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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

Love Liar 【6】

ジャニーズ 妄想




---------------





“似てる”って何がだろう。


“自由”って何だろう。



さっきからわたしの頭の中は
その2つの言葉に支配されっぱなし。


どう考えたって答えが分かるわけもない
その2つの言葉が頭から離れない。


相も変わらず、私は雄大くんに
ご飯を食べさせてもらっている。

夜勤明けには家に行って、
1つのベットで仲良く寝たりだってしている。


この関係はなんなんだろう。

人には言えない、

なんか少しだけ恥ずかしい
雄大くんと私のこの関係。


未だに私はこの関係に名前を付けられない。


名前を付けて明確になるのが怖い。
この関係を明確にするのが。

でも怖く感じてしまうのはきっと、
私にその経験がないから。


訳の分からない、男女間の関係。





そんな“訳の分からない男女間の関係”を
明確なものにさせられたのは
それから数週間後のことだった。





その日も特等席と言われた一番端っこの席で
雄大くんお手製のご飯を食べていた。


今日はオムライス。


平日の夜のバーに
お客さんはあまりいなくて、
私の動かすスプーンがお皿に当たる音が
やけに響くような気さえしていた。


「今日は暇だ〜」なんて言うマスターと
談笑していたその瞬間に
カランカランと、ドアベルが鳴って

その人は現れた。


外の風が少し店内を冷やして
思わず肩をすくめた。


「……いらっしゃいませ」


ほんの少しの間をおいたマスターに
違和感を感じてふと顔を上げると

マスターの顔がこわばって見えたけれど
その顔はすぐに柔らかい笑みへと変わった。


「こんばんは」


開いたドアのせいで生まれた突風で
少し乱れた髪を直しながら
その女性はペコリと頭を下げる。


「こんばんは」

「1人…なんですけど、大丈夫ですか…?」

「喜んで。どうぞ。」


カウンターから出たマスターは
1人掛けのソファが向き合った席に
その女の人を案内した。

私の座るカウンターから
少し離れた場所にある席で、
ここからはよく会話が聞こえない。


バレない程度にチラ見していると
さっきまで緊張していたように見えた
女の人が「覚えててくれたんですか?」
ってマスターに言ってるのが見えた。


…マスターの知り合い?

でも、あのこわばった顔は…?


見間違いじゃないと思う。

気のせいでもないと思う。



いつまでも気にしていても仕方ないと
半分ほど食べて放置していた
自分の前に置いてあるオムライスへと目を向ける。

今日も感想を伝えてあげなきゃいけない。

ノートだって前回より綺麗に書いている。


試食を任され始めてから
自分なりに着目するところとか
分かってきた今日この頃。

雄大くんの力になれることが
何だか嬉しいと思いはじめていた。


オムライスをスプーンですくって
口に含んだら、
厨房から雄大くんが出てきた。

ふと合う視線。

中にパンパンに頬張った口に
笑みを浮かべようとした時、


「雄大くん!」


後ろから大きな声が聞こえた。


「…先輩…?」


私を見ていた視線は、
スッと横に移って

彼はそう口にした。


振り返ると、自分の出した大声に
恥ずかしくなったのか
さっき店内に入ってきた女の人が

両手で口元を押さえて少し頬を赤くして
雄大くんの方を見ていた。


私はごくんと音を立てて
口の中に入っていたものを飲み込んだ。


さっきまで美味しいと感じていた
オムライスだけど、味が全くしなかった。



嫌な予感がする。


説明できないけれど
すごく嫌な予感がする。


雄大くんに背中を向けていた私の視界に
彼が入り込んできた。

私の横を通り過ぎて
その女の人へ一歩ずつ近づく彼の名を呼んだけど


「…ゆうだいく、」

「先輩ッ!!」


彼の声にかき消された。



もはや自分がその場にいないような…

そんな気さえしてきて
私は大人しくその場に座り直した。





心ここに在らず。


今の私にはその言葉がぴったりだと思う。



たまにマスターが話しかけてくれるんだけど
自分がちゃんと会話できてるか分からなかった。

でも、マスターが笑っていたから
それなりの受け答えは出来ていたとは思う。


自分が何を話しているのか分からない。

自分の声が聞こえない。


ただ、雄大くんと楽しそうに話す
その女の人の姿を…

爪の先から髪の毛の先まで
目に刻んでおくことに必死だった。





ぼーっとした頭のまま
家に帰ってきてお風呂に入った。

お風呂から上がると
雄大くんからラインが来ていて、


“いつの間に帰ってたの!?
ノート見せて欲しかったのに!”


ってちょっと怒り気味の文だった。




ずっと考えていた事がある。

男の人に対して苦手意識を
フル発動している私が
なんでこんなことが出来たのか。


家に上がったり泊まったり
挙げ句の果てには同じ布団で寝たり。


それは私にとっては信じられないことだった。


最初は容姿のせいかと思っていた。

人より整ってる雄大くんのビジュアル。


苦手なだけで男の人に対して
カッコいいとかイケメンとか
そう言う感情はちゃっかりある私は
その彼のビジュアルのせいで
無意識に贔屓していたのかもって。


だから今までの自分からは想像もできない
行動をしていたのかと思ってたけど…

そうじゃなかったみたい。


すごく簡単なことだった。


なんで男の人が苦手な私が
甘い期待をしたり、
他の女の子に悔しくなって
手を振り返したりしたのか。


理由は1つしかない。


彼に惹かれていたから。

雄大くんを好きになっていたから。


ただそれだけだった。







「ごめんね、今電気付けるから」


パチンと、音がして店内が明るくなる。


手に持ったスーパーの袋を
カウンターに置いた彼は、


「はい、ありがとね」


って言いながら私の手に握られていた
スーパーの袋を取った。


「調子乗って買いすぎてたから
だいぶ助かったよ、ありがとね」


はじめて見る彼の私服に、
こんなオシャレなお店を出す人は
私服もオシャレなんだな…って思った。


「飲み物何がいい?」

「いや…大丈夫です」

「お礼だから。何がいい?」

「…オレンジジュースで…」

「了解」


グラスに氷が当たる音が響く。


この間、私は自分の気持ちを知った。

自分のことなのに今まで気づかなかった。


でも、その気持ちを自覚したら
変な不安も一緒についてきた。


この不安がなんなのか、
何1つ分からないまま
気分転換のために街に出ると

買い出しに来ていたマスターと
ばったり遭遇した。


何個も袋を手から下げたマスターの
お荷物持ちとして手を貸して…
今こうしてお店に来ている。


と言っても開店前だから誰1人いない。

いつもと違う店内はなんか変な感じ。


特等席まで行くのが面倒くさくて、
目の前にある椅子に腰を下ろして


冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して
グラスに綺麗にそそぐマスターに


「マスター」


気づけば声をかけていた。


「…どうしたの?」

「マスターが前に言ってた、
雄大くんを自由にしたかったって…話」

「あー…うん」

「この前のあの女の人と何か関係あるんですか?」


もうここまできたら遠回しになんて
聞いていられないと思った。

変にそんなことしてもマスターはきっと
私よりも何倍も頭が良さそうだから
すぐバレるだろうし、

何よりこのモヤモヤしたしこりを
早い所取っ払いたかった。


「まぁ…」

「……」

「そんなとこかな…」

「…ですよね」

「気づいた…?」


マスターが聞いているのは、
きっと雄大くんの気持ちのこと。


「なんとなくですけど」

「そうだね」

「だって…表情からして違いますもん」


視線を落とした私の前に
オレンジジュースが置かれた。


受け入れなくてはいけない現実が
じわじわと襲いかかってくる。


「雄大くんは…」


それは、今まで恋愛に向き合ってこなかった
私からしたら重すぎるくらいの現実…


「あの女の人が好きなんですね…」


目の前のマスターの大きな手が
頭の上にポンと乗ったりするから
気持ちが緩みそうになって
ぎゅっとアゴに梅干しを作った。


私は自分の気持ちと失恋を
一気に受け止めなくちゃいけなかった。


「泣かないで」

「…大丈夫です」

「女の子の涙…苦手なんだ」


マスターの手は私の頭を優しく撫でると
スッとそこから離れた。


「これはまだ雄大がこのお店に
客として来てくれてた時の話なんだけどね」


それと同時に口を開く。


「あいつ普通に会社員してたんだよ。」

「はい、聞いたことあります。」

「うん。でね、その時新人だった雄大に
色々と教えてたのが雄大が“先輩”って呼んでた
この間お店に来たあの女の人。」

「だから、“先輩”…」

「そう」

「……」

「ごめんね。ハッキリ言っちゃうけど
雄大のやつ、あの人のこと好きだったんだよ」


分かっていたことだけど
マスターの口から聞くとその事実が
さっき以上に重くのしかかった。


「ずっと好きで…でも俺からしてみれば
そんな楽しくもない片想い
さっさと辞めちまえって思ってた」

「…なんでですか…?」


これだけ雄大くんを可愛がっているのに
応援をしなかったマスターに疑問を抱く。


眉をひそめた私に、マスターは
気まずそうな顔をしながら


「あの人には付き合ってる人がいたから」


そう言った。


「別れる見込みなんて全くない彼氏。」

「……」

「しかもその彼氏っていうのが雄大の大学の時の
サッカーサークルの先輩だった人でさ」

「……」

「世間って本当に狭いよな」

「……」

「雄大はあの女の先輩に告白も出来ないのに
でも仕事の関係上ずっと近くにいなきゃいけない」

「……」

「そんな状態で気持ちに諦めつくと思う?」


思わず首を横に振った。


好きな人に彼氏がいたとしても…

その彼氏が自分が昔お世話になった人だとしても…


好きな人が近くにいる以上、
気持ちを抑えるなんて出来っこない。

人の気持ちなんてそんな簡単に
変わるものじゃない。


「ね、でしょ?だから俺は雄大を
この店のスタッフに誘ったの。」

「…自由って」

「そう。そういうこと。
自分の気持ちにいつまでも縛られてるあいつを
あの女の人から離れさせて自由にしてあげたかった。」

「でも…ッ」


思わず出た言葉に、
マスターも私が何を思ったのか
理解したみたいで


「うん、意味なかったけどね」


眉毛を垂らしながらそう言った。


「まだ好きなんだ。あいつはあの人のこと。」


その言葉を聞いても、
涙は出なかった。


本当は心のどこかで気づいていたのかもしれない。

雄大くんは、私にすごく優しかった。

家に来いとか店に来いとか。
一緒に寝るのだって。

普通なら勘違いしてもいいくらい。


なのに、なんか違う感じがした。

彼からは下心が感じられなかった。


きっとそれは、
気持ちが入っていなかったから。

私に対して“好き”という感情を
持っていなかった。


自分が雄大くんに惹かれていたのもあるけれど
あそこまで素直に甘えられていたのは

彼が私に向ける気持ちが
“異性”への好意ではなかったから
私自身を身構えずに彼に惹かれることが
出来ていたのかもしれない。


「あの女の先輩…結婚間近らしいよ」

「…なのに好きなんですね、雄大くん」

「それはキミもでしょ?」

「…そうですね」

「好きな人に好きな人がいるって知ってても
諦められないときはあるよね」

「……」


出されたオレンジジュースに
やっと手をかけてゴクゴクと飲み出した私に
マスターは身を乗り出して顔を近づけて来た。


「1つ聞いていい?」

「…なんですか?」

「雄大がキミと自分は似てるって言ってたけど…」

「言われました…なんでか分からないけど」

「キミ、雄大のこと好きなんだよね?」

「はい。ついこの間自覚しましたけど」

「あのさ…」

「はい。」

「すごく言いづらいんだけど…」

「…はい」

「雄大…キミはまだ元彼に未練あると思ってるよ」

「………え…?」







-------------------







久しぶりにやっとこさ更新出来ました。

やることがありすぎてアタフタしてたけど
やっと落ちといたのでまたマメに
更新していけたらな…なんて。


すごくどうでもいい話なんですけどネ。

私中学生の時から集めてる
少年漫画があるんですよ。


最近一巻から読み返してみたんですけど、

中学、高校時代好きだったキャラも
もちろんそのまま好きなんですけど

20代後半に入って
読み返したところ…


今まで見向きもしてなかったキャラに
ズドーーンと落ちまして(笑)

なんだろうね、アレ。

今まで全く興味なかったのに。

なんでかな。なんでかな。


なにかな〜なにかな〜さかな〜〜

(↑多くの人が分かってくれるであろうボケ)


私が年取ったから?

若い頃と今じゃ好みってやっぱり変わるのかしら。

なんていうどうでもいい話。


ご静聴ありがとうございました(笑)



あ、因みに集めてる少年漫画は

あひるの空

です。


バスケ漫画。ダムダム。

読んでる人いるかな?

いたら嬉しい。

Love Liar 【5】

ジャニーズ 妄想

----------------




迎えられた家の中に入れば、
立ち込めるいい香りが腹の虫を鳴かせる。


「座って待ってていいよ」


何が楽しいのか、
家の主人は立ち尽くす私を見ながら
ニコニコと笑う。


「もうすぐ出せるから」

「…ありがと…」

「あ、でも手洗いうがいはしっかりね」

「……」

「風邪引いちゃうから」

「…う、うん」


洗面台に向かう前に
チラリと目を向ければ鼻歌まで歌ってる。


…雄大くんって、本当に謎。



ほんとついさっき。

仕事が終わった私は
とりあえず雄大くんにラインを入れてみた。


送った瞬間秒で付いた“既読”の文字に


「ひぃッ」


と、小さく漏らしてしまった。


寝てるかもしれないって言ったくせに
バリバリ起きてたらしい。


おいでって言われた手前、
行かないわけにもいかないし…


って思いながら雄大くんの家に行った。


扉を開けた雄大くんは
やたらとニコニコしていた。


「やっと来てくれたね」
「いらっしゃい!」
「ご飯用意出来てるよ!」


夜勤明けでボヤけたままの私に
ガンガンと話しかけながら
腕を引っ張って私を家に上げた。


手を洗ってテーブルのある部屋に
私が戻って来ても

雄大くんは変わらず鼻歌を歌ってた。


「夜勤って何時に終わるの?」


あぐびをしながら椅子に座った私に
雄大くんが問いかけてくる。


「8時」

「え?今10時半だよ?」

「残業してたの」

「やっぱり大変なんだね、看護師さん」

「…もう慣れた」


まぶたが落ちかかって来た私の目の前に
パスタがのったお皿が置かれた。


「お疲れ。たんとお食べ。」

「いい匂い」

「野菜たっぷりにしてみた」

「いただきます」


自信ありげな雄大くんが作ってくれたパスタは
彼の言った通り、野菜たっぷりで
夜勤明けの私にはとってもありがたい。


「おいしい?」


もぐもぐと口を動かす私に
そう聞いてくる。


自惚れっぽくなっちゃうから
思わないようにしてたけど…

やっぱり雄大くん、
どことなく嬉しそう。


「寝てくでしょ?」

「…え?」

「ベッド使っていいよ」

「いや…」

「寝ていきなよ」

「あの」

「気にしなくていいよ、俺も後で少し寝るし」


なんでこの人はこんなに私を
家に来させたいんだろう。


「…じゃあそうする。ありがとう。」


でも、なんだか空気感が居心地良くて
私は素直に頷いていた。



洗い物を手伝って、
トイレし終わった私に迫り来るのは
とてつもないほどの睡魔。

止まらないあくびに
もう手で押さえるのもめんどくさくなる。


「すぐ寝たら牛になる…豚にもなる…」って
椅子に座ってむにゃむにゃしながら
言う私を雄大くんは笑いながら見てた。


それからすぐに睡魔に負けて、
ベッドに潜り込んだのが数時間前。

今は目の前に雄大くんの顔がある。

さっき寝てる私のベッドに


「ちょっと詰めて。ごめんね。」


って言いながら入ってきた。


横向きに寝る私と向かい合って寝る雄大くん。


やっぱりさっきと変わらないで
ニコニコ笑ってる。

その顔をじーっと見ていると、
超近距離のまま雄大くんが話し出す。


「起こしちゃった?」

「…大丈夫」

「明日は?」

「夜勤明けは休みだよ…」

「そっか。明後日は?」

「普通に日勤」

「じゃあお店おいで」

「…ん…」


そとは昼間のはずなのに
この部屋はカーテンのせいで真っ暗に近い。

そのせいで、雄大くんの顔が
いつも以上に整って見える。


「ご飯作ってあげるから」

「…お店なのに?」

「新メニューの開発付き合ってよ」

「…んー…」

「ごめんね、寝ていいよ」


雄大くんの手がまぶたに被さって
私はされるがままに目を閉じた。


なんで、この人は。

私を自分の目の届くところに
置いておこうとするんだろう。

私に1人の時間を与えないように
しているんだろう。


それは“似ている”と言った
その言葉に何か関係するのだろうか。


考えても分からない。

なんでこんなにモテそうな人が
私なんかに構ってくれるのかも。

何もかも。


分からない。


でも、雄大くんとの時間は
やっぱり居心地がいい。


「おやすみ」


雄大くんの優しい声を最後に、
私は彼の胸に顔を埋めて

そのいい匂いの中で眠りについた。













生活が変わった。

前みたいに、仕事帰りにスーパーで
30%引きのお弁当を買わなくなった。

夜勤明けの重い身体で
眠い目こすりながら電車に乗ることもなくなった。


その代わりに、


仕事終わりに雄大くんのお店に寄って
晩御飯を食べるようになった。

夜勤明けは雄大くんの家で一眠りしてから
自分の家に帰るようになった。


毎日じゃないけどほとんどの日、
雄大くんの顔を見てる。


きっと今までの私を知ってる人に
この現状を話したらビックリするんだろうな。

あんたが!?
って思われるんだろうな。


バーのカウンターに何脚か並んでいる
一番端っこの椅子に座る。

背もたれが少しだけしかない上に
座るところの面積も小さいその椅子の
珍しい座り心地が面白い。


明日休みだからお酒飲んじゃおう!


意気込んで頼んだシャンディガフ。

下からパチパチと湧き上がる
小さな泡を眺めていると
目の前にバーのマスターがやって来た。


「こんばんは」


長い髪を一本に縛って髭を生やした
いかにも“マスター”って雰囲気。

長髪の男の人は苦手だけど、
マスターの場合は清潔感があるし
その1つ縛りが彼にとても似合っているから
むしろ魅力的に見える。


「こんばんは」

「仕事お疲れ様」

「お疲れ様です」

「今日も飯食いに来たの?」

「雄大くんが来いって言うから」

「よっぽど雄大に頼りにされてんだね」

「頼りにされているのかは
分からないけどご飯食べさせてくれるのは
ありがたいです。」

「はははっ、面白いなぁキミは。」


趣味がサーフィンらしいマスターは
肌が焼けていて、
笑うと店内の照明も相まって
白い歯がやたらと目立つ。


「あ、そうだ」


グラスを握ってお酒を一口飲んでから
マスターに小さいポチ袋を渡す。


「…これ、なんですけど…」


目の前に差し出しているのに
受け取らないまま
マスターは私に目を向けた。


「何かな、これは」

「ご飯代です」

「…はぁ」


ため息をついて腰に手を当てたマスターは
少し怒った顔をしながら
私の差し出したそれを手で制しながら押し返して来た。


「雄大に言われてます」

「知ってます」

「もらえません」

「受け取ってください」


まただ。

もう何回もやってるこのやり取り。


雄大くんのご飯は美味しいし、
新メニューの開発に関わるのも普通に楽しい。

だからこそ一円も払わないで
ご馳走になってることが申し訳ない。


「て言うか、元々は雄大が新メニュー作りたい
からってキミを付き合わせてるわけでしょ?」

「…はぁ」

「むしろ俺は雄大の給料から
抜くべきだと思うんだけど」

「え!?」

「君がどうしても払いたいって言うなら
雄大の給料から抜かせてもらうよ」

「…えっとぉ」

「どうする?」


にっこり笑うその顔が怖い。

もうアウアウ言うしかなくて
大人しくポチ袋をカバンに入れた。


ちっくしょーーー。

ニカといい雄大くんといい
マスターといい…

男の人に奢られた時に
どんな顔していいか分からないから
払っちゃった方が楽だと思うタイプなのに。

どんなに笑ってありがとうって言っても、
『笑顔嘘くさくないかな!?』とか
『奢ってもらう気でいたくせに
ありがとうとかうぜぇんだよ』とか
思われてないか考えちゃう。


ニカ以外の男の人とご飯行ったことなんて
数える程しかないけど
そうやって考えちゃうから
ずっと割り勘にして来たのに。


ブッスーと不貞腐れながら
お酒を飲む私にマスターは
「おかわりは?」って聞いて来た。


「同じのお願いします」

「かしこまりました」

「ご飯代出させてもらえないんで
飲んでお店に貢献します」

「本当に良い子だね」

「そう思うならご飯代出させてください」

「それは出来ません」


カウンターに頬杖ついてそっぽ向く私の前に
スマートにグラスを置いたマスターは


「その代わりいっぱい飲んでね」


って言った。


「商売上手」って聞こえないように
ちっちゃい声で言っといた。


「はーい、お待たせー!!」


声のする方に視線を向けると、
雄大くんが出来上がったばかりの
試作品を運んで来ていた。


「待たせちゃったね〜
って、真っ赤!!」


カウンターの上に試作品を置いて
私の顔を見た瞬間
ビックリしたように声を上げた。


「ちょ、マスター!
飲ませ過ぎですよ!」

「だって飲みたいって言うんだもん」

「だからって…!」


申し訳なさそうにマスターから
私へとチラリと視線を移した雄大くんは
私の肩に手を置いた。


「身体まであっついな」

「見た目ほど酔ってないよ」

「でも真っ赤っかだよ」

「呂律だって普通に回ってるでしょ?」

「まぁ、そうだけど…」


何を言っても心配そうな雄大くんを無視して
くるりと料理に向き直る。


「グラタン?」

「うん、そうなんだけど…」


歯切れの悪い雄大くんに
マスターがケタケタと笑い出す。


「まーこんなにオーダー受けてから出すまでに
時間かかるのは考えものだよなぁ」

「本当それっすよね」

「なかなか来なくて空きっ腹で飲んで…
ってまさしくこうなっちゃうなぁ」


マスターの大きな手が
私の頭をポンとした。



今まで私の隣に立っていた
雄大くんがカウンターの中に入る。

2人が私には分からない
仕事の話をし始めたのを確認してから
カバンから出した小さなノートとシャーペンを
横に置いてグラタンにフォークを入れた。


「…んま」


私のその一言に雄大くんが
飛びつくように身を乗り出す。


「でしょ!?でしょ!?」

「雄大うるせぇ。味よりも時間だろ」


私とはまた違った口調で話すマスターは
それでもどこか嬉しそう。


やっぱり自分のお店のために
一生懸命働く雄大くんが
可愛くて仕方ないんだな…

マスターから働かないか?って
雄大くんを誘ったらしいし。


「雄大くんの人望が羨ましい」


私から試作品の感想を一通り聞いて、

厨房へと向かう雄大くんの背中に
ポツリとそう呟くと
マスターが「ん?」と、私に聞き返して来た。


「雄大くんが羨ましいです」

「雄大のなにが羨ましいの?」

「人望とか…いろいろ」

「人望かぁ」

「マスターはなんでこのお店に
雄大くんを誘ったんですか?」


何気なく質問したつもりだったけど
マスターが一瞬ピクリと眉を動かしたから
思わずビクッとした。


「あ、ごめんなさ…」

「自由」

「へっ!?」


謝ろうとした私の声にかぶせて
マスターの声が放たれた。


「自由にしてあげたかったから」


想像もしていなかった答えに
ポカンと口を開けたまま動けなくなった。


「でもそれが雄大の為になったのかは
分からない…
俺の自分勝手なお節介なだけかもしれない」

「……」

「だから雄大のしたいってことは
出来るだけ手を貸してあげる」

「……」

「雄大が新メニュー作ってみたいっていうなら
厨房好きに使っていいって言うし」

「……」

「雄大がキミをお店に連れて来て
試作品食べてもらいたいって言うなら
喜んでキミをお店に受け入れる」

「……」

「だからそこはキミの特等席」

「私の…」

「そうだよ」


未だに湯気が立ち上るグラタンに
目を落とすと、「なんてね」っていう
マスターの声が頭の上から聞こえた。


ご飯を食べ終えてノートに
感想を書き込んでいると、
横から雄大くんがお皿を下げた。


「あ、ありがと。ごちそうさま。」

「いーえ」


いつまでも私の隣から動かない雄大くんに
「ん?」と言う顔をする。


「また書いてるの?」

「いや…」


書くのを一旦中断して
腕でノートを隠す。


「それ読ませてよ」

「やだよ」

「なんで?それにも感想書いてあるんでしょ?」

「さっき伝えたことと大して変わんないよ」


早く戻ってくれって顔する私を無視して
雄大くんは私の腕から
ノートをひったくった。


「ちょっと!返してよ!」


大きな声を出しちゃって
慌てて口を押さえた私の横で雄大くんは
食い入るようにノートを見る。


「ねぇ、本当…やめて」

「……」

「勝手に私が書いてることだから」

「……」

「…あの」

「すご」


ノートをパタンと閉じて
私に向けられた目はキラキラ光っている。


「これ何!?」

「病院で患者さんにご飯出してる時に
感じたこと書いてる…やつ…
もう本当返して…」


やっと酔いでの顔の赤みが引いたと思ったのに
それ以上に赤面していくのがわかる。

試作品食べて欲しいとは言われたけど
それ以上のことにまで首を突っ込んで
感じたことを書いたノート。


人の料理食べるようになって、
病院で患者さんに出してるご飯にも
目を向けるようになった。


どんなのが美味しいかとか
こうしたらもっと食べやすいとか


そう言うコミュニケーションも
取るようになった。

それを試作品の感想と交えて
こっそり書き記していた。

頼まれてないことなのに、
やたら張り切って。

本当恥ずかしい。


「めっちゃ勉強になる…」


さっき以上に熱を帯びた頬を抑える私に
雄大くんは顔を近づけてくる。


「このノート借りていい!?」

「やだ!」

「なんで!?」


なんでって…


「熟読したい!できればコピーさせて欲しい!」


誰かに見せるために書いたわけじゃないから
字は書き殴り気味で汚くて読みづらいだろうし、
なんてったって恥ずかしい。


でも、雄大くんがそんなに喜んでくれるなら。


“雄大のしたいってことは
出来るだけ手を貸してあげる”


さっきのマスターの言葉を思い出して、


「分かった…」


頷いた。


「マジで!?ありがとう!!
明日休みなんだよね?
俺も明日休みなの!!
今日泊まってきなよ!
いろいろ質問しながら読みたい!!」


ただ、今は雄大くんの近くで感じる
この居心地の良さに甘えていたかった。





------------------

俺が守りたい女。

ジャニーズ 妄想


---------------




俺には、愛してやまない女がいる。



彼女への愛は俺が誰よりも
強いと思う…いや、強い。

断言できる。


そんな彼女との出会いは
もう4年ほど前に遡る。


あの時俺は、何もかもを失って
無気力なまま歩道の隅に座り込んでいた。

季節は春のはずなのに、
アスファルトに打ち付ける雨は
身を震え上がらせるほど冷たい。


座り込む俺の前を自動車が通っていく。

その度に俺の自慢の栗色の髪は
跳ねた泥水で汚れていった。


「とことんついてねぇな…」


雨音にも負けそうなくらい
弱っちい声で強がる俺の前に彼女は現れた。


「こんなところにいたら、汚れちゃうよ」


彼女はなんのためらいもなく
俺の前にしゃがんで傘を差し出しきた。

俺を歩道から庇うようにしゃがむ
彼女の白いコートが、
さっきまで俺に当たっていた泥水で
汚れていくのが見える。


「おいおい、そんなところに座ったら
お前さんこそ汚れるぜ」

「そこ、寒くない?」

「寒いさ」

「お腹空いてない?」

「空いたっつーの…
もうなんなんだよ」


こんな惨めな…ボロボロになった姿を
見ず知らずの女の物珍しそうな目で見られて
男して気分は最悪だ。

頼むから放っといてくれ。


プイッとそっぽを向いた俺の体に何かが掛かった。


「ウチ、そこなんだ。おいでよ。」


俺の体には白のコートが掛けられていて、
目線を上げた先には、
俺のために薄着になって
微笑みかけてくれている、彼女がいた。


「…いいのか…?」


確かにここは寒いし、
もうこれ以上汚れるのは懲り懲りだし、
飯だってもう3日口にしていない。

家に連れてってくれるのは
とてもありがたいが…

俺は一応オトコだぞ?


警戒する俺に気づいたのか、
彼女はそっと俺は手を差し伸べた。


「無理しなくていいよ。嫌なら来なくていい…
でも、私あなたを放っておけない。」


聖母なようなその言葉に、
俺は気づいたら彼女の手に自分の手を添えていた。


「おいで」


先に立って歩き出した彼女に着いていくと
クリーム色の外壁をした
紺の屋根の一軒家が見えてきた。

その家の前で立ち止まって、
俺に振り返った彼女の


「ここが私の家。一応新築だよ?」


ちょっぴりドヤ顔を混ぜた笑顔が
めちゃくちゃ可愛かった。


彼女は俺を温かい風呂に入れると、
うまい飯を腹一杯食わせてくれた。


久々のちゃんとした飯に
マナーなんて忘れてがっつく俺に


「誰も取らないから」


って笑った彼女に俺は思い切って聞いてみる。


「なぁ、あんたは俺みたいな男には
みんなこういう風に優しくしてるのか?」

「ん?なぁに?」

「なら今すぐやめた方がいいぜ…
男ってのはな、単純なんだ。

ちょっと優しくされただけですぐに勘違いしちまう
浅はかで単細胞な生き物なんだ。

だからな…」


あろうことか、彼女は話を無視して
俺の頭を優しくポンポンしてきた。

男は単純なんだぞ、と
話をした瞬間にだ。

どこまでも警戒心のない女だ…


俺が常識のある奴で良かったな!

じゃなきゃ襲われても文句言えなかったぞ。


全く…本当にお前って女は
警戒心もないしなんか抜けてそうだ。

だから…


「君、ウチに住む?」


俺が守ってやる。

これはお礼だ。

ここまで優しくされたのは初めてだからな。


ただでさえお前は顔が美人なんだ。

賛否両論あるかもしれんが、
俺は好きな顔だ。

お前に惚れて、お前を騙そうとする
男が現れるかもしれない。


だからお前を守る。

この家にいさせてもらう代わりに
お前を守る。


俺はまだ残っていた飯を
口に詰め込みながらそう誓った。


その日の夜、
彼女は俺を抱き締めながら寝てくれた。


彼女の髪の毛からとてもいい匂いがして
安心して眠りについたのを覚えている。


次の日の朝も、
俺にうまい飯をくれた。

微笑みを浮かべながら飯を食う俺を眺める彼女に


「恥ずかしいからあんまり見ないでくれよ」


と、言うと


「今日は昨日と違ってガッツがないんだね」


意地悪なことを言う。


その言葉に少しこっぱずかしい気持ちになった俺は
彼女から目をそらして飯を食う。

でもやっぱり気になって、
ちらりと彼女を盗み見すると、
彼女は窓から溢れる春の太陽の光を
目を細めながら眺めて居た。


あぁ、綺麗だなぁ。

守っていく価値のある女だ。


少し強めに吹きこんだ春風が
彼女の髪を揺らして、

彼女は髪のいい匂いを俺に届けながら
俺に向かって「ヒナタ」と、口にした。


「…ヒナタ?」

「ヒナタってどう?あなたの名前。」

「俺の名前?」

「これから一緒に住むんだもん。
名前、必要でしょ?」


…いいぜ、センスいいぜお前さん。

ヒナタ、最高に気に入ったぜ。



正直なところ、彼女が付けてくれるんなら
名前なんてなんだって良かった。


ホントは彼女に一目惚れしてたんだ。


彼女が俺の目の前にしゃがみ込んだ
あの瞬間から、惚れていた。


“守ってやる”なんて上から目線で言ってるけど、
ただ側に居たかっただけだったんだ。




それから俺とあいつは常に一緒だった。


俺の身体を気遣って
ヘルシーで体に良いものばかりを
俺のためだけに用意してくれた。

風呂に一緒に入った後は優しく丁寧に
俺の栗色の髪を梳かしてしてくれた。

細くて綺麗な彼女の指が
髪の間を滑るように撫でるのが
気持ちよくていつもウトウトする俺に


「こらヒナタ。寝ないの!」


っていう彼女が最高に可愛かった。


彼女の父親も母親も
優しく俺を迎え入れてくれて、

俺は最高に幸せ者だと何度も実感した。




彼女は最近、大学生になって家を出た。

そのせいで生活が変わって
全然家に帰ってこれなくて
俺と彼女の時間は前よりも減りつつある。

でも時間が減っても
愛はどんどん深まる一方だ。

なんでそれが分かるかって?

彼女は俺を力いっぱい抱きしめてくれるから。

「ヒナタ大好きだよ」って
何度も何度も口にしてくれるから。


どんなに距離が離れても
彼女を守るのは俺の務め。


今までも。

これからも。







だと言うのに!!!






「こんにちは。お邪魔します。」


なんだってんだこの仕打ちは!!




昨日なんの連絡もなく
彼女は急に家に帰ってきた。

興奮しながら俺にベラベラとどうでもいいことを
話し続けたかと思ったら、
プツンと倒れこみソファで眠り出した。

俺はここで寝たら寒かろうと、
布団を掛けてあげた上に添い寝までした。


なのに朝早く跳ね上がるように起きた彼女に
ソファから突き落とされて目が覚めた。


「ちょ、ヒナタ!邪魔!」

「なんだなんだ!?どうした!」

「今何時!?やばい!昨日お風呂入ってない!」


ソファから落ちて
間抜けな格好の俺に目もくれず
彼女は風呂場へダッシュする。


「え?何?どうしたの?」


パジャマ姿でリビングに顔を出した
彼女の母親に駆け寄る。


「ママ!聞いてくれよ!あいつ酷いんだよ!」

「あら、ヒナタおはよう」

「おはようママ!でさ、聞いてくれよ!
あいつ俺をソファから突き落としたんだよ!」

「ヒナタ○○からご飯もらったの?」

「まだだけど…ってそんなことはいいよ、ママ!
あいつあんな慌てて何してんだよ!」


ママはのほほんとしながら
俺の飯を用意し始める。

なんだか俺だけ騒いでるみたいじゃないか。


「はい、ヒナタ。お待たせ。」


ママが出してくれた飯を一口食べる。


ママはあいつがあんなに
慌ててる理由を知ってるのか?

なら教えてくれよ。
なんであいつはあんなに慌てて…


「ねぇ!お母さん!
ドライヤーどこにしまったの!?」


どっひー!!!!


下着だけを身につけた彼女が
さっき以上に慌てながら風呂場から飛び出してきた。


おい!そんなはしたない格好でウロウロするな!
服を着ろ!服を!!


「えー?洗面台の横に置いてなかった?」

「置いてなかったから聞いてるの!」

「じゃあお母さん知らなーい。
あんたいっつも髪なんて乾かさなかったじゃない」

「今日は訳が違うの!!!」


どうした。そんなにおめかししようとして。

もしかして俺とのデートか?


いいって、いいってば。

俺はお前と出掛けられれば
それだけで十分幸せなんだから。

大学生になってから全然帰ってこなくて
確かに寂しかったよ…

そこは認める。


でも、そんなにめかしこまなくていいぜ?

いつも通りヨロヨロのパーカーに
動きやすさ重視のジーパンで行こうぜ。


なぁ…


「宮舘くんに会うんだから…!!!」

「……へ?…」


口から飯をこぼしながら驚く俺に気づかないくらい
彼女はバタバタと慌てながら
ドライヤーを探しまくっていた。





それがほんの1時間くらい前の話…


「あなたが宮舘くん?いらっしゃい!」


普段全く化粧っ気のないママだが、
今は顔をいつもより白くして
口紅なんか塗ってやがる。

正直似合わんぞ、ママ。


玄関には自分の家だというのに
キョロキョロと挙動不審気味に
テンパりまくる彼女と、

見たこともない…

でも知ってる男がいる。


「こんにちは」

「こんにちは〜」

「急にすみません」

「いえいえ、うちは全然いいのよ。
ゆっくりしてってね」

「ありがとうございます」


おい、ママ!

そいつに愛想を振りまくことないぞ!


「あのね、急に雨が降ってきてね!
行く場所なくなっちゃってね!」


あたふたと言い訳がましく
聞いてもいないことを言う彼女。


おいおい聞き捨てならんぞ!

それ俺と同じ境遇じゃねぇか!!


なんだよ!
男を家にホイホイ上げるな!

上げてもらった上に住み着いた
俺が言えた義理じゃないけどな!!


敵意むき出しで睨みつけてると、
そいつ柔らかく微笑みながら
俺に目線を合わせてきた。


「ヒナタ?」

「てめぇ呼び捨てにすんな!」

「こんにちは」

「うるせぇ!うちに上がるなら
俺を倒したからにしろ!!」


俺との直接対決が勝てないと思ったのか、
そいつは「ごめんね」なんて一言謝ってから
俺の隣を逃げるようにスルリと通る。


ママにもう一回ペコペコしながら
彼女の後ろに付いて階段を上がっていくのが見える。


部屋に行くつもりだな!

2人っきりになんてさせるものか!


追いかけようと思ったのに、
彼女がいきなり振り返って、


「ヒナタはここで待っててね」


俺の頬を優しく撫でながらそう言うもんだから、
俺はその場にいるしかなくなった。

俺にとって彼女は絶対。


ちくしょーーー。


リビングに入ってソファに寝転ぶと、
鼻歌なんて歌いながら
紅茶を淹れるママが見える。


「ママ、俺にも暖かいミルクを一杯…」

「ふんふんふ〜ん」


ダメだ。

どいつもこいつも浮かれポンチだ。

ここは俺がガツンと言ってやらなきゃ…


「ヒナタ」

「なんだよママ」

「○○呼んできて。紅茶入ったって」

「いいだろう。そして説教も垂れてきてやる。
あの男にな!」


鼻息荒めに階段を駆け上がって
部屋のドアを殴るように叩けば


「…ヒナタ?」


彼女がひょっこり顔を出した。


「ママがお茶取りに来いってよ」

「呼びに来てくれたの?」

「お前のためならなんだってするさ」

「ありがとうヒナタ」


彼女の笑顔に癒されていく。

でも忘れちゃいけない。

俺はするべきことがあるんだ。


「宮舘くん、ちょっと下に
お茶取りに行ってくるね」

「そんなかまわなくていいのに」

「そんな訳にはいかないでしょ」


若干頬を赤らめながら
部屋を出ていく彼女の目を盗んで
部屋に入り込むと

そこには俺の恋敵…


宮舘がいた。


部屋に入って来た俺を見て
一瞬驚いた顔をしたが今は笑ってやがる。

てめぇ何俺の顔見て笑ってんだオラ。


「ヒナタ、初めまして。宮舘です。」


知ってるぞ。

お前のことはよく知ってるぞ、宮舘。


はっきり言おう。

俺はお前が嫌いだ。


とある期を境に、彼女は
お前のことばかり話すようになった。

毎日毎日学校であったことを俺に
報告してくれる時間が
幸せでたまらなかったのに、

いつの間にかお前の話ばかり。


最初は可愛い可愛い彼女の話だ。
我慢して聞いてやっていた。

俺は大人な男だからな。


でもさすがにおまえに好意があるかもしれないと
彼女が頬を真っ赤に染めながら
そう告白してきたときは

さすがの俺でもショックのあまり
飯が喉を通らなかったくらいだ。


あのときあの瞬間から
宮舘、お前は俺の中のブラックリスト入りだ。


本当にいけ好かねえ。


昨日だってそうだ。
久しぶりに会えたと思ったら
宮舘くんが大学合格したんだよって
そんな話ばっかりだ。


口を開けば
「宮舘くんが宮舘くんが」って。



彼女が家を出て、
家から遠い大学に行くってなった時も、だ。

俺は彼女のためを思って
離れ離れになるのを我慢した。

男気を見せて彼女を送り出した。

男は涙を見せるもんじゃねえ。

なのにお前ときたらなんなんだ。
彼女を追っかけて同じ大学だと?

しかもちゃっかり合格しやがって。


しかもしかも。
お前彼女の前で泣いたそうじゃないか。


聞いたぞ。

馬鹿だな。

泣いてないって誤魔化したつもりだろうが
彼女にはバレバレだったんだよ。


思いっきり泣いた顔してるくせに
泣いてないって言ったらしいな。

ダサいことこの上ない。

いいか、よく聞け。
俺と彼女は愛し合ってるんだ。

彼女は受験勉強で忙しい時だって
俺とのお出かけを欠かすことはなかった。

雨が降った日だって
ごめんねって言いながら俺を優しく抱きしめて
家の中でずーっと遊んでくれた。

雪の日は2人で雪にまみれながら遊んだ。


お前はそのシュッとしたつり目がウリの
イケメンかもしれないが、

俺は黒目がちのクリクリ目のキュート顔が売りだ。

負ける気がしない。

俺は髪だって地毛で綺麗な栗色だし
鼻だって高い。

足は…お前の方が長いかもしれんが
走る速さなら絶対負けない。


もう一度言う!

俺と彼女は愛し合ってるんだ!

お前に俺たちの仲は邪魔させない!


ったく、紅茶なんて飲める身分か!

その辺の水道水でも飲んでろ!!


フン。

言ってやったぜ!


俺の説教中ずっと俺を見たまま
動けなくなってた宮舘は、


「いいなぁ…」


小さな声でポソリと呟いた。


「ヒナタはいいなぁ」


…言い過ぎたか…?


そう思わざるおえないくらい
宮舘は肩を落としながら
悲しそうな目で俺を見ていた。


「ヒナタは俺の知らない先輩を
たくさん知ってるんだよね」

「まーな」

「先輩にたくさん甘えてもらってるんだよね」

「あいつ俺の前ではデレデレだからな」

「いいなぁ」

「……」


気付いたら、俺は宮舘に寄り添っていた。


「羨ましい…」


彼女がいない今だから。

そして俺だから。


だからこそ聞けた宮舘の本音に
俺はなんだかなんとも言えない気持ちになった。


「先輩…本当に俺のこと好きなのかな…」

「なんだと!?」

「俺ばっかりが好きみたい…」

「てめぇ!あいつはそんな女じゃねぇぞ!!!」


俺は宮舘に飛びかかった。


「うわ!ヒナタどうした!」


俺からの攻撃に驚きながら怯んだ宮舘は
かっこ悪く後ろにひっくり返って
腹に俺を乗せながら目を見開く。


「あいつがそんな女な訳ねぇだろ!!」

「なに!?なに!?」

「てめぇ噛むぞコラァ!!」


怒鳴る俺の体を
軽々と退かした宮舘は


「ビックリした…」


なんて言いながらまた俺に向き合った。


「あいつの事馬鹿すんじゃねぇぞ」

「ヒナタはいい奴だな」

「…こんな事言いたくねぇがな、
あいつはお前に相当惚れてるぞ!」


一緒にいた時間が長いからこそ分かる。


宮舘の話をするときの彼女の目は
キラキラ輝いている。

話すことが楽しくて仕方ない…
嬉しくて仕方ない…
そんな気持ちが読み取れる。


「…自信持てよ」


まだプライドが少し捨て切れなくて
吐き捨てるようにそう言った俺を
宮舘はギュッと抱きしめた。


やめろ。

離せ。

今すぐ離せ。

男に抱きしめられても
なんも嬉しくねぇんだよ。


「ありがと、ヒナタ」

「フン」

「ヒナタはやっぱりすごいな」

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ。」


その時、彼女が
紅茶が入ったマグカップを2つとお茶菓子。

そして、ミルクが注がれてるであろう
俺専用のお皿を
お盆の上に乗せて部屋に入って来た。


「やっぱりヒナタ、ここにいた」


「ヒナタの分、持ってきて正解」
って言いながら笑って、
可愛い顔をしていた彼女だけど

お盆をテーブルの上に置いて
俺専用の皿を床に置こうとした瞬間に、


「あれ?」


びっくりした目が俺の目と合った。


…ハッ!


俺今宮舘に抱き締められている!!

違う!違うぞ!!
こいつとは仲良くなんてないぞ!!

こんなやつ大っ嫌いだ!!!


…って思うんだけど、
それでも大人しく宮舘の腕の中にいるのは

少しこいつを認めているからかもしれない。

不安を俺だけに打ち明けてくれた宮舘を。


「ヒナタ、宮舘くんと仲良くなったの?」

「…そう思ってくれてたら嬉しいな」

「チッ」


よかろう。宮舘。

お前を俺の師弟にしてやる。


お前はこれから彼女と同じ大学に通う。

そこでお前の役目だ。


お前は大学での彼女を守れ。

俺はこの家にいなきゃいけないから
側にいてやれない時は
彼女を守りたくても守れない。

この一年、俺がそばにいなくて
彼女になにもなかったのは奇跡に近い。


でも、その奇跡が
いつまでも続くとは限らない。


だからこれからはお前が側にいて
彼女を守るんだ。


でも俺が頭だ。
お前は師弟だ。

そこだけは間違えるなよ。


「あ、ヒナタにお土産があるんだった」


宮舘は抱き締めていた俺を
優しくクッションの上に寝かせると、

自分のおしゃれなカバンの中から
取り出した袋を俺の目の前に差し出した。


「うちのコナくんも好きなんだ。
良かったらヒナタも…お口に合えばいいけど。」


なんだよ、お前いい奴だな。

いい奴だなぁ!!


俺はしっぽをブンブン振り回しながら
“イヌ用 おやつ”と書かれた
ママだったら絶対買ってくれなそうな
高いおやつに目を輝かせ

宮舘に、また飛びついた。







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長い(笑)

人間視点の話じゃないのに
無駄に長い(笑)

Love Liar 【4】

ジャニーズ 妄想


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「○○ちゃん起きて」


肩を何度か叩かれる感覚に目を開くと
私はベッドの上で大の字になって寝ていて

ベットの横に立った雄大くんが
私を上から覗いていた。


「おはよう」


雄大くんは楽しそうに笑う。


その笑いは何から来ているのか。

寝顔のブサイクさか。

寝相の悪さか。

寝癖の凄さか。


「いろいろすごいね」


どうやら全てだったらしい。


ガバッと上半身を起こして
雄大くんに目線を向ける。

その顔は寝起きの時の顔はなんだったんだろ
って思うくらいイケメンに戻ってた。


「…おはよございます…」

「夜勤明けだったの?」

「うん…」

「お仕事お疲れ様」

「…ん…」

「ご飯食べる?」

「たべたい」

「目玉焼き?オムレツ?」

「めだま」

「半熟?固め?」

「はんじゅく」


遠慮なんて1つもしないで
答える私の寝癖に軽く触れてから
寝室を出て行く雄大くん。


えっと…

眠さのあまり、雄大くんの家に
相手の迷惑も考えずに押しかけたことは覚えてる。

ソファで少し寝かせてもらって
帰ろうとした後…


そうだ。

話があるからって言われて
引き止められたんだった。

それで、布団の中に引っ張り込まれて
抱き締められた。



…ッキャ〜〜ッッ

抱き締められたんだった!

一晩1つの布団で一緒に寝ちゃったんだった!


え?話って何??

何?何なの雄大くん??


「あ、○○ちゃん」

「はいッ!」


火照った頬を両手で抑えて
1人で悶絶する私に告げられるのは


「ご飯食べ終わったらお説教ね」

「……は…?」


頬の熱がスッと冷める言葉だった。






雄大くんが作ってくれた半熟の目玉焼きに
カリカリベーコン。

こんがりと焼かれた食パン。


4人掛けのダイニングテーブルに座って
しっかり全部食べ終えた私の前に
コーヒーが置かれる。


「よし」


腰に手を置きながら一息つく。


どうやら彼の言った“お説教”は
今から始まるらしい。

つまりこのコーヒーは
取り調べでいうカツ丼的なものらしい。


いくつになっても、
人に怒られるのは気分が良いものじゃない。


いきなり家に押しかけて迷惑かけた事を
怒られるんだろうなぁ。

他のことで怒られるような事あったかな…

無いな。うん、無い。


ごめんな、雄大くん。
夜勤明けで眠くて判断力が鈍ってたんだよ。


「○○ちゃん、俺に言うことあるよね?」


へい。ありますとも。

口元は笑ってるけど目が笑ってない。
イケメンな顔してるから余計にビビる。


「ご…ごめん…」


反射的に謝った。


「それは何に対してのごめん?」

「…えっ?」

「分かってないよね?」

「…あはは…?」


どうやら私の想像してた事じゃ無いらしい。

雄大くんが“説教”しようとしてる事は
私の想像してた事じゃ無いらしい。


…全然分からん…


乾いた笑いしか出せない私のおでこに
雄大くんはコツンとゲンコツをした。


「ニカの財布から出さなかったでしょ?」

「…あ、」


その事か。


バレた。

実はあの時こっそり自分の財布から出したこと。


話あるってこの事だったのか…


「ニカから電話来たんだよね」

「…はぁ」

「財布の中のお金が一円も減ってないって」


ニカは酔っ払って人に迎えに来させた癖に
財布の中の残金を一円単位で覚えてたらしい。


なんて細やかな男だ…


「俺がニカに怒られちゃったじゃん」

「でも…」


テーブルの下で手をモジモジと
動かしながら反論の声を出した私に
雄大くんは「…ん?」って少し驚いた声を出した。


「ニカっていつも奢ってくれるの」

「うん」

「一円も出させてくれない」

「ニカがそうしたいって言ってるなら
いいんじゃないの?」

「申し訳ないよ」

「なんで?」

「なんでって…」

「……」

「私だって働いてるし…」

「ははっ」


なんで雄大くんがこのタイミングで
笑い出したのか。

理解出来なくて今までずっと伏していた
目線を上げて雄大くんを見ると、

顔をくしゃっとさせて笑っている。


「○○ちゃんって本当に優しいんだね」

「優しくなくない?別に。」

「優しいよ」

「うーん…」

「とりあえず、これからは
笑顔でご馳走様って言ってあげてよ」

「……」

「ね?」

「…うん」


少し小さめの声で返事した。


やっぱりまだ少し納得出来てないけど、
雄大くんは嬉しそうにニコニコ笑いながら
私の前に砂糖を置いた。

いつも通りスプーン2杯の砂糖を
コーヒーに入れて溶かす私に、
「出た、2杯」って声が聞こえた。


「私、迷惑かけた事怒られるのかと思った」

「迷惑?」


キッチンの前に立って
洗い物を始めた雄大くんの隣に自分も立つ。

雄大くんが泡を立ててスポンジで
洗ったお皿を受け取って水で流す。


「ホラ、私急に押しかけたじゃん」

「朝?」

「そう」

「まぁ、ビックリはしたけど」

「でしょ?だからその事に対して
怒られるのかと思ったの」

「それは全く気にしてなかったなぁ」


朝っぱらから女を家に上げて
同じ布団の中で寝といて…

全く気にしていないなんて。


それはそれで悲しい。


「俺、少ししたら仕事行くんだけど
○○ちゃんどうする?家にいる?」


どうやら雄大くんはニートではなかったらしい。
ちゃんとお仕事してた。


「いやいや、帰るよ。」

「別に家にいてもいいのに」

「…雄大くんって誰でもこうやって
泊めさせてあげてるの?」


出来れば否定して欲しいって思いながら
さっきから気になってた事を聞いてみた。

私は男の人が苦手だし、
それにまだそういう経験がない。

雄大くんが仮に…
もし仮に、私に対して

男の人の家にホイホイ泊まって
私が未だに経験した事ない

あんな事やこんな事をするような女の子を
今回の私のように泊めてあげて

あんな事やこんな事していたなら、

私はその期待に応えられない。


勝手にだけど雄大くんが
そんな人じゃないって思ってるし、

私自身も雄大くんから
軽い女に見られたくないから、


違って欲しいと思った。


私が思ってた通りの人であって欲しい。

私を軽い女だと思って欲しくない。


横並びに立って黙々と
お皿を水で洗い流してると、


「そんな訳ないじゃん」


雄大くんの落ち着いた声が聞こえてきた。


「今回は○○ちゃんに
お説教するために家に上げたの」

「…そっか」

「それに俺、そんなチャラくないよ?」

「見た目チャラそうだけど」

「失礼だな!」


見た目は少し派手だけど
彼は軽くはないらしい。

勝手に抱いていた期待を裏切らないでくれた
雄大くんにホッとしていると

洗い物を先に終えた雄大くんが、
タオルで手を拭きながら


「他の子は滅多に上げないけど、
○○ちゃんならいつでも来ていいよ」


さっきとはまた別の期待を
抱いちゃうような事を言う。


「今回みたいに夜勤明けに来てもいいし」

「……」

「仕事終わりに寄ってもいいし」

「……」

「何もない日に来たっていいよ」

「…なんで」

「ん?」

「なんで私ならいいの?」

「似てるから」

「…へ?」

「俺と○○ちゃん」


何をどう感じて雄大くんが
自分と私を“似てる”
と、思ったのか…

どんなに考えてみても分からなかった。














ちょっぴり薄暗い店内は目の前の飲み物を
さらに艶やかに魅させてくれる。


背の高いすらっとした足の長い
綺麗なグラスに注がれると

居酒屋で飲み慣れたものと同じお酒でも
すごくおしゃれなカクテルに見える。


いつも安さ重視で
小汚いチェーン店で飲んでる私からしたら
こんなところ来る事ないと思ってた。


グラスの縁についていた
オレンジをガブガブと食べる私に、


「ねぇ、どこ?どこにいるの?」


私の目の前で真っ赤なお酒を飲む彼女の
気合の入った目尻のアイラインは
きっとこれから会えるだろう人への
期待のバロメーター。

いつもより少し上に跳ね上がっている。


そんな可愛いカバン持ってたんだ…


って思うくらいに見たこともない
クラッチバックからコンパクトミラーを出して
入念にメイクの確認をする彼女は、

例の結婚式に一緒に参列した
“インスタ女”の名付け親の、あの友達。


食べ慣れたみかんとはまた違う食感の
オレンジをかじりながら眺めるのは

“来る事ない”と、思っていたくらい
私とは無縁のおしゃれ空間、バー。


その内装。


バーはバーでも、サッカーの試合が
テレビで放送されるときは
これでもかって言うくらい
人が集まるスポーツバーらしいそこは

壁にたくさんのサッカーのユニフォームとか
タオルとかよく分かんないグッズが並んでる。


黒目だけキョロキョロ動かす私の
口元を指差しながら友達は
「それさ…」と、口にする。


「そのオレンジって食べるものなの?」

「…え?」

「食べていいの?」

「食べちゃダメ、なの?」

「分からない…」

「わ、私も分からない」

「どうする…?」

「え、何が…」

「オレンジ食べたら私はお持ち帰りOKです
みたいな合図…とか言うルールがあったら」

「えぇ…!」

「だってなんかよくマンガとかであるじゃん!
カクテルに意味が込められてるとか…」

「えっ、えっ、どうしよう!」


慌てながら急いで口から
オレンジを引っこ抜く。

私も友達もこんなオシャレなところ
来たこともないから、
1つ1つにビビってしまう。


“持ち帰りOKです”の合図だけじゃない。

“彼氏いるんで話しかけないで下さい”
的な合図だったとしても、
どうしよう…だ。


お前なんか誰も話しかけねーよブス。


って周りから思われてたかもしれない。

ガブガブ噛みついてる場合じゃなかった!


見開いた目で見つめ合っていた友達が
視線を私の横にフッと流した瞬間、

私の肩がポンと叩かれた。


「ヒィッ」


“今夜、お相手よろしいですか?”


そんなことを言われたら正直に言おう。
そんなつもりで
オレンジ食べたんじゃ無いんですって。

はっきりと正直に言おう。


そう決めて叩かれた肩の方に振り返ると、


「ゆ、うだいくん」


ニコニコ顔の雄大くんがいた。


「いらっしゃいませ」

「…あ、うん。こんばんは…」

「迷わないで来れた?」

「ちょっとだけ迷った」

「やっぱりか。この店分かりにくいもんね」


白シャツに身を包んで、
ロングエプロンを着こなす雄大くんは
店内が薄暗いおかげでもっとイケメンに見える。


雄大くんの家に泊まらせてもらった後
家に帰る途中に、
「雄大はバーテンダーしてるんだよ」って
言っていたニカの言葉を思い出した。

ニカから聞いた時は
その“ゆうだい”とやらを
全く知らなかったから


「フーン」


って聞き流したことも思い出した。


お説教が終わった後に
雄大くんは連絡先を教えてくれた。


「これから仕事」って言っていた彼に
“さっきはありがとう”
“雄大くん、バーで働いてるんだよね?
お仕事頑張って”


って送ったら、


“どういたしまして”
“今度飲みにおいで”


って返って来たから、
友達を誘って飲みに来た。


電話で、


「インスタ女が掻っ攫ってたイケメンだよ。
覚えてる?」


って言った私に、


『忘れる訳ないじゃない!!
あんなイケメン!!!』


って興奮しまくってた友達は
二つ返事でホイホイとついて来てくれた。


さっきまでも、すごく興奮してたくせに、
目の前の雄大くんの
イケメンっぷりにヤラれたのか、
友達はポカンと見つめたまま動けなくなっていた。


雄大くんは、私たちの前に1つずつ、
小さな白いお皿を置いた。

そのお皿の上には
小さなチョコレートケーキが
ホイップで可愛くデコレーションされていた。


「俺からのおごりね」

「…へ?」

「今日わざわざ来てくれてありがと」


反則級の笑顔でサラッとこんな事をされて…


ついに友達が「あ、あの…!」と、
裏返った声で雄大くんに話しかけた。


「ん?」

「ありがとうございます…
あ、あたしまで頂いちゃって」

「こんなもので申し訳ないけど」

「そんな事ないですよぉ」


さっきまで私に見せていた顔から
ガラリと変わった友達に
笑いがこみ上げてくる。


どっからそんな高い声出してんだよ(笑)


笑いを必死に押し殺して
友達と雄大くんの会話に耳を傾ける。


「ずっとここで働いてるんですかぁ?」

「いや、5年くらいかな〜
ここの店長に誘われてさ、
その前は普通に会社員してたよ」

「えぇ〜!ビックリー!
なんでバーで働こうって思ったんですかぁ?」

「元々、ここのバーにいつも飲みに来ててさ。
サッカーの試合があると
このバーでサッカー好きの人たちが集まって
みんなで酒飲みながら応援するんだよ」

「うんうん」

「そういう時とか人手が足りないからって
よくお手伝いしてたら“このままウチで働かないか?”
って店長から誘われて…って感じかな」

「わぁ、大抜擢だっ!」

「大袈裟だよ。でも面白そうだな〜って
思って…やってみたいなって」

「へぇ〜なんかすっごーい♡」


一体何がすごいのか分からないし、
友達が笑えるくらいに語尾を上げて
喋るから混沌としてしまったけど…


雄大くん…会社員してたんだ…


まさかの新事実発覚。


でも、雄大くんのことだから
スーツも似合うだろうなぁ。


雄大くんがサービスしてくれた
チョコレートケーキを「いただきまーす」って
ちっちゃい声で言ってからフォークで一口食べる。

口に広がる甘い味に
思わず顔をほころばせてると

雄大くんが私の顔を覗き込んで来た。


「今日は仕事休みなの?」

「え?あ、うん。休み。」


一生懸命話しかけてる友達の会話を
ぶった切って私に話しかけてくるから
ちょっと気まずい。


「なんでウチ来ないの?」

「へっ!?」

「いつでも来ていいよって言ったのに
全然来ないんだもん」

「いや…」

「明日は?夜勤なの?それとも朝から?」

「明日は、夜勤…」

「じゃあ夜勤明けおいで」

「…え?」

「仕事終わったらラインちょうだい。
鍵開けとくから勝手に入って来ていいよ」

「…いや…」

「俺寝てると思うけど気にしなくていいから」


いやいやいやいや!!

何を言ってんの!?

色々何を言ってんの!!??


眉間にしわを寄せる私。

そしてそれ以上にしわを寄せる友達。


私たちをこんな顔にした
当の本人、雄大くんは変わらず笑顔で


「じゃあ俺戻るね、ゆっくりしてって」
って言葉を残して立ち去ろうとするから、
慌てて「なんで?」って聞いた。

いろんな意味を込めて“なんで?”って。


そしたら雄大くんはゆっくり振り返りながら、


「似てるから。こないだも言ったじゃん。」


そう言ってカウンターの向こうに入っていった。


「…え、付き合ってんの?」

「…付き合ってないよ」

「いやいや、付き合ってるでしょ」

「付き合ってないってば!」

「え?じゃあなんであんなこと言ってんの?」

「……」

「私との会話ぶった切って」

「……」

「あんたにしか興味ないじゃん、彼」

「……」

「どうゆうこと?」

「……」

「あんな感じで付き合ってないって方が
不思議でならないんだけど」


雄大くんが私たちの視界から消えてすぐ、
友達はお酒で火照った顔を近づけてきた。

跳ね上げた目尻のアイラインが
滲み始めた目をぐりぐりに開いて
私を質問攻めにする。


「分からないよ、私にだって」

「嘘をつけ」

「…なんか」

「なによ」

「雄大くんは“似てるから”って言ってる、けど…」

「なにそれ」

「だから分からないんだってば」

「似てるって…なにが」

「だか…ッ」

「あんたは彼と違ってモテそうもないし、
容姿だって恵まれてないし
顔だって彼の方が小さいんじゃない?
似てるとこなんて1つもないじゃん」


Oh...なんてストレート。


チョコレートケーキにフォークを
ぐさっと刺した友達は、

雄大くんがサービスしてくれた
そのケーキをガブッと一口で食べた。


雄大くんとの再会を楽しみにして、
メイクだけじゃなく服装や持ち物にも
気合いを入れてきた友達。


自分で言うのも変だけれど…


私にだけ構うような態度を取った雄大くんに
気を悪くしてないかなって思ったけど


「いろいろ面白そうだから
あんた達のこと観察させてもらうわ」


って、少し楽しんでるみたいだった。







-----------------







某ドラマの次回予告に福田くん出てきて
そりゃもう世界中の男の最高峰に君臨してる
(さうの独断と偏見による調査結果)
男のタキシード姿に死にました。

みんなは息してる?

私はさっき2分くらい止まったョ。


来週生きていられるかしら。

Love Liar 【3】

ジャニーズ 妄想

---------------




少し急ぎめにコートを羽織って
今まで着ていた白衣を洗濯機の中に投げ込む。


病院の裏口から出れば、
すぐ近くに見える駅の電気。

夏には虫が群がる駅の電気だけど、
今は冷たい空気が照らされるだけ。


カバンを持ち直して歩くスピードを上げる。


ほんの数分歩けばすぐに着く駅。

誰もいないホームで1つだけ置かれた
ベンチに座ってやっと一息。


「…ねっむ…」


思わず口から出る言葉は

誰かに言ってるわけでも
自分に言い聞かせているわけでもなくて
とりあえず口にしたいだけ。


日勤の日で、外が明るいうちに
帰れたことなんてあったかな…


手元のケータイに映る時間は、
日勤の定時から3時間は軽々と過ぎていた。


こんな時間に帰ってるのには理由がある。


残業。


看護師をやっている上で、
残業がないなんて人、いないと思う。


少なくとも、私の病院では残業が当たり前。


今すぐにでも寝たいけれど
これから10分ほど電車に揺られて、

駅から15分ほど歩かなきゃ
家には着かない。


最初は病院に勤めると同時に
病院の近辺に引っ越す予定だった。


でも、まぁありがちな理由。

家賃がなかなか高かった。


不動産屋で変な汗をかきながら


「もっと…あの、こう…
安いところあったりしますか…ね…」


縮こまった私に、
少しぽっちゃりしたおじさんが
勧めてくれたアパートは
ちょっとボロめのアパートだった。

しかも、病院からは何駅か離れている上に
最寄りの駅から少し歩くからか

最初に目をつけていた
病院の近くのアパートより
格段に良心的なお値段だった。


「でも若い子にはちょっと古いかな?」

「ここにします」


たった10分ならなんてことは無い。


むしろ毎日歩くって健康的じゃない?

ダイエットにもなるじゃん!


なんて軽率な考えを持った
あの時の自分を呪いたい。


家賃を少し高く出してでも
近くに住めばよかったと切実に思う。


夜勤の恐ろしさを知らなかった。

残業の辛さを舐めていた。


何度、電車の中で隣の人に寄りかかって
寝てしまっただろうか。


『本当にちっちゃい頃から寝つきが良くてね〜
寝かしつけるのが楽だったわ。』


って言っていたママの言葉を思い出す。


電車に乗り込んで座った瞬間に
意識が飛ぶなんて日常茶飯事。


片道合計で25分の通勤。

自分が決めたことだけれど、
やっぱりめんどくさいと感じてしまう。


なんでこんなことしなきゃならんのだ…


って思うけど、
ずっとなりたかった看護師。


辞めるなんて選択肢は無い。


…から、
今日も愚痴だけは一人前に吐いて電車を待つ。


数分待つ私の元に来た電車に乗り込んで
唯一空いていた椅子に座る。

最初は車内に人はまぁまぁいたけど
自分の降りる駅名がアナウンスされる頃には
もう人は乗った時に比べて半分以下になっていた。


駅前のスーパーで買った
“スタミナ弁当”と書かれた場所に
30%引きのシールが貼られたお弁当を
持ちながらやっと着いた自身のアパート。

そこでバッタリ会うのは、


「あら、あんたか」

「…オネーさん」


多分、男。でもとても綺麗な
女の人の格好をした隣人。


「相変わらずぶっさいくな顔してるわね」

「オネーさんは今日も綺麗だね」

「当たり前でしょ!誰だと思ってんのよ!」


全くもってその通りだ。


オネーさんは絶対男だと思う。

でも、すごい綺麗。


乳は偽物かもしれないけど

肌だって綺麗だし、
髪の毛もツヤツヤだし

『どうやって歩くの!?』
って聞きたくなるくらいのピンヒールだって
軽やかに履きこなす。


「…なによ」


自分との違いを見せつけられて
思わず見とれていた私に
オネーさんが怪訝な目を私に向けた。


「いや…」

「あんた早く寝れば?タダでさえぶさいくなのに
今日はいつも以上に救いようのない顔してるわよ」

「そうだね」

「しかもなにそれ!夜ご飯?
はぁ、信じらんない!」

「え?」

「そんなカロリーの塊みたいなもの
よく食べれるわね!しかも夜に!」

「…夜だから食べるんじゃないの?」

「はいダメ、はい馬鹿。
あんた男と付き合ったことないでしょ?」


…あるよ。

未だに処女だけど。


「だから足太いのよ、あんた」

「かもね」

「あーもう、あんたと話してる暇なんて
ないんだった。遅刻する!」


思う存分私をディスったオネーさんは
私では歩き方さえ疑問を持つようなヒールで
階段を駆け足で降りて行く。


「オネーさん!」

「なによ!急いでんだけど!」

「仕事頑張って」

「あんたも早く寝な!」


言い方はキツイけど
間違ったことは言ってないし、

今だって少し嬉しそうに笑ってたから
オネーさんは悪い人じゃないと思う。


バックから鍵を取り出して、
鍵穴に差し込む。

家に入って内鍵を閉めて、
玄関のすぐ横にある靴箱に鍵を乗せる。


そこでふと思い出す。


…雄大くんの家の鍵、カッコよかったなぁ。


ガチャガチャしないで、
こう…シュッとしたらすぐ開く感じ。


手洗いうがいをしながら、
適当な部屋着に着替えて
温めたお弁当をテーブルの上で開く。


ごま塩のかかった白いご飯の横には、
玉ねぎとともに甘辛く焼かれたお肉。

そして白身フライに唐揚げが二個。

生野菜は全く無くて、
一番隅っこに申し訳ない程度に
置かれていたポテトサラダも
温めたたせいでビシャビシャになっている。


「確かにカロリーの塊かも…」


さっきオネーさんに言われた言葉を思い出して
少し気後れしたけれど、

そんなのは一瞬で、
お肉の匂いにまんまとやられた私は
30%引きされたスタミナ弁当をペロリと平らげた。







***






隣から聞こえて来る溜息は、
気のせいではないくらいうるさくて、


「ちょっと」


無視できないくらいに耳障り。


「なーんだーい…」

「溜息」

「あぁ、ごめん」


謝ったその言葉とともに、
彼女はまた大きな溜息をつく。


でもその溜息を責めることが出来ない。


なぜなら、溜息を吐いたのが
たまたま彼女が先だったから
私は吐かずに済んだだけであって

もし自分が先だったら彼女以上に大きな溜息を
吐いていたかもしれないから。


「疲れたよぉ…」

「疲れたねぇ」

「帰りたいよぉ…」

「帰りたいねぇ」


今は夜勤明け。

仕事は終わった。


でも、やっぱり残業。


愚痴と肯定を繰り返しながら
指はキーボードを弾き続けて

やっと終わった頃には
横長の窓からは太陽の光が
眩しいほどに入り込んでいた。


私よりも少し早く終わった同期は、
用事があるからと言って
私を残してそそくさと帰っていった。


残された私は眠気と戦いながら
ノロノロと帰り支度をする。


眠い。

いつにも増して眠気がやばい。


早く帰って寝よう。


でもこんな時は

やっぱり…思ってしまう。

何度だって…思ってしまう。



もっと近いところに住めばよかった…

って。


家賃が多少高ついても、
もっと病院から近いところ。

電車に乗らなくて済むような…


そうだな…

例えていうなら…


「……あ…」


気付いた時には、アパートの前にいた。

私の理想とする場所にある、
雄大くんの住むアパートの前。


「何してんの、私…」


意味が分からなすぎる自分自身の行動に
思わず独り言。


本当に意味が分からないぞ、私。


帰ろう。

家に帰ろう。


頑張って帰ればゆっくり寝れるし、
明日は丸一日休みだ。


頭では分かっているはずなんだけど、
私の右手はインターフォンに手をのばして


ピンポーン


そのボタンを押していた。


て言うか平日の…
しかもこんな時間にいるわけないじゃん。


呼び鈴のボタンを押した右手を
宙ぶらりんにさせながら

身体を駅方向に向かせようとした瞬間…


『…はい』


扉の向こうの彼が反応した。


「…お、おはよう」

『…おはよー…』

「…おはよう…」

『…○○ちゃん…』

「へい」

『何してんの?』


隠しているつもりかも知れないけれど
全然隠せていない笑いを含む
雄大くんの声が聞こえる。


なんで私って分かったの?


言いかけた言葉を飲み込む。


よくよく見れば、
カメラが付いたインターフォン。

きっと今、雄大くんには
下からのアングルでばっちりブサイクに映った
私が見えているはず。


恥ずかしいなぁ…


そう思った私の目の前のドアが開く。


「とりあえず入りなよ」

「おじゃましまんもす」

「いらっしゃいまんもす」


前回とは比べ物にならないくらい
ズカズカと入り込んで、

靴を揃えた私を確認してから
雄大くんは内鍵を閉めた。


「どうしたの?」

「…寝かせて」

「へ?」

「ごめん…あとで、説明する」

「え?なに?」

「とりあえず、寝かせて…」

「え、○○ちゃん!?」

「…ぐっない…」


この間コーヒーをご馳走になった
ソファにダイブした。


…いま私、とんでもないことしてる。

…ありえないことしてる。

…超迷惑なことしてる。


頭では分かっているけど
とりあえず、すごくすごく眠くって

身体も口も動かすのがめんどくさくて


欲のままに意識を手放す私に、
フワッと何かが掛かったような気がした。













体のあちこちに痛さを感じて、
むくりと起き上がる。

身体からパサっと落ちたブランケットを
拾い上げて周りを見渡せば…


「雄大くん…家…」


テレビの上にある壁掛けの時計を見ると、
どうやら30分くらいこのソファで
爆睡していたらしい。


コキコキと音を鳴らしながら
首を回してソファから立ち上がって
すりガラス製の引き戸に手をかける。


「ゆうだいくーん…?」


この間は目にしなかった、
引き戸の向こうは意外と狭めの部屋で
ベッドだけが置いてあった。


音を立てないようにゆっくりベッドに近くと、
ベッドの上の布団は上下に小さく動いている。


「雄大くん?」

「……」

「雄大くん?」

「…ん…」


寝起きの雄大くんの顔は
私がときめいた“イケメン”の顔からは程遠い。


「いきなり押しかけてごめんね。
帰るから鍵閉めてね…」


それが面白くて
ついクスクス笑ってしまう私の顔を
雄大くんはまだ半分しか開いてない
ボヤッとした目で数秒見つめたあと、


「ちょっと、待って」


私を引き止める。


「…ん?」

「…話、ある」

「え?話?」

「…ん、だから待って」

「待つって…どこで?」


話があるって言ったくせに
一向に起きそうにない雄大くんに、

キョロキョロと周りを見渡していると
目の前の布団がガバッと開いた。


「…とりあえずここにいて」

「は!?」

「…ソファ寝にくいでしょ…」

「なに、言って…」

「…ここ」

「……」

「寒い…」

「……」

「早くして…」

「……」

「○○ちゃん」

「……」

「…聞いてる?」

「あ、はい」


ついうっかり。

あの、ダメな口癖。



またやってしまった…


そう後悔した時には
既に私は腕を掴まれて、

布団の中に引っ張り込まれていた。


「…ん…」


雄大くんは布団の中に
引っ張り込んだ私の体をぎゅっと抱きしめて


「…おやすみ…」


また深い眠りへと落ちていく。


目がぐるぐる回る。

なにが起きてるのか。


て言うか…

雄大くん、なんでド平日の
こんな時間に家にいて寝てるんだろ…

仕事休みなの?

はたまたあなたはニート



緊張みたいなものはしているんだけど、

でも、何故か雄大くんの腕と匂いに
不思議とこころは落ち着いてくる。


「…おやすみ…」



この日私は初めて、
男の人の腕の中で眠りについた。

それも、付き合ってもない
男の人の腕の中で眠りについた。







------------------

Love Liar 【2】

ジャニーズ 妄想

----------------





基本的にあまり運は良くない方。


別に悪いってわけじゃないけど
ラッキーガール☆
とか言えるほど良くはない。

そんな私なのに


こんな事ってあるんだぁ…



目をパチパチさせるしか出来ない
私の前で手を振りながら


「おーい、戻っておいで〜」


なんて笑顔で言う彼は
やっぱりあの結婚式の日と変わらず
モテそうなイケメン。


「…は、はい」


彼は、気の抜けた返事をかます私に
「なんだよその返事」って
呆れるように笑った。


「ニカからよく聞く
○○ちゃんって君のことだったんだ」

「た、たつ…みさんも
ニカからよく聞いてます…」

「雄大でいいよ」

「…へっ?」

「ニカは?」

「あ、まだ、お店の中に」


え?いま雄大でいいって言った?

呼び捨て?

呼び捨てでいいって事?

え?ちょっと待って。

…え?

…マジか。


口を“ゆ”の形のまま
動けなくなる私をよそに

彼はガラガラと音を鳴らしながら
お店の扉を開けた。


「席どこ?」

「突き当たり、右です」

「りょーかい」


彼は脱いだ靴を靴箱に入れず
隅っこの方に揃えて置く。

きっとそれはニカを連れ出して
すぐにお店を出るから。


2人掛けの小さな個室に入ると
ニカは私が個室を出た時と変わらず
突っ伏したまま一ミリも動いてなかった。


「ニカ〜帰るよ〜」


ニカの頬をさっきの私と同じように
ペチペチと叩いた彼は
ニカのバックから黒の財布を取り出して
私に渡してきた。


「お会計、お願いしてもいい?
俺ニカおぶっちゃうから」

「え?」

「ここから出して」

「え?」

「よろしくね」


さすがにニカのだったとしても
人の財布からお金を出すのは気が引ける。

ためらいの気持ちを隠せない私に
彼は「ん?」って言いながら
大きい目をもっと見開いて私の顔を見る。


「…えっと、」

「どうしたの?」

「ニカ、寝てるし…」

「うん?」

「いつも奢ってもらってるから…」

「ニカに言われてるから」


歯切れ悪くモゴモゴと喋る私に
彼は被せ気味にそう言った。


「…へ?」

「○○にお金払わせないでって」


いきなり呼ばれた呼び捨てに
心臓がドクンと鳴った。

彼は私の手を取って
ニカの財布を握らせる。


「だから大丈夫だよ」

「でも…
いつもご馳走してもらってるから今日は…」


握られたせいで
手にびっしゃりとかいた私の汗を
気にすることなく彼はにっこり笑う。


「うん、でもニカに出させてあげて?」

「……」

「じゃないと俺が怒られちゃうから」


その言葉に何も言えなくなって
大人しくニカの財布を受け取った。


彼の手が握らせてくれた
ニカの財布だけど…


やっぱり、どうしても人の財布から
お金を出すのは気が引ける。

それに一緒に飲むと、
毎回全額出してくれるニカに
お返しをしたいと思っていたところだし…

私はレジにいるスタッフに伝票を渡して
白い財布を開いた。










「ちゃんとニカの財布から出した?」


個室に戻った私に
彼は第一声でそう言ってきた。


「…出させてもらいました」

「ありがとね」


もうすでにニカをおぶっていた彼の手には
私のカバンとニカのカバン
2つが持たれていて、
慌ててその2つのカバンに手を伸ばす。

ちょっと強引に彼の腕から
カバンを取ったから
取っ手が彼の腕に引っかかって
痛そうだったけど彼は、


「イケるかと思ったんだけど
やっぱり厳しかった!」


って笑った。


その笑顔のまま
「ごめんね〜」と、言った彼は
ニカをおぶり直して
お店の出入り口まで向かう。


もう夢の中でぐっすりのニカは
気持ちよさそうにアヒル口
むにゃむにゃと口を動かしながら
彼に身を委ねていて

ニカが彼を信頼してるが故の
そのだらしない顔が笑えた。



…にしても。

視覚効果というのは
とても大切なことらしい。


やっぱり私は現金な奴で
男の人が苦手だと言っておきながら
イケメンにはめっぽう弱いらしい。


どこからどう見ても、彼はイケメンだ。

身長は高くないかもしれないけど
低くはない。

その辺の女子より顔は小さいし
目はおっきいし

6:4くらいの割合で可愛さとかっこよさを
兼ねそろえている上に
オシャレときたもんだ。


男の人は苦手。

でもイケメンに話しかけられるのは嬉しい。


私は救えないほどに自分勝手。



ニカを背中におぶったままの
彼の後に続いて歩く。

暖簾をくぐって外に出る。

思いがけない再会のせいで
体温が上がっていたのか、

さっきは寒いと感じていた外の空気も
体を冷ましてくれるには
ちょうどいいくらいだった。


はー、と白い息を吐いて
くるりと振り返ってくる彼。


「じゃあニカの荷物預かるよ」

「あ、いや…」

「ありがと」

「あの…私、持ちます。」

「ん?」

「ニカと飲んでたの私だし…
責任あるんでニカのこと
家まで一緒に送らせてください。」


元はと言えば私がちゃんと
ニカのペースを見ていれば
ここまで酔いつぶれることは無かった。

その申し訳なさを
実はさっきから感じていた。

だからそう言っただけなのに…


「やっぱり」


彼はしたり顔で私を見る。


「ニカの言ってた通りだ」

「…え?」

「ニカがいつも言ってる。
○○は優しいって。」

「そ、それは…」


褒められることなんて滅多にないから
どう反応していいか分からず目を泳がせる。


「でも、そのせいで損してるとも言ってた」

「…損…」

「詳しい事は知らないけど」


詳しく知られていたら困る。

特に私の秘密のコンプレックスなんて
知られていたりなんてしたら。


「じゃあ荷物頼もうかな!
すぐそこなんだウチの家」


あーん。

やっぱりイケメン…。



第三者から見た私は
“優しいせいで損してる”らしい。

本当は腹の中でこんな事考えてるのに。


彼がニカを迎えにきてから
改めて痛感させられている
自分勝手さに思わず笑ってしまった。


私の腹の中なんて知る由もない
彼は、私の笑った顔を見て

何を勘違いしたのか楽しそうに笑って
「こっち」と言って歩き出した。





言ってた通り、彼の家は
歩いて5分も経たない場所にあった。


「ここの角部屋なんだよね」


って言って1番手前の
101号室と書かれた玄関ドアを横目に
奥へと歩いていく。


102…103…

と、数字順に並んだ
ドアを何個か通り過ぎて…


「ここがウチ」


1番端の玄関ドアの前でそう言った。


「本当に近いんですね…」

「言ったじゃん」


訳のわからないドヤ顔をしていたけれど、
私は彼が手にしている鍵が
今まで見たことないような
鍵だったからそこにばっかり気を取られた。


だからかもしれない。


鍵の形が普通の…

っていうか私が使い慣れた
シリンダー型のものじゃなくて

電子マネーみたいな形のやつを
差し込んだだけで開くタイプの鍵に
気を取られていたからかもしれない。


「上がってって〜」


ナチュラル過ぎる誘いに
「あ、はい」って返事しちゃったのは
絶対にそのせいだと思った。


自分の口から出た言葉に
後悔した瞬間にはもう遅くて、

私が家に入ってくると
信じて疑っていない様子の彼は
玄関を開けっぱなしにしたまま
部屋の奥に進んでいく。


私、帰ります。

ニカのこと迎えに来てくれて
ありがとうございました。


って伝えて帰らなきゃ…


「寒いから早く入ってきな〜」

「あ、はい」


1回目の“あ、はい”
は、鍵に気を取られたせいではなく
自分の反射的に出した言葉ってことと、

後悔したくせにすぐ同じ失敗を
繰り返した自分の愚かさを呪いながら


「内鍵よろしくね」


って言って来た彼に向かって


「あ、はい」


ってまたしても同じ失敗をした自分に

私ってとことんどうしようもない…

って小さくヘコんだ。







会って2回目。

って言っても名前以外
ほとんど何も知らない人の家に
入るなんて緊張しかしない。

しかも男の人の一人暮らしの家なんて…

しかもしかもイケメンの家なんて…

私にはハードルが高過ぎる。


「おじゃましまんもす」


少しでも自分を落ち着かせようと
面白くもないギャグを小声で
発しながら靴を脱ごうとすると


「いらっしゃいまんもす」


ってクスクス笑いながら返されて
聞こえてたのかよ!!!って、
気絶しそうなくらい恥ずかしくなった。



言われた通り内鍵を閉める。

自分の脱いだ靴と、
彼の脱いだ靴を揃えて、
振り返った目線の先には

すりガラス製のオシャレな
両開きの引き戸を閉めながら
こっちを見ている彼がいた。


きっとその引き戸の奥にある
寝室にニカを寝かせてきたんだろう。


「コーヒー飲める?」

「飲めます…」

「寒い?」

「…え?」

「ごめんね、暖房効くまでもう少し待ってね」

「いえ、全然…」

「その辺座ってて〜」


その辺って言われて
座るところを探してみるけど…


迷う。


キッチンでコーヒーを淹れる
彼のすぐ後ろには
4人掛けのダイニングテーブル。

そしてその奥に
2人掛けのソファ。


4人掛けの方がいいの?

でもなんかテーブルの上に
色々乗ってる…

わざわざ私なんかがコーヒー飲むだけのために
テーブルの上片付けてもらうのは申し訳ない。


でもソファ…?

確かにソファの前に置かれてる
ローテーブルの上は
綺麗に片付いてるけど
2人掛けって密着度高くない…?


どうしよう。

どっちが正解?

一体全体どっちが…


「…何してんの?」


マグカップを両手に
振り返った彼の言葉はごもっとも。


「え、と…どっちに、座れば…」

「あー!ごめんごめん!
もしかして迷ってた?
こっちのテーブル汚いからソファ行こっか!」


密着度の高い方を指定されて、
やっと私はその場から動くことが出来た。


「どうぞ」って言われた声に促されて
先にソファに向かう。


「失礼します…」


身を屈めながらソファに座ると、
さっきからずっと笑いを堪える
顔をしていた彼がついに吹き出した。


「○○ちゃん、いま猫被ってるよね?」

「え!?」


なんでバレた!?と言わんばかりの
大声で驚いた私の前に
マグカップを置きながら隣に座ってくる。


「ニカから聞いてるって」

「な、何を!?」


今までニカの前でやらかした事は
星の数ほどある。

そのうちどれを聞いたの!?

あいつは一体そのうちのどれを
このイケメンに話したの!?


背中に冷や汗をかきまくる私に、


「俺あれ好き!鼻からそうめん事件!」


彼が楽しそうにそう言った。


「あとね、サブウェイ事件とか〜
飛行機事件とか〜」

「え!?ちょっと待って!
どこまで知ってんの!?」

「結構聞いてるよ(笑)」


若気の至り…
でも確かに私の黒歴史

友達に全部事件扱いされるくらい
若気の至りの黒歴史


もうこの人の前で
猫被っても仕方ない…


大きなため息を吐く私を
楽しそうに眺める彼。


男の人への苦手意識やら
さっきまでの緊張やら

ポーンっとどっかに飛んでく音がして…


「くそニカ…」


低い声でニカが寝てる
すりガラスの向こうを睨む。


骨付きカルビ事件も
聞いたときは爆笑したな〜」


その話まで知ってんのかよ!
って心の中で叫んで、

恥ずかしさをごまかすために
目の前に置かれたコーヒーに
砂糖を2杯ぶち込んで思いっきり飲み干した。



どうやら私の場合、

素を出せるって事は、
“男の人が苦手”っていう垣根も越えるらしい。


彼の家をおいとましようとする頃には
彼の面白い話に、手を叩きながら
ゲラゲラ笑うほどにまでなっていた。


私が歩いてフローリングが軋んだ時は
“こいつ体重重いな”
って思われたりしないかな…

とか思うほどに緊張してたのが
嘘かなってくらい
奥歯までしっかり見えちゃうくらい
口を大きく開けてゲラゲラ笑った。


「本当に駅まで送らなくていいの?」

「うん、全然平気。すぐそこだし」

「じゃあ気をつけてね」

「うん、ニカにもよろしくね」

「うん。おやすみ」

「雄大くんもおやすみ」


玄関を開けながら
見送りしてくれている彼に
手を振って歩き出そうとすると、


「あ、そーだ」

「ん?」


夜に、しかもアパートだからか、
少し小さめの声で呼び止められた。


「おっきい道出たら右じゃなくて…」

「左でしょ?」

「ん?あ、そう…なんだけど…
あれ?ん?」

「病院の裏から行くと
駅にすぐ着くよね」

「あれ?俺さっき教えたっけ?」


不思議そうな顔をする彼に、


「私、あそこの病院勤めてるの」

「…ん?」

「あそこの病院で看護師してるの」


11時の方向に見える
自分の勤め先でもある病院を指差しながら
そう言うと、

最初はぽかんとしていた彼だけれど


「マジで?俺先週
風邪引いてお世話になったよ」


と、笑ってから


「またウチ遊びにおいで」


と、付け足した。



その顔はやっぱりカッコよかった。






【続】
------------------







タイトルはジャニーズ知識皆無の友達と
お茶をした時にちょっとお願いして、

どうでも良さそうな顔で
考えてくれたものを頂戴しました。


その時のお茶代は私持ちでした。
大体千円くらいでした。

つまり千円のタイトルです。


横文字なんてオシャレ過ぎて
恥ずかし死にしそうだけど
あえてチャレンジ。

だって千円もしたんだもん。


「タイトル考えてあげたんだから奢ってよ」


って言われた時はびっくりしたけど
さすが私の友達やってるだけあるなこいつ。


って思いました。




あ、お話はまだまだ続きます。


よろしくでございます。

Love Liar 【1】

ジャニーズ 妄想


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イムリミットは、
もうとっくに過ぎていたと思う。


彼は震える両手で
私を抱き締めながら泣いていた。

彼にこんなに強く抱きしめられたのは
初めてだった。


「嫌いになったわけじゃないんだ…」


今にも消えそうな、
小さな声で何度もそう言う。


「嫌いになったわけじゃない…
本当に…これは嘘じゃない…」


しつこいくらいに
繰り返されたその言葉の後に、

少しの嗚咽と、
大きな呼吸。




「でも、もう前みたいに想えないんだ…」


半年前に、
私は1年3ヶ月付き合った相手に
そう言われて振られた。












目の前には純白のドレスに身を包んで
幸せそうに微笑む花嫁姿の友達。


前後左右から聞こえる
祝福の声の中を
ゆっくりゆっくり歩いていく。


泣きそうになるのをこらえて
笑顔で大好きな人に
寄り添いながら微笑むその姿は

今まで見てきた彼女の中で一番綺麗。



私が座る丸テーブルには
自分を含めて6人の女の子。

全員今日の主役である
花嫁の高校時代の部活のチームメイト。


みんな夢中になって
主役の姿をケータイで撮影している。

その鳴り止まないシャッター音と
感動的なBGMを聞きながら、

私は広い披露宴会場を
ぐるっと見渡した。


すると、花嫁の手から放たれたブーケを
先ほどめでたくキャッチした女性が
ブーケを自分の頬に添えて、
アヒル口で自撮りをしている姿が見えた。


「…若いね」


私の左隣りでさっきまで
パシャパシャと写真を撮っていた友達が
ケータイをカバンにしまいながら
ボソリと呟いた。


「あ、同じとこ見てた?」


私と同じ方向を見ながら
話す友達の口元には
少し意地悪そうな笑みが浮かんでいて、


「うん。だってあの女目立つ」

「ははっ」

「あれインスタにあげるぜ、絶対」


その口から出る言葉も、
なかなか意地悪。


ハッシュタグとか付けてんだよ」

「たとえば?(笑)」

「#ブーケ取っちゃった♡」

「あるある」

「#次はわたしの番」

「あははっ」

「#絶対幸せになるぞ」

「お腹痛い…ッ」

「#今日は幸せいっぱい分けてもらうんだから」

「やめてほんと笑えるッ」


半泣きで声を出さまいと
笑う私に止まることをしない友達。


「マジあの女
主役の花嫁より目立ってる」

「確かにね」

「ブーケ取れたら次結婚出来るなんて
迷信だって教えてやろうかしら?ん?」

「あれ、あなたブーケキャッチしたの
先月にあった結婚式だっけ?」

「そうだよ」

「彼氏すら出来てないじゃん」

「うるせぇ」

「うわ、口悪っ」


ゲラゲラ笑う私の顔を見て、

意地悪そうな顔をしていた
友達の眉毛が少しだけ垂れた。


「…あたし達の中でさ…」

「ん?」

「あたしたちの中で…
一番最初に結婚するのは
○○だと思ってたなぁ…」


友達がそう口にする。


その言葉に一瞬だけ目線を落として、

すぐに曖昧に笑ってごまかす私。


そう思っていたのも、
無理はないと思う。


20代後半。

お互い社会人。

付き合って1年3ヶ月。


結婚する条件はそれなりに
満たしていたと思う。


周りから見た私たちは
“素朴”とよく言われていた。

素朴で素敵な2人だ、とか

素朴な感じがいい、とか


そもそも素朴ってなんだよって思ったけど、
それは結構な褒め言葉だったらしく


無印良品の家具とかって素朴じゃん。
あんな感じなんだよ」


という、友達の独特すぎる要約に
少しだけ納得したことも覚えてる。



その“素朴”がどこまで関係しているかは
分からないけれど、

結婚するだろうと思われていた私達が
別れた時はそれはもう質問の嵐で…


「なんで別れちゃったの?」


今でもこうしてよく聞かれる。


「…ん?」

「いい人だったじゃん、相手の人だって」

「うん。いい人だったよ」

「じゃあなん…」


友達の質問の声が、
司会者の大きな声で遮られた。


正直、助かったと思った。



なんで別れたか。


彼が私を前みたいに想えなくなったから。


だから別れた。

でも、彼のその言葉の裏には
私の誰にも言っていない
秘密のコンプレックスがあって…


その秘密は
ちょっと…いやだいぶ

人に言いたくない。






暗くなった会場と一緒に
少しだけ気持ちが落ちていた私に、

今度は右隣りに座っていた
友達が話しかけてくる。


「…ねぇねぇ、
あの子、お色直しのカラードレス
何色選んだか知ってる?」

「え、知らない。」


さっき花嫁が退場して行った
扉の方に視線をやりながら
そう答えた私に続いて、

左隣りの友達も、
聞いてないな〜と答えた。


「○○ちゃん達も知らないか〜
あの子全然教えてくれなくてさぁ」

「ある意味サプライズだね」

「みんなで何色か想像してたの」

「因みに何色って想像したの?」

「ネイビーとか、明るめのブルーとか」

「うわ〜あの子選びそう」

「でしょ!でしょ!
…で、2人は何色だと思う?」


ワクワクしたような可愛い顔で
聞いてくる右隣りの子に反して、


「純黒!華やかな式にあえての純黒!!」


ゲラゲラと笑う左隣りの友達。

その正反対さに挟まれて
ついつい私も吹き出す。


「真面目に考えてよっ
じゃあ○○ちゃんは?」


学生時代から小物は全部
ブルー系だった花嫁。

ネイビーもブルーも
他の子が言ってるみたいだし、
もう選択肢ないじゃん…

ならもう絶対あの子が
選ばないような色でいいや。


そう思って、


「黄色」


って答えた。


1番ありえない私の回答に
丸テーブルみんなして笑った。


正直ドレスの色なんてどうでも良かったから
目の前にあったクロワッサンを
むしゃむしゃ食べていたら、


「○○!○○!」


右隣りから私の名前を呼ぶ声に、

ライトが当たった大きな扉の先を見ると…


「…わぉ…」


お花をたっぷりあしらった、
黄色のAラインドレスを身に纏う
花嫁の姿があった。

















目の前にある綺麗な色のカクテルを
喉に流し込んだ私の横で


「純黒着て欲しかったわ〜」


理不尽な友達の声が聞こえた。


「純黒ってぇ」


そんな理不尽さを全く気にせず
のほほんと答える花嫁。

さっきまで着ていた華やかなドレスから
ラフなワンピースに着替えている。

そのワンピースの色は、
やっぱり彼女が昔から好きなブルー系。


「賭けてたりなんてしたら
○○のひとり勝ちだったんだから!」

「わたしの結婚式で賭け事しないでよぉ」

「してたらの話よ、してたらの!」

「…でも○○ちゃん、すごいねぇ!
まさかドレスの色当てられちゃうなんて
思いもしなかったよ!」


私の方にくるりと向き直した花嫁が
キラキラした顔で見てくる。


「賭けてたらいくら貰えたんだろ、私」


わざとらしく大きくため息を
付きながらそう言った私に
花嫁がもぉ〜〜ッ!と大きな声を出すと、


「何騒いでんの」


いきなりの花婿の登場に
みんなビックリしたまま固まった。


今回のこの式で、
初めましての花婿さんは

噂に聞いてた通り、
優しそうな素敵な人だった。


「今日はみんな来てくれて
本当にありがとうございます。」


私たちより年上の花婿さんは、
柔らかい笑みを浮かべながら
私たち一人一人の顔を見てそう言った。

どこまでもデキるこんな男性を
のほほんとした花嫁が
なぜに捕まえることが出来たのか…

すごく不思議に思った。


そんな落ち着いた花婿さんの隣で


「ねぇ!聞いてぇ!
○○ちゃんがドレスの色当てたの!
誰にも当てられないと思ったのに!!」


花嫁が興奮しながらはしゃぐと


「えぇ!?俺の他にもいたの!?」


今度は花婿さんとは別の男性が
花婿さんの背中から
ひょっこりと身を出しながらそう言った。


「え!?○○ちゃんの他にもいたの!?」


花嫁が同じ言葉を使ってそう返すと、
身を出しながら驚いていた男性は、


「うん、俺も黄色って予想してた!」

「ええ〜〜結構当てられない
自信あったのにぃ…」

「なんかすごいね」


花嫁と会話しながら
私たちの輪の中に自然に入ってきた。


花嫁の視線で、
ドレスの色を当てたのが私だと
分かったらしい彼は

私の方を見ながら


「これも何かの縁かもね」


なんてナンパ台詞っぽい事を言って来た。




黒髪なんだけど、
オシャレにカットされた髪。

くりっとした目が可愛いのに、
筋肉質なのがまたギャップになってて…

まぁいわゆるイケメン。

モテそうなイケメン。


そんな雰囲気の人だった。



「俺、こいつの高校の時の同級生!」


花婿さんを指差しながら言うその人に、


「あ、私もこの子の
高校の時の部活のチームメイトで」


そう答えて、
今から始まる会話に
少しだけ甘い期待をしていたら…


「せんぱぁい!
向こうでみんなが呼んでますよ!」


猫なで声を出した女が
彼の腕に自分の腕をするりと通した。


「…インスタ女じゃん…」


私の隣で、私にしか聞こえない声で
友達がそう言った。


「はいよ、行く行く」


インスタ女に引っ張られながら
じゃあまたね!と、笑って
離れて行くイケメン。


「…あの男、モテそうだと思ったけど
案の定おモテになるのね」


友達のその声に頷きながら、

インスタ女になんかムカついたから
一度だけ振り返って手を振ってくれた彼に
しっかり手を振り返しておいた。



















私の目の前でビールジョッキを
ゴクゴクと煽る男は、


「やっぱりムカつくなぁ!!!」


テーブルに空になったジョッキを
ドンと勢いよく置きながらそう叫ぶ。


ツンツンにセットしていた
金髪に近い茶色の髪も

だいぶ酔いが回ってるのか
今ではもうぺしゃーっとしている。


「声の音量下げてね、ニカちゃん?」


私が言っても多分耳に入ってない。


私の数少ない友達。

の、中の唯一の男友達、ニカ。


さっき店員さんが運んできてくれた
追加のビールに手を掛けながら
プリプリとしゃべり続ける。


「○○は優しすぎるよ!
あんな最低なこと言われて怒らないなんて!」

「…そう?」

「なんであんな冷静でいられたのか
俺には分からない!」

「そうだね。しいて言えば
…誰かが私の首っ玉に抱きついて
泣きながらすっごい怒ってくれたからかな?」

「んぉ?」

「それでスッキリしちゃったのかも」


さっきまで怒ってたのに
ニンマリ顔になったニカは


「なんだ〜俺のおかげか〜」


と、満足そうに笑っていたから


「その節はありがとう」


って言ったあげた。



ニカにだけは全てを話した。

振られたことも、その理由も。


すごく惨めで恥ずかしかったけど、
ニカはしっかり受け止めてくれて、


私は悪くないって言ってくれた。

私のために大粒の涙を流してくれた。


そして今でもこうして
私のために怒ってくれる。


だけど…


「でも本当にありえない」

「向こうも根気強く我慢してくれてたよ」

「それでもありえない」

「まぁ、終わったことだし」

「ヤらせないから別れるなんて!」




…口に出すのはやめてくれ。


「……」

「信じらんないよ」

「……」

「しかもそれを本人に言っちゃう?」

「……」

「別れる理由として言っちゃう?」

「……」

「確かに何回も拒否られて
悲しくなる気持ちも分かるけどさ」

「……」

「だってしょうがないじゃんね?
○○処女なんだもん!」


酔っ払っているから
恥ずかしげもなくハッキリそう口にしやがる。




そう、

私の秘密のコンプレックス。


ニカしか知らない、

私の秘密のコンプレックス。




私は、

実は、

純潔だ。



文字通りの純潔。


20代後半だけど。


生娘ちゃんなのだ。



信じてもらえないかもしれないけれど、


あり得ないと思うかも知れないけれど、


私は正真正銘の処女だ。






元々、男の人があまり得意じゃなかった。



怖いとかそういう訳じゃなくて
話しかけられたら話すけど、


私から話しかけたりしないし、

2人っきりとか出来れば避けたい。



ニカだけは平気だけど、

他の男の人に対しては
そんな感じ。




そんなこんなで年齢イコール彼氏いない歴
ずっと刻んできた私。

だけど結婚を匂わせ始めた周りに
一種の焦りを感じて
なんとか彼氏を作ることに成功した。


男の人を苦手だと思っておきながら
好意を向けられるのは嬉しいみたいで
告白されてちゃっかり首を縦に振った私と

私をちゃんと好んでくれて
告白してくれた彼とのお付き合いは
そりゃもう、前途多難だった。


価値観の食い違いなんて当たり前だし

そのくらいはもはやもう
可愛いもんだった。


そのせいか頭では分かっていることでも
なかなか気持ちが追いつかなくて

彼からの誘いを断り続けていたら


「○○が分からない…」


その言葉から始まった彼の吐露によって

振られた。



怒ってくれているニカには感謝してるけど


いくらそういう経験がなかったとしても
1年3ヶ月も拒否られ続ければ

“前みたいに想えない”

そんな気持ちを抱くのも仕方ないと思う。




少ししんみりした気持ちで
もう溶けた氷水で薄くなったお酒を
飲む私の前で、

さっきまでビールをがぶ飲みしてたニカが
気持ちよさそうにうつらうつらとしていた。


「ニカ、そんなんで家帰れるの?」

「このまま友達ん家泊まる〜」

「え、そんな状態で泊まりに行くの?
友達迷惑じゃない?」

「大丈夫〜いつも○○に話してる友達だから」

「あーいつもニカの話に出てくる」

「そう〜親友〜」


親友だとしてもそんな泥酔じゃ
本気で迷惑だろうな…


「じゃあそろそろ帰る?」

「…ん」

「大丈夫?」

「…呼ぼ…」


電話を取り出したニカは、
どうやらその親友を
迎えに来させるみたいで


「あ?もしもし〜?
うん、そういつものとこぉ〜〜」


ベロンベロンに酔っ払いながら
話すんだけど


迎え〜とか、

いつものとこぉ〜〜、


しか言わないニカのせいで
どうも話が通じ合ってないみたいで、


「ちょっと貸して!」


見かねて、ニカから携帯をひったくった。


「もしもし?」

『え、あ、もしもし…』


電話の相手がいきなり変わったことに
びっくりしたのか、
少し困惑気味の声が
向こうから聞こえた。


「あの、近くに大きい病院がある
漁火っていう居酒屋なんですけど、」

『あ、今向かってるんでもう着きます!
家近いんで、』

「分かりました。じゃあお店の前に立ってます」


スムーズに話が進んで
電話を切った。


もう机に突っ伏してるニカ。


「ニカ?ニカ?」

「んん?」

「お友達もう来てくれてるみたいだから、
ちょっとお店の外まで
迎えに行ってくるから待ってて?」


ペシペシとほっぺを叩きながら言うけど
半分寝落ちしてるっぽいニカに、


「寝ないでね!寝ないで待ってるんだよ!」


強めに2、3度ほっぺを叩いて、
お店の外に出た。


もうすっかり冬になった
冷たい空気が鼻をかすめる。


外の寒さに少し身を震わせながら
下を向いて待っていると…


「あの〜ニカの…」


控えめな声が聞こえて、

顔を上げたそこには


「…え…?」


この間の結婚式で、
私の他に唯一ドレスの色を当てた

あのイケメンが立っていた。


目を見開いて硬直する私の顔を見て、
彼も私に気づいたようで

私と同じように少し目を見開いた。


「…あれ?あの時の…」

「…ニ、ニカがよく話す“ゆうだい”って…」

「あ、そっか。あの時自己紹介
してなかったもんね(笑)」


驚きで何も相槌が打てない私。


「初めまして、辰巳雄大です。」


笑顔で名前を言う彼を目の前に、

世間の狭さに驚いて
身体中のアルコールが全部吹っ飛んだ。






【続】
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明けました。

おめでとうございました。

今年もよろしくお願いしました。


新年1発目のお話は
辰巳くんにしてみました。



あとねぇ。

あのねぇ。

居酒屋の名前ねぇ。


漁火にしてみたの♡



やっこーいどっこーい
やっせーらー

やっこーいどっこーい
やっせーらー

欲に手を出しゃ 潮目が変わる!

生きてりゃ時化ある 凪もある!

人と出逢うは 不思議な縁!

人生生きてりゃ 丸儲け!





でもこのお話に出てくる漁火って居酒屋は

背が高くて骨格からしてイケメンで
鼻が高くて声も良くて
でも天パっていう可愛い部分もあって
横顔はもはやダヴィデ像を彷彿とさせる
彫刻並みの破壊力を持つタレ眉店主も

可愛い可愛いばっちゃんもいない、


ふっつーーの小汚い安さが売りの
居酒屋なんだろうなぁ。





そして相変わらずタイトル付けられないです。

本でも音楽でも
タイトル付ける人って
どうやって付けてるのか…

不思議でなりませんぜ。


誰か私の代わりに付けて下さい(笑)

お願いします(笑)



ホラ、この通り…



 -= ∧_∧ -
=と( ◉ਊ ◉) アッハッハッハッ!!!!
 -=/ と_ノ

  • =_//⌒ソ


∧_∧ =-
(◉ਊ ◉ )`つ=- アッハッハッハッ!!!!
 `つ \ =-
 \,⌒\\,,,_=-





…ふざけてごめんなさい。


(笑)