は、


「…黙って…」


と、一言囁いてから
私の口をその唇で塞いだ。

私を抱き上げてキスしたまま
ベッドまで歩いて行って
優しくその場に寝かせる。


下されたベッドの軋む音に
緊張感が増す。


「○○ちゃん」


不意に落とされた声に閉じていた目を開くと
宮舘くんが私の顔を挟むように両腕を付いてて、

あまりの近さに
呼吸の仕方も忘れそうになった。


よく見たことある。

漫画とかドラマとかで。

この格好。


…あぁ、私…ついに…



すごく緊張する。

…でも、

初めての人が

宮舘くんで良かった。


大好きな人で、良かった。


髪を撫でて、優しいキスをしてくれる
宮舘くんに身を委ねてた。


背中に回された手に
一気に緊張がピークになって…


「寝よっか」

「へ?」


一瞬離れた唇から紡がれた言葉に
素っ頓狂な声が出てしまった。


「あれ?足りなかった?」

「ち、違ッッ!」


体をバタバタさせる私に
宮舘くんは楽しそうに笑った。


「しないよ」

「……」

「しない」

「…な、んで…」


本当は少し怖い気持ちがある。

でも、“しない”なんてハッキリ言われてしまうと
それはそれでちょっと寂しい。

女子としては複雑な気持ちになる。


「○○ちゃんが怖がってる内はしない」

「……」


握りしめていた手を開くと、
私の手のひらは
手汗でびっしゃりと濡れていた。


手のひらを見つめる私の左隣に
ゴロンと寝転んだ宮舘くんは
左手を伸ばして私を抱き寄せた。


「今日泊まってってね」

「…う、うん」

「お泊り初めてだね」

「…うん…」

「せっかく初めてのお泊りだから
なんか話そっか」

「何を…?」


手汗を服にゴシゴシとなすりつけて
何事もなかったかのように振る舞う。


「好きな人の話とか」

「…何言ってんの?」

「俺の好きな人はね〜」

「え?始まっちゃうの!?」


慌てる私に宮舘くんは意地悪な顔で笑った。


「頑張り屋さんなんだよね」

「……」

「それから、明らかに自分に向けられてる
人からの好意にぜーんぜん気づかないの。

んで、その人が自分のこと
気にくわない存在だと思ってる…
ってまで思っちゃうの。」

「…え…それって。」

「うん。あのゼミの男の人
○○ちゃんのこと好きだよ、絶対。」

「…え?は?」

「だからあんなに○○ちゃんに絡んできてたの。
そんで俺には敵意むき出し。」

「それは違うと思…」

「違くないんだよ、コレが」

「…あの…」

「鈍感」

「…はぁ…」

「まぁ、俺の気持ちも
告白するまで全然気づかなかったもんね」

「…あぅッ…」


何か反論を言いたかったけど
何を言っても意味不明な言葉にしか
ならないような気がして、

喉までせり上がった言葉を飲み込んだ。


「でもそのままでいいから」

「…う、うん…?」

「俺以外の男からの好意なんて
気付かなくていいから」


そう言ってもっと強く私を抱きしめる宮舘くんを

今度からは「涼太くん」って
呼ぼうって心の中で密かに誓った。







-----------------






そして後に、
宮舘くんはゼミの中で
伝説扱いされるのであった…まる。






スランプ中に伴い、
宮舘くんに助けを求めました。

そして宮舘くんは私を助けてくれました。

サンキュー舘様。

(`ё´)ヒェアッ!



でも無駄に長くなりました。

1話分だけで終わらせようと思って
書き始めたつもりなのにな。

まとまった文が書けないから
こんな事になるのでした。


てへっ


こんな長い文を
読んでくれてありがとうございます。



基本私はしょっぱめの
せつなーいかなしーいお話ばっかりだけど
宮舘くんを書くときだけは甘く書けるので

ダブルで助けられてます。


このまま辰巳くんのお話も書けるようになりたい…


それまで他の方達の力を借りて
辰巳くんも書けるように頑張ります。

何卒よろしくお願い致します(笑)

後輩の宮舘くん 〜春〜 【中】


---------------




ゴスン




ってすごい音がして
宮舘くんの持っていた瓶が
シンクの中に落ちた。


「…え?」

「……」

「どうしました…?」

「……」

「先輩?」


宮舘くんの身体を
もっと自分の方に引き寄せるように
ギューッと抱きしめて、


「違うの」


少し裏返った声が出た。


「…違う…?」

「違う。全然違う。」

「…な、にが?」

「何もかもが」

「…え、すみません…何言ってるか
全然分からない…」


宮舘くんは少し戸惑いながら
左手で私の背中をポンポンして、


「…何が、違うんですか?」


優しい声で、そう聞いてくれた。


「宮舘くんには、可愛いって思われたいの」

「…へ?」


宮舘くんの前では可愛い女の子でいたい。

ずっとそう思ってた。



言葉遣いも

ご飯の食べ方も

歩き方も

全部全部気を使っちゃうのは
宮舘くんに“可愛い”って思われたいから。


女友達や、同級生の男の子たちと
一緒にいる時は
そんなこと一つも思わない。


私の気持ちの在り方の問題。


思い返してみれば高校3年生の頃。

宮舘くんと話すようになったばっかの頃。


あの頃は宮舘くんの前なのに
言葉遣いもガサツだったし
パンツが見えたりしてもへっちゃらだった。


なぜならそれは
あの頃の私は

彼のことをなんとも思っていなかったから。


今は違う。

彼氏であり、好きな人であり、

1番、“可愛い”って思ってもらいたい人。


抱いてる気持ちが違う人間に
全く同じ態度を取るわけがない。


『好きな人には可愛いって思われたい』


それは女の子には必ずある気持ちで、
ごく自然なこと。


「だから…違うの」

「…ん?」

「どう思われてもいい人たちとは違う…」

「…うん」

「全部適当な返事で相手する
あいつなんかと違うの…」

「うん」

「宮舘くんには、可愛いって思われたいから」

「……」

「ちょっと恥ずかしいような
嬉しい言葉とか言われちゃうと」

「……」

「なんて言っていいか分からなくなって」

「…ん」

「いつも下向いちゃうの…ッ」

「…うん」

「一緒にいて、つまんないとか
楽しくないなんて思ってない」

「……」

「すごく楽しいって思ってる…!
もっと一緒にいたいって…
いっつも思ってる…ッ」

「……」

「…ちゃんと伝えなくて…
ごめんなさい…」


言い終わると同時に、
宮舘くんに両手で抱きしめられた。


宮舘くんの胸に顔を埋める私の髪に
優しくキスした彼は


「○○ちゃん」


優しい声で私の名前を呼んだ。


「ありがとう、全部話してくれて」

「…ん…」

「すごく嬉しい」


ごめんね、宮舘くん。

こんな私でごめんね。




宮舘くんが、


少しずつ敬語で話さなくなったこと。

指を絡めて手を繋いでくるようになったこと。

隣に立つ時の距離が10センチくらい近くなったこと。

触れてくる回数が多くなったこと。


その度に、

泣きたいくらい嬉しくて
幸せだったのに。

なんですぐに伝えなかったんだろう。


そして、言葉にしなきゃ
伝わらないことを

宮舘くんに悲しい思いをさせるまで
なんで気づかなかったんだろう。


「○○ちゃん」

「…はい」


抱きしめていた腕を解いて
顔を真っ赤にした私を見て
嬉しそうに笑った彼は、


「大好きだよ」


いきなりそう言った。


反射的に思わず下を向きそうになった
顔を無理やり上に引き上げて
宮舘くんの顔を見つめる。


「…ッ…」


限界を超えた恥ずかしさに
頬を震わせながら耐えていたら、

宮舘くんが豪快に笑いながら
私の後頭部を掴んで顔を下に向けさせた。


「下向いていいよ」


止めていた息を吐き出して
ハァハァと荒い呼吸を繰り返すと、


「無理しなくていいから」


宮舘くんは楽しそうに笑いながら
私の頬に優しく触れた。


「そういう事なら、むしろ嬉しいよ」

「そういう事…?」


宮舘くんの服の裾を握りながら聞き返す。


「俺に可愛いって思われたくて
どういう顔していいか分からないから
下向いちゃうんでしょ?」

「…う、うん…」


自分で言った事だけど
改めて口にされるとなんだかとても恥ずかしい。


「そんなの嬉しいに決まってんじゃん」

「……」

「て言うか、可愛すぎるでしょ」

「…か、可愛いくは…」

「俺こそ、何も知らないのに
八つ当たりしちゃってごめんね」

「…宮舘くんは、何も悪くないよ」

「ううん。今回はお互いが悪かった」

「…いや、」

「仲直りしよ、ね?」


頬に触れていた手で
顔を上げられた。

身を屈めて少しずつ近づいてくる彼に
まぶたを下ろした。


唇が触れる直前で


「大好きだよ」


ってもう一度言ってくれた。

だから、


「私も大好き…」


って答えた。






***





2人で夜ご飯を食べるときは
宮舘くんの家で
手作りのご飯を食べることが多い。


私は料理が全く出来ないから、
キッチンに入って何か手伝おうと思っても
邪魔になるのは目に見えてる。


「いい子で待っててね」


って宮舘くんは言ってくれるんだけど
さすがに申し訳なくて
キッチンの前を行ったり来たりする私に


「じゃあ後片付けは全部お願いする。
それでいい?」


って提案してきてくれた。


その日から、後片付けは
全部私の担当。


食べ終わった食器を洗っていると、
私の隣に立った宮舘くんが
肩に額を置いてきた。


「ビックリした…」

「適当でいいよ」

「だめ」

「真面目だね」

「あなたほどじゃありません」


前よりも恥ずかしさに慣れて来た私が
笑いながらそういうと

宮舘くんは、
「確かに俺って真面目だよね」
なんて言って、もっと私を笑わせた。


「そう言えば明日の飲み会、
どこのお店に行くの?」

「へ?」

「前に言ってたじゃん
ゼミで飲み会あるって。明日でしょ?」

「…うん、まぁ」

「どこのお店行くの?」

「…学校の近くに最近できたイタリアンのお店。
あそこらしいよ」

「へぇ。あそこ行くんだ」

「…うん」

「楽しみだね」


洗ったお皿を全部拭き終わって
ふぅ、と息を吐きながら


「まぁ、私行かないけどね」


そう言った私に


「え?」


心底びっくりした声を出しながら
顔を上げて驚いた。


「…なんで?」

「まぁ、色々…」

「“ゼミ”の飲み会だから?」

「……」

「俺に気使ってるの?」


ゼミの飲み会…となれば
メンバーはもちろん同じゼミの人たち。

て、ことは宮舘くんを不安にさせた
あいつも飲み会に来るわけで…


私は宮舘くんの方を向いて
彼のお腹に両手を回して抱きついた。


「そんなんじゃないよ」

「じゃあなんで?」

「……」

「○○ちゃん?」


もう、伝えなきゃいけない事を飲み込んで
宮舘くんを悲しませるのは嫌だ…


「…あいつ今、ものすごく機嫌悪いの」

「あいつ…ってあの時の人?」


確認するように、問いかけてきた彼に
私は「うん」と言いながら首を縦に振った。

少し暗くなった私の声に気づいて
顔を髪に埋めながら
抱きしめ返してくれる。


「今まではね、それなりに相手したり
愛想笑いしたりしてたんだけど
今はもう全然相手してないの、私。」

「…相手してない…?」

「…うん、基本無視。
何言われても無視。」

「…そうなんだ…」


きっと今まで下に見て
“話しかけてやってる”くらいの気持ちで
私に話しかけていたであろうあいつは

格下に見ていた私から無視を食らって
すごいムカついているみたいだった。

常に1人でプリプリ怒っている状態で

私を含めた周りは
ますます彼への無視を決め込んだ。


「だから行きたくないの。
あーゆう場に言ったら絶対捕まっちゃう」

「…そっか」

「私のこと気にくわないんだよ、あいつ」


宮舘くんの胸に顔を埋めて、
さっきよりも身を寄せる。

香水のいい匂いを嗅いでいると


「…そうじゃないと思うけどなぁ…」


小さく呟かれた。

「ん?」って聞き返すけど、


「あー、ううん。
○○ちゃんは気にしなくていい事」


なんだかよく分からないまま
笑ってはぐらかされた。


「ね、やっぱり行きなよ飲み会」

「…行かない」

「なんで?」

「行きたくないの」

「美味しいって噂だよ?あのお店」

「宮舘くんが作ってくれる
ご飯の方が美味しいもん」

「また可愛いことを言うなぁ」


嬉しそうに笑った宮舘くんだけど、

それでも…


「行ってきなって」


なんだか絶対に譲らない。


「…嫌だよ」

「大丈夫だから」

「…嫌…」

「絶対大丈夫」

「……」

「俺のこと信じて」


優しく髪を撫でてから
頬にキスする宮舘くんに、


「…うん」


って返事したけど
やっぱり行きたくない気持ちは拭えなかった。












宮舘くんのことを信じていなかった…

訳ではない。


ではない、けど。


「おーい!みんなー!
○○に彼氏いるって知ってたかぁー?」

「……」

「こんな男っ気なさそーな奴がよー!
ちゃっかりいんだぜー!しかも年下ー!」

「……」

「隅に置けないよなぁーっ?」

「…チッ…」


ほら、やっぱり。

捕まった。



お店に入ってすぐに、
あいつとは一番遠い席に座った。

20人近くもいれば
ひとつの話題をみんなで話したりしない。

周りの人とそれぞれの話題で話す。

だからあいつの事なんて
視界にも入れないで周りの人たちと
この間先生に出された課題の話とか
この間の発表の話とかをしていた。


関わらないのが1番。


そう思っていたけれど、


「おい!聞こえないのかよ!」


肩を掴まれたらどうやって逃げたらいいか
さっぱり分からなくて。


「……え?」


肩に感じる痛みで
反応してしまったのが運の尽きだった。


それからそいつは私の前の席に座って
いつの間にかちゃっかりビールまで持って
ずーっとずーっと
人を見下す事ばっかり言ってきた。


お前は行動がトロいだの。

今持ってるレポート見せてみろ
俺がダメなとこ指摘してやるからだの。

勉強全然出来なくて
なんでこの大学入れたのか謎だの。


けちょんけちょんに言われ続けた。


…だから来たくなかったんだよ…


ムカつくとか悲しいとか
色々な感情を通り越してきた。

もうこいつに感情を動かされるのさえも
もったいなく感じてくる。


無気力な顔でピクリとも動かずに
一点をボーッと見つめる私に
変な焦りを感じたのか、


「○○ちゃん…レポートまとめるの上手だよ…」


隣に座っていた友達が私をかばってくれようと
反論してくれた。

でもこいつはその反論を食らうどころか、


「いーや!こいつのレポート見たことある?
すっげーの!まじで!悪い意味でね!」


私を指差しながらゲラゲラ笑い出す始末。


顔を真っ赤にしながら
プルプル震える友達の手を
机の下の見えないところでぎゅっと握った。


「ありがとう」


ちっちゃい声でそう言うと、


「帰りたいね」


って声が帰って来て、
本当にその通りだなって思った。




そいつの大声はいつまでも続いた。




------------------

後輩の宮舘くん 〜春〜 【上】


----------------






「お前って付き合ってる奴いたんだ」


空き教室でレポートを書いていた私に
後ろからそんな声がかけられた。

振り返った先には同じゼミの奴。


「…え?」


いきなり話しかけられた上に
理解するまでいろいろと
整理しなきゃいけない内容なだけに
私の口から出た声はすごく馬鹿っぽかった。


「知らなかったわ」

「え?何?」

「昨日見かけた」

「は?何が?」

「駅で」

「ちょ、は?何の話?」

「お前とお前の彼氏。」


熱がこみ上げた頬に思わず目を伏せた、


“彼氏”と改めて言われると
嬉しい反面、恥ずかしい。


初めて味わうその感情に
どんなリアクションを取るのが正解なのか
分からないまま、
伏せた目で自分の足をひたすらに見つめた。


「正直驚いたわ」


そう言いながら、そいつは私の隣まで移動して
空いていたその椅子を引いてどすんと座った。


そらされることなく注がれる視線に
無意識のうちに距離を取る。


「なぁなぁ、どっちから告ったの?
お前が彼氏とか意外すぎて笑える。」


空き教室には私たちの他にも
課題だったり調べものだったり

何かしらをやっている人がたくさんいるから
普通の音量で、

しかも彼氏とかそう言う類の話を
してる私たちには嫌悪感満載の視線が注がれる。


あ、まずい…


周りの人たちに迷惑をかけて
集中を切らせてしまっている…


「…ちょっと静かにしなよ」


声のボリュームを最小限にしながら
身を屈めて言ったのに、


「お前が話してくれたら静かにする〜」


まるで話なんて通じてないみたい。


でもまぁ、こいつのめんどくささは
今に始まった事ではない。

2年生に上がってからゼミに入ったけど、
その瞬間からこいつはこんな感じだった。


人の話を聞かない上に
空気が読めない。

そして何故だか人を見下す。


「ねぇ、周りもみんな課題してるの。
だからちょっと静かにしなよ」

「だーかーらー!
お前が話せば静かにするってば!」


もう教室内の全員が振り返るくらいの
大声にビクッと身体が跳ね上がる。

高校生の頃、バリバリの運動部だったらしく
身体がおっきくて声も大きい。

怒られているわけではないけど、
近い距離でその大きな声を出されると
一種の凶暴性を感じて少しビビってしまう。


「…はぁ…」


相手に聞こえないように小さく溜息を吐いて
机の上に広げていたレポートを
バンの中にしまう。


「お!話す気になったかぁ?」


シャーペンも資料も全部しまって、
席を立って教室から出る私の
後ろを、ルンルンでついてくるのが見える。


話すって、何を?

なんでこいつに私と宮舘くんのこと
話さなきゃなんないのよ。


教室を出てもなにもせずに
ただスタスタと歩く私に文句が飛ばされる。


「おいどこまで行くんだよ〜」

「……」

「早く話せよ〜」

「……」

「俺だって暇じゃねーんだよ〜」


どう考えたって暇じゃん…


こいつのことを迷惑がったり、嫌ったりする
ゼミのメンバーの中で
私はいち早く割り切りを身につけた。

たとえ相手がムカつくことや
無茶なことを言ってきても、

ムカつくより先に
『そういう奴なんだ…』と割り切って

ほどほどに相手をするようになった。


「おーいー」

「恥ずかしいから内緒」


振り返りもせずに、
ウケ狙いな感じでそう言った。

やれやれ。

そんな気持ちだったのに、


「でもさぁ、全然楽しそうじゃなかったよな」

「は?」


意味の分からない言葉に
思わず振り返ってしまった。


「彼氏と2人でいるときのお前」

「……」


絶句ってこういうことをいうのかな。


眉間にしわを寄せて
口を開けたまま動けなくなった。


…私が?

…宮舘くんと2人でいて?

…楽しくなさそう??



……はぁ?????



眉間のしわがどんどん深くなる私に
ドヤ顔で近づいてくる。


「ずっと下向いてて楽しそうじゃなかったよな」


あぁ、はいはい。

そういうことね。


確かに。

昨日宮舘くんと駅にいた時の私は
ひたすらに下を向いていた。

でもそれにはちゃんとした理由がある。







昨日は、宮舘くんと約束をしていた。


授業が終わり次第会おうねって
前の日から話は決まっていて、


終わるのが少し早かった私は
大学の敷地内に設置されてるベンチに座って
宮舘くんからの連絡を待っていた。

もう少しで震えるだろう携帯を握りしめて
気持ちいい春風にボーッとしていると、

後ろから頭を優しくポンポンされた。


頭の上に乗せてあった手はするりと肩に落ちて
指先がかすかに鎖骨に触れる。


「おまたせ」


もちろんその手の正体は宮舘くんで、


「すいません、待たせちゃって」


振り返りながら見上げた先にあった
彼の笑顔に胸がきゅんとした。


「ううん、早く終わったの私の方だし…」


座っていた場所のすぐ隣に
置いていたバックを手にとって
立ち上がろうとすると、

目の前に来ていた宮舘くんが、
私の前髪を手櫛で整え始めた。


いきなり前髪に触れられて
ただでさえびっくりしたのに

座っている私の目線に合わせて
屈んでいた宮舘くんの顔が目の前にあって


「…ぎゃッ」


もっとびっくりした。


「風強かった?」

「…え!?いや…あ、うん…?」

「ははっ」

「…は、はは…」

「照れ屋」

「…あ、はは…」

「いい加減慣れてください」

「…はは、ごめん…」

「本当に可愛いっすね」


キョロキョロと目を泳がせながら
笑ってごまかす私を優しい目で見ると、
手を取って立ち上がらせた。


「行こっか」

「うん…」


最近の宮舘くんは専らこんな感じ。


私にすごく触れてくる。

すぐに「可愛い」とか言ってくる。


私たちは付き合ってるし、
もうそこまで子供ってわけでもないから
宮舘くんの行動は何1つ変じゃない。

私自身も嬉しい気持ちの方が
大きいんだけど


いかんせん、

心臓がもたない。


心臓がバクバクいって
握られてる手だって震えちゃう。


特に昨日は宮舘くんの機嫌が
すこぶる良くって、

すごかった。

もうすごかった。


まだ大学の中なのに手を繋いで来たり
肩を抱いて来たり

「今日の服装すっごい可愛い」とか
「先輩が俺の彼女とか幸せすぎる」とか


とにかくすごかった。


だから駅に着く頃には
私は顔を上げることも出来なくなっていて
駅にいたところしか見ていなかった
あいつにはつまらなそうにしてるように
見えていたらしい。


宮舘くんと2人でいるのに
つまらないわけあるか。

私だって面と向かっては
絶対に言えないけど

宮舘くんとのこの関係、
幸せすぎるくらい幸せだっつーの。




よくぞまぁ自分の憶測でしかない事を
あたかも真実かのように話せるな。


いつもの通り、今回のこの会話も
当たり障りない会話で
“ほどほど”に相手をして終わろうと思った。


…のに。


「なんかあれだよなぁ、無理してるっつーか」

「……」

「あの彼氏年下だろ?」

「……」

「女より男の方が年下ってさ、
甘えられなくね?」

「……」

「実際お前、俺といる時と彼氏といる時
全然態度違うじゃん」

「……」

「なぁ、それって疲れねぇ?」


ここまでくると怒る気も失せる。


なんで自分と宮舘くんを比べる?
意味がわからない。

好きなように解釈して
好きなように捉えてくれ。

そしてもう黙ってろ。


「男と女の関係だって楽な方がいいじゃん!」

「……」

「な!ラフにいこーぜ!」


バシッ


思いっきり叩かれた背中に顔をしかめる。

声や態度だけじゃなくて
力も強い。

軽いノリで叩いてるつもりなのかもしれないけど
叩かれたこっちは普通に痛い。


「痛いんだけど」


睨み付ける私に反して
今度は肩をパンパンと叩きながら笑う。

その肩パンも力が強くて少し痛い。


「ホラ、そういうこと
彼氏には言えないだろ」


言えないだろって…


言えないんじゃなくて
言う必要がないんだよ。


宮舘くんは私を叩いたりなんてしない。


優しく優しく

こんな私を宝物のように扱ってくれる。

だから宮舘くんの前でだけは
女の子っぽくなれる。


でもそれは、宮舘くんだけが使える魔法。

私を女の子にする魔法。


だからこいつの言っていることは
完全なる勘違いだし、

ハッキリ言って御門違い。


宮舘くんに対する態度と、
こいつに対する態度が違う?


当たり前じゃん。


宮舘くんのことは好きで、

こいつのことはなんとも思ってない。


それが全て。


「ま、レポート頑張って仕上げろよ!」


結局何がしたかったのか。

思う存分冷やかして
もう飽きたらしいそいつは
私に背を向けて歩き出した。


その背中を無言で睨み付ける。


いつもの割り切り術がイマイチ使えなくて
悔しさから手に持ってたカバンを握りしめる私は…


私の背後で、死角に身を隠して
会話を聞いている人影に全く気づかなかった。







そしてそれは不意に訪れた。

私のアパートより少し広い
宮舘くんのアパートの一室で

ゼロ距離でぴったりくっついてくる
宮舘くんにドキドキしながら
ソファに座っていた時だった。


机の上に置かれたマグカップの中身が
私のも宮舘くんのも
空になっていることに気づいて


「紅茶入れてくるね」


宮舘くんが買ってくれた色違いのお揃いマグを
手にその場から立ち上がった。

何度も家に遊びに来させてもらってるから
キッチンの使い勝手は分かる。



何が引き金だったのか分からない。



私が何かしたのかも分からない。



両手に持っていたマグカップを
片方の手で2つ持つように持ち直して

キッチンに行くために引き戸に手を伸ばしたら
後ろから伸びてきた手にそれを塞がれた。


私の体の両側からは
宮舘くんの両手が引き戸に
手を突くようにして伸びている。

私を背後から覆うような体勢。


「……ッ…」


突然すぎる事にビックリして
息を飲む私の耳元に微かにかかった
彼の息はとても熱かった。


「……」

「……」

「…宮舘くん…?」


返事をしない代わりに
右手を私の胸の前に滑らせて
グッと後ろに引き寄せた。

前に回った彼の右手で
左肩を掴まれる。


「……」

「先輩は…」

「…?」

「俺といてつまらない?」

「…え?」

「楽しくない?」


いきなりだった。

一瞬、なんかの冗談かとも思ったけど
私に触れている
宮舘くんの体が少し震えてる気がして
彼が本気でそう聞いているのが分かった。


なにを言ってるの?


そう言おうと思った。

でも、


「すいません…
立ち聞きするつもりはなかったんだけど…」


宮舘くんのその言葉に、


“全然楽しそうじゃなかったよな
彼氏と2人でいるときのお前”


同じゼミのあいつが言っていた言葉を思い出す。


「先輩が廊下歩いてるとこ見かけて
声かけに行こうと思ったら…

俺の知らない男の人と話してて、
そう言われてたから…」

「……」

「すいません…聞こえちゃって…」


私自身、忘れてた。

あんなムカつくこと気にする時間が
もったいないからさっさと忘れようって。


でも、宮舘くんはずっと気にしていたんだ。

あの出来事から半月ほど経っている。


今日、私に聞いていたことを打ち明けるまで
どんな気持ちだったんだろう。


どれだけ悲しい思いを
させてしまっていたんだろう。


私は…すぐに恥ずかしがって
いつも下を向いていた。

その時、目の前の宮舘くんが
どんな顔をしているか、

そんなの考えたこともなかった。


もしかしたら

悲しい目で私を見ていたのかもしれない。

寂しい目で私を見ていたのかもしれない。


身体の前にある宮舘くんの右手を
自分の右手で上から包むように握る。

少しだけ振り返ると
宮舘くんの顔が見えて

やっぱり彼は、悲しそうな目をしていた。


「……」

「……」


今まで、何度その目で私を見たんだろう。


私は自分だけ幸せな気持ちになって
それを伝えずに下を向いて…

何度その目をさせてしまっていたんだろう。


「…困らせちゃったね」

「…えっ、と…」

「すみませんでした…」


私の手からマグカップを取った彼は
私から離れると
引き戸を開けてキッチンへと向かう。

慌ててその背中を追うけど、
もう目も合わせてくれない。


「同じのでいいですか?違う味もありますよ」

「宮舘くん…」

「この間美味しそうなの見つけたんですよ」

「あ、あのね…」

「……」

「宮舘くん…ッ」

「先輩」


ビクッとして言葉に詰まる。

気づかない間に掴んでいた
宮舘くんの服をゆっくりと離した。

宮舘くんはキッチン台の上に
マグカップを置いて、
ゆっくりこっちに振り返った。


「泣きそうな顔しないでください」

「……」

「先輩のそんな顔見たくない」

「……」

「俺、もっと頑張るから」

「…ッ…」

「一緒にいて楽しいって
思ってもらえるように頑張るから」


違う。

全然違う。


首を横に振る私の背中に
そっと宮舘くんの手が回る。


「背中…痛かったよね」

「…え?」

「叩かれてた」

「…あ、」

「ごめんね、庇えなくて」


そんな優しい言葉言ってもらえる権利、
私にはない。


一度、優しく笑って私の頭を撫でた彼は
また背中を向けて、


「…ぁ、」

「俺は何飲もうかなぁ」


私の声を遮っておしゃれに小分けされた
紅茶の葉が入った瓶を1つ手にとって
眺め始めた。


“もうこの話はおしまい”


そう言われてる気がして
それ以上何も言えなくなる。


でも、これじゃダメだ。


私は深く深呼吸して

息を吸い込んで


横から宮舘くんを抱きしめた。










---------------

Love Liar 【6】




---------------





“似てる”って何がだろう。


“自由”って何だろう。



さっきからわたしの頭の中は
その2つの言葉に支配されっぱなし。


どう考えたって答えが分かるわけもない
その2つの言葉が頭から離れない。


相も変わらず、私は雄大くんに
ご飯を食べさせてもらっている。

夜勤明けには家に行って、
1つのベットで仲良く寝たりだってしている。


この関係はなんなんだろう。

人には言えない、

なんか少しだけ恥ずかしい
雄大くんと私のこの関係。


未だに私はこの関係に名前を付けられない。


名前を付けて明確になるのが怖い。
この関係を明確にするのが。

でも怖く感じてしまうのはきっと、
私にその経験がないから。


訳の分からない、男女間の関係。





そんな“訳の分からない男女間の関係”を
明確なものにさせられたのは
それから数週間後のことだった。





その日も特等席と言われた一番端っこの席で
雄大くんお手製のご飯を食べていた。


今日はオムライス。


平日の夜のバーに
お客さんはあまりいなくて、
私の動かすスプーンがお皿に当たる音が
やけに響くような気さえしていた。


「今日は暇だ〜」なんて言うマスターと
談笑していたその瞬間に
カランカランと、ドアベルが鳴って

その人は現れた。


外の風が少し店内を冷やして
思わず肩をすくめた。


「……いらっしゃいませ」


ほんの少しの間をおいたマスターに
違和感を感じてふと顔を上げると

マスターの顔がこわばって見えたけれど
その顔はすぐに柔らかい笑みへと変わった。


「こんばんは」


開いたドアのせいで生まれた突風で
少し乱れた髪を直しながら
その女性はペコリと頭を下げる。


「こんばんは」

「1人…なんですけど、大丈夫ですか…?」

「喜んで。どうぞ。」


カウンターから出たマスターは
1人掛けのソファが向き合った席に
その女の人を案内した。

私の座るカウンターから
少し離れた場所にある席で、
ここからはよく会話が聞こえない。


バレない程度にチラ見していると
さっきまで緊張していたように見えた
女の人が「覚えててくれたんですか?」
ってマスターに言ってるのが見えた。


…マスターの知り合い?

でも、あのこわばった顔は…?


見間違いじゃないと思う。

気のせいでもないと思う。



いつまでも気にしていても仕方ないと
半分ほど食べて放置していた
自分の前に置いてあるオムライスへと目を向ける。

今日も感想を伝えてあげなきゃいけない。

ノートだって前回より綺麗に書いている。


試食を任され始めてから
自分なりに着目するところとか
分かってきた今日この頃。

雄大くんの力になれることが
何だか嬉しいと思いはじめていた。


オムライスをスプーンですくって
口に含んだら、
厨房から雄大くんが出てきた。

ふと合う視線。

中にパンパンに頬張った口に
笑みを浮かべようとした時、


「雄大くん!」


後ろから大きな声が聞こえた。


「…先輩…?」


私を見ていた視線は、
スッと横に移って

彼はそう口にした。


振り返ると、自分の出した大声に
恥ずかしくなったのか
さっき店内に入ってきた女の人が

両手で口元を押さえて少し頬を赤くして
雄大くんの方を見ていた。


私はごくんと音を立てて
口の中に入っていたものを飲み込んだ。


さっきまで美味しいと感じていた
オムライスだけど、味が全くしなかった。



嫌な予感がする。


説明できないけれど
すごく嫌な予感がする。


雄大くんに背中を向けていた私の視界に
彼が入り込んできた。

私の横を通り過ぎて
その女の人へ一歩ずつ近づく彼の名を呼んだけど


「…ゆうだいく、」

「先輩ッ!!」


彼の声にかき消された。



もはや自分がその場にいないような…

そんな気さえしてきて
私は大人しくその場に座り直した。





心ここに在らず。


今の私にはその言葉がぴったりだと思う。



たまにマスターが話しかけてくれるんだけど
自分がちゃんと会話できてるか分からなかった。

でも、マスターが笑っていたから
それなりの受け答えは出来ていたとは思う。


自分が何を話しているのか分からない。

自分の声が聞こえない。


ただ、雄大くんと楽しそうに話す
その女の人の姿を…

爪の先から髪の毛の先まで
目に刻んでおくことに必死だった。





ぼーっとした頭のまま
家に帰ってきてお風呂に入った。

お風呂から上がると
雄大くんからラインが来ていて、


“いつの間に帰ってたの!?
ノート見せて欲しかったのに!”


ってちょっと怒り気味の文だった。




ずっと考えていた事がある。

男の人に対して苦手意識を
フル発動している私が
なんでこんなことが出来たのか。


家に上がったり泊まったり
挙げ句の果てには同じ布団で寝たり。


それは私にとっては信じられないことだった。


最初は容姿のせいかと思っていた。

人より整ってる雄大くんのビジュアル。


苦手なだけで男の人に対して
カッコいいとかイケメンとか
そう言う感情はちゃっかりある私は
その彼のビジュアルのせいで
無意識に贔屓していたのかもって。


だから今までの自分からは想像もできない
行動をしていたのかと思ってたけど…

そうじゃなかったみたい。


すごく簡単なことだった。


なんで男の人が苦手な私が
甘い期待をしたり、
他の女の子に悔しくなって
手を振り返したりしたのか。


理由は1つしかない。


彼に惹かれていたから。

雄大くんを好きになっていたから。


ただそれだけだった。







「ごめんね、今電気付けるから」


パチンと、音がして店内が明るくなる。


手に持ったスーパーの袋を
カウンターに置いた彼は、


「はい、ありがとね」


って言いながら私の手に握られていた
スーパーの袋を取った。


「調子乗って買いすぎてたから
だいぶ助かったよ、ありがとね」


はじめて見る彼の私服に、
こんなオシャレなお店を出す人は
私服もオシャレなんだな…って思った。


「飲み物何がいい?」

「いや…大丈夫です」

「お礼だから。何がいい?」

「…オレンジジュースで…」

「了解」


グラスに氷が当たる音が響く。


この間、私は自分の気持ちを知った。

自分のことなのに今まで気づかなかった。


でも、その気持ちを自覚したら
変な不安も一緒についてきた。


この不安がなんなのか、
何1つ分からないまま
気分転換のために街に出ると

買い出しに来ていたマスターと
ばったり遭遇した。


何個も袋を手から下げたマスターの
お荷物持ちとして手を貸して…
今こうしてお店に来ている。


と言っても開店前だから誰1人いない。

いつもと違う店内はなんか変な感じ。


特等席まで行くのが面倒くさくて、
目の前にある椅子に腰を下ろして


冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して
グラスに綺麗にそそぐマスターに


「マスター」


気づけば声をかけていた。


「…どうしたの?」

「マスターが前に言ってた、
雄大くんを自由にしたかったって…話」

「あー…うん」

「この前のあの女の人と何か関係あるんですか?」


もうここまできたら遠回しになんて
聞いていられないと思った。

変にそんなことしてもマスターはきっと
私よりも何倍も頭が良さそうだから
すぐバレるだろうし、

何よりこのモヤモヤしたしこりを
早い所取っ払いたかった。


「まぁ…」

「……」

「そんなとこかな…」

「…ですよね」

「気づいた…?」


マスターが聞いているのは、
きっと雄大くんの気持ちのこと。


「なんとなくですけど」

「そうだね」

「だって…表情からして違いますもん」


視線を落とした私の前に
オレンジジュースが置かれた。


受け入れなくてはいけない現実が
じわじわと襲いかかってくる。


「雄大くんは…」


それは、今まで恋愛に向き合ってこなかった
私からしたら重すぎるくらいの現実…


「あの女の人が好きなんですね…」


目の前のマスターの大きな手が
頭の上にポンと乗ったりするから
気持ちが緩みそうになって
ぎゅっとアゴに梅干しを作った。


私は自分の気持ちと失恋を
一気に受け止めなくちゃいけなかった。


「泣かないで」

「…大丈夫です」

「女の子の涙…苦手なんだ」


マスターの手は私の頭を優しく撫でると
スッとそこから離れた。


「これはまだ雄大がこのお店に
客として来てくれてた時の話なんだけどね」


それと同時に口を開く。


「あいつ普通に会社員してたんだよ。」

「はい、聞いたことあります。」

「うん。でね、その時新人だった雄大に
色々と教えてたのが雄大が“先輩”って呼んでた
この間お店に来たあの女の人。」

「だから、“先輩”…」

「そう」

「……」

「ごめんね。ハッキリ言っちゃうけど
雄大のやつ、あの人のこと好きだったんだよ」


分かっていたことだけど
マスターの口から聞くとその事実が
さっき以上に重くのしかかった。


「ずっと好きで…でも俺からしてみれば
そんな楽しくもない片想い
さっさと辞めちまえって思ってた」

「…なんでですか…?」


これだけ雄大くんを可愛がっているのに
応援をしなかったマスターに疑問を抱く。


眉をひそめた私に、マスターは
気まずそうな顔をしながら


「あの人には付き合ってる人がいたから」


そう言った。


「別れる見込みなんて全くない彼氏。」

「……」

「しかもその彼氏っていうのが雄大の大学の時の
サッカーサークルの先輩だった人でさ」

「……」

「世間って本当に狭いよな」

「……」

「雄大はあの女の先輩に告白も出来ないのに
でも仕事の関係上ずっと近くにいなきゃいけない」

「……」

「そんな状態で気持ちに諦めつくと思う?」


思わず首を横に振った。


好きな人に彼氏がいたとしても…

その彼氏が自分が昔お世話になった人だとしても…


好きな人が近くにいる以上、
気持ちを抑えるなんて出来っこない。

人の気持ちなんてそんな簡単に
変わるものじゃない。


「ね、でしょ?だから俺は雄大を
この店のスタッフに誘ったの。」

「…自由って」

「そう。そういうこと。
自分の気持ちにいつまでも縛られてるあいつを
あの女の人から離れさせて自由にしてあげたかった。」

「でも…ッ」


思わず出た言葉に、
マスターも私が何を思ったのか
理解したみたいで


「うん、意味なかったけどね」


眉毛を垂らしながらそう言った。


「まだ好きなんだ。あいつはあの人のこと。」


その言葉を聞いても、
涙は出なかった。


本当は心のどこかで気づいていたのかもしれない。

雄大くんは、私にすごく優しかった。

家に来いとか店に来いとか。
一緒に寝るのだって。

普通なら勘違いしてもいいくらい。


なのに、なんか違う感じがした。

彼からは下心が感じられなかった。


きっとそれは、
気持ちが入っていなかったから。

私に対して“好き”という感情を
持っていなかった。


自分が雄大くんに惹かれていたのもあるけれど
あそこまで素直に甘えられていたのは

彼が私に向ける気持ちが
“異性”への好意ではなかったから
私自身を身構えずに彼に惹かれることが
出来ていたのかもしれない。


「あの女の先輩…結婚間近らしいよ」

「…なのに好きなんですね、雄大くん」

「それはキミもでしょ?」

「…そうですね」

「好きな人に好きな人がいるって知ってても
諦められないときはあるよね」

「……」


出されたオレンジジュースに
やっと手をかけてゴクゴクと飲み出した私に
マスターは身を乗り出して顔を近づけて来た。


「1つ聞いていい?」

「…なんですか?」

「雄大がキミと自分は似てるって言ってたけど…」

「言われました…なんでか分からないけど」

「キミ、雄大のこと好きなんだよね?」

「はい。ついこの間自覚しましたけど」

「あのさ…」

「はい。」

「すごく言いづらいんだけど…」

「…はい」

「雄大…キミはまだ元彼に未練あると思ってるよ」

「………え…?」







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久しぶりにやっとこさ更新出来ました。

やることがありすぎてアタフタしてたけど
やっと落ちといたのでまたマメに
更新していけたらな…なんて。


すごくどうでもいい話なんですけどネ。

私中学生の時から集めてる
少年漫画があるんですよ。


最近一巻から読み返してみたんですけど、

中学、高校時代好きだったキャラも
もちろんそのまま好きなんですけど

20代後半に入って
読み返したところ…


今まで見向きもしてなかったキャラに
ズドーーンと落ちまして(笑)

なんだろうね、アレ。

今まで全く興味なかったのに。

なんでかな。なんでかな。


なにかな〜なにかな〜さかな〜〜

(↑多くの人が分かってくれるであろうボケ)


私が年取ったから?

若い頃と今じゃ好みってやっぱり変わるのかしら。

なんていうどうでもいい話。


ご静聴ありがとうございました(笑)



あ、因みに集めてる少年漫画は

あひるの空

です。


バスケ漫画。ダムダム。

読んでる人いるかな?

いたら嬉しい。

Love Liar 【5】

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迎えられた家の中に入れば、
立ち込めるいい香りが腹の虫を鳴かせる。


「座って待ってていいよ」


何が楽しいのか、
家の主人は立ち尽くす私を見ながら
ニコニコと笑う。


「もうすぐ出せるから」

「…ありがと…」

「あ、でも手洗いうがいはしっかりね」

「……」

「風邪引いちゃうから」

「…う、うん」


洗面台に向かう前に
チラリと目を向ければ鼻歌まで歌ってる。


…雄大くんって、本当に謎。



ほんとついさっき。

仕事が終わった私は
とりあえず雄大くんにラインを入れてみた。


送った瞬間秒で付いた“既読”の文字に


「ひぃッ」


と、小さく漏らしてしまった。


寝てるかもしれないって言ったくせに
バリバリ起きてたらしい。


おいでって言われた手前、
行かないわけにもいかないし…


って思いながら雄大くんの家に行った。


扉を開けた雄大くんは
やたらとニコニコしていた。


「やっと来てくれたね」
「いらっしゃい!」
「ご飯用意出来てるよ!」


夜勤明けでボヤけたままの私に
ガンガンと話しかけながら
腕を引っ張って私を家に上げた。


手を洗ってテーブルのある部屋に
私が戻って来ても

雄大くんは変わらず鼻歌を歌ってた。


「夜勤って何時に終わるの?」


あぐびをしながら椅子に座った私に
雄大くんが問いかけてくる。


「8時」

「え?今10時半だよ?」

「残業してたの」

「やっぱり大変なんだね、看護師さん」

「…もう慣れた」


まぶたが落ちかかって来た私の目の前に
パスタがのったお皿が置かれた。


「お疲れ。たんとお食べ。」

「いい匂い」

「野菜たっぷりにしてみた」

「いただきます」


自信ありげな雄大くんが作ってくれたパスタは
彼の言った通り、野菜たっぷりで
夜勤明けの私にはとってもありがたい。


「おいしい?」


もぐもぐと口を動かす私に
そう聞いてくる。


自惚れっぽくなっちゃうから
思わないようにしてたけど…

やっぱり雄大くん、
どことなく嬉しそう。


「寝てくでしょ?」

「…え?」

「ベッド使っていいよ」

「いや…」

「寝ていきなよ」

「あの」

「気にしなくていいよ、俺も後で少し寝るし」


なんでこの人はこんなに私を
家に来させたいんだろう。


「…じゃあそうする。ありがとう。」


でも、なんだか空気感が居心地良くて
私は素直に頷いていた。



洗い物を手伝って、
トイレし終わった私に迫り来るのは
とてつもないほどの睡魔。

止まらないあくびに
もう手で押さえるのもめんどくさくなる。


「すぐ寝たら牛になる…豚にもなる…」って
椅子に座ってむにゃむにゃしながら
言う私を雄大くんは笑いながら見てた。


それからすぐに睡魔に負けて、
ベッドに潜り込んだのが数時間前。

今は目の前に雄大くんの顔がある。

さっき寝てる私のベッドに


「ちょっと詰めて。ごめんね。」


って言いながら入ってきた。


横向きに寝る私と向かい合って寝る雄大くん。


やっぱりさっきと変わらないで
ニコニコ笑ってる。

その顔をじーっと見ていると、
超近距離のまま雄大くんが話し出す。


「起こしちゃった?」

「…大丈夫」

「明日は?」

「夜勤明けは休みだよ…」

「そっか。明後日は?」

「普通に日勤」

「じゃあお店おいで」

「…ん…」


そとは昼間のはずなのに
この部屋はカーテンのせいで真っ暗に近い。

そのせいで、雄大くんの顔が
いつも以上に整って見える。


「ご飯作ってあげるから」

「…お店なのに?」

「新メニューの開発付き合ってよ」

「…んー…」

「ごめんね、寝ていいよ」


雄大くんの手がまぶたに被さって
私はされるがままに目を閉じた。


なんで、この人は。

私を自分の目の届くところに
置いておこうとするんだろう。

私に1人の時間を与えないように
しているんだろう。


それは“似ている”と言った
その言葉に何か関係するのだろうか。


考えても分からない。

なんでこんなにモテそうな人が
私なんかに構ってくれるのかも。

何もかも。


分からない。


でも、雄大くんとの時間は
やっぱり居心地がいい。


「おやすみ」


雄大くんの優しい声を最後に、
私は彼の胸に顔を埋めて

そのいい匂いの中で眠りについた。













生活が変わった。

前みたいに、仕事帰りにスーパーで
30%引きのお弁当を買わなくなった。

夜勤明けの重い身体で
眠い目こすりながら電車に乗ることもなくなった。


その代わりに、


仕事終わりに雄大くんのお店に寄って
晩御飯を食べるようになった。

夜勤明けは雄大くんの家で一眠りしてから
自分の家に帰るようになった。


毎日じゃないけどほとんどの日、
雄大くんの顔を見てる。


きっと今までの私を知ってる人に
この現状を話したらビックリするんだろうな。

あんたが!?
って思われるんだろうな。


バーのカウンターに何脚か並んでいる
一番端っこの椅子に座る。

背もたれが少しだけしかない上に
座るところの面積も小さいその椅子の
珍しい座り心地が面白い。


明日休みだからお酒飲んじゃおう!


意気込んで頼んだシャンディガフ。

下からパチパチと湧き上がる
小さな泡を眺めていると
目の前にバーのマスターがやって来た。


「こんばんは」


長い髪を一本に縛って髭を生やした
いかにも“マスター”って雰囲気。

長髪の男の人は苦手だけど、
マスターの場合は清潔感があるし
その1つ縛りが彼にとても似合っているから
むしろ魅力的に見える。


「こんばんは」

「仕事お疲れ様」

「お疲れ様です」

「今日も飯食いに来たの?」

「雄大くんが来いって言うから」

「よっぽど雄大に頼りにされてんだね」

「頼りにされているのかは
分からないけどご飯食べさせてくれるのは
ありがたいです。」

「はははっ、面白いなぁキミは。」


趣味がサーフィンらしいマスターは
肌が焼けていて、
笑うと店内の照明も相まって
白い歯がやたらと目立つ。


「あ、そうだ」


グラスを握ってお酒を一口飲んでから
マスターに小さいポチ袋を渡す。


「…これ、なんですけど…」


目の前に差し出しているのに
受け取らないまま
マスターは私に目を向けた。


「何かな、これは」

「ご飯代です」

「…はぁ」


ため息をついて腰に手を当てたマスターは
少し怒った顔をしながら
私の差し出したそれを手で制しながら押し返して来た。


「雄大に言われてます」

「知ってます」

「もらえません」

「受け取ってください」


まただ。

もう何回もやってるこのやり取り。


雄大くんのご飯は美味しいし、
新メニューの開発に関わるのも普通に楽しい。

だからこそ一円も払わないで
ご馳走になってることが申し訳ない。


「て言うか、元々は雄大が新メニュー作りたい
からってキミを付き合わせてるわけでしょ?」

「…はぁ」

「むしろ俺は雄大の給料から
抜くべきだと思うんだけど」

「え!?」

「君がどうしても払いたいって言うなら
雄大の給料から抜かせてもらうよ」

「…えっとぉ」

「どうする?」


にっこり笑うその顔が怖い。

もうアウアウ言うしかなくて
大人しくポチ袋をカバンに入れた。


ちっくしょーーー。

ニカといい雄大くんといい
マスターといい…

男の人に奢られた時に
どんな顔していいか分からないから
払っちゃった方が楽だと思うタイプなのに。

どんなに笑ってありがとうって言っても、
『笑顔嘘くさくないかな!?』とか
『奢ってもらう気でいたくせに
ありがとうとかうぜぇんだよ』とか
思われてないか考えちゃう。


ニカ以外の男の人とご飯行ったことなんて
数える程しかないけど
そうやって考えちゃうから
ずっと割り勘にして来たのに。


ブッスーと不貞腐れながら
お酒を飲む私にマスターは
「おかわりは?」って聞いて来た。


「同じのお願いします」

「かしこまりました」

「ご飯代出させてもらえないんで
飲んでお店に貢献します」

「本当に良い子だね」

「そう思うならご飯代出させてください」

「それは出来ません」


カウンターに頬杖ついてそっぽ向く私の前に
スマートにグラスを置いたマスターは


「その代わりいっぱい飲んでね」


って言った。


「商売上手」って聞こえないように
ちっちゃい声で言っといた。


「はーい、お待たせー!!」


声のする方に視線を向けると、
雄大くんが出来上がったばかりの
試作品を運んで来ていた。


「待たせちゃったね〜
って、真っ赤!!」


カウンターの上に試作品を置いて
私の顔を見た瞬間
ビックリしたように声を上げた。


「ちょ、マスター!
飲ませ過ぎですよ!」

「だって飲みたいって言うんだもん」

「だからって…!」


申し訳なさそうにマスターから
私へとチラリと視線を移した雄大くんは
私の肩に手を置いた。


「身体まであっついな」

「見た目ほど酔ってないよ」

「でも真っ赤っかだよ」

「呂律だって普通に回ってるでしょ?」

「まぁ、そうだけど…」


何を言っても心配そうな雄大くんを無視して
くるりと料理に向き直る。


「グラタン?」

「うん、そうなんだけど…」


歯切れの悪い雄大くんに
マスターがケタケタと笑い出す。


「まーこんなにオーダー受けてから出すまでに
時間かかるのは考えものだよなぁ」

「本当それっすよね」

「なかなか来なくて空きっ腹で飲んで…
ってまさしくこうなっちゃうなぁ」


マスターの大きな手が
私の頭をポンとした。



今まで私の隣に立っていた
雄大くんがカウンターの中に入る。

2人が私には分からない
仕事の話をし始めたのを確認してから
カバンから出した小さなノートとシャーペンを
横に置いてグラタンにフォークを入れた。


「…んま」


私のその一言に雄大くんが
飛びつくように身を乗り出す。


「でしょ!?でしょ!?」

「雄大うるせぇ。味よりも時間だろ」


私とはまた違った口調で話すマスターは
それでもどこか嬉しそう。


やっぱり自分のお店のために
一生懸命働く雄大くんが
可愛くて仕方ないんだな…

マスターから働かないか?って
雄大くんを誘ったらしいし。


「雄大くんの人望が羨ましい」


私から試作品の感想を一通り聞いて、

厨房へと向かう雄大くんの背中に
ポツリとそう呟くと
マスターが「ん?」と、私に聞き返して来た。


「雄大くんが羨ましいです」

「雄大のなにが羨ましいの?」

「人望とか…いろいろ」

「人望かぁ」

「マスターはなんでこのお店に
雄大くんを誘ったんですか?」


何気なく質問したつもりだったけど
マスターが一瞬ピクリと眉を動かしたから
思わずビクッとした。


「あ、ごめんなさ…」

「自由」

「へっ!?」


謝ろうとした私の声にかぶせて
マスターの声が放たれた。


「自由にしてあげたかったから」


想像もしていなかった答えに
ポカンと口を開けたまま動けなくなった。


「でもそれが雄大の為になったのかは
分からない…
俺の自分勝手なお節介なだけかもしれない」

「……」

「だから雄大のしたいってことは
出来るだけ手を貸してあげる」

「……」

「雄大が新メニュー作ってみたいっていうなら
厨房好きに使っていいって言うし」

「……」

「雄大がキミをお店に連れて来て
試作品食べてもらいたいって言うなら
喜んでキミをお店に受け入れる」

「……」

「だからそこはキミの特等席」

「私の…」

「そうだよ」


未だに湯気が立ち上るグラタンに
目を落とすと、「なんてね」っていう
マスターの声が頭の上から聞こえた。


ご飯を食べ終えてノートに
感想を書き込んでいると、
横から雄大くんがお皿を下げた。


「あ、ありがと。ごちそうさま。」

「いーえ」


いつまでも私の隣から動かない雄大くんに
「ん?」と言う顔をする。


「また書いてるの?」

「いや…」


書くのを一旦中断して
腕でノートを隠す。


「それ読ませてよ」

「やだよ」

「なんで?それにも感想書いてあるんでしょ?」

「さっき伝えたことと大して変わんないよ」


早く戻ってくれって顔する私を無視して
雄大くんは私の腕から
ノートをひったくった。


「ちょっと!返してよ!」


大きな声を出しちゃって
慌てて口を押さえた私の横で雄大くんは
食い入るようにノートを見る。


「ねぇ、本当…やめて」

「……」

「勝手に私が書いてることだから」

「……」

「…あの」

「すご」


ノートをパタンと閉じて
私に向けられた目はキラキラ光っている。


「これ何!?」

「病院で患者さんにご飯出してる時に
感じたこと書いてる…やつ…
もう本当返して…」


やっと酔いでの顔の赤みが引いたと思ったのに
それ以上に赤面していくのがわかる。

試作品食べて欲しいとは言われたけど
それ以上のことにまで首を突っ込んで
感じたことを書いたノート。


人の料理食べるようになって、
病院で患者さんに出してるご飯にも
目を向けるようになった。


どんなのが美味しいかとか
こうしたらもっと食べやすいとか


そう言うコミュニケーションも
取るようになった。

それを試作品の感想と交えて
こっそり書き記していた。

頼まれてないことなのに、
やたら張り切って。

本当恥ずかしい。


「めっちゃ勉強になる…」


さっき以上に熱を帯びた頬を抑える私に
雄大くんは顔を近づけてくる。


「このノート借りていい!?」

「やだ!」

「なんで!?」


なんでって…


「熟読したい!できればコピーさせて欲しい!」


誰かに見せるために書いたわけじゃないから
字は書き殴り気味で汚くて読みづらいだろうし、
なんてったって恥ずかしい。


でも、雄大くんがそんなに喜んでくれるなら。


“雄大のしたいってことは
出来るだけ手を貸してあげる”


さっきのマスターの言葉を思い出して、


「分かった…」


頷いた。


「マジで!?ありがとう!!
明日休みなんだよね?
俺も明日休みなの!!
今日泊まってきなよ!
いろいろ質問しながら読みたい!!」


ただ、今は雄大くんの近くで感じる
この居心地の良さに甘えていたかった。





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