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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

不器用なアイツ。【13】

---------------




タクシーの運転手に
彼女と俺の家がある方向とは、
全く別の場所に向かうように頼んだ。


そんな俺の顔を隣で
何が起こったんだか分からなそうに
見つめていた彼女だったけれど

もう静かに座っている。



…彼女は一体いま何を考えてるんだろう



俺のことを考えてて欲しいな…

そう思いながら
握っていた手に指を絡めて
握りなおした。


強く握り返してくる彼女の手が
少しだけ震えているような気がした。



俺がタクシーの運転手に
伝えた場所に着いても、
お金を払って車から降りても


彼女はどこか遠くを見つめたまま
ずっとボーッとしていた。


…こんな事していいんだろうか…


彼女の手を引きながら
そんな事を思うあたり、

さっきまでの勢い任せに行動した時よりは
冷静さを取り戻してるらしい
俺の頭に浮かぶのは


…アパートの下で見たあの男、彼氏なのかな…


やっぱりあの男のことで。


もし彼氏じゃなくても
彼女が良く想ってる相手なら

いま俺がしてる事は
彼女の邪魔をすることでしかない。

彼女を傷つけることでしかない。



だから、少しでも嫌がれば…

少しでも抵抗すれば…


手を離そう。



彼女のことを好きな男として…


自分の気持ちよりも、彼女の気持ちが大切。





あの男のせいで嫌でも取り戻した冷静さに、
彼女の気持ちを優先することを
決意した俺だけれど


『……あ、…』


声を漏らして、
立ち止まりそうになった彼女を無視して

水たまりに対称形に映る
幻想的なライトを横目に

その建物に躊躇なく入った俺には
冷静さどころか
理性さえも無いようなもんだった。




俺に掴まれてるその白い腕も

かすかに香る彼女のにおいも

黙ってついてくるその姿も



全部愛しくて、
全部好きだと思った。



彼女が何を考えてるのか。

なんでこんな場所に
大人しく俺についてきてるのか、

考えても分からないけれど

彼女のことで頭がいっぱいで、


もう全てがどうだってよかった。








部屋に入ってすぐに
俺は彼女を壁に押し付けた。


左手で肩を掴んで、
繋いでいた右手を解いて
うつむいている彼女の頬に触れる。

顎を掴んで
彼女の顔を上に向かせて

前に逃げられたその唇に
そっと触れた。



彼女と一緒にいると、
マジで俺どうした?って自分自身に
問いかけたくなる事ばっかりで、

今までの俺とは違った俺が顔を出す。


今だって…

こんなにも後先考えずに
本能だけで行動することなんて
今まで無かったのに。




彼女の足の間に
無理やり膝をねじ込ませて
逃げられない状況を作る。



彼女の鞄が音を立てて落ちた。

鞄の中身が床に広がる。

散乱した財布や服と共に
ケータイも見えて、


また思い出してしまう
あの男の存在。


そこはオレの場所だったのに。

彼女に夜電話するのも。

彼女に相談持ちかけられるのも。

彼女に触っていいのも。


いくら男にムカついても、
その苛立ちをぶつけられる対象は
やはり彼女しかいなくて

もっと強く彼女の唇に
自分の唇を押し付けた。


本当はもっと丁寧に、
優しくキスしてやりたい。

でもそんな余裕なんてなくて
本能のままにキスを繰り返す。



俺の背中に回させた
彼女の両手にどんどん力が入って行く。



ほんの少しでも離れるのが嫌で
開いた口に強引に舌を入れた。


『…んっ、…ッ…』


彼女の甘い声に、
どんどん気持ちが加速する。

唇を重ねるたびに
吐き出す息がどんどん熱を帯びる。

身体も熱を帯びてくる。


キスの息苦しさからなのか、
はたまたキスの快感からなのか、

俺の舌に翻弄されてズルズルと
力が抜けていく彼女の身体を
力強く抱きしめた。


苦しがっているのは分かってる。
でもキスは止められなかった。


俺の背中にしがみ付きながら
キスに応えてくれる彼女。

無意識ではなくて、
意識的に俺とキスしている彼女に

嬉しさを感じる反面、
悲しさも感じる。


自分の気持ちよりも
相手に迷惑じゃないかな?とか
そんな事ばかり考える彼女だから


俺に気を遣ってるんじゃないかって。

俺に同情してくれてるんじゃないかって。





でも、今俺といる。


さっき彼女のケータイを鳴らしていたのが
あの男だったとしても、


今俺の目の前にいる。


今一緒にいる相手に、
彼女は俺を選んだ。


だから彼女の身体をもっと強く抱きしめて
吐き出す吐息さえも全部飲み込んだ。



名残惜しく唇を離すと、
彼女は息を切らしながら
俺に身体を預けてきた。


優しく頭をポンポンすると、
俺の背中に回っていた彼女の腕が
ぎゅっとワイシャツを握った。


彼女の熱い吐息が俺の肩に当たる。


『…苦しかった?』


口の中に残る彼女のにおいを
感じながらそう聞いた俺に

彼女は相当苦しかったのか
声を出すのも無理みたいで、

小さくゆっくり頷いた。


ほんの少し、

本当にほんの少しだけ残る自分の良心が
俺に警告する。


『…こっち』


でも、そんなのほんの一瞬で
今更理性を取り戻すことなんて出来ない俺は

彼女の腕を引っ張って
ベッドの上に座らせた。



ベッドに座って、
着崩れた浴衣で俺を上目遣いで
見上げてくる彼女に
煽られる気持ちは相当なもので


その場に肩から下げてたバックを
投げ飛ばした俺は
またすぐに彼女にキスをした。


もう優しさなんてない、
ただ彼女を求めるだけの激しいキスをしながら

彼女の纏っている
帯も髪飾りも、
全てを剥ぎ取っていく。


押し倒した彼女の身体に乗って
首筋に顔を埋めれば、

彼女の匂いに混じる、
汗の匂い。


浴衣の間から手を滑り込ませて、
直接その白い肌に触れる。


ゾクゾクする。


俺の手がブラに触れた瞬間に、


『ふく…っ、あ…』


彼女から甘い声。



あーもう、
たまんねえ…



その声に思わず恍惚気味な笑いを漏らす。


彼女の首筋に舌を這わせながら、
背中に手を回して
プツンとその金具を解く。


その締め付けを解いたブラに
手をかけようとする俺の頭にあるのは
このままもう彼女を抱きたいって気持ちだけで


『…や、だ……』


小さく呟かれたその言葉に
心臓が凍りついた。


勢いよく顔を上げると、
腕をがっちり胸元で固める彼女がいて


もう言い繕う事のできない
この状況に、
血の気が引いて行く俺に届くのは…


『…で、電気…』


まさかの言葉。


その言葉に、

心の底の…
底の底から安心して

彼女にキスをした俺は


手を伸ばしてベッドの近くにある
彼女が“やだ”と言った
スタンドライトの明かりを消した。




そうだよな、
お前だけが脱がされて
恥ずかしいよな…


月明かりにうつる
服を乱された彼女を見ながら

自分も着ていた服を脱ぐ。



服をベッドの下に投げ捨てて
彼女に覆いかぶさると

トロンとした顔で
俺を見上げる彼女がいて

その見た事のない表情に
ゴクリと唾を飲み込んだ。



俺にはまだ見せてない顔とか
あの男には見せてんのかな…



しつこいくらいにまた生まれた
余計な邪念を振り払うように
彼女の胸元から、ブラを引き抜いた。



身体中にキスの雨を降らせながら、
産まれたままの姿にしていく。


『…ぁ、…ッ…』


必死に抑えてるその声を
もっと聞きたくて、
敏感な場所にどんどん触れたくなる。




このままずっとこうして
彼女に触れていたいと思った。




どこにも行かないで
俺の側にだけいて欲しいと。


俺の舌の動きに合わせて付いてくる彼女に
期待がどんどん膨らむ。



俺を求めていると思いたい。

他のどの男でもなくて
俺を求めていると思いたい。



彼女は、
付き合ってる奴とか
好きな奴がいるのに


他の男に黙って抱かれるような
女じゃない

……と、思う。


そんないい加減な奴じゃない

……と、思う。


俺にだから抱かれていいと、
俺を求めてくれているんだと、
俺の手で少しずつ溶けていく彼女に

そんなことを期待してしまう。





彼女の太ももに手をかけると、
少し不安そうに瞳の奥が揺れた。


目の前で笑ってみせると、
不安な瞳こそ変わらなかったけれど
笑顔を向けてくれた。


『…いい?』


髪を撫でながら、
耳元でそう聞いた俺の声に


深く、しっかりと頷いた彼女に

幸せ過ぎて泣くかと思った。




彼女の中に深く沈むと、


『……ッ…、』


さっきまでの甘い声とは違う
苦しそうな声が聞こえる。


もう俺にも彼女を気遣えるような
余裕なんてなくて

彼女の手を握るだけが精一杯だった。





動きをやめた俺が、
彼女の隣に倒れこむと

彼女は俺の頭を苦しいくらいに
抱きしめてきた。


頭が涙で濡れる感覚を覚えて、
何で泣いてるのか彼女に問いただしてみたけど

彼女は首を横に振って
腕の力を強めるだけで

涙の理由を教えてはくれなかった。




息を切らしながら、
俺の頭をぎゅっと抱きしめていた彼女の
呼吸がゆっくりと、落ち着いてくる。

それと一緒に抱きしめられていた
力も弱まってきて…


『…○○?』


名前を呼びながら、
その腕の中から顔を上げると


『嘘ですよね〜?』


爆睡してる彼女がいた。



いやいや、さっきまで普通に
抱かれてたじゃん。
泣いてたじゃん。


呆気にとられるけど
幸せな気持ちいっぱいの俺は
今度は彼女を抱きしめ返す。


汗と涙でボロボロになった顔は
まぶたを閉じていても
やっぱり不細工。

でもどんなに不細工でも
込み上げるのは愛しさで


『…好きだよ』


髪を撫でながらそう言った。


絶対寝てると思ってたのに、
俺のその言葉にうっすら目を開けて


『…ふくだくん…』


と言いながらふにゃあと笑って
擦り寄ってきた。

目の前のどこまでも無防備
好きな女に軽く気絶するかと思った。



とりあえずシャワーでも浴びて
火照る身体を鎮めようと風呂に向かう…
前にもう一度彼女にキスしておいた。



強めに出したシャワーを
頭に勢いよくぶっかける。


『……はぁ…』


俺が無理やり彼女の腕を引っ張って
ここまでまで連れてきたとしても
最終的に彼女は俺を受け入れた。


いい?って聞いた俺に
首を縦に振った。


あのマンションの前で
彼女にキスしてた男が

彼女の恋人でも、好きな奴でも
そんな事どうでもいい。


奪うだけ。


俺の元に彼女を戻してもらうだけ。


だって元から俺のだもん。


…なんて惨めな事を心の中で
呪文のように何度も繰り返した。


風呂から出た俺の視界に
ベットの下に投げ飛ばしたバックが見えた。

その近くには衝撃でバックから
飛び出したらしい
屋台で買ったりんご飴が転がっていた。


拾い上げてまじまじと
見てみた赤くて丸いそれは、

なんだか泣いた時の彼女の顔みたいで
部屋の隅のテーブルの上に
ちょこんと置いておいた


ベッドに近づいて、風呂に入る前よりも
ひどくなっているような気がする
彼女の不細工な顔に笑いながら
隣に寝転ぶ。

彼女の首元に手を滑り込ませて
その身体を引き寄せてギュッと抱きしめる。



スー、と深い呼吸をしながら
また俺にすり寄ってくる彼女。


彼女の身体に夢中になって刻んだ
数えきれないほどの
赤い印に触れながら、


腕の中いっぱいに感じる
彼女の感覚にそっと瞼を閉じた。





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次回「ask結構前から登録してるけど使い方分からない上にインストールしてから全くと言っていいほどいじってなかったから存在自体を今日の今日まで忘れてたよ。ウケる。縁の絵も描きたいけど時間かかるからやる気なくしてしまってるよ。ウケる。スペシャル」やります。

不器用なアイツ。【12】

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一度身についた習慣というものは
それは怖いものだ。


今日もまた、夜ケータイを起動して
無意識のうちに通話履歴を開いてしまう。


本当に、文明の利器とやらは
どこまでも便利で正確で…

それでいて容赦がない。


通話履歴には
しっかりと彼女の名前が残っている。


…この履歴を何度眺めれば
気がすむんだろう。


もう繋がらないのに…

かかってくることもないのに…


辰巳たちと電話することによって
少しずつ履歴から消えていく彼女の名前を
今日もまた1人
女々しい気持ちで眺めた。














『本当にごめん、福ちゃん』


目の前のマツが小さく見える。

シュンとした顔で
さっきからずっと謝るマツは
今にも泣き出しそう。


『いい加減しつけーぞ』


笑いながら言っても、
マツは相変わらず涙目。


仕事終わりに、
マツから飯いかないかと誘われて

明日も仕事だから
サッと食って帰れる定食屋に来た。


席に着いた瞬間からこれ。

何度も俺も悪かったって言ってるのに、
メニューを見る前にずっと謝罪。

注文をやっと決めてくれたと思っても
それでも謝罪。

頼んだものが運ばれてきても謝罪。


こいつはいつまで謝り続けるんだ…?


と、逆に実験したくなってくる。



もう俺の中では許してるし、
終わった話。

それにアレは完全に俺のために
マツがしてくれた事だから
マツに非はない。


それでもこうして顔見て、
ちゃんと謝ってきてくれるところが
こいつの良いところであり
俺が好きなところのうちの1つ。


『カバンの中、大丈夫だった?』

『あー、ぐっちゃぐちゃだったなぁ』


意地悪くそう言うと、
今度は顔を真っ青にしたマツは


『本当にごめん!!!』


と、馬鹿でかい声で叫んだ。



周りに座っていた客や店員が
謝り続けているマツをずっとチラチラと
見ていたのは分かっていたけど


そのでかい声についにコソコソと
小声で話し始めたのが視界の隅で見えて
さすがに恥ずかしくなる俺。


『おい、マツ顔上げろって』

『だって…』

『いいってば…!』

『だってさ…』

『おい』

『俺ッ』

『おい、マツ』

『俺、すげぇ好きなんだもん!!!』


その瞬間に店にいた全員が
口をあんぐりと開けて
俺ら2人を見た。


チーーーン。


120%勘違いされてるぅぅ〜〜。



『だからあんな事しちゃったんだよ…』

『ああ…』

『でも俺、すごい好きだからさぁ…』

『あ、うん…』

『ごめんな、福ちゃん』

『いいって…』

『でも、俺…』

『マツもうお前喋るな』


純粋でまっすぐなマツは
周りからの

“衝撃的なものを見た!”

的な視線にも気づかずに、
俺の言葉を素直に聞き入れて
目の前にあるもう冷めかけてる
定食に手をつけ始めた。


『…痴話喧嘩…』

『…ゲイ?…』


なんて言う小さな声が
どこからか聞こえて、
俺は頭を抱えながら白飯をかっ込んだ。



今日は俺がおごるから!


と、お会計をしてくれたマツに
礼を言ってバイクで家に向かって走り出す。


マツが帰り際まで何度も口にしていた。


2人が仲良くしてるのが
すごい好きだった。


2人が楽しそうに話しているのが
すごい好きだった。


その言葉がさっきから頭の中で
ずっとぐるぐる回ってる。



俺だって好きだった。

あの空気感が。

2人だけの空気感が。


“福田くん”って呼ばれるのが。



電話…かからないだろうけど、
今日の夜もう一回かけてみようかな…


なんて思いながら
バイクを走らせていると
少し先に誰かが立っているのが見えた。


『……ッ、』


真夏の夜の風が
喉を通ったのが分かった。

全身の血が巡る。

喉が乾く。




彼女が、アパートの前に立ってる。


髪型を変えたって分かる。

雰囲気というか、身体つきで分かる。


ハンドルを握る手に力が入って、
スピードを上げた瞬間に

背中を向けて立っている彼女の向かいに
知らない男がいる事に気づいた。

バイクのスピードは結構出てるはずなのに
スローモーションで動いてるように感じる。


彼女とその男に近づくにつれて
鮮明になっていくその様子は

俺には見るに堪えないもので…


彼女の手を取って、
顔を近づける男を視界にとらえたところで

俺の記憶は途切れた。



気づいたら家に着いていて。

よく無意識のまま運転して
事故らないで帰ってこれたなぁ
なんて思えた。


バイクから降りて車庫にしまいに行く
俺の口元には
なぜか笑みが浮かんでて、


『…クソ女…』


そんな言葉が
俺の口から飛び出していた。





世界がぼんやりして見えた。

寝てるんだか起きてるんだか
分からないような状態で

ずっとベッドの上でボーッとしてた。


部屋全体が明るくなってきて
鳥の鳴く声が聞こえて


あぁ、朝になったんだ


って思った。


あの時バイク止めて言えば良かった。

お前じゃ無理だよって。

お前じゃ泣かせられないよって。



…なーんて。

そんな事しても滑稽になるだけだし

第一、出来るわけもないくせに

自分がカッコつけられる妄想ばかりして。



…本当に惨め。


『…○○…』



今までどこにいた?

なんで急に消えた?

その男は誰?



…もう、俺の事忘れちゃった?




失恋をした事がないわけじゃない。

別れを経験した事がないわけじゃない。


でも、こんなに空っぽになるのは
初めてだった。





俺が失恋をしようが何をしようが、
世界は回り続ける。


いつも通り電車に乗って。

満員電車に体押し詰めて。

つり革に掴まって。

隣に立ってる太ったおじさんの
汗の匂いを鬱陶しく感じながら、
会社に向かう。


与えられた仕事をこなして、

やっぱり残業させられて。

合コンでいい感じだった子と
今度2人で夢の国に
デートしに行く事になった!

っていう先輩の惚気話を聞いてあげて。


…毎日が過ぎていった。


彼女が男を連れて俺の前に
戻ってきた事を、


辰巳にも

マツにも

コッシーにも


誰にも言えずに、
ただ毎日が過ぎていった。




でも、たまに思い出す。

というか脳裏に焼き付いて離れない。


あの時の光景を思い出す度に、
イライラするようになった。

あの日あの瞬間は
ビックリして
上の空だったけれど

日を追うごとに現実味を帯びてきた。


全然むり。
ムカつく。
突然いなくなって。
帰ってきたと思ったら男連れて。
触られて。
キスされて。

つーか、誰だその男は!


苛立ちを隠しきれずに
休憩室でコーヒーを飲みながら
貧乏ゆすりしまくっていると、


『お、福ちゃんお疲れ〜』

『あ、お疲れ様です。』


上司が手で挨拶をしながら入ってきた。

小銭を自販機に入れて
コーヒーのボタンを押す上司を見ながら

ふと、昔この人に
男が好きとか?って
ホモ説立てられた事を思い出して
この間マツと定食屋で男同士のカップルだと
思われた話をしようとしたら


『何カリカリしてんのー?』


と、上司の方から話しかけられた。


『最近さ〜』

『…はい?』

『福ちゃん、イライラしてる』

『…俺がですか?』

『うん』

『…最近?』

『うん』


自分の機嫌で周りに気を遣わせるのが
死ぬほど嫌だから、
表に出さないようにしてたのに

…どうも出ちゃうくらいには
イライラしてたみたい。


『…すいません…』

『別に謝らなくていいよ、
人間誰しもあることだよ』

『…はぁ』

『で、どうしたの?彼女と喧嘩?』

『は?』


驚きのあまり、上司に向かって
失礼な言葉が飛び出す。

慌てて口を押さえて
すみません…と、言う俺に
上司は何も気にしてない感じで


『彼女!』


話を続ける。


『いや、彼女なんていないって
前からずっと言ってるじゃないですか…』

『またまた〜しらばっくれちゃって!』

『いや…』

『マドンナ!彼女なんでしょ?』


上司の口から飛び出した
同期の会社でのあだ名に心の底から驚いた。

いつからどこでそんな話になってるのか。

頭の中の処理が追いつかなくて
その場に立ったままの俺に上司は
楽しそうに続ける。


『いや〜いいよね、あんな美人と付き合えて!
マドンナ射止めるとかすげーな、福ちゃん。
泣く男社員いっぱいだよきっと』


ニヤニヤする上司に、固まる俺。


『いや…付き合って無いっすよ…』

『え?そうなの?』

『ちょ、待って…
誰から聞いたんですか?それ。』

『んー?マドンナちゃんが
それっぽい事言ってたから。
みんな知ってるよ?』


その言葉に、目をつぶって
俺は大きくため息をついた。






足早にそいつがいる場所に向かって、
勢いよくドアを開けた。


『…きゃッ!ビックリした!』


いつもと同じ場所で、
昼飯を食ってる同期の元に近づく。

驚いた顔をしながら
こっちを見ているその細い腕を掴む。


『ちょっと来て』

『え?今お昼食べて…』

『いいから』


被せ気味にそう言って
そのまま無理やり腕を引っ張った。



空いてる会議室に同期を押し入れて
自分も中に入ってから
しっかり鍵を閉める。


『…どういうこと?』

『…え?何が?』


ただならぬ雰囲気を
察してはいるけども、

なんで俺が怒ってるかまでは
分からないらしく、困惑している。


『俺ら、付き合ってないよね?』


そう言うと、
同期は俺から目をそらして押し黙った。


『ちゃんと違うって言って。
勘違いされてるっぽいから。』


ハッキリそう告げた俺に、
同期は必死に笑顔を作りながら明るく振る舞う。


『別にわざわざ否定しなくても良くない?
悠太だっていつもそう言ってるじゃん。
言わせたい奴には言わせとけって』


前までは別に言いたい奴には
言わせとけば良かった。

真実をわざわざ言う必要もないって。


でも、今は…


『俺好きな奴いるから、無理。』


消えた理由は分からないし、
あの男が恋人だろうと
やっぱり俺が好きなのは彼女。

ムカつくのもイライラするのも
彼女のことがまだ好きななによりもの証拠。


彼女を想うこの気持ちに
誠実でいたい。


『…それだけ。悪いね、飯中に。』


背を向けて、
会議室から出ようとした俺の背中に


『…それってあのファミレスの子?』


同期の声が届く。

思わず足を止める。


『…その子は、悠太のこと好きなの?』

『……』

『悠太のこと考えないで
すぐどっか行っちゃうような子だよ…』

『……』

『そのくらいの気持ちの子だよ』

『…は?』

『あの子、悠太の事好きって
一言も言わなかったよ…!』


頭が真っ白になった。
何言ってんのこいつ…


『ちょっと待って…
お前さっきから何言ってんの…?』


振り返った先には同期が
涙を流しながら立っていた。


『お前…あいつになんか言ったの?』


俺の言葉に反応せずに
荒い呼吸を繰り返しながら涙を流す。

でも、泣いている事なんて
構っていられない。


『なんとか言えよ…』

『……ッッ…』

『あいつが急に俺の前から
いなくなった事になんか絡んでんの…?』

『……』

『おい!』


怒鳴り声に近い声とともに、
肩を掴んだ俺に
同期がビクンと身体を揺らした。

少し震えているその手を
強く握りしめたかと思ったら、


『…悠太が悪いんじゃん!!!』


そう叫びながら涙で真っ赤になったその目で
俺を強く睨んだ。


『私はあの子なんかよりも
ずーっとずーっと前から
悠太の事が好きだったんだよ!?

なのにこんなのひどいじゃない!
ずっとずっと側にいたのに!
なんであの子なのよ!!

ちょっと言われたくらいで
悠太の前からいなくなるような子だよ!?

私の方が絶対悠太のことが好き!
私はちょっと言われたくらいじゃ
絶対に引かない!!!

そのくらい悠太の事が好き!!』


目の前で泣き叫ぶ同期に、


『お前そん…ッ』


そんな奴じゃ無かったじゃん。
その言葉を飲み込んだ。

だって“そんな奴”にしたのは
紛れもなく俺だったから。


同期からの気持ちには少し気づいてた。

告白してこなかったから
振ることが出来なかったのは確かだけど、

もっとハッキリした
態度をとらなかった自分が悪い。


いろんな男に愛想振りまいてた同期のことを
俺こそ咎める権利なんてなかったんだ。


『悠太…』


胸に縋り付いてくるその細い肩を
引き離すことも、受け入れることも
今の俺には出来なくて…

ただ立ちすくんで彼女の嗚咽だけが
ずっと響いてた。











昼休みが終わって自分のデスクに戻ったけど、

隣の席に来るはずのの同期は
いつまで経っても戻って来なかった。

先輩に聞いたところ
体調不良で早退したらしく、


『本当に顔真っ赤にして辛そうだった…
マドンナちゃん…』


って言う先輩の言葉に、
なんとも言えない気持ちになった。


あの後、一頻り俺の胸で泣いた同期は、
彼女との間にどんなことがあったのか
泣きながら教えてくれた。



悠太をあの子に取られたくなかったの…



その言葉から始まったその話は
俺が知る由もなかった事だった。




何度も忘れようと思った。

何なんだよあのクソ女って思った。

もう知らねぇって思った。


…でも、やっぱりダメだ。

たまらなく好きだ。


『なんで俺に言わなかったんだよ…』


もうどうにもならない彼女への想いが
また大きく膨れ上がった。







***






満員電車並みにギュウギュウな人混みの中、
仕事終わりのスーツのまま
ひたすらに目的地に向かって歩く。

人の多さと暑さにうんざりしながら
やっと着いたその場所では


『遅いよー福ちゃん。』


大好きな3人が、
簡易テーブルと椅子が並べられた
飲食スペースで
ビールを飲みながら俺を待っていた。


『なんで祭りに男4人で
来なきゃなんねーんだよっ』


皮肉っぽくそう言う俺だけど、
本当はウッキウキで


『顔笑ってるよ?』


俺の顔を覗きながらそう言ってきたコッシーに
ここに来る途中にあった出店で買った
食パンマンのお面をプレゼントしてあげた。


『なんだよこれ!』

『コッシーがいたから買ってきた』

『いらねぇよ!』


高音でキレてるコッシーを無視して、


『辰巳はカレーパンマンな。
マツはバイキンマン
俺は主役のアンパンマン。』

そう言いながら、
2人にもお面を渡すと


『金の使い方間違えてるよ』


って辰巳に笑われた。

マツは満足そうにバイキンマンのお面を
頭に乗っけてた。







『雄大遅いね。大丈夫かな?』


コッシーが言う。

ジャンケンで負けて、
買出し係になった辰巳がなかなか帰ってこない。

確かに、人の多さがあったとしても
ちょっと遅過ぎる。


『ナンパでもしてんじゃねーの?』


俺のその言葉に3人で、
まさかーwww
ってゲラゲラ笑ってたら


『え!?本当に女の子連れてんだけど!』


俺の向かいに座ってた
コッシーが叫んだ。


は?マジでナンパしてたのあいつ?


信じらんねぇ(笑)
って思いながら振り返った瞬間に、


心臓がドクンって音を立てた。



…彼女だった。


紺の浴衣を着て、髪飾りつけて、
辰巳に連れられて歩いてきてるのは

あの日俺がアパートの下で見た
彼女だった。


辰巳と話をしながらこっちに向かって
歩いてくる。


どうしていいか分からなくなった俺は
とりあえず目の前にあった
アンパンマンのお面を顔につけた。


辰巳と彼女、
2人の足音が聞こえる距離まで来た瞬間に


『○○ちゃんじゃん!』


コッシーが彼女に気付いた。

すぐ近くまで来た彼女と辰巳。

俺以外の3人が、
彼女に話しかけているのに
彼女はその質問に1つも答えないで

俺の方をじーっと見る。


『…何被ってんの?福田くん…』


彼女のその声に一気に心拍数が上がって
泣きそうになった。


『いや、僕福田じゃないですよ』

『…は?』

『僕アンパンマンです』

『何言ってんの?福田くん。』


…あぁ、やっぱいいなぁ、
この福田くん呼び。


名前を呼ばれただけで
馬鹿みたいに喜んで泣きそうになってる
自分に自嘲的に吹き出した。

お面を外すと彼女がしっかりとそこにいて
困惑した顔で俺のことを見ていた。


『さー食べよ食べよー!
腹減っちゃったよー!!』


辰巳のその声のおかげで
やっと俺ら2人に穴が開くほど
注がれていた野郎3人の視線が外れた。


テーブルの上に買ってきたものを
並べてる辰巳が天使に見える。

俺だったら人混みの中で見つけても
声なんてかけられない
ましてや自分たちのいるところに
連れてなんて来れない。


辰巳のコミニケーション能力の高さに
感謝しつつ、
彼女の腰を引いて自分の隣に座らせた。

彼女が俺の質問に答えながら
ケータイをテーブルの上に置いた。

そのケータイが前と変わっていて、
勝手に番号変えやがって…って思った。


彼女にどうやって話しかけていいか
分からなくて、
ひたすらにビールを飲んでいると
テーブルの上に乗っていた
彼女のケータイが音を立てて震えた。


その画面に表示されるのは…


男の名前。


『ちょっと、ごめんなさい…』


俺の視線から逃げるように、
慌ててケータイを取ると
その場から小走りで離れる彼女。


マジで落ち込む。

隣でぴったりくっ付いて
座る彼女に半分忘れかけてたけど、
あいつこないだ男連れてたんだった…


今電話かけてきてる男が
あのアパートの前で
一緒にいた男なのかどうなのか…

それは分からないけれど、


『お疲れ様です…すみません…』


って声が聞こえて、その口調に
とりあえず電話の向こうにいる男は
彼氏ではないのかなと思った。


…せっかく少しだけ
幸せな気持ちになっていたのに
一気に突き落とされた気分。


気にしないようにしようとしても
意識の8割…いや、それ以上を
彼女の方に持ってかれる。


今まで隣で聞いていた彼女の声を
なんでこんなに遠くで聞かなきゃ
ならないんだ。

それも一生懸命耳をすませて…


突き落とされた気分の中で
彼女にジッと視線を向けていると
ふと、目が合った。

暗闇の中であまり見えないその表情は
俺と目が合った瞬間に
少しだけ困ったように見えた。






『○○ちゃん、電話大丈夫だった?』


電話を終えて席に戻ってきた彼女に
辰巳が声をかけると、


『あ、ハイ。すいません、いきなり』


そう返事をして、
ケータイをカバンにしまった彼女が
再び俺の隣に腰を下ろした。


…聞きたいことは山ほどある。

根掘り葉掘り。

彼女が答えるのが面倒になるくらい。


それでも今ひとつ
タイミングが掴めないままの俺は
とりあえず飲み物を差し出すくらいしか
出来なかった。







花火が始まると
話しかけるタイミングはますます無くなる。

花火に夢中になってるのに
話しかけるのもな…

せっかく楽しんでるところ
邪魔するのもな…


って思ってたのに、
彼女は急に席を立って


『ちょっと…トイレに行ってきます』


と言いながらあっけなく
トイレへと向かっていった。


彼女の姿が人混みと紛れた瞬間に、


『花火の途中でトイレ行くとか、
○○ちゃん本当に女子?』


辰巳が爆笑しながらそう言った。


『女子はみんな花火好きなのかと思ってた』


コッシーのその言葉に、
お前は今までどんな女と付き合ってきたんだよ
って言いそうになる。


『いや、○○ちゃんさっき捕まえた時も
花火見ないで帰ろうとしてた』

『マジで?』

『なんか少し変わってる子だよね、
いい意味で。』

『いい意味ってどんな意味だよ(笑)』


くすくすと笑ってた辰巳が
いきなりこっちに視線を向けて、


『で、いつまでその状態?』


俺に話しかけてくる。


『話しかけてあげなよ、○○ちゃんに。』

『……』

『俺、頑張って声かけて連れてきたんだけど』

『おー…』


煮え切らない返事をした俺に、
辰巳が小さくため息をついて


『俺、話しかけ過ぎて○○ちゃんに
うるさい人って思われてないか心配…』


って心配性フル発動してた。




『○○ちゃん遅いねー。』


マツがたこ焼きを食べながら言う。


確かに遅い。

迷った?
ナンパされた?

嫌な想像ばかり浮かんでくる。


『マツ、ちょっと見てきて』

『え?なんで?福ちゃんが行きなよ』

『いや、マツ行って』

『…たこ焼き…』

『マツ…大役だ。○○を見つけ出すんだ。』


前歯に青のりつけたマツが
ちょっと拗ねながら席を立った。


『福ちゃん!』


ついに怒りだす辰巳。


『自分が迎えに行ってあげなよ!』

『…俺なりにプランがあるんですよ』

『プランってなんだよぉ』

『……』

『ホラ、ないじゃん!』


違うんだよ、プラン云々じゃなくて
お前らに見られてると思うと
ちょっと恥ずかしいんだよ!


…とは言わないでおいた。


『あ、帰ってきた。』


ゴミ捨てに行ってくれてたコッシーが
テーブルに戻ってきながらそう言った。

コッシーの向ける視線の先に、
自分も振り返ってみると

少し怒った顔した彼女がズンズン歩いてきて
その後ろを小走りで
マツが追いかけているのが見えた。


俺らのとこまで戻ってきた彼女は、
片付けを手伝えなかったことを
ちゃんと謝っていて
こういうところが好きだなって思った。


『さーて、花火も終わったし帰りますかぁ』


辰巳のその声に一瞬ビクッとなる。

まだちゃんと話せてない。


俺のその気持ちを汲んでくれたのか、
辰巳が彼女を車で送ってくと言い出したけど…


『俺ら家近いからタクシーで一緒に帰るよ』


彼女の腕を掴んで
自分の方に引き寄せながらそう言った。


もう甘えてられない。


『じゃあ福ちゃん、○○ちゃん頼む!
ちゃんと送ってあげてね!』


笑顔の3人が立ち去っていく。

背中を向けて立つ彼女の顔は
俺からは見えないけれど、
困惑してることは分かる。


だから、何か言われる前に
手を取って駅に向かって歩き出した、

…のに。


『…痛っ』


彼女はやっぱり思い通りにさせてくれない。


『…どした?』


振り返ると、下駄を脱ぎながら
しゃがみ込む彼女がいて
俺も彼女と向かい合ってしゃがむ。


『…怪我してんなよ』


俺の言葉に顔を上げた彼女と
近い距離で目が合う。

久しぶりに近くで見れたその顔は
前より少しほっそりしていて、
気付けば頬に手を伸ばしていた。


『…痩せた。』

『…え?』

『前より』

『あ、仕事忙しくて…』

『何痩せてんだよ…
前はもっとぽちゃっとしてたのに』


痩せたりして、気にくわない。

昔の少し太ってた頃の彼女の方が好きだった。
髪もこんなに可愛くカットしたりしてなくて
素朴なままの彼女の方が。

誰かのために綺麗になりたくて
そうなったのなら尚更気にくわない。


心の底からつまらない気持ちになってたけど、
俺の差し出した手を
嫌がる素振りもなく握ってくれたら
少しだけ許してあげようと思った。



駅前に着いて、タクシーを待つ。


これからどうしよう。

とりあえず話したい。

何がどうなってるのか。

彼女に何があったのか。


ゆっくり話せる場所となると、
彼女の家に行くのが1番だけど
家に上げてくれっかな…


もんもんと考えてる俺の隣で、
ケータイがブーブーと騒がしく鳴った。


音の鳴る方に目を向けると、
笑顔でケータイを眺めている彼女がいて…


『さっきの奴から?』

『…いや、違くて…』


俺の中でプツンと何かが切れた。


目の前でドアが開いたタクシーに
彼女を乱暴に乗り込ませて、
逃げられないように手を強く握った。


後悔するのはもう嫌だ。

力ずくでも

もう離さない。


彼女の手を握る力をもっと強めた。





---------------

不器用なアイツ。【11】


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嫌な目に合わせてしまったことを
謝りたくて、

午後の仕事が始まる前に
彼女に電話をかけた。


走り出した時の彼女の怯えた顔が
忘れられなくて
早く声を聞きたかったのに
彼女は電話に出てくれなかった。


もう午後の仕事始まったのかな…


不安な気持ちも少しあったけれど
仕事の邪魔をしたくなくて


また夜にかければいいや


と思って俺も仕事に戻った。



夜に電話して出てくれたら、
また公園に呼び出そう。

直接会って。顔見て。

安心させてあげよう。


なんなのあの人って怒るかな?

私すごい睨まれたよって
不貞腐れるかな?

怖かったって泣くかな?


くるくると変わる彼女の表情と、

平謝りする自分を想像しながら
少しだけ笑った。








でも…



彼女は

電話に出てくれなかった。










『…もう何日目だよ』


彼女は今日も電話に出てくれない。


あんなに毎日電話していたのに
パッタリと出てくれなくなった。


最初の何日間は、
仕事が忙しいのかな?とか
何か予定があったのかな?とか


思っていたけれど…


彼女は自分発信で
俺に電話をかけてくることはないけど、

俺からの電話に出られなかった時は
必ず折り返しかけてきてくれる。



“ごめんね”


って、謝りながら
律儀に折り返し電話をくれる。



だからこんなにも
電話に出てくれないのはきっと


彼女が故意的に俺からの電話を
取らないようにしてるから。



…なんで?


…俺なんかしたか?



ファミレスで同期が
感じ悪かったかもしれないけれど、

電話に出ない理由としては
不十分過ぎる。


何が原因だ?

なんで電話に出ない?


考えても分からないから

ただただ、
彼女に電話をかけるしかなかった。

留守番に接続されない
彼女の携帯の呼び出し音を
しつこいくらい長い時間鳴らし続けた。


毎日毎日。

夜電話をかけた。



それでも彼女は出てくれなかった。



駅で待ち伏せもした。


残業なしに帰ってこれた日は
駅の改札の前で彼女を待った。


利用者が絶対に通る改札。


その前で待ってれば会えると思った。



それでも、彼女に会えなかった。







何かがおかしい。


絶対に何かがおかしい。




嫌な予感しかしなかった。



そして遂に、




ーーおかけになった電話番号は
現在使われておりませんーー



機械的な音声が、
俺の耳に届いた。



全身の毛穴が一気に開いて、
家から飛び出した。


最初からこうすればよかった。

何でしなかったんだろう。


焦りと胸騒ぎ。

それに加えて日々の運動不足で
息を切らしながらダッシュして

階段を駆け上がって

2階の1番奥の角部屋。


扉の前に立ち尽くす。



無機質な扉。


何だろうか…


生活感が感じられない。

人が暮らしてる感じがしない。



前にシャアに殴られた彼女を送って
部屋に上がり込んだ時に見て

玄関のすぐ横にある窓は
浴室の窓だった事は覚えてる。

そのすりガラスの向こうに
シャンプーとかリンスっぽいものが
置いてあるから


人は住んでいるんだろうけど…




本当に嫌な予感しかしない。


絶対…
今この家に、

人は住んでない。



彼女が俺の前から消えた。


姿を消した。




震える手で
砕けるんじゃないかってくらいの力で
携帯を握りしめた。


『…ふざけんなよ…ッ』


握りしめた携帯を額にあてる。



俺は初めて、

人を想って涙を流した。







***





目の前にはいぶりがっこ

枝豆。

串焼き。

刺身盛り合わせ。


そして生4つ。


『はい、お疲れ〜〜』


4人でガツンとジョッキを合わせる。


『やっぱり仕事終わりは生だな!うん!』

『マツ今日仕事休みじゃん』

『わざわざ有給とって何してたの?』

『寝てた!!』

『有給をもっと有意義に消化しろよ(笑)』


仲の良いいつもの4人で、
久しぶりに飲みに来た。


なんだかんだ4人揃うのは
結構久しぶりだったりする。

何故なら、


『福ちゃん最近付き合い悪かったよね〜』


完全に俺のせい。


『身に覚えがありませんね』

『嘘言えよ』


ここんところずっと仕事ばっかで
全然遊べてなかったから
本当に楽しい。

何気なく酒を飲んで
喋ってるだけだけど

嫌なことが忘れられて
頭がスーッとしていくのが分かる。



仕事はやっと落ち着いてきたけど、
考えることがありすぎて

頭パンパンだったから
今日来れて本当に良かった。

こいつらに会えて
本当に助かった。


4人の存在に感謝しながら
酒を喉に流し込んだ。










俺はいつも飲みすぎる。


今日も飲みすぎた。

そんな時はいつも一旦店を出て、
外の空気を吸いに行く。


『…ふぅ…』


胸いっぱいに吸い込んだ空気を
吐いて、ボーッとする。


どのくらいの時間そうしていたのか、

店のドアが開く音と、
人の足音が聞こえた方に目を向けると

辰巳がこっちに歩いてきてた。


『わり、もう戻るよ』


小さく謝って、
座っていた石段から腰を上げようとすると、

辰巳は笑いながら


『俺も外の空気吸いに来たの』


って言って俺の隣に座った。


『福ちゃん連休何してたの?』

『仕事と釣り』

『極端だね』

『んなもんだろ』

『デートでもしなよ』

『誰とだよ』

『んー?マツ?』

『なんでだよ!』

『あははっ
釣り、おっきいの釣れた?』

『兄ちゃんが釣ってた』


そう言いながら、
ケータイを操作して

兄ちゃんが釣った魚を
自分が釣ったかのように
ドヤ顔で持って映る自分の写メを
辰巳に見せた。


『我が物顔だね(笑)』

『まーね』


ケータイの画面をスライドして
釣れた魚の写真を見ながら
しゃべる辰巳と会話する。


『最近さ、釣り堀行ってみたんだよね』

『あー辰巳ん家の近くにできたとこ?』

『そうそう』

『どうだった?』

『ちょっとハマった』

『マジで?』

『うん、釣り楽しいね』

『俺がハマりまくってる理由、
分かってもらえました?』

『少しね(笑)
だから今度俺も連れてってよ』

『いーよ、行こうよ』

『でもルアーとか…あッ…、』


隣に座っていた辰巳が
いきなり跳ね上がった声を出した。


『え、何?』

『いや、何でも…』

『何だよ』


笑いながら問いかけても、

苦笑いをしながら
煮え切らない態度をとる辰巳に
疑問は膨らむばかり


『え、本当になんなの?』


なんだかもどかしくなって
少し強めの口調になってしまった俺に


『…コレ、さ…』


辰巳が目の前に差し出してくるのは
さっき辰巳に渡した俺のケータイで、


そのケータイの画面に映っているのは…


『○○ちゃん…だよね?』



紛れもなく彼女だった。



首から社員証をぶら下げて
月明かりの下でドヤ顔でピースする
笑顔の彼女。




魚の写真に紛れて、
表示されてしまったらしい。


『写真暗くてよく分からなかったけど
コレ、○○ちゃんだよ…ね?』


辰巳の視線から逃げる俺の口元に
意味不明な笑みが現れる。


『こんなのもあるよ』


原因不明の笑みのまま、
辰巳にまたケータイを渡す。


その画面に映るのは


『○○ちゃん…』


白ワンピースで真っ赤な海の前に立つ、



彼女。



『福ちゃん…』


彼女の写真を眺めていた辰巳が口を開く。


『言おうか悩んでたんだけどさ…』

『ん?』

『福ちゃん、今日ずーっと
ケータイ気にしてるよ?』

『…え?』

『やっぱり自覚なかったんだ…』

『……』


本当に全く自覚がなかったから驚いた。


辰巳が返してきた
自分のケータイを強く握る。


『…福ちゃん…?』

『……』

『誰からの連絡待ってるの…?』

『……』

『どうしたの?』

『……』

『…ケンカ』

『……』

『…ケンカでもしたの…?』

『……』

『…○○ちゃんと、』

『…違う』

『…ん?』

『消えたんだよ』

『…なに?』

『急に消えたの、あいつ。』

『…消えたって?』

『そのまんまー』


笑いながら答えるしかなかった。


『大事にしてやろうと思ってたのになぁ』


項垂れながらも、
やっぱり手の中のケータイを
気にする俺に
辰巳はそれ以上何も言わなかった。









辰巳に言われて気づいた。

本当はずっと彼女から連絡が来るかもって
思っていたことに。


『ごめんね、福田くん』


って言いながら電話をかけてきて…


番号変えたんだ、

ちょっとここしばらく忙しかったんだ、


って言ってくれるんじゃないかって

女々しく待っていた
自分がいた事に気づいた。



でも、もう3ヶ月近く経つ。

そうなると、

淡い期待も薄れていく。


もう彼女から
俺に連絡が来ることはない。

そう思うようになってきた。


だから、


『福ちゃん、人数合わせでいいから
来てくれないかな?』

『全然いいっすよー』


先輩からの合コンの誘いに
そう返事したのは、

彼女への当て付けと
他に目を向けるための
自分なりの精一杯の強がりだった。







だけど…



笑えるくらいにつまらない。


笑えるくらいに馴染めない。


笑えるくらいに酒が美味くない。


気を使いながら女の子と会話して
好きな酒も飲めなくて

これで金とられるなんて
なんか腑に落ちねぇなー

普段ほとんど行かない合コン。

やっぱりいつもの4人と
飲むのが1番楽しいな…

なんて思いながら
テーブルの隅っこで
一人で酒を飲む俺のところに


『…隣、いいかな?』


1人の女の子が声をかけてきた。


『1人で寂しくない?』


こっちが返事する前に笑いながら
俺の隣に座ってきたその女の子は
グラスにオレンジが刺さった
グラデーションが綺麗な
いかにも“可愛らしい”お酒を飲んでいた。


こういう場で飲むべき
飲み物を知ってる…って感じ。


そんな印象を受けた。


『名前なんて言うの?』

『福田です』

『それはさっき自己紹介で聞いたよぉ、
下の名前!』

『……悠太』

『ゆうた?』

『…ん』

『ふーん、じゃあゆうちゃんだ!』


…あぁ、ダメだ。

気が滅入る。



こんな事するなんてどんな女だろうって
興味本位で女の子の顔を見てみると

案の定男にモテそうな可愛い顔をしていた。


自分の方を見てきた俺に
何かを勘違いしたのか、
その女の子はにこやかに笑って
俺に身を寄せてきた。


『お酒強いんだね』


その近さに少しだけ身を引く。


…なんでこんな簡単に
人にくっつけるんだ。


無表情のまま、女の子に


『俺、帰ろうかな〜』


と、伝えると


『え、』


と小さく漏らして
2秒ほどフリーズした。


『せんぱーい、俺失礼していいですか?』


ノリの悪さ全開で
誘ってくれた先輩に声をかける。


元から先輩は、俺が合コンに
あまり参加しない人間だって知ってたから
いーよいーよ、
来てくれてありがとー!
なんて軽く言いながら手を振ってくれた。


店の外に出て、
駅までの道のりを歩いていると

いきなりチリンと
チャリのベルを鳴らされた。


振り返るとそこには、
サビだらけのチャリに乗った
コンビニ帰りであろうマツがいた。


『イエイイエイイエイ』


そのマツのテンションに
少しだけ気が緩む。


『…うるせぇよ(笑)』


言われてみれば今日飲んでた場所は
マツの地元がある場所だった。


『何福ちゃん、飲んでたの?』

『おー』

『のくせに全然酔ってないね』

『まーね』

『飲むなら誘ってよ!
今日俺暇だったのに!』


と、言うマツの自転車のカゴに
バックをぶち込みながら


『今日合コンだから誘えなかったんだよ』


と、笑いながら言うと

マツがいきなりその場に止まった。


『…ん?』


マツが止まった事に気づかず、
数歩歩いてしまった俺は
後ろに振り返りながら


『どした?マツ?』


声をかける。


すると、マツがハンドルを握る手を
震わせながら


『合コンなんて行ってんなよ!!!』


いきなり叫んだ。


『…は?』

『辰巳から聞いたよ!
福ちゃんには言うなって言われてたけどな!』

『…なにを』

『○○ちゃん見つけたら
とっ捕まえといてって!!』

『…え…』

『また2人が仲良く出来たらいいねって!
話してたのに!!!』

『……』

『なのになんで福ちゃん本人が
そんなことしてんだよぉ!!』


どんどん声が大きくなるマツは、
カゴに入っていた俺の鞄を
地面に投げ付けた。


『福ちゃんなんて知らねえ!!!』


そう叫んでチャリで爆走していく。


その場に残された俺は、
少しの間ポカンとしてから

地面に投げ付けられた
自分の鞄を拾い上げた。

パンパンと、鞄についた砂を叩き落とす。


…俺、そんな気使われてたんだ…


なんとも言えない気持ちになって
また立ち尽くす俺のケータイが震える。

画面に表示されてるのは
さっきチャリで爆走していったマツの名前で、


『ごめん!福ちゃん!
鞄投げちゃったけど中になんか
大切なものとか入ってた!!??』


電話の向こう側で
めっちゃ慌ててた。


大爆笑の俺。


『ないよ』

『あー良かったぁ!良かったぁ!』

『ははは』

『……』

『……』

『…福ちゃん』

『なんだよ』

『言いすぎた、ごめん。』

『マツは何も悪くねぇだろ。
俺だよ。』

『…グズッ』


鼻水をすする音が聞こえて、
またしても俺は笑う。


『マツ、お前泣いてんの?』

『福ちゃん、俺ね、』

『おー』

『福ちゃんと○○ちゃんが
仲良くしてるの見てるのが
大好きだったんだよ…』


涙声のマツにそう言われて
何も言い返せなくなった。


『……』

『だから早く○○ちゃん見つけたい』

『……』

『俺頑張るから…』


マツの気持ちをありがたく思いながら
申し訳なく思う。


俺だって彼女を
思い出なんかにするつもりはない。



でも、もう俺はどうしたらいいか
分からない。


だからマツにも特に何も言えなくて
とりあえず小さく

『サンキュ…』

って
お礼を言ってから電話を切った。



最寄りの駅について、
改札を抜けると、

ふと公園が目に入った。


…あいつどこにいんだよ…

会いてぇなー…



星が嫌味なくらいに
明るく光る夜空に向かって

フォー、と吠えてみた。






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不器用なアイツ。【10】


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外回りから帰ってきて、
いつもの通り自分のパソコンに
届いたメールを確認しようとした時
それが現れた。


『なんだこれ』


会社内の連絡用の受信トレイに入ってた
匿名の捨てアドで作られた
そのメールは、


“あの人を返して!
あなたのせいだから!
許さない!!”


シャアの暗示にかかったままの
女子社員からと思われるものだった。


『わーお。』


乾いた驚きを1つ口にして、
さっくりとそのメールを削除する。

別のメールを開くと、
その一通以外は普通の仕事用のメール。

暇な奴もいるんだなぁ…
程度に考えていた。





『…あれ?こいつどこに行ったんすか?』


ふと、隣に目をやると
いつもそこで座って仕事しているはずの
同期がいないことに気づいた。


『…あ〜、手伝いらしいよ』

『手伝いですか?』

『海外転勤になった人いるでしょ?
あの人の部署。
今人手不足らしくて』

『…そうなんですか?』

『うん、あの人の仕事量
半端無かったらしいからね』


噂には聞いてたけど、
他の部署から手伝いを頼むくらい
そいつがこなしてた仕事量にビビる。


『あ、でも、ホラ。
福ちゃんのせいじゃないから、ね?』


先輩のその言葉に
ピンと来た。

なるほど、ね。


だからあんなメールが
俺のパソコンに届いたわけだ。

上に直接報告はしていないけど、
あいつの行いが明るみになったのは

どう考えても俺が調べ始めたから。


元々は俺のせい。


どこからか、俺の名前がバレて
いろんな人の恨みを買ってるっぽい。

このメールが良い例だ。


『…なんのことっすか?』


ケロリとした顔で先輩にそう言うと、
先輩は少し安心した顔をして


『なんでもないよ』


と、言った。


誰にもばれないように
一言ため息をついた…


『…やべ…』


彼女に会いたい気持ちが強くなった。






『…あ、おかえり』

『あれ?悠太、まだ残ってたの?』

『残業大好きだから』

サービス残業なのに?』


自分のデスクに戻ってきた同期が
そう言ってクスクス笑いながら
帰り支度を始める。


『手伝いに行ってたんだって?』


同期の身体がピタリと止まった。


『なにが?』

『あいつがいた部署に』

『……』

『次からそれ、俺が行く』

『…いい。私が頼まれてんだから』

『俺が行きたい』

『……』

『俺が行きたいって言えば、
俺に回ってくるだろ』

『……』

『手伝ってくれれば
誰だっていいんだから、向こうは』


俺のその言葉に、
同期が小さく唇をきゅっと結んだ。


『…好きにすればッ』


気の強い同期の言葉に


あ、こいつも全部知ってんだな…

って悟った。



シャアのいた部署への手伝いの話は
意外とすぐにきた。

オフィスに入って、
挨拶をした俺への視線は
めっきり冷たかった。

裏でどういう話が交わされていたのか
だいたい察しはついたけど
自分が悪い事なんてした覚えは
1つもないから、


何事もないかのように、
堂々とした態度で仕事をした。

それが俺のプライドだ。







向こうの部署の手伝いを
始めてから2週間ほど経った。


元々、他の部署の手伝いなんて
出来るほど自分の仕事に余裕なんてなかった。

残業が当たり前みたいな
ところもあったし…


でも、それでも向こうの部署の仕事も
慣れないなりに頑張って
少しずつ力になれるようになってきて、

努力してる俺を見て
最初は冷たくあしらっていた人たちとも
いい感じの雰囲気になって来た。


誰よりも早く出勤して、
誰よりも遅く退勤する。

そして昼休みはデスクで爆睡する。


別に苦でもなんでもなかった。

自分がしたいようにしてるだけ。



でも、周りはそう思わないみたいで…


『悠太…!悠太!』

『…なに?』

『昼休み終わる』

『…あぁ、』


ちゃんとアラームセットしてるから
もう少し寝かせてくれても良かったのに…


起こしてくれた同期には悪いけど
少し不貞腐れながら
机から体を起こして伸びをする。

背骨からポキポキと
音を鳴らしていると、


『悠太…何をそんなにムキになってるの?』


同期の怪訝な声が聞こえる。


『…ん?』

『何をそんなにムキになってるの?』

『…ムキ?』

『うん。』

『いや、ムキになんてなってませんよ?』


何のことだかサッパリ分からなくて
そう答えた俺の言葉に
同期は眉をひそめた。


『最近の悠太、少しおかしい』


その言葉に、さすがの俺も
少しイラッとした。


『…だったら俺以外の全員がおかしいんだよ』

『……』

『俺は何1つおかしくない』


買っておいたエナジードリンク
一気飲みする。

周りからどう見られてたっていい。


それで彼女を守れるなら。


この時の俺はそう思ってた。








死ぬほど頑張って仕事をした俺へ、
神様からのご褒美なのか

彼女の会社の近くに
打ち合わせで行くことになった。


隣で同期が、
その辺にあるカフェのハンバーグが
美味しいだのなんだの言ってたけど


『俺今日外で食うわ。』


と、言いながら、


昼飯一緒に食えるかも!


瞬時にそう思った俺は、
彼女の予定なんて考える前に
誘いのラインを送っていた。


“食べたい!”


テンション高めに返ってきた
彼女からの文に疲れも吹っ飛ぶ。


『福ちゃん〜』

『はい』

『俺打ち合わせのあとすぐ会社戻るけど
福ちゃんどうする?』


課長から聞かれてニヤニヤする口元を
隠しながら


『外で昼飯食ってから戻ります』


って答えたら、
福ちゃんってそんなにタレ眉だったっけ?

って言われて、
今俺どんだけだらしない顔してんだよ
って思った。



一緒に打ち合わせに来てたメンバー
全員の前で外で飯食ってくると伝えて、

向かう先は
“あのファミレス”

彼女が深夜までパソコンとにらめっこして
途中で寝落ちした“あのファミレス”


思い出の地なんて言ったら大げさで
少し笑えるけれど、
それでもこのファミレスには
それなりに思い入れがある訳で、


『なんか緊張する…』


案内された席に座ったと同時に
小さく独り言を言った。



メニューに一通り目を通して
食べたいものが決まった頃に
お昼時を迎えた店内は混み始めた。


まだかなーおそいなー


頬杖をついて店の入り口を眺めてると、
キョロキョロと挙動不審に
店内に入ってきた女の子が目に入った。


そんなに左右に顔振らなくても
店内見渡せるだろ…


俺の視線に気づいた彼女は
俺と目が合うと
小さく手を振った俺に笑顔を向けながら
小走りで駆け寄ってきた。


『お待たせ福田くん!』


数週間ぶりに顔を合わせた彼女は
その挙動不審な行動でさえ笑えるほど
愛しくて可愛い。


向かいのソファに腰をかける彼女に
お疲れさん、と声をかけると


『福田くんもお疲れさん』


と、返ってくる。


福田くんって呼ぶのが可愛い。


お疲れさんって俺の口調を
真似するのも可愛い。


俺の好きな子は可愛い尽くし。



メニューを真剣に眺める彼女を
凝視している自分に気づいて

ハッと我に返る。


…なんか俺変態みたい…


頭を冷やすために
目の前にある水を飲んだけど

頭は冷えないし、
上がるテンションは隠しきれなくて
彼女の食べたいものが決まるまで
俺の鼻歌は止まらなかった。


『でね、姐さんがね!』


俺のテンションに負けないくらいに
彼女のテンションは高くて

そりゃもうよく喋るよく喋る。

喋ってばっかりだから
全然飯が進んでない。


話している内容は
心底どうでもいい事なんだけど

それを聞けるのが嬉しい。


『社員証見せてよ』


脈来なくそう言うと、
彼女はもろ“私の話聞いてたのかよ”って
顔をしながらポケットから社員証を取り出して
俺に渡してきてくれた。


社員証をもらって、眺める。


それに写ってる彼女の顔は
実物より目がぱっちりに、

そして小顔効果意識で顎を引いたのか、
狙い通り小顔に写っている。

ただ、目を開くのに力を入れたのか
口元に不自然な力が入っていて
それがまた笑える。


『やっぱり詐欺だなぁ(笑)』


社員証の写真と本人を
見比べながらそう言うと
少し顔を赤くしながら頬を膨らませた。



その赤くなった顔に、

ふと、泣いている時の
あのブスな顔を思い出す。


あの顔、好きなんだよなぁ…

目も鼻も真っ赤にして
ボロボロ泣いてる、あの顔。


あーあ、
早くこいつも俺の事好きになんねーかなぁ。

したらもう毎日甘やかせて
泣かせまくるのに…

もっと俺に甘えて、
俺なしじゃ
どうしようもなくなればいいのになぁ。


手に持っていた社員証に印刷されてる
彼女の顔写真を親指でなぞった瞬間、


『悠太!やっと見つけた!』


高い声が聞こえた。


声がする先には、
さっきまで一緒に仕事していた
同期が立っていた。


『おお、ビックリした』


もともと声が高いのに、
さらにおっきな声で名前を呼ばれて
驚く俺の隣に腰を下ろしてくる。


女の子って感じの
甘いボディミストの匂いがした。


『課長に聞いたの。外出かけたって。
一緒にご飯食べようと思ってたのに。
あちこち探しちゃったじゃない!』

『いや、俺今日外で食べるって
最初から言ってたじゃん』

『あら、そうだっけ?
聞いてなかったから知らない』


…聞いてないわけないのに。

わざわざ追ってきて、
何がしたいんだ。


微妙な空気になってきて
この場をどうしようかと悩んでいると


『…誰?』


同期が思いっきり感じ悪く
彼女の方を見ながらそう言った。


同期からの視線に、
彼女の瞳の奥がよく見なきゃ
分からない程度だけども
確実に怯えていた。

だから、


『ケータイ誘拐犯』


と、彼女にだけ分かる事を口にした。


その言葉に吹き出した彼女に、
ホッとしたのもつかの間。

同期は俺にグッと体を寄せてきた。


…何すんだよ。



本当にやめて欲しいのに、


『ねぇ、悠太。何食べてるの?』


そう言いながら
俺の飲み物を手にして口にする。



中学生じゃあるまいし、
間接キスだぁなんて事1ミリも思わないけど

彼女の前となると別。

すげぇ嫌。

彼女に見られたくない



…そう思うんだけど


『人の飲むなよ』


これ以上同期を怒らせて
空気が悪くなるのも嫌だから、
事を荒げないように言うのが精一杯だった。


『なんの話ししてたの?どうぞ続けて』


全く無関係のお前がいる前で
何もなかったかのように
ハイ、会話再開しますなんて
出来るわけないだろ…

マジでこいつどうしようか…


同期の扱いに悩んでいると


『…悠太、それ何?』


俺の手の中にあった、
彼女の社員証を指差しながら言った。


『ん?これ?これは…』


説明していいものか、
悩みながらも言葉を濁そうとした瞬間に


『か、返して!!』


今までずっと黙っていた彼女が
大きな声で叫んだ。


彼女のいきなりの大声に
持っていた社員証を差し出すと、

少し乱暴に引ったくられた。


その引ったくった社員証を
ポケットに突っ込んだ彼女は、


『ごめん!私仕事残してたんだった!
先に行くね!』


そう言って荷物を持ちながら立ち始めた。


…は?


呆然としている俺をよそに、
彼女は財布から抜き取ったお札を
テーブルの上に置いて


『失礼します、』


と、頭を下げてその場から走り出した。


『いや、ちょっと待て…!
…○○!?』


その背中を慌てて追おうとするけど


『どいて!』

『嫌』

『どけって!』

『嫌!』


同期に塞がれて、
立ったまま動けなくなった。


『マジでお前なんなの?』


ここまで俺がキレるのは
珍しいことで、
その言葉を言われた同期は少しうろたえながら


『…置いてったわよ』


って言いながら、
テーブルの上に置かれたままの
千円札2枚を俺に渡してきた。


『…悠太がムキになってた理由わかった』

『…は?何?』


もう追いかける気力も失くなって、
顔を覆って項垂れてた俺に
そんな声が聞こえる。


『あの子が原因なんでしょ?』

『……』

『あの子の為なんでしょ?』

『お前なんなの?本当にうるさい。』


睨みながらそう言った俺に、
同期はさすがにそれ以上
何も言ってこなかった。







---------------






明日から!

縁 〜むかしなじみ〜

怪我なく最後まで走りきってください!


ふぉ〜ゆ〜愛してるよー!!

(((o(*゚▽゚*)o)))

ふぉ〜ゆ〜がリメイクドラマに出演するとしたら。

残暑見舞い申し上げます。

皆さん如何お過ごしでしょうか。

8/31日です。


『夏休み最終日だ〜ッ嫌だ〜ッ!』


なんて言いながら
終わっていない宿題を横目に
暴れながらアイスを食べていたのは
もう何年前になるのでしょうか。


日焼けも気ニセズ、
二の腕の太さも気ニセズ、

ノースリーブに短パンで
近所を駆け回っていたあの頃…

男の子に間違えられるのなんて
ザラだったあの頃…

今では立派なジャニヲタの私にも
友達と約束して遊んだり、
たまに男の子も誘ってみたり、

そんなリア充っぽい時代がありました。





さーさてさて、さてはなんきんたますだれ





今日はいつもと違う感じで、
お送りしたいと思います。




今回の妄想はわたくしさうの極粒な
脳みその中で行われた、



“ふぉ〜ゆ〜がリメイクドラマに出演するとしたら”


という、
完全なる俺得企画でございます。




『んな企画いいから
早く福田くんの続き書けよ!』


そんな声が聞こえます。

おっしゃる通り。
間違いない。


でも、どうか聞いて。
(いや、読んで…か?)

仕事中おじいちゃんやおばあちゃんの
入れ歯を片手に(歯医者勤務)
マスクの下でニヤニヤ笑いながらしてる
私のこの生産性ゼロの妄想を。



ゼーーーローーー。



私、昔のドラマすごい好きなんですよ。

今のドラマが面白くないって訳じゃなくて、
昔のドラマが特に好きなんです。




ファッションも携帯電話もバックも街並みも
1つ1つがすこし昔なところも
見ててなんだかホッコリ出来て…

兎に角、好きなんです。
昔のドラマが。



そんなこんなで今でもたまに
DVD借りたりして見るんですけど、

それを見ながら、


『…なんか今の喋り方、○○くんっぽい…』


みたいに、その役者さんから
ジャニーズタレントみをふと感じたんです。


そしてそこで思ったのが、




リメイクドラマ…出て欲しい!!

ふぉ、ふぉ、ふぉ〜ゆ〜に!!!




でした。



ドラマ出てよ!

涙をふいての辰巳だけじゃなくて!

あ、美男ですねに4人とも出てたか!

ごめん!

レッスン生としていたわ!

ごめん!

藤ヶ谷たいぴーの前を通過する
福田悠太スロー再生で確認したわ!

ごめん!



…て事で勝手にやってきます。


もうやっちゃうんだから。


自己満俺得。



ぃぃぃいやっちゃぇえ!!

(某CMの矢沢永吉風)







\ふぉ〜ゆ〜がリメイクドラマに
出演するとしたら/





福田 悠太

やまとなでしこ / 中原 欧介 役


玉の輿に乗るべく合コンに情熱を燃やしていた
ヒロインが本当の恋を見つけるまでを
描いたドラマ。




ふぉ〜ゆ〜のリーダー、
福田悠太さんはやまとなでしこ

これに限る。

超絶イケメンな癖に、
その雰囲気と顔ににじみ出る
彼の素朴さと人の良さ。

それが中原欧介と通じるものを感じたんで。

綺麗なCAの女性にキスされて
目も閉じれなくて直立不動しちゃう
福田悠太見たくない?
私は見たい。



ボートからひっくり返っちゃって
川の中でキスする福田悠太見たくない?
私は見たい。



恋人と素敵な距離感で寄り添って座って、
でもそれでいて2人の程よい空気感。

柔らかい雰囲気で少しプライドの
高いヒロインを包み込む。

そんな雰囲気がまさに福田さん。



こんな優しさ溢れる中原欧介を
復活させられるのは
福田悠太さんしかいないと思います。

魚屋さんっていうのもいいよね。
絶対福田くんみたいな魚屋さんいる。






辰巳 雄大

オレンジデイズ / 結城 櫂 役


大学卒業を1年後に控えた
5人の若者の青春ドラマ。



やっぱりどことなくアーバンな
辰巳雄大さんはオレンジデイズ

等身大の若者像を
彼の熱意溢れる演技で魅せて欲しい。

そしてその熱意とは裏腹に
手話を繊細に演じて欲しい。


めちゃくちゃ男前なカッコいいセリフを
手話と同時に伝える辰巳雄大見たくない?
私は見たい。



あとなんてったって8話ね。
浜辺でのシーンですよ。


沙絵ー!萩尾沙絵ー!ってやつ。

口悪ぃぞー!性格悪ぃぞー!
顔可愛いかもしんねぇけど
モテねぇぞー!
でも好きだー!!

お前が好きだー!!
俺はお前が好きだーー!!!


ってやつ。
あのシーン、ぎゃー!って大声出して
指の隙間からテレビ画面見た記憶あるなぁ。

浜辺で大声で告白する辰巳雄大見たくない?
私は見たい。



あと、大学の友達2人も
ジャニーズから抜擢されたら嬉しいな。

バーターと世間から言われても構わない。

出てきておいで。



ちょっぴり強めな女の子に
振り回されるように恋に落ちていく
結城櫂を復活させられるのは
辰巳雄大さんしかいないと思います。

1話からキスするドラマなんて
もってこいだろ辰巳ィ…

ベッドシーンだってあるんだぜ?
もってこいだろ辰巳ィ…






越岡 裕貴

神様、もう少しだけ / 石川 啓吾 役


人気音楽プロデューサーと
女子高生の恋の物語。



爽やかな印象がある越岡裕貴さんは、
暗めのドラマでイメージを覆したい。


金城武という濃い顔代表…
と言っても過言ではないくらいに
ハッキリした顔立ちの彼が演じた役を
あえてアッサリ薄顔の
越岡裕貴さんに演じて欲しい。



しかもピアノ弾いちゃうんですよ。
ここであれですよ、
視聴者の中でも分かる人は恐ろしく
興奮しちゃうってやつ。

ジャニヲタたちがみんな声を大にして
叫んで、とある言葉をTwitterにつぶやくんです。

そして、トレンド入りします。


“クリエ”


この3文字が。



しかもこのあとキスするんですよ。

だからなんだ。
恋愛ドラマならキスくらい
するだろうって話ですけどね、

ドラマ史上最も長いと言われている
1分14秒にもわたる
キスシーンなんですよ。

74秒!1秒が74回!
アッサリ越岡の1分14秒キス!

もはや耐久レースになりそうですね。
そんな越岡さん見たくない?
私は見たい。



そして最後、
ヒロインは子供を出産して
お空に行ってしまうので、

シングルファーザーな越岡さんも
見れちゃいます。



あえて薄顔で石川啓吾を復活させられるのは
越岡裕貴さんしかいないと思います。






松崎 祐介
末っ子長男姉三人 / 柏倉 一郎 役


末っ子長男と結婚して、
旦那の母親、姉三人と同居する話。



松崎さんにはそのピュアさを生かして
このドラマしかないと思います。

女のパワーにひたすら負けてしまう
末っ子長男。

そんな松崎さんを想像するだけで
この世は平和になるさ。

実際の松崎さんも長男ですしね。
(男兄弟だけど…)


このドラマはですね、
とにかく夫婦役の2人が可愛いんですよ。


いやらしかったり生々しい
イチャイチャじゃなくて、
なんか見ててこっちまで幸せになれる。
そんな感じの2人のイチャイチャが
可愛くって可愛くって。

年上の奥さんに甘える
そんな松崎さん見たくない?
私は見たい。



正直なところ姉三人に振り回される
奥さんを全然フォローしない
松崎さんにイライラするし、
元カノとか出てくるし、

途中で見るのめんどくさく
なって来そうだけど
絶対みんな松崎さんの可愛さの虜になる。

間違いないと思います。



奥さんがアワアワしてても
ひたすらに黙々とご飯を食べたり
ケーキを食べたりしてるんですよ。

それがまたイライラするけど
可愛いな…ちくしょお…可愛いな…
ってなってしまう。



この自由な末っ子感を
その持ち前のピュアを生かして、
柏倉一郎を復活させられるのは
松崎祐介さんしかいないと思います。









きみはペット”で、

各々、自担だけでなく
この人にモモやって欲しいな〜
と、夢見てたジャニヲタは少なくないと思います。


私は橋本良亮くんに
是非ともモモを演じて欲しいと
思っていました。

志尊淳さんももちろん可愛くて
彼らしいモモを見せてくれることは
間違いないですが…

自分が望んでいた人が
キャストに選ばれたらなんてしたら
飛びますよね。

ボゥンッと。


そんなことあったら素敵だなぁ。



SnowManでもやろうかな。

出て欲しいリメイクドラマ。


むふふ。

考えただけですでに楽しい。



需要なくても
勝手にやっちゃうんだから。


ウッシッシッ。


友達の父ちゃん丑年。
ウッシッシッ。




最後になりましたが、
今回選んだドラマたちは
完全に私の独断と偏見です。

あしからず。


あとネットから画像を
引っ張ってるので
画質の悪さもあしからず。



------------

ハッピーマンデー。


--------------



毎週月曜日だけ…


朝早く起きて
ちゃんと髪の毛セットするのも

ブレザーに猫の毛がくっ付いてないか
確認するのも

鏡の前で可愛い顔で
挨拶する練習するのも


全てはこの一瞬のためなの。






『おはようございます!』

『お、おはようございます…ッ』











『おはよー!!!!』

『朝からうるせぇ』

『挨拶したんだから挨拶し返せ!
挨拶は人と人を繋ぐ基本!!』

『…あぁ、そっか。月曜日か』

『イエッス!マンデー!』

『黙れとしか言いようがない』

『ダウニーったら今日もドSなんだからっ』


朝とは思えないテンションで
喋りながらカバンを肩から下げる
あたしの隣の席で
気だるそうにケータイをいじる友達、
ダウニー。


家で使ってる柔軟剤がダウニーらしく、
ダウニーの匂いがする彼女を
あたしが気まぐれでダウニーって
呼んだところ、クラス全員に感染して
今やすっかり定着したそのあだ名。

彼女はあまり気に入っていないようで
ダウニーって呼ぶたびに
少し嫌そうな顔をする。


『今日もあいさつ出来たの?』

『したね!そりゃもうしまくったね!』

『それはそれは』


聞いてきたくせに
心底興味がなさそうなダウニーは
また目線をケータイに戻して
テシテシと操作する。


あたしの学校はなぜか毎週月曜の朝は
“あいさつ運動”なるものが行われて、

生徒会の人たちが、
朝早くから校門の前に立って
おはようございますと大きな声で
登校してくる生徒にあいさつをするのだ。


第一ボタンまで閉められたワイシャツ。

膝下のスカート。

肩から下げられた
“あいさつ運動”と書かれたタスキ。


何あのダッセェ格好!!


あいさつ運動が始まってすぐ、
生徒会の人たちは、
一般生徒の笑いの対象でしかなかった。


無論、あたしも馬鹿にしてた。


わざわざ朝早く来て、
喋ったこともない
どの学年かも分からない相手に
笑顔であいさつして…

あいさつし返してる奴なんて
見たことなかったし、
こんな事する意味あんのかよって。


…でも、ある日変わった。


遅刻しそうになって、
校門まで走りながら向かってた時だった。


その日も月曜日で、
生徒会の人たちがあいさつ運動してて


んだよ!こちとら遅刻しそうなんだよ!!

って思いながら
その前を駆け抜けようとした瞬間。


盛大に段差につまづいた。


『…アッ…』


口に出した瞬間にはもう身体は
宙に浮いてて、


…転ぶ…ッ!


目を閉じたと同時に、身体をガシッと
半分抱かれるように支えられた。


『…ッと…大丈夫?』


あたしのアホみたいによろけた
身体を支えてくれている
細いけどたくましいその腕をたどると、


綺麗な目をした爽やかな青年が、
そこにはいた。


『…オッフォ…』

『遅刻しそうでも、走ったら危ないよ』

『…ハヒ…』

『うん、おはよう』

『オハヨーゴバイマフ』


あたしの記憶が覚えているのはそれまで。


そこからどうやって教室に行ったのか、

どうやって1日を過ごしたのか。


全くもって覚えてない。


ただ、アレからあたしの中で
彼が忘れられない存在になって…


『阿部くん…今日も最高に爽やかだったぜ…ッ』


生徒会長の阿部亮平くんに
毎週月曜日にあいさつする事に
命をかけるようになってしまった。


『へいへい』

『こう…なんていうかね、
阿部くんの周りの空気は澄んでるの!』

『へいへい』

『淀んだものが一切ないのよ!』

『へいへい』

『キラキラしてて、マイナスイオンたっぷりで…』

『ヒェヒェヒェ!!!』


軽く1時間は続けられるだろう
あたしの阿部くんの爽やかさに対する熱弁が
不快な引き笑いでかき消される。


『お前それ素で言ってんの?
恥ずかしくねぇ?』


人を指差しながら
引き笑いで笑う男。

薄顔で細身で、
女子からやたら人気のある男。


『人間からマイナスイオンなんて
出ねぇから!』

『翔太マジうるさい。』

『他の曜日みたいに月曜も
猫の毛くっ付けて登校してこいよ!』

『黙れ薄顔』


どんなに睨んでも、
引き笑いが止む事はなく

阿部くんに幸せにしてもらった
気持ちが台無しになる。


『翔太、○○超怒ってるよ』


ダウニーのその言葉に、
やっと笑い声を止めたこやつは
あたしの肩をポンと叩く。


『んな怒るなよ、な?』

『来世まで呪ってやる〜
来世ではもっと薄顔になってしまえ〜〜』

『ダウニー、こいつ別に怒ってなさそうだわ』


ダウニーと翔太、3人で
顔を見合わせて爆笑する。


つるんでるメンバーは
それぞれ違うけれど、

席が近くていつも朝の時間は
この3人で喋ってる。


そんな朝の時間がすごく好き。


特に月曜日の朝がすごく好き。

1週間が始まる憂鬱よりも、
素敵な事がたくさんある月曜日の朝が
すごく好き。







そう思える日を、月曜だけじゃなくした
きっかけはあたしの頭の悪さだった。







***





放課後の教室にひたすら響く
シャーペンの音。


コツコツ。


コツコツコツ。



『やってらんない…』



今日の2時間目。

数学の授業。

マジでさ、

小テストなんて聞いてない…。



いきなりの小テスト。

しかも30点以下は再提出とか。


ついてないにも程がある。


しかもなんで急な小テストなのに
みんな30点以上取れるのさ。


どんなに腹ん中で不満を垂らしても
日頃から勉強してない自分が悪いのくらい
分かってるから、
ひたすらにシャーペンを動かすしかない。


でも

分からないものは分からない…


『これじゃ一生再提出出来ない…』


翔太に助けを求めたのに


“そーゆうのは全部教科書に
説明が載ってんだよ”


って言ってさっさと帰っちゃったし…


書いては消してを繰り返した
用紙はもうくったくた。

新たに文字を書く気も失せる。


もうすっぽかしちゃおっかなー、

なんて思った時、
教室のドアからひょっこりと
顔を出す男の子と目が合った。


『下校時間…もう直ぐだよ?』


え?と、思って時計に目を向けると
確かに下校時間まで30分もない。


…でも…再提出…


そう思いながら机の上の
用紙に手を向けると、

目がくりくりした小柄な可愛い男の子が
あたしの机の前まで歩いてくる。

あたしと同じ上履きの色…


同じ学年なんだ。
年下かと思った。


『22点…』


テスト用紙を覗き込んで
点数を普通に口に出すから
思わずその無神経さに彼を睨むと、


『再提出なの?』

『…はぁ、…』

『数学…の、基本問題だね…』

『……』

『ふーん、俺も分からないや』


…つ、使えねぇ!!!


なんか物言い的に
分かるのかと思ったわ!

期待して損した!


でもこの見ず知らずの男の子に
期待すること自体間違い。

さっさと終わらせなきゃ
本当に下校時間が刻一刻と迫ってる。


くっそー。と、思いながら
シャーペンの芯をいつもより
少し長めに出して

その数字に取り掛かろうとした瞬間に…


『佐久間、ここにいたの?』

『阿部ちゃん!』


鼻から汁がぶっ飛んだ。


ギョベベベベべべ!!!!!


『どこに行ったのかと思ったら…』

『ごめんね〜』


あ、あっあっあっ、ああああ
阿部くんが…

阿部くんがいらっしゃる。


あたしの目の前に、

阿部くんがいらっしゃる。


『なんかね、再提出の小テストが
終わらないんだって』


て、てめぇ!
何言いふらしてんだ!!


さっき阿部くんに佐久間と呼ばれた
小柄な男子は
あたしの恥部をあっさりと
阿部くんに公開する。


『小テスト?』

『数学の小テストらしいよ』

『そっか…』

『そうだ!分からないなら
阿部ちゃんに見てもらえば?』


さっきからこいつ…

マジでちょっと待てや。


焦りと緊張でひたすらに
目を泳がせまくるあたしに、


『俺なんかで良ければ』


ガッテン!
俺なんかなんて!!!


阿部くんはやっぱり
マイナスイオンたっぷり。

優しすぎる。


『ちょっと見せてね』

『…あ、ハィ…』



お、お、お、

お、恐ろしい…!

あたしのアホ満載な答えが並んでる
回答用紙を阿部くんに見られるなんて…!

無理!無理!もう無理…!



丸裸にされてる気分だよ…


丸裸にされてる気分だよ…!!!



ああ、もう嫌だ。

なんでよりによって!


あの…!

あの憧れの…!

マイナスイオンたっぷりな阿部くんに
あたしは22点の小テストを
披露してるんだぁぁッッ!!!


『ぜ、全然出来てないっすよねぇ…イヒヒッ』


目の前にいる憧れの人にテンパって
いつもの3割り増しでキモくなるあたし。


あーもうなんだってんだ。

なんなんだよこの拷問タイムは。

帰りたいぃ…帰りたいよぉ…


『いや、全然出来てなくないよ?』


しかしこの時間よ…永遠に続け(単純)



あたしの22点のアホ回答用紙を
じっくり見た阿部くんは、

にっこりと笑いながらそう言うと


『ちょっと借りるね』


と言って私のシャーペンを握って、


『ここだって、代入の仕方を間違えただけで
解き方自体は合ってるよ?』


優しく言いながら、
正しい数式を書く。


端っこの方に薄めの筆圧で書くところが、
真面目で優しい、阿部くんらしいな…
なんてふと思った。


『…ほら、ここも。
大丈夫、出来てるから、』


優しすぎるくらい優しい阿部くんは
それから下校時間ギリギリまで
1つ1つの問題を丁寧に教えてくれた。


佐久間はその間、
ケータイでアニメを見ていた。


『あ、あの…ああありがとう…』


全てを綺麗に直した小テストを手に
挙動不審にお礼を言うと、

阿部くんはニッコリ笑って


『気をつけて帰ってね』


と言ってくれた。


佐久間はその隣で、
ケータイでアニメのアプリをやっていた。













『…って事があったの!!!』

『フーン』

『聞いてんのかよ!!』

『聞いてねぇよ』

『聞けよ!!』

『もう4回聞いてやったんだから
聞かなくてもいいだろ。
お前その話5回目なんだよ。』

『10回でも100回でも聞け!』


次の日、あたしは嬉しさのあまり
放課後帰ろうとしてる翔太を
とっ捕まえて、
昨日のことをひたすらに話していた。


『大体お前なぁ』

『……』

『ちょっと喋ったくらいで大袈裟なんだよ』

『……』

『しかもあんだけ挨拶してたのに』

『……』

『阿部くんに覚えてもらえて
なかったっぽいじゃん』

『……』

『阿部くんになんも言われなかったんだろ?』

『……』

『挨拶してくれる子だよね?とか』

『……』

『…おい?』

『…え?あぁ、ごめん。
阿部くんとの思い出にキスしてた。』

『…ちょっと本気で気持ち悪ぃよお前』


ガチでドン引きする翔太に
ドゥフフと笑うあたし。


全く、分かってないなぁ翔太は。

やれやれ、
これだからモテる奴は。


覚えてもらってたとか
もらってなかったとか、
そんなのどうでもいいんだよ。

阿部くんという存在が癒しなんだから。



『いい加減マジで帰りてぇんだけど…』


ザコンな翔太はすぐに家に帰りたがるから、
さすがにこれ以上あたしの自慢話を
聞かせるのもかわいそう…

今日はこれくらいにしといてやるか。


自分たちの教室を出て、
もう生徒がほとんど残っていない
廊下を歩いていると


『きっと他校の彼女にも
それ以上に優しくしてるよ、
生徒会長さんは。』


…は?


翔太の口からよく分かんない言葉が聞こえた。

思いっきりアホ面で
翔太を見つめるあたし。


『…なんだよ』

『…え、』

『…え、お前知らねーの?』

『……』

『普通に有名じゃん。
生徒会長同士で付き合ってるって』

『…知らない』

『M女の生徒会長とウチの生徒会長。
美男美女でお似合いって』

『…M女…』


M女といえば県内で有名なお嬢様学校。

頭もビジュアルもレベルが高くて、
そこに彼女がいるとなれば
男たちの間ではヒーロー的存在に
なれるとかなれないとか。


…そしてそのお嬢様学校の生徒会長となれば
それはもう自分とは比べなくても分かるくらい
雲泥の差な訳で。


『おい、泣くなよ』

『…うっ、う…』

『ちょ、えっ、マジで』

『ああああ〜〜ッッ』


阿部くんと何か始まってた訳じゃないし、
これからもきっと
何も始まる事はなかっただろうけど

舞い上がってた自分に
恥ずかしさと、

心のどこかで期待してた自分に
惨めさを感じて

ボロボロと泣き始めたあたし。


『嘘だろ…』

『バカァァァ〜〜ッッ!!!』

『……』

『翔太のバカァァァ〜〜ッッ!!!』

『…はぁ…』

『言わなくてもいいじゃんか〜〜ッッ!!!』


120%悪くないのに、
目の前にいる翔太に
当たることしかできなくて
それがまた余計に涙を増幅させる。


『翔太のアホクソ〜〜ッッ!!!』

『ごめんって。
俺が悪かったから、ごめんって。』

『反省が足りん!反省が足りん!!』

『ええ!?』

『本当に悪いと思うなら
阿部くんの毛髪を献上しろ!!!』

『んなの無理だろ!!!』


もはや泣き止むタイミングを失ったあたしは
自分でも着地点が分からなくなって
ワァワァと泣き喚く。

すると困り果てていた翔太が


『…ごめんってば』


何故かあたしを抱き締めてきた。


『!!???』

『まさかお前が知らないと
思わなかったからさ』

『…は!?え、ええ!!?』


男の子に抱きしめられたのなんて
初めてで、どうしていいか分からずに
ひたすらに硬直するあたし。


それに反して、
女の扱いなんて腐るほど慣れてる翔太は
さらに強くあたしを抱きしめる。


『…しょ、翔太…』

『なに?』

『ち、近い…ッ』


顔を覗き込んでくる翔太が
恐ろしいほどに近い。

普段バカにしてる薄顔が
数センチ先にある。

本当に近い。


『うん』

『近い近い近い』

『なんかさぁ…』

『近い近い近い近い近い近い近い近い近い近い』

『キスしてぇんだけど』

『はぁ!!!!????』


意味不明な発言に
振り回される。


『だって翔太あたしのこと
別に好きでもなんでもないでしょ!?』

『うん』

『じゃあなんでよ!!』

『俺だって分かんねぇよ、
なんで毛髪欲しがるような女に
キスしたくなったのか』


こんな変態…って言いながら
呆れ笑いする翔太は

たった数センチしかなかった間を
もっと詰めてくる。


『いぎぎぎぎぎ』

『んな声出すな、萎えるから』

『いや、むしろ萎えて欲しいんですけど!?』

『俺にそんなこと言うの、お前くらいだよ』


その言葉を最後に、
視界が翔太の顔でいっぱいになって

翔太の香水の匂いと、


唇に柔らかい感触を感じた。






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一話完結型。


完全にノリと勢いだけで書いてみた。

渡辺くんっていいよね、
薄い顔なのにチャラチャラしてる感じが。


『ホラ、俺顔もいいし人気もあるじゃん?』


とか普通に言ってきてほしい。


そう言われて、


あれ?これは殴れって合図かな…?


とか思いながら日々を過ごしたい。


女の子の事はみんな下の名前で呼ぶくせに
私のことだけは名字で呼んで欲しいなぁ。

(そこに深い意味はない)


パリピ最高に似合ってたなぁ。

けんちゃんしょうちゃん。

後輩の宮舘くん 〜夏〜

めっちゃ昔に書いた
宮舘くんのお話の続編…


後輩の宮舘くん - さう日和。


を、書いたみようかなんて思ったので。



徒然なるままに〜。




この頃書いてたやつは

ちゃんとした文章になってない
死ぬほど意味不明なただの文字の羅列に
なっておりますが…

読んで頂ければ話が繋がると思います(笑)









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大学に入学して、
5ヶ月ほど経った。


思い描いていた、

華やかなキャンパスライフ♡

私、花の女子大生♡


なんてものには程遠かった。


確かに高校の時に比べれば
いろんなことが自由になったし、

サークルに入って
今まで興味がなかったものに
目を向けるようにもなったし、

ほとんどの子が一人暮らしだから
互いの家に行き来したりして
下手なりに凝った料理作ったりして。


楽しい毎日ではある。


でも、何だろう…
色気に欠けてる。

色恋沙汰に欠けてる。


サークルの先輩に恋するわけでもなく、

同じ学科の男子に恋するわけでもなく、


色で例えるならピンク色が1つもない。



でも、その原因も分かってる。

何でこうもピンク色の部分がないのか。


…それは。



『先輩今日も買い弁じゃないですよね?』

『うん。買い弁じゃないよ。』

『絶対買い弁…』

『ふっふっ』

『俺、先輩の食生活が心配っすよ』


卒業して以来、毎日連絡を取ってる
この後輩のせい。


『聞いておくれよ、宮舘くん。
最近のコンビニ弁当って凄いんだよ。』

『何がっすか』

『クオリティが凄いんだよ。』

『ちゃんと自炊しましょうよ…』


電話の向こうで呆れながら笑うその声に
今日もまた癒される。



…後輩の宮舘くん。



彼のせいで、
大学でわざわざピンク色を
見つけようと思わなくなってしまってるのだ。


卒業する少し前に、
宮舘くんに告白された。


それはもうサラッと。

サラサラッと。


サラサーティコットン100並みに
サラサラの告白をされた。


告白された瞬間は
何が何だか分からなかったし、


『顔のカッコいい奴の言うことなんて
信じちゃいかん!信用するな!

お前はからかわれてるんだ!!』



って私の中のひねくれ者が
声を荒げて警告してきたけど、


所詮、私だって女。
端くれだったとしても女。

告白はすごく嬉しかった。


卒業式の日にもらった手紙だって、
未だにコッソリ読み返したりする。


その手紙の内容は
何度読み返しても、その度に


『ぐぅぉぉ…』


と、唸り声を上げてしまうほどに
やっぱり恥ずかしい。


なのに本人は、私に渡してくれた時に
“ちょっと恥ずかしいんで”
って言ってたくせに

普通に、


手紙読んでくれました?


って、連絡してきた。

しかもその日の夜に。




連絡先を教えた記憶がなかったから、


誰から聞いたの?


って聞いたら、
友達の友達の先輩の〜って
言い出すからちょっと怖いと思った。


その日から今までこうして連絡を取ってる。


私に宣言した通り、
本当に私と同じ大学を受けるらしい彼は
今、猛勉強中だから

1日1回程度のラインのやり取りだったり、
たまにこうして電話だったりって感じだけど、


彼の落ち着いた喋り方と
少しだけ私を馬鹿にする物言いが
なんだかとても好きで、

気づけばもう5ヶ月経っていた。


『もう夏だね〜』

『夏ですね』

『私明日オープンキャンパス
スタッフやるの。日雇いバイト。』

『金もらえるんすか?』

『じゃなきゃやらないよ。クソ暑い。』

『クソ言うな(笑)』

『んふふ』

『明日も暑くなるみたいだから
身体に気をつけてね』

『宮舘くん、おじいちゃんみたい』

『俺のが先輩より年下っすよ』

『あははっ。
じゃあまたね、おやすみ〜』

『おやすみなさい』


宮舘くんの声を最後に、
私はベッドに寝っ転がって
まぶたを閉じた。


…5ヶ月、連絡は取ってるけど
あれから1回も会ってないのかぁ


面と向かってないから、
ここまで話せるようになったんだろうなぁ

じゃなきゃ告白された相手と
顔合わせて話すなんて…
照れくさくて無理。


あ〜、でも…

ちょっと会いたいかも…



なんて思いながら意識を手放した。










『やっぱりやるんじゃなかった…バイトなんて』


朝からずーっと外に立って
パンフレットとかビラ配り。

いくらお金がもらえるって言っても
これはさすがに暑すぎる。


『でも○○、金欠なんでしょ?』

『そう。お金やばい』

『それ絶対食費だよ。
あんた自炊しないから』

『何も言い返せません』


暑い暑い日差しの中、
次々と入ってくる見学者に
パンフレットを渡す。

一緒にバイトしようと
誘ってくれた友達とひたすらに
笑顔を振りまきながら
パンフレットを配っていると…


『なんだ、生足出してるじゃないすか』


聞き覚えのある声が、
ものすごくクリアに聞こえた。


『…ッ!?』


信じられないけど、
振り返ったその先にいたのはどう見ても…


『みや…だてくん…』

『お久しぶりです、先輩。』


昨日電話していた宮舘くんだった。


『え?なんで?ええ?嘘?』


思わず駆け出すと、
宮舘くんも笑いながらこっちに歩いてくる。


『志望校のオープンキャンパスくらい
行くに決まってるじゃないすか』

『え?でも何も聞いてない!』

『言ってないですもん』

『言ってよ!』

『てゆーか先輩すごい汗』


とびっきりの笑顔で
おでこに流れる汗を触るもんだから
恥ずかしビックリで
つい後ろに一歩下がる私。


『あれ?慣れたと思ったのにな』

『いやいやいや…』

『相変わらず照れ屋なんすね』


乱れてもいない前髪を
何度も直す私をケラケラ笑う、
宮舘くんの方が相変わらずで…


『…言ってほしかった…』


言ってたらもっと可愛い服着たし、
可愛い髪型にだってしたのに。


『スタッフやるなんて
俺だって昨日聞いてビックリしたんですよ。』


…それでもさぁ、


ってむぅっと頬を膨らました私に、


『お互い様でしょ?』


少しかがんで私の顔を覗き込む。

やっとそこでちゃんと顔を見れて
1つ気づく。


『宮舘くん…髪…』


宮舘くんは髪が少し長くて、
いつも毛先を遊ばせてるイメージがあったから
つるんと丸いマッシュみたいな
髪型になっていてすごく驚いた。


『切っちゃった』

『…カッコいい…』


一瞬の沈黙と、
目を見開いた宮舘くんの顔に
バッと自分の口を手で押さえる。


目を見開いていた宮舘くんは
意地悪な笑みに表情を変えると、


『先輩、もっかい』


表情以上に意地悪な声でそう言う。


『……』

『もっかい言って?』

『……』

『せーんぱい』


やっぱり会いたくなかった!

こんなに恥ずかしい思いするなら
電話で話すくらいが
ちょうどよかった!!


真っ赤に染まる顔を
これから来る見学者に配らなきゃ
いけないパンフレットで隠してると、


『あの〜…○○の知り合いですか?』


一緒にバイトとしてた友達が
声をかけに来てくれた。


『あ、すみません…仕事中だったのに』

『全然大丈夫ですよー』

『僕、後輩なんです。』

『後輩さん?』

『はい、高校の』

『こんなイケメンな後輩いるとか
聞いてませんけど?』


友達の声が私の方に向いたのがわかる。


『……』


でも、やっぱり恥ずかしくて
顔を上げられずに小さくなる私に


『とりあえず俺行きますね。
先輩、後で連絡します。』


宮舘くんは大人。


私がコクリと頷いたのを確認すると、
友達にもちゃんと『失礼します』って
挨拶してから校舎の方へ向かっていった。


『……』

『……』

『…後輩くん行っちゃったよ?』

『…うん…』

『…いいの?』

『…うん…』

『あんたってそんな顔出来んだね』


頬を真っ赤に染めて意味もなく
半泣きになる私の顔を見て笑う友達に


『今の後輩、
宮舘くんって言うんだけどね…』


初めてピンク色の私を見せようと思った。







“先輩いつも学食で何食ってるんですか?”


パンフレットを配り終わって、
説明会に使った機材を倉庫に運んで…

意外にも午前中で終わったバイト。


それでも暑さにやられて
ヘトヘトでクーラーのかかった教室で
涼んでいた私のケータイに
そんな連絡が来た。


『宮舘くんからじゃん!』


私よりも先に友達が反応する。


『見ないでよ…』


って言いながら
横から画面を覗かれてる手前、


“B定食”


ってだけそっけなく送ったら


“ガッツリっすね(笑)”


って送られてきた。


『あんたが歓迎会とかしても二次会行かないで
さっさと帰る理由、分かったわ。』

『…なんで?』

『こんな相手いんだもん』

『……』

『そりゃ1年待つわな(笑)』

『…恥ずかしい』


そう言ってまた頬を赤くして
机に突っ伏した私の耳に、


『でもそんな意地はってたら
他の子に取られちゃうかもね〜』

『……』

『せっかく大学まで来たのに
愛想もない女より』

『……』

『近くでニコニコしてる
可愛い〜同い年の子の方が』

『……』

『宮舘くんだっていいんじゃない?』

『……』


なんて言葉が容赦なく届く。


友達のその言葉に、
私はむくりと顔を上げて
ぽちぽちとケータイを操作した。











『先輩!』


小走りで近づいてくる宮舘くんに、
私もベンチから立ち上がる。


『もうスタッフの仕事終わったんですか?』

『うん、午前中で終わった』

『お疲れ様です』

『大学の中どうだった?』

『大学って広いんですね、迷うかと思った』

『私未だに迷うよ』

『入学して結構経ちますよね?』


驚いた顔で馬鹿にする宮舘くんに、
少しずつ緊張もほぐれていく。

電話でしゃべってたみたいに
いつも通り話せば良いんだ。


『連絡嬉しかったです』

『…え、あぁ…うん。』

『俺も先輩と夜飯食いたいなって思ってたから』


ありがとうございますって言いながら、
宮舘くんは自然と私の手を取った。

一瞬身体がビクって反応したけど、
友達の言葉を呪文のように
頭の中で繰り返して

繋がれた手から少しだけ力を抜いた。


『夜ご飯まで時間あるけど…どうする?』

『買い出し行きましょ』

『買い出し?』

『俺作ります。夜飯。』

『えぇ!?外に食べに行かないの!?』

『コンビニ食ばっかの先輩に、
俺が作ってあげます』

『部屋全然掃除してない!!』

『気にしないですよ、そんなの』

『私が気にする!』


ピーピー喚く私の手を引っ張って、


『早く家まで案内して下さいよ』


って言う宮舘くんに、
自分から夜ご飯に誘ったくせに

もう何でこんなことに…って思いながら
力なく駅までの道を歩き出した。





大学から何駅か離れたところにある
私のアパートまで
電車で移動して、

駅から家までの途中にあるスーパーで、
あれこれとオシャレな野菜を
カゴに入れる宮舘くんの横を歩いて

玄関の前で宮舘くんに5分ほど待ってもらって
部屋の中の散らかってたものを
押し入れにガンガン詰めて


『本当に汚いから…』


と、言って家に招き入れた。





部屋に入って1番に、


『この部屋、先輩の匂いしますね』


って言ってきて、
この人わざと私が恥ずかしがるようなこと
言ってるのかなって思った。





宮舘くんが作ってくれた夜ご飯は
どれも想像の範疇を越えた
オシャレな料理ばっかだった。


『…どうしました?』

『これ全部宮舘くんが作ったの?』

『いや、このジャガイモの皮剥いたのは
先輩ですよ?』

『そういう事じゃなくて…』


いや、もう本当にプロレベル。


ウチにあったただの白いお皿が
高級皿に見えるくらい盛り付けも綺麗。


おいしいおいしい言いながら
女子っぽく取り分けもせずに
むしろ宮舘くんに取り分けさせて
ひたすらにもぐもぐ食べる私を
宮舘くんは嬉しそうに見て、


『食べてる時のほっぺ可愛いですね』


って、また確信的な言葉を言ってた。







『先輩、大丈夫ですよ』

『嫌。駅まで送る』

『もう遅いから危ないですって』

『送る!』


少し困った顔をして
笑った宮舘くんに続いて
自分も靴を履いて外に出た。

鍵を閉めて振り返ると、
当たり前のように手を繋がれた。


湿気でジメジメする空気の中でも
宮舘くんとなら
暑さも汗ばみも関係なく、
ずっと手を繋いでいたいなって思った。


『宮舘くん、電車の時間何時だっけ?』

『42分発』

『もう1本遅いのないの?』

『そうやってもう3本遅らせてますよ』

『…そうだっけ』

『これが最終です』

『…ごめんね』

『謝らないで下さいよ』


口数が少なくなったと同時に、
駅の灯りが見えてきた。


『じゃあ…また連絡しますね』


もう最後は何もしゃべれなくなった私に
宮舘くんが優しく話しかけてくる。


『帰っちゃうの?』

『帰りますよ』

『……』

『…先輩?』

『…泊まってけばいいのに』

『え?』

『ウチ、泊まってけばいいのに』

『は?ダメでしょ!
女の子の部屋に男が泊まっちゃ!』


今まで私をなだめるように
話してたくせに急に慌て始める。


『…いいもん…』

『は?』

『宮舘くんだったらいい…』

『いや、ダメですよ!』

『だって…私、宮舘くんの事…ッ』


そこまで口にした瞬間に
ものすごい勢いで彼の手に口を塞がれた。


『待って!マジで言わないで!!』


もがもがと声を出す私に
気づかないくらいテンパってる
宮舘くんは手の力を緩めずに、


『大学受かったら言うって決めてんの!俺!
だからマジで俺から言わせて!!』


って大きな声で言った。


『…あ〜もうッ』


やっと私の口を押さえてた手の力を
緩めてくれた宮舘くんは、
頭をガシガシと掻きながらそう呟いて、
ギュッと私を抱き締めた。


『あーあ。帰りたくねぇなー…』

『帰らないでよ』

『次それ言ったらマジで怒る』


いつもと反対の立場に
ついクスクス笑っちゃう私に反して、
面白くなさそうな宮舘くんは


『ムカつく』


って言いながら
私の頬にキスをした。


『わッ!?』

『次会った時本当覚悟して下さいよ』

『覚悟!?なんの!?』

『じゃあ電車来るんで…またね』


やっぱり最後は意地悪く笑って、
駅に向かって歩き出した
彼のその背中に向かって

小さく“好き”って言った。




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