さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

福田くんってさ。【6】

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数年振りに聞いた親の声は
思った以上に普通だった。


福田くんのあの笑顔を思い出しながら
少しだけ震える手をギュッと握ってかけた電話は
呼び出し音を何回か鳴らして、母へとつながった。


『おー、おー、急にどうした〜
びっくりしたよ〜生きてたぁ?』


笑いながらそう言った大らかな母の声で
一気に張り詰めていたものが取れた。


『…ん。生きてた…』

『あんた連絡くらいマメに寄越しなさいよ〜
あとお正月くらい帰ってきなさい』


語尾を伸ばしながらすぐに説教口調になるのは
昔からの母の癖。
何も変わらない母に少し笑いが込み上げた。


『…ごめんね…』


今までのこと。勝手に家出たこと。
仕事辞めちゃったこと。それを伝えてないこと。
連絡しなかったこと。心配させてたこと。
全部含めてそう言った。


『そんな事よりちゃんと食べてんの〜?』

『…うん、食べてる』

『あっそ、なら大丈夫ね〜とりあえず
元気でやってそうで良かったわ〜』


きっと母もいろいろ思うことはあるのに
3年以上も連絡を絶っていた娘に対して
あえて何も追求せず、会話してくれた。

縁を切られただの怒っているだの
そう思っていたのは
私だけだったみたい。


やっぱり家族の絆ってすごいな…
親って偉大だな…って感じた。


『来月…帰ってもいい?』

『勝手に帰ってこればいいでしょうよ、
あんたの家なんだから。』

『…じゃあ、帰る』

『はいよ〜』


当たり前のことだけど、
“あんたの家”そう言われたことが本当に嬉しかった。


3年越しに取れた親との確執を
彼のおかげだと分かっていながらも
すぐには福田くんに報告出来なくて
数日後に福田くんからかかってきた電話で
やっと報告した。


『言うの遅えよ(笑)』


少し怒られたけど、


『よく頑張りました』


って褒めてくれて年甲斐もなく照れた。





親に伝えた通り、2月の祝日に合わせて
バイト休みを取って連休にして実家に帰った。
少し緊張したけど、家に着けば意外と普通だった。

さすがに父親にはめっちゃ怒鳴られたけど、
最後は少し目に涙を溜めながら


『たまには家に帰ってこい』


って言うもんだから、照れ隠しに


『お父さん会わない間に少しハゲたね』


って言ったらもっと怒鳴られた。

私が帰ってくるのを母から聞いたのか、
なぜかもう結婚して家を出ている6つ上の姉も
子供を連れて遊びに来た。


久しぶりの一家勢ぞろいに
お正月の福田くん家。とまではいかなくても
それに近い雰囲気に少しニヤニヤした。


こたつでぬくぬくしてみかんを食べていると、
バイト3つ掛け持ちしてることを
ブツブツ文句言ってくる母親がいきなり


『いい人でもできた?』


って聞いてきた。


『いや、別に…いないけど』

『彼氏くらい作りなさいよ
バイトばっかしてないで〜』


母に聞かれた瞬間に
福田くんの顔が一瞬浮かんだけれど
私の彼に対するそれは何というか
頼れる人に向ける尊敬の念なんだよなぁ
そう思った。








『○○さん久しぶりっすねぇ。
…なんか、少し太りました?』


2月も下旬に入って、日が延びてきた頃、
居酒屋バイトで後輩くんと久しぶりにシフトが被った。
古株な私と後輩くんは被ることが少ない。

なのに久々の再会で、
出勤してきた私を見て開口1番にそう言った。
失礼な奴。


『うるせえ』

『だって顔丸いっすよ』

『年始からずっとお餅食べてるからね』

『年始からって今2月ですよ』

『なかなか減らないんだよ、お餅』

『餅っすか』

『福田餅』

『なんて?』

『君が私の個人情報を流しまくった福田くんだよ』


スタッフ用の制服に着替えていた後輩くんが
私の言葉に少しおびえた顔をした。


『やだん。そんな怒んないでくださいよう…』


ジッと後輩くんを睨む。


『俺だって言っていい人と、ダメな人の
区別くらい出来ますよう!
間違ってもシャアとかには言わないっすよう!』


あの赤いジャケットにサングラスをかけて
高級腕時計を見せ付けて、
お得意様という権限を振りかざしてくる
あいつを思い出して一気に気分が悪くなる。


『…シャアに言ってたらお前のシンボル
ちょん切ってるわ!!!』

『痛い痛い!痛いよ○○さぁん!!』


股間を押さえながら叫ぶ後輩くんと
ゲラゲラ笑いながら
2階にある更衣室から出て階段を降りて、
1階のキッチンへ行くと、
店長と社員さんの2人がいた。


『おはようございまーーーす』


朝も夜も関係なくそう言うと決まっている
挨拶を後輩くんと共に口にした。
同じくおはようと返してくる2人。

線の細い店長とガッチリした社員さんが並ぶと
なんだかちょっと笑える。

ハンディの準備をしていると
キッチンの奥からこちらを覗く店長に
チョイチョイと手招きされた。


『なんですか?』


近づいて話を聞く。


『○○ちゃん、今日バイトの後時間ある?』

『…特に予定は無いですけど』

『ちょっと付き合ってほしいんだよね』

『告白ですか?』

『気持ち悪いこと言わないで』


今年45になるらしい店長が笑って、
それに僕は愛妻家だから。
とスーパーいらない情報を付け足した。


店長はたまにバイト終わりに
長く勤めてるからなのか、私と後輩くんには
ラーメンや牛丼など奢ってくれる時がある。

再び仕込みを始める店長を見ながら
今日の気分はラーメンかな。
と思いながら私も仕事にとりかかった。







『え、何すかこの店』


早めにバイトを上らせられて連れてこられたのは
ちょっと高そうなレストランだった。


『まぁまぁ…』


何故か諭してくる店長。
しかも居酒屋バイトのときはすぐに
制服に着替えるから
いつもジーパンにスニーカーの私。
今は完全にこのお店には不釣り合い。


『私こんなカッコだし』

『まぁまぁ…』

『いつもの牛丼とかでいいじゃないっすか』

『まぁまぁ…』

『なんなんすか』

『もう待ってるから…』

『…は?』


店長の言ってる意味が全く分からなくて
ひたすらに困惑する。


『もう待ってるんだよ…』

『何言ってんすか』


店長がすごくすごく言いにくそうに
口にしたその人物の名前に全身がゾッとした。







『いらっしゃいませー!』


綺麗なサロンエプロンをした
ウエイターさんが出迎えてくれた。


先ほど店先で、
店長からその名前を聞いて、憤怒の表情になり


『帰るッッ!!!!!!!』


と声を荒げた私を店長が半泣きで引き止め


『本当にお願い!本当にお願い!
1回だけでいいから!本当に!!
時給上げるから!!お願い!!!!』


って懇願され、
息を切らした私が雇われの身とは
思えないほどの目を向けて


『その言葉忘れないでくださいよ…』


と、ワナワナと呟くという一悶着を繰り広げた。


ウエイターさんがエスコートしてくれている後ろで

時給のためなら時給のためなら。
飯食って解散飯食って解散。

ずっとそう自己暗示していたけど、
通された個室で1人椅子に座って待っていた
シャアを見た瞬間に吐き気が催した。


まじでシャア。
まごうことなきシャア。
さっき店長が口にしてた通りシャア。


『呼び出しちゃってごめんね、○○ちゃん!』


そう微笑んだ奴の顔に
本気で吐いてやろうかと思った。




事の真相は、こうらしい。
私がシフトに入っていないときに
お店に飲みに来たらしいシャアは
いろんなバイト生の子達に私の情報を
聞きまくったそう。

でも後輩くんが、


『あの人に○○さんの事は1つも教えちゃダメ』


と新人を始め、口が滑りやすそうな
おばちゃんバイト生にも言ってくれていたらしく
みんな答えなかったそう。

なのに懲りなかったのかシャアは
店長を直々に呼び出し、
私のことを聞いてきたらしい。


『バイト生のプライベートまでは
知りませんので…』


そう濁してもしつこく食い下がるシャア。
さすがの店長ももう無理、限界。
思った時に


『食事の場所を1回でも作ってくれれば
もうこんな事するのはやめる。』


そのシャアの言葉にまんまと乗せられ
今この状況に至ったのだ。


後輩くんのいい奴っぷりに感動しながら、
大人のあんた何やってんじゃ!!!!
と、店長にブチ切れた。


『○○ちゃん、少し太った?』


後輩くんと同じことを聞かれたのに
遥かにムカつく。


『…はぁ』

『でも女の子は少し丸い方が可愛いよね』

『…はぁ』

『○○ちゃんは嫌いな食べ物ある?』

『…いや…』

『なんでも注文していいからね』

『…うぃ…』


不機嫌丸出しのテンションで
シャアの方を見もせずにメニューを開いた。

なんでもいいって言ったし。
と、自分を正当化しながら嫌味まがいに
あれこれ注文してやった。

そして運ばれてきた料理には
全部一番に箸をつけてやった。

シャアに嫌われるために
マナーが悪い人間を演じるのはちょっと楽しかった。


シャアに質問攻めにあったけれど、
バイトを掛け持ちしている事と、
年齢以外はなんとか教えずに済んだ。


大体の料理も食べ終わり、
店長が相槌もまともに打たない私の代わりに
気を使ってシャアの傲慢さ溢れる
自慢話を聞いていたが
私はバックから覗くケータイが
気になって仕方なかった。


今日は福田くん電話かけてきてくれるかなぁ…


ずっとそう思いながら
早くこの時間が終わる事を願った。


『…すみません、ちょっとお手洗いに…』


店長が席を立った。
このクソシャアと2人きりには
して欲しくなかったけど、
今まで頑張ってシャアの相手をしてくれてたから
さすがに行かないでとは言えなかった。


『お腹いっぱいになった?』


早速話しかけてきた。


『…はい』

『お仕事してる時と雰囲気違うね』


無愛想に振舞っていた事が
気にくわないご様子のシャア。


『そうですか?』


また猛烈に気分が悪くなった。
ダメだ。この空間が耐えられない。
こんなところにいちゃ。
早く帰りたい。本当に早く帰りたい。

うつむく私の視界に入ってきたケータイが
チカチカと光っていた。


…きっとこの時間だから福田くんだ…


電話に出たい気持ちと、
かけてきてくれた嬉しさに気が紛れて、
少し微笑んだのをシャアは見逃さなかった。


『いいね、その顔』

『…はい?』


顔なんて見たくないけど、
いきなりのその発言にパッと顔を上げると

シャアはなぜかドヤ顔で笑っていた。


『あんまりその無邪気な可愛い顔、
他の男には見せないでね?
僕以外には仏頂面してればいいんだよ』


そう言われた瞬間に全てがつまらなくなり
ムッとシャアを睨む。


『そうそう!そんな顔!』


楽しそうに笑うシャア。


なんなんだこいつ。
なんでお前なんかに他の男の人への
対応を決められなきゃならないんだ。


『○○ちゃん、絶対俺みたいのと
付き合った方がいいよ』

『…』

『俺ら合うと思う!』

『…』

『俺こう見えてモテるの』

『…』

『お金も持ってるよ?』

『…』


もうぶん殴ってやろうかと思っていた時に
タイミング良く店長がトイレから帰ってきた。


『さて、そろそろ出ましょうか。
○○ちゃんも仕事終わりで疲れてるみたいだし』


未だに睨み続ける私を見ながら伝票を手にする。


『今日は本当にありがとう。
店長さん、○○ちゃん。』


こちらこそご馳走様ですと言いながら
ガラケー並みに深々とお辞儀している
店長の横でペコっとほんの少しだけ頭を下げた。


『また、ぜひ』


お会計をブラックカードで済ませたシャアは、
そう私たちに言い残しタクシーに乗って帰っていった。

駅まで歩き出す私と店長。


『…』

『…』

『…店長…』

『…はい』

『時給の件忘れないでくださいね』

『…はい』

『…でもさっきはシャアの相手してくれて
ありがとうございました。助かりました。』


やっと解放されて安心感に包まれながら
そういう私に、店長はずっとずっと


『ごめんね』と『ありがとうね』


を繰り返していた。


いつの間にかシャアが店長に渡していたらしい
2人分のタクシー代を受け取って家路に着いた。


家についてまず私は
服を着替えるでもなく化粧を落とすでもなく
福田くんに電話をかけた。

やっぱりレストランでのあの電話は
福田くんだったからだ。


『はいよ』


電話から聞こえる福田くんの声に
自然と笑顔になった。


『ごめんね、遅くに』

『全然。遊びに行ってたの?』

『なんか良く分からない』

『分からないってなんだよ(笑)』


福田くんの柔らかい声に癒されながら、
さっきまでのイライラした出来事を
全部福田くんに話した。

このイライラを吹き飛ばすために
誰かに聞いて欲しかったから。


『…そんなに嫌いならなんで飯行ったの?』


福田くんなら面白おかしく
笑い飛ばしてくれると思ったのに
意外にもその質問が返ってきた。


『…え?』

『なんで飯行ったの?』


ちょっと低くなった彼の声に身構える。


『店長が…』

『断れば良かったじゃん』

『断った…けど、』

『けど何?』

『…ダメで…』

『自業自得じゃん』


微妙な空気が流れる。


『…』

『…』

『福田くん…なんか怒ってる…?』


ちょっとした沈黙の後に
やっとそれだけ口に出来た。


『怒ってませんよ、別に』

『…明らか怒ってんじゃん』

『怒ってません』

『ならいいけど…』


不貞腐れながらそう口にした私に
福田くんが深いため息をひとつついた。


『明日のバイトは?』

『…居酒屋、だけ。』

『なら明日行く』

『…』

『待ってて』


福田くんがこんなに怒る理由も


『とりあえず気をつけなよ』


彼のその言葉の意味も分からないけど

ちょっと怖い福田くんの雰囲気に


『うん』


とだけ口にした。



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福ちゃん出番少ねぇw