読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

福田くんってさ。【4】


---------------



『ほんっっとにありがとう、○○ちゃん!
今日はゆっくり休んでね!
じゃあ僕は本部へ行ってきます!』


私から受け取った書類を
大切そうに抱えながら
タクシーに乗り込んだアキラさんを見送ったのは
つい30分ほど前の事。


私はまた泊まり込んでデータ入力を仕上げた
ファミレスに来ていた。

やりきった自分へのご褒美として
ちょっと高めのハンバーグセットを
食べるためである。

朝から肉。それもセット。
贅沢極まりない。


そういえば先月の居酒屋バイトの帰りにも
自分へのご褒美でシュークリーム食べたなぁ。


と、自分を甘やかしまくってる事に
気づいたと同時に
居酒屋バイトというフレーズから
今朝までの出来事を思い出す。


あの後福田くんは本当に釣りの話を始め、
朝まで時間つぶしに付き合ってくれたのだ。


『そんで〜潮の満ち引きとか見て
ウズウズして〜』


時にケータイで魚や釣具の写メを見せながら
釣りについて話す彼の話は
何を言ってるのか全く理解出来なかったけど
子供のようなキラキラした
福田くんの顔がとても可愛かった。


付き合ってくれていた福田くんには
申し訳ないのだけれども
私は途中で寝てしまったらしく、

ハッと、目を覚ますと目の前に
頬杖をついて眠る福田くんがいた。

両手を顎につけて
まじまじと福田くんを眺める。


手がゴツゴツしててカッコいい。
時計も可愛らしい素朴なデザインで、
彼らしい印象を与える。

着ているスーツも、
背の高い彼によく似合っている。
襟と袖部分だけが白いブルーのストライプシャツに、
斜めに白のラインが入った青いネクタイ。
男の人のスーツにさほど詳しくはないので
ブランドとかは分からないけど、
センスがいい事だけは分かった。

きっと急に寝始めたっぽい
私に掛けてくれたのだろう。

肩に掛けられている
ネイビーのジャケットからも
清潔感のあるいい匂いがする。

なんか今までムカついていて
彼をちゃんと見なかったけど
すごくモテそう…


顔だって。
鼻高いし、まつ毛長いし。
ハッキリした顔立ち…


『…天パだけど…』


眠ってると思ってそうつぶやいた瞬間に、
パチッと目を開ける福田くん。


『…ッ!?』

『悪口言うなよ』


そう言っていたずらっ子のような顔で笑った彼は
また私の鼻をギュッとつまんだ。

今度はあまり痛くなかった。


『もうすぐ7時になるね。行きますか。』

『はい。本当にありがとうございました!』


そう言って立ち上がると
福田くんは私からジャケットを受け取りながら
伝票を手に取った。


『あ、伝票ください。』


手を出しているのになかなか渡してくれない。


『…あの…?』

『払わせるわけ無いじゃん』


当たり前のようにそう言って
レジへと歩き出す福田くん。


『いや、ダメです!私払います!
お礼にならない!払います!』


そう言ってるのにサッとお会計を
済まされてしまう。


『これじゃお礼になりませんよ…』


特に親しくも無いのに
一緒に時間を潰してくれて、
しかも気を使って話しかけてくれてたのに
途中で爆睡かまして。
挙げ句の果てに自分の分も含めた料金を
払わせるなんて。

自分に惨めになってションボリしていると
頭の上に大きな手がポンと乗った。


『じゃあさ、敬語やめてよ。』

『…敬語、ですか?』


女子にしては背が高い私でも
見上げる位置にある福田くんの顔を見る。


『うん。俺、敬語使われるの苦手なんだよね』

『…でも、』

『でも?』


なんだか腑に落ちないけれど


『…なら、お言葉に甘えます。
本当にありがとうございました。
ご馳走様です。』


そうお礼を言った私の頭に


『素直でよろしい。』


と、満足気に笑った福田くんの手が
また上に乗った。



そのあとファミレスの前で
じゃあ次までにその敬語直しといてね。
と言った福田くんと別れ、
アキラさんに書類を渡して今に至る。


『てか次なんてあるのか?』


独り言を言いながら
運ばれてきたハンバーグを口に運んだ。





福田くんの言った“次”とやらは
意外とすぐに来た。

まぁでも、
自分のせいで起こった“次”だったのだけど。


ファミレスでの一件があってから
半月ほどたったある日。

オフィスワークの方のバイトを
していた私は、お偉いさんの接待をしていた。

本部の人達へのプレゼン会場が
何故だかウチのオフィスになってしまい
みんな朝からバタバタ準備をしていたので
私が案内したり資料を配ったりと、
おもてなし係を任されたのだ。

難しい顔をしながら椅子に座って
書類を眺める、お偉いさんと呼ばれる
おじさん達にコーヒーを運ぶ。


…にしてもヤバイ。実にヤバイ。


完全に風邪だ。


先週あたりから怪しかったのだけど、
バイト続きで寝不足もあってか、
朝起きた瞬間から急激に加速した。
今はもう本当に立っているのがやっと。

目眩はするし、頭は痛いし、
さすがに今日はプレゼンと聞いて
いつものパーカーとデニムで
出勤するわけにもいかなくて
ヒールなんて履いちゃってるから
足元もグラグラ。


おまけにさっきからずっと鼻息が
んふんふ言っちゃってる。

これじゃ常に興奮してる
痴女だと思われるじゃないか。
そんなの嫌だ。


でも体調は悪くなる一方で
全てが終わる頃には私はもう
立つことすらままならなくなっていた。

みんなの前では気丈に振る舞っていたけれど
ビルの外に出た瞬間に膝から崩れ落ちた。


『ーーー…ッッ』


ゲロ吐きそう…。


汗が噴き出して息も上がってるのに
全身がガタガタ震える。すごく寒い。

動かない体を引きずって
側にあったベンチになんとか座る。


ふぅふぅ息を吐きながら
手すりにダラリともたれる。


家に帰らなきゃいけないのに…
とりあえず家に帰らなきゃ…


そう思うのに体の震えは止まらなくて
むしろさっきよりも酷くなっている。

昼過ぎのオフィスビルが建ち並ぶ通りは
もちろん人通りも多くて
好奇な目にさらされる。


とりあえず吐いた時に
すぐ拭けるように…


そう思って真っ白になった指先で
カバンの中のハンカチを取り出した時に
1枚の紙切れが地面に落ちた。


『…な、に…?』


落ちたその紙を拾い上げると
それは名刺だった。

会社名の下に書いてある
“福田 悠太”の名前。


いつの間に入れてたのよ…


いきなりいつもの出勤バックから
出てきたその名刺。
しかも手書きで名前の下に番号が書いてあるあたり
絶対わざと入れたって分かる。

そんなことを考えながら
もう限界で。
本当に限界で。


ハァハァ息しながら遠退く意識のなかで
ポケットからケータイを取り出し
少しだけ身体を起こして電話をかけた。






『はい。』


何コールかした後に柔らかい声が聞こえて
思わず涙が出そうになる。


『…あ…』

『はい?』

『…あの…○○、です…』

『ああ。名刺やっと気づいたんだ(笑)』


ケタケタ笑う福田くん。
でもすぐに私の異変に気付く。


『てかどうした?声やばくない?』

『…は…ぃ…』


絞り出すように言葉を発する
私の死にそうな声に少し焦ってるっぽい福田くん。


『…あの…』

『うん…』

『あ……あの…』

『うん、どうした?』

『気持ち…悪くて……』

『うん』

『ちょっと……お願いが…』

『迎え?』

『うん…ごめんなさい……』

『謝らなくていいから。今どこにいるの?』

『こないだのファミレスの近くの…ベンチ……』

『すぐ行く』

『本当にごめんなさい…』


通話が切れた事も確認しないで
手すりにまたダラリともたれる。


こんなこと頼むのは迷惑だって分かってる。
人に迷惑をかけないで、頑張って働いて、
強く生きていくんだって
決めたはずなのに…

それでもケータイを握りしめながら
福田くんが来てくれる安心感に少し涙が出た。






『○○!○○!』


頬を叩きながら、私の名前を呼ぶ
あの柔らかい声で目覚めた。


『○○…?』


グラグラ歪む視界の中で
福田くんの顔が見えた。


『…ふくだ…くん』

『大丈夫か?』

『ごめんなさい…』

『全然いいから』

『ごめんなさい…』

『歩ける?』

『ごめん…』


何を聞いても謝る私に苛立ったのか、
福田くんが私を持ち上げて肩に担いだ。

色気もクソもない
彼らしい抱きかかえ方だった。


『…はい、行くよ』


少し恥ずかしそうにそう言って歩き出す福田くん。
私は分からないけど彼はきっと周りの人からの
視線を受けながら歩いているのだろう。


『ふくだくん…』

『なあに』

『パンツ…見える…』

『花柄のパンツなんて
誰も見てないから安心しなさい。』

『…見てんじゃん…』


軽い言い争いの後、
再び襲ってきた全身の震えと寒さに


『…本当にごめんなさい…』


もう1回謝罪をして
私は意識を手放した。






起きた時には
なぜか見知らぬベッドで寝かされていた。

ベッドのすぐ横にある窓から外が見えて、
もう空には星が光っていた。


『…どこだ、ここ。』


ベッドからむくりと起き上がって
辺りを見渡してみる。
どこからどう見ても知らない部屋。

頭の中にはてなマークが
浮かびまくってる時に隣の部屋から
テレビの音が聞こえてきた。

たくさん寝たからか、すっかり回復した私は
普通にベッドから抜けた。

そーっと部屋から出ると
真剣な顔でサッカーの試合を観る、


『…たちゅみさん…?』


超意外な人物がいた。


『おお!起きた?ぐっすり寝てたね〜!』


部屋着と思われるTシャツと
スウェットを履いてるたちゅみさんは
お腹をボリボリ掻きながらこっちに来る。

なかなか大胆にTシャツの中に手を突っ込むから
お腹のへそピアスが見えて、
それがエロくて仕方ない。


『あの…えっと…?』

『ああ、福ちゃん?
もうそろそろ仕事終わると思うよ!

いやービックリしたよ!
今日俺休みだったから家でサッカー見てたら
いきなり福ちゃんから電話かかって来てさ〜

今から家行くって言うから何かと思ったら
女の子担いでんだもん(笑)

誘拐でもしてきたのかと思った!』


相変わらずのマシンガントークに
尻込みする。
でも聞きたいこと全部話してくれるから
今はとってもありがたい。


『仕事終わったら迎えに来るって言ってたよ!』


福田くんだけじゃなくて
たちゅみさんにまで迷惑掛けて…
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


『なんか…迷惑かけてしまって
本当にごめんなさい…
人の家だっていうのに爆睡してるし…』

『いいよいいよ!
ウチよく人泊まりにくるし!』


確かにたちゅみさんって友達多そう。


なんて思っていると、
たちゅみさんのケータイが鳴った。


『はい!…うん、…うん。
もう起きてるよ。
…あははは、大丈夫大丈夫!
…うん、分かった〜。はーーい。』


ときに私の方を見ながら話した
たちゅみさんは通話を切った。


『福ちゃんいま仕事終わったから、
すぐ迎えに来るって。
なんか飲んで待ってよっか。』


そう言って笑顔で冷蔵庫があるっぽい
キッチンの方に向かっていくたちゅみさんに、
また少し申し訳ない気持ちになった。


たちゅみさんが注いでくれたウーロン茶を飲みながら
全然分からないサッカーの試合を一緒に見てると
家のチャイムが鳴った。


『来たかな?』


そう言って私にニコリと笑ってから
玄関に向かうたちゅみさん。

玄関が開く音が聞こえて、
それから話し声が聞こえる。

かすかに聞こえるあの柔らかい声に、
少し恥ずかしくなってきた。
なんで電話なんかしちゃったんだろ。

悶々して三角座りした膝に
おでこを乗せていると、


『おーい。帰るぞ〜〜』


福田くんに呼ばれた。

バックを持って声のする方に向かうと、
スーツを着た福田くんが立っていた。


『調子は?』

『…もう大丈夫』

『なら良かった』


私の持っていた荷物を取った福田くんは
たちゅみさんとグータッチして、
じゃあな〜と、外に出て行く。

靴を履いて、笑顔で手を振るたちゅみさんに
深々と頭を下げてから自分も外に出る。


『…福田くん…ごめんなさい…』


前を歩く福田くんの背中に声をかける。


『謝りすぎだから(笑)』


振り返って笑う福田くん。
本当に申し訳なすぎる。

きっと私を迎えに来てくれた時は
仕事中だったのだろう。
わざわざ抜けて来てくれて、
仕事が終わってからまた来てくれて…

そう思うとボロボロと涙がこぼれた。


『あーあ。泣き虫だなぁ。』


彼はそう呆れながら笑って
路上駐車していた車に私を乗せた。

泣き虫と言われた私だけど
こんなに人前で大っぴらに
泣くのは本当に久しぶりだった。


『いい加減泣き止めば?』


車の中でもいつまでも泣いてる私に
福田くんが言う。


『…どっか寄ってみようか?
どこがいい?』

『…どこでもいい…』

『どこでもいいか〜
そんなこと言うととんでもないとこに
連れて行きますよ』

『…ッ…』

『嘘嘘(笑)コーヒーでも飲みますか。』


そう言って福田くんは
スタバのドライブスルーで
私にココアと、自分にホットコーヒーを買って
近くの空き地に車を停めた。


『…あったかいうちに飲みなよ』

『…いただきます…』


またご馳走になってしまった。

ズルズルと鼻水をすすりながら
ココアを飲む私に福田くんが話しかけてくる。


『頑張り過ぎじゃない?』

『…』

『体調崩すほど仕事詰めてさ…』

『…』

『前にも聞いたけどさ、
フリーターなのと関係してるの?』

『…』

『そんなに働いてどうするの?』

『…』

『…』


福田くんの独特な優しい雰囲気に飲まれて


『…あのね…』


私が話し始めたのは、
どうでもいい、小さなプライドの話だった。


『私ね…ずっと、東京に憧れてたの。』

『うん』

『だから一生懸命勉強して、就活して、
すごく頑張ったの。
そのおかげで東京に就職が決まった。』

『…』

『それが嬉しくて嬉しくてね、
家から出さないって言ってる親完全に無視して
勝手に住む所とかも全部自分で決めて
さっさと東京に出てきたの。』

『…』

『調子に乗ってたんだろうね。
なんでも自分1人で出来る気になってさ。

でも、現実そんなに甘くない。
私就職したところ、3か月で辞めたの。
直ぐについていけなくなって…
笑っちゃうよね…』

『…』

『収入もないし、1人で勝手に出てきたから
相談できる友達もいなくてさ

本当に明日生きていけるか不安になるくらい
ドン底まで行った』

『…親に言わなかったの…?』

『言えるわけないじゃん…
無視して勝手に出て来たんだもん。

…だからもう、綺麗事じゃないって。
とりあえずお金って思った。』


話し始めてからずっと我慢してた涙が
また溢れ始めた。


『人に迷惑をかけないで、頑張って働いて、
強く生きていくんだって思った。』

『…』

『何も余計なこと考えなくていいいいように。
ひたすら仕事詰めて。お金稼いで。

正社員と違ってフリーター
頑張った分だけお金入ってくるんだもん。

そりゃ、税金とか面倒くさい事はあるけど。
でもそんなの、気にならなかった。
親に反抗した手前、しっかり稼いでなきゃ
恥ずかしくて恥ずかしくて。』

『…』

『だから毎日毎日バイトしてるの』

『…』

『変でしょ、私。』


ここまで人に自分を見せるのが初めてで
いつのまにか
うつむき加減になっていた顔を上げたら、
そこには眉毛を垂らしながら
目尻いっぱいにしわを作って微笑んでる
福田くんがいた。


『そうだとしても、頑張り過ぎだよ。』


スーツの袖で、
乱暴に私の涙をガシガシと拭く福田くん。


『身体壊したら意味ないじゃん』


そう言った彼は、


『ちゃんと親とも話さなきゃ』


そう言って袖で今度は鼻水を
拭いてくれた。

福田くんの袖に鼻水をビロンと伸ばしながら
嗚咽を漏らす私に彼は


『不細工だなぁ』


と言いながらさらに眉毛を垂らして笑った。

その福田くんの顔をくしゃっとさせた、
子供のような笑顔に心臓が一度だけ
大きく跳ねた気がした。






【続く】



---------------