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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

福田くんってさ。【12】

ジャニーズ 妄想 長編

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『女ってのはこうも変わるものなのかねぇ…』


3ヶ月ぶりにオフィスの方に
出勤した私をまじまじと見ながら
アキラさんがそう言った。


『アキラさん〜そこは可愛くなったって
言ってあげないと!』


私の横に立つ姐さんが頬を膨らましながら
アキラさんに注意する。


『でも実際のところ自分でも思いますよ、
化けてるなぁって』


笑いながらそうフォローしてあげると
アキラさんは少し安心した顔をしながら
うん、でも可愛いよって付け足したように言ってきて
もっと姐さんに怒られた。





自分のデスクに座ってパソコンを立ち上げる。

ふと窓に目を向けると、
向かいのビルの窓に反射する太陽の光が眩しい。


下を見ると日傘を差しながら
歩いている人が見えた。


季節はもう真夏だった。


あんなに愛用していたコートもマフラーも
もうクローゼットの奥。


『なんか、早いなぁ…』


ボソッと呟くといつの間にか隣にいた姐さんに


『なに年寄り臭いこと言ってんのよ』


って笑われた。






クッソ暑い中歩いてビルまで出勤して
オフィス内では寒すぎるくらいに
効いてる冷房でお腹を壊さないように
ひざ掛けをかけて。

そんな日に少しだけ慣れてきたある日
アキラさんが大きな声で叫んだ。


『明日、飲み会やるよーー!!!
○○ちゃんとアネゴのお帰りなさい会!!』


ワー!と言う声がオフィス内に響く。


『え?何?奢り?アキラさんの奢り?』

『え!?まじすか!?いいんすか!?』


私と姐さんの声に余計盛り上がりを見せる
オフィス内。

一瞬『げっ』て顔をしたアキラさんだったけど


『〜〜ッッ…今回だけだからね!!!!!』


大きい声で叫んで
オフィス全員で天高くガッツポーズをした。


『明日クマも来るらしいわよ。』


みんな飲み会が楽しみなのか
奢りが嬉しかったのか、

どこかウキウキしながら仕事するなか、
姐さんが私に耳打ちしてきた。


『あれ?クマさんこっち来てるんですか?』

『たまたまね。まぁまたどっか行くだろうけど』

『バイヤーさんは大変ですね、国内外飛び回って…』


ヘルプに行った時も忙しそうにしていた
クマさんを思い出す。


『アキラさん喜ぶだろうなぁ〜』


嬉しそうにはしゃぐ姐さんは
本当にクマさんが可愛くて仕方ないんだなって
思って、クマさんに少し嫉妬した。







『○○さん、お久しぶりです。』


飲み屋に私たちより早く着いていたクマさんは
今日も敬語を崩さずに私に挨拶してきた。


『クマさん、お久しぶりです。
こっちにいらしてたんですね』

『1ヶ月くらいはこっちにいる予定なんです。
今日は参加できて嬉しいです』


相変わらずニコニコしながら
私の隣に腰を下ろした。

彼が近くに来ると柔軟剤の匂いがする。
この匂い、嫌いじゃない。


『今日は主役って聞きましたよ、○○さん』

『一応、私と姐さんが主役みたいだけど…』


そう口にしながら周りを見渡す。
周りにはアキラさんの奢りでテンション高めに
お酒やら食べ物やらを注文しまくる先輩たち。


『…そうでもなさそうですね』


そう言った私に、ははっと軽く笑ったクマさんは


『とりあえず、○○さんお帰りなさい』


そう微笑んでグラスを私の前に差し出してきた。

こっちにはいないクマさんに何故か
お帰りなさいと言われて
ちょっと違くねぇか?って思ったけど
余計なことは考えずにそのグラスに
自分のグラスを当てた。

カチンと2つのグラスが音を立てた。



久しぶりにクマさんの顔を見たアキラさんは


『おっきくなって…』


と、お酒のせいもあってか
真っ赤な顔で少し泣いていて
姐さんだけじゃなくてアキラさんも
取っていかれた気がして
またクマさんに少し嫉妬した。


アキラさんが開いてくれた
“お帰りなさい会”とやらは蓋を開ければ
ただの飲み会で、

でもいつもとは違って奢りだってこともあってか
みんなテンションがやたら高い気がした。


その雰囲気が楽しくてあんまり強くないくせに
調子乗って飲みすぎた。


やべぇ。なかなか気持ち悪い…


コッソリ部屋を出てトイレまで歩くけど
微妙にトイレから遠くて、
少し彷徨ってからTOILETの表示を見つけた。


やっと見つけた安心感に
少しだけ吐き気が込み上げてきて
慌ててドアに手をかけた。


それを開けて駆け込んで、
洗面台の前で化粧を直している
女の人2人の後ろを前かがみで
口元を手で押さえながら足早に駆け抜ける。



個室のトイレに飛び込む直前に
ピンクのネイルが見えた気がした。



飛び込んだ個室トイレの中で
一気に毛穴が開く。
心臓が尋常じゃないくらい早く動く。


ネイルなんて月ごとに変わるじゃん…ッ
たまたまピンクだっただけだよ…
ピンク好きな女の子なんてたくさんいるじゃん…

こんなとこでバッタリなんて…ッ


『てゆうか昨日さ〜』


その声を聞いた瞬間、
身体が異常なほどにビクンッと震えた。


…あ、あの人だ…


必死に自分に言い聞かす私の考えは
一気にかき消された。


気持ち悪さなんてどっかにいって
口元を押さえたままで息を殺した。

そのちょっと甘めの高い声に
忘れかけていたあの時の記憶が蘇る。


こっちのことなんてもちろんお構いなしに
繰り広げられるどうでもいい会話と
化粧ポーチを漁るカチャカチャという音。
小さく震える私の身体。


いつまでも化粧直してないで
出てってよ…


そう思ってる私に


『ねぇ、そう言えば
同期の彼とはどうなったのよ〜』


1番聞きたくない話題が耳に入る。


『え〜、まぁ……んふふふ』

『何その幸せそうな顔!
ちょっといろいろ聞かせなさいよぉ!』


体の震えが止まる。
ただ、目の前が真っ白になった。

もう会話の内容なんてどうでもいい。

本当に出てって欲しい。


楽しそうな高い声に耐えられなくなって
わざと個室の中からオエッて声を出した。

少しの沈黙の後、


『マジ汚い…』


ピンクネイルの女のうんざりした声と共に
扉が閉まる音が聞こえた。

その音に一気に力が抜けて壁にもたれた。
大きく息を吐き出しながら
しゃがみこんで顔を手で覆う。


…幸せそうな顔、かぁ…

あの人…福田くんと付き合ったんだ…


もっと悲しんでも良いはずなのに
ちっとも涙が出てこなかった。

ただ、胸にぽっかり穴が開いて
呆然とした。



『○○さ〜ん!大丈夫ですかぁ〜!?』


どのくらいの時間が経ったのか、
クマさんが私を呼ぶ声にふと我に返らされた。

女子トイレだから中に入れないクマさんは
扉の向こう側からドアを叩きながら
大きな声で私を呼びかけていた。

急いで立ち上がって、外に出る。


ドアを開けると案の定、
そこにはクマさんの姿があった。


『吐いちゃいました?』


心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

全然吐いてないけど
用も足してないけど

なんかもっと凄いことが起こった気がするけど…

否定して色んなことを説明するのも面倒くさくて


『はい。』


と、小さく返事をした。

私の顔を覗き込むクマさんが
もっと心配そうな顔を私に向けた。


席に戻った後もクマさんはずっと私の隣にいて


『酔ったら言ってくださいね!
いや、酔う前に言ってください!』


って何回も言って来て、
本当は全然吐いてもないのに
そこまで心配してもらって
なんだか少し申し訳なかった。




『よーし、にじかーーい!!!』


本当に全員分のお会計を済ませてくれた
アキラさんはデロッデロに酔っ払っていて
男の先輩たちに肩を借りながらそう叫んだ。


『いいなぁ、俺もこっち戻りたいなぁ…』


隣でクマさんが小さくそう呟いて
クマさんに姐さんとアキラさん、
大好きな2人を取られた気になってた私は
帰ってこなくていいし…
って思いながら少し頬を膨らました。


『はいみんな行くよぉーーー!!!!』


アキラさんの舌ったらず気味の声に
二次会へと歩き出した集団を
手を振りながら見送っていると
その集団に付いて行こうとしたクマさんが
足を止めてこちらを振り返った。


『あれ?行かないんですか?』

『はい、姐さんにはもう言ってあります。
クマさん楽しんできて下さいね!』


あっさり行かないと口にした私に
少し目を開くクマさん。

お疲れ様でした。と声をかけて
私はクマさんたちに背を向けて駅に歩き出した。



地下鉄のホームで電車が来るのを待つ。

線路を挟んだ向こう側のホームにいる
カップルが目に入った。

身を寄せ合って幸せそうに笑っている。
彼氏の表情がすごく優しくて、
彼女のことを大切にしているのが
こっちにまで伝わってきた…


その2人が福田くんとピンクネイルの女に
被って見えてくる。

私にしたようにあの女の人と
毎日電話したりしてるのかな。

肩に担いだり、髪を撫でたり
してるのかな。


胸にぽっかり空いた穴が
余計に広がって、
なんだか息苦しくなってくる。


胸を押さえて少しだけ俯くと、
後ろから勢いよく両肩を掴まれて支えられた。


驚いて振り返ると


『やっぱり調子悪いんじゃないですかッ』


慌てた様子のクマさんがいた。


『戻ってきて良かった…送ります!』


クマさんには悪いけど今は本当に
1人になりたい。

1人になったところで何も解決しないけど
とりあえず1人になりたい。


『大丈夫です…』

『ダメです、送ります。』

『大丈夫です、本当に…』

『送ります』

『大丈…ッ』


何回も拒否の言葉を口にする私の手を
クマさんがギュッと握った。


『…送ります』

『……』


力強く握られた手に
何も言えなくなった。



電車の中でも駅に着いてからも
一切会話は無くて、でも手は繋がれたまま
クマさんは家の前まで送ってくれた。

家の前で足を止める。
同じく足を止めるクマさんの前に立つ。

それでも手は離してくれない。


『ありがとうございます…
ウチ、ここなんです』


向かい合っているのに手は繋いでる
不思議な状況。


『あ、ここ。』

『はい』


さっきからずっと
手を離してくれそうにないクマさん。

いつものニコニコ顔でもなく、
だからって怒っている顔でもなく

ただひたすらに一点を見つめている。


…ちょっと、何がしたいか分からない…


さすがにこの状況が本当に謎すぎて
口を開こうとすると、
私より先にクマさんの声が聞こえた。


『○○さんってたまに分からないです…』


…いや、分からないのは今のあなたですよ。


変に冷静な私は心の中で小さくツッコむ。


『楽しそうに笑ってるかと思ったら
1人ですごく悲しそうな顔するし』

『……』

『何か大きなもの抱えてますよね』

『……』

『でもあまり自分のこと人に話さないから
それが何か分からないんです』

『……』

『どれが本当の○○さんなのか分からないんです』


本当にこの人が何がしたいのか分からない。

繋がれた手だけやたら気になって
とりあえずそれだけでも離して欲しくて
掴まれている手に力を入れようとすると、


『好きです』


クマさんの力強い声が私に届いた。


『…え、』

『好きです。○○さんの事が。』


さっき私が離そうとした手を
さらに力強く握った。


『俺にだけは本当の○○さんを見せて欲しい。
抱えてるもの全部俺が受け止めたい』


初めて敬語を使わないで私に話してくる。


やっとこっちを見たクマさんは
声と同じくらい力強い視線を私に向けてくる。

その視線におもわず固まる。


動けないでポカンとした顔で
クマさんを見つめる私の手を
繋がれたままの彼の手が少しだけ引き寄せる。


近づいたその距離に
柔軟剤の匂いが私に届く。

伏し目がちになりながら
少し傾けて顔を近づけてくるクマさん。


どどどどどどど、、どうしよう…!!!


直立不動のまま脳内フル回転する
私にどんどん近づいてくる。


あ、もう…キス、しちゃう……


無意識的に唇にグッと力を入れて
目を閉じたクマさんの顔が
視界いっぱいになった瞬間に、


びっくりするくらい近い距離を
バイクが通り抜けて行った。


思わずその近さと吹き抜ける突風に身を屈めた。

同時に離れる繋がれていた手と
私とクマさん。


『び、びっくりした…』


本気で轢かれるかと思うくらいで
横を通り過ぎたバイクの
近さとスピードにおもわず声が出た。

遠くに光るバイクのテールランプが
なんだかやけに目に付いた。


『…まいったな…』


少しだけ気まずそうな顔をしたクマさんは、


『俺、本気なんで。』


と、また敬語に戻った口調で私に告げると
ケータイ番号とメールアドレスを書いた紙を
私に差し出した。


『これ、俺の連絡先です。』


いつまでもその紙を見つめたままの
私の手を取ってそれを握らせると
深く礼をして帰っていった。


再び動けなくなって固まる私が
我に返って家に入ったのは、
クマさんが去ってから軽く10分は経ってからだった。





***




『○○ちゃん!!どこ〜〜??』

『姐さぁん…!ここですぅ!』


人混みを掻き分けて姐さんの袖を掴む。


『なぁによ、この人の多さ〜』


姐さんは文句を言いながら
私のヨレヨレになった髪の毛を
優しく梳かしてくれる。


ごった返す大量の人。
飛び交う屋台からの呼び声。
楽しそうな笑い声。


私は姐さんに誘われて花火大会に来ていた。


誘ってくれた姐さんに
花火大会なんて中学生ぶりだ、と伝えると
すごーくビックリされて


『じゃあ絶対行こう!強制!!!
浴衣も着よう!!』


と、なぜか彼女の
気合いを入れてしまった。


仕事終わりに姐さんが、家から持ってきてくれた
紺の浴衣を着付けてくれた。


『その浴衣あげる。アタシもう着ないから!』


普通なら遠慮するべきなんだろうけど、
紺の生地にピンクの花が咲いている
その浴衣が可愛過ぎて、思わず


『え!?いいんですか!?』


と大きな声を出した私を
姐さんは『素直…!』とゲラゲラ笑った。


黄色の帯を締めて
今まで着ていた服を入れられるように、と
姐さんが少し大きめの籠バックを貸してくれた。



そして同じく浴衣を着た姐さんと
意気揚々と屋台が並ぶ神社へ来たけれど…


本当にすごい人。


物なんて買って食べられる状態じゃない。

もう着いて1時間近く経つのに
未だに人混みの中をウロウロしてるだけ。


『○○ちゃん、ちょっと外れようか』


耳元で大きく叫んでやっと聞こえる声で
姐さんが言った。

コクコク頷いて姐さんの後を追って
人混みから外れた。


『はぁ〜〜やっと息できる〜〜』


あんなに人混みに揉まれたというのに
相変わらず完璧美人な姐さんは
ケータイを取り出して操作し始めた。


『とりあえず写真でも撮っとこうか』


カメラを起動しようとした姐さんが
ケータイ画面を見ながら


『…えぇッ!!!???』


叫んだ。


『ど、どうしたんですか…!?』


ケータイ画面を見たまま
慌てふためく姐さんに声をかける。


『いっ、今、本部から重役の人が来てて…ッ』


ああ、あの普通のおじいちゃんみたいな
スーパーお偉い様か。


『アキラさんが今から会食行くんだけど
アタシも一緒にどうかって…』

『おお!!!』

『…え、どうしようッッ』


私に気を遣ってるであろう姐さんは
ケータイ画面と私を交互に見る。


『姐さん、何言ってるんですか…』


本当に何言ってるんだか、この人は。

姐さんが会社を誰よりも愛していて
仕事に誇りを持っているのは
一緒に仕事していて分かる。

男性社員なんかに負けないくらいバリバリで
キャリアだって誰もが認めるほどあるのに
その評価にあぐらをかかずに
私みたいな後輩にも優しくしてくれる
最高の先輩。


その先輩が役職付きを狙ってると言った。


そう私に話してくれた。

今、まさに自分をアピールするチャンスが
目の前に来てるのに
それを邪魔する後輩がいるはずないじゃないか。

私は姐さんにどれだけのことを
してもらえたと思ってるの?
私だって何かしたい。
こんなところで気を使わないでよ。


『早く行ってください!』

『え、でも…』

『私、姐さんの物になったあの部署で働くの
すごく楽しみにしてるんです』

『…○○ちゃん…』

『行ってください!』


笑顔でそう言うと、
姐さんは私以上に飛び切りの笑顔で


『ありがとう…!!』


と言って、
ケータイを耳に当てながら走り出した。


前に進む姐さんの姿が眩しくて
そこから目が離せなくて

姐さんの後ろ姿が見えなくなるまで
その場に立ちすくんでずっと見てた。


『頑張れ。姐さん。』


誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。











さて、どうしよう。
一人ぼっちになってしまった。

姐さんを気持ちよく見送ったのは良いものの、
私は今この状況をどうするか悩んでいた。


悩んでいるって言っても、
答えは明白で…


『帰るか…』


独り言を言った私のバックの中で
ケータイが鳴った。


姐さんかな?


そう思ってケータイ見ると、
まさかのクマさんからだった。

ケータイを起動すると、
あだ名通りクマのプーさんをアイコンに設定している
クマさんからラインが送られてきていた。


“今先輩から連絡来ました!”

“ちょっと待たせる事になっちゃうかもしれないけど…
俺そっちに向かいます!”

“○○さんさえ良かったら合流しませんか?”


姐さん…クマさんに連絡したんだ。

きっと姐さんはクマさんから私に告白したって
聞いてるんだろうな…

私とクマさんが上手くいけばいいって
思ってるのかなぁ…



お帰りなさい会の後、家まで送った私に
連絡先を書いた紙を握らせたクマさん。

でも、自分からは連絡出来ずにいたら
痺れをきかせたのか、
クマさんの方から連絡が来た。


“すいません、先輩に聞いちゃいました(笑)”


可愛いスタンプと一緒に送られてきた
そのメッセージになんだか少しだけ安心した。


その日からちょいちょいと
ラインが入るようになって、

でも内容はこんなの食べましたよ、とか
道端で猫が寝てました、とか

どうでも良い事ばっかだった。

Twitterじゃねぇよ…(笑)
って少し思ったりした。



画面を見つめながら思う。


まだクマさんへの気持ちが明確じゃないのに
彼にこの場に来てもらうのはどうなんだろう…


クマさんはすごく優しい。
いつもニコニコ笑っていて、
周りに気も使えて。


そんなことを考えながら
さっきの眩しいほどの姐さんの顔を思い出した。

人が前に進む瞬間。
一歩踏み出す瞬間。


…クマさんとのこと、もっと前向きに
考えてもいいのかな。

…私も前に進んでみようかな。


いいじゃないか、クマさん。
新しく恋を始めるにはもったいないくらいの人。

クマさんに告白された時だって
ビックリはしたけど
不思議と悪い気はしなかった。


そんな身構えずに、まずは2人で会うだけでも。



小さく決意して、
連絡を返そうとした瞬間に
大きな声で名前を呼ばれた。


『…へ?』


どこから聞こえたか分からずにキョロキョロする。

でも確実に近づいてくる
私の名前を呼ぶ声は、


『○○ちゃん…ッ!』


掴まれた肩と共に耳元で途切れた。

振り返ると、そこには


『た…ちゅみ、さん…?』

『○○ちゃん!!』

『…は、い…』

『○○ちゃん!!!!』


汗をかきながらすごく嬉しそうに笑う
たちゅみさんがいた。


『○○ちゃんだぁ!○○ちゃん!!』


ひたすらに私の名前を連呼するたちゅみさん。
なんだかよく分からないこの状況。


『友達と来てるの?』

『今はひとりで…』

『待ち合わせ?』

『いや、帰るところです…』

『え!?なんで!?』

『一緒に来てた人が急用出来ちゃったので…』


そう言うとたちゅみさんはもっと嬉しそうに
笑うと私の手首を掴んだ。


『なら一緒に花火見ようよ!』

『…え?』

『せっかく来たのに花火見ないで帰るの?』


特に花火に執着もないから
普通に帰ろうとしてた私。


『こっちおいで!ご飯食べながら一緒に見よ!』


もうほとんど決定事項のように
私を引っ張りながら歩き出すたちゅみさん。

断る暇も与えてくれなかったから
そのまま引きずられるように
たちゅみさん付いて行った。



人混みを掻き分けて、
少しだけ歩いた先に簡易テーブルや椅子が
たくさん並んでるビアガーデンのような雰囲気の
スペースが見えてきた。


こんな場所あったんだ…
ゆっくり座れるしすごくいい場所じゃん…


そう思いながら私の手首を掴んでいない方の
たちゅみさんの手に握られている
大量の袋が目に入った。


『…それ全部食べ物ですか?』

『これ?そうだよ〜』

『たちゅみさんめっちゃ食べますね…』

『ああ、違う違う!俺だけじゃない!
あいつらちょー食うからさ〜』


…あいつら?

……それって…ッ


その言葉を聞いた瞬間に
息を呑んで焦った私に


『ハイ、到着〜』


と言うたちゅみさんの声が聞こえて、
余計に身を硬くして焦った私の視界に
飛び込んできたのは、


越岡さんと、松崎くんと、


……アンパンマンだった。



『○○ちゃんじゃん!』


越岡さんが高い声を出しながら
驚いている。


『辰巳、どうしたの?』

『さっきねぇ、そこで見つけたから
攫ってきたの。』


松崎くんの質問に
得意げに笑うたちゅみさん。


3人の視線を一身に浴びるけれど
そんなの気づかないくらいに
私は一人の国民的ヒーローから目が離せなかった。

1人だけ仕事終わりなのか
ワイシャツ姿の国民的ヒーロー。


いや、正式に言えば
国民的ヒーローのお面を被る、その人。

お面からクルクル天然パーマが覗く、その人。


『…何被ってんの?福田くん…』


そう発した私の声は
自分しか気づかないくらいに
すこーしだけ上ずっていた。


『いや、僕福田じゃないですよ』

『…は?』

『僕アンパンマンです』

『何言ってんの?福田くん。』


もう一度名前を呼ぶと
さすがに耐えられなくなったのか
フハッと吹き出した彼は
お面を外して眉毛の垂れたあの笑顔を私に向けた。


彼の顔を見た瞬間に気持ちが込み上げてきて、
なんだか泣きそうになった。


『さー食べよ食べよー!
腹減っちゃったよー!!』


たちゅみさんが元気よくそう言って
テーブルに買ってきた食べ物を広げる。

それと同時に私に伸びて来た手が
私の腰をサッと引いて
ごく自然に自分の隣に私を座らせた。


『何か食ったの?』


私を座らせた張本人の福田くんが
私の方を見もせずに聞いてくる。


『まだ…なにも、』

『ふーん』


聞いてきたくせに興味なさそうな福田くんは
目の前にあるビールをグビグビ飲んだ。


『にしてもビックリしたぁ!!
○○ちゃん見つけた瞬間叫んじゃったよ!
雰囲気変わってたから最初違う人かと思った!

てゆーか髪切った?カラーもしたよね?
すごい似合ってるね!!

あと浴衣!紺の浴衣いいよね〜
やっぱり夏といえば
女の子の浴衣だよね〜〜!!』


身を乗り出して福田くん越しに
私に話しかけてくるたちゅみさんは
あの時と変わらずマシンガントーク。

向かいに座る越岡さんと松崎くんも
笑いながらたくさん話しかけてくれるんだけど


福田くんは私の腰を引いて
隣に座らせたくせになにも喋らない。

むしろこっちを見てくれない。

ひたすらにもくもく焼きそばとか
たこ焼きを食べてビールを飲んでいる。


でも2人掛けの大きさくらいの
簡易的なイスに男2人と私で座ってるから
ちょっと狭くて、
福田くんの右太ももと私の左太ももが
ピッタリくっ付いていて

季節のせいなのか、私の気持ちのせいなのか
触れている場所がものすごく熱を持っていた。


『○○ちゃんも食べな、
雄大たくさん買ってきてくれたから』


越岡さんがそう言ってくれた時に
テーブルの上に置いておいた
私のケータイが音を立てて震えた。

画面に表示されるクマさんのフルネーム。


隣に座る福田くんの視線が
私のケータイに向けられる。

その視線と、クマさんからの電話に
感じる必要もないのに後ろめたさを感じた。


『ちょっと、ごめんなさい…』


席を立って少し離れたところで
電話をとった。


『あ、○○さん。お疲れ様です』

『クマさん、お疲れ様です。
すいません、すぐに連絡返せなくて…』

『大丈夫ですよ!どうしますか?
俺は全然今すぐにでも行けるんですけど…』


笑いながら言うクマさん。

さっきまで考えていた事。
別に今すぐ付き合うって訳じゃないんだから
だからもっと前向きにクマさんとの事…

そう思いながらふとさっきまでいた
テーブルに目を向けると、
同じようにこっちに視線を向ける
福田くんと目があった。


『……ぁ…』

『…ん?どうしました?』

『あ、いえ…すいません…』

『で、どうしましょう…』


未だに私に向けられるその視線を感じながら、
私はケータイを握りしめ直した。









『○○ちゃん、電話大丈夫だった?』


席に戻ると、口いっぱいに
たこ焼きを詰め込むたちゅみさんが
そう尋ねてきた。


『あ、ハイ。すいません、いきなり』

『全然〜さっ、食べて食べて!
早くしないとなくなるよ!』


結局クマさんからの誘いは断った。

福田くんの視線に、
いつの間にか口からは断りの言葉が出ていた。

ケータイをカバンに入れながら
イスに座った私の目の前に
隣からオレンジジュースが置かれる。

でも福田くんの方を見ても
やっぱり彼はこっちを見ていなくて


『ありがとう』


って言った私の言葉にも
返事は返ってこなかった。



絶対食べきれないだろ。
って量を買い込んできたのに
男4人でしっかりと全部平らげた頃に
ちょうど花火が始まった。

すごく近くで上がった打ち上げ花火が見づらくて
上を見たまま少しだけ身体を後ろに倒すと
背中に福田くんの肩が当たっちゃって
慌てて身体を前に戻した。


少し身体を動かせば
くっ付いちゃうくらいの距離に
福田くんがいると思うと
なんだかすごく緊張してきて、
正直花火どころじゃなかった。


花火の途中だったけど、
猛烈にトイレに行きたくなった私は、


『ちょっと…トイレに行ってきます』


と一応報告を入れてから席を立って
トイレに向かった。

トイレはやたら混んでるし
浴衣は動きにくいしで
用を足すだけなのにやたら時間がかかった。

浴衣が崩れてないか確認して外に出ると、

そこには松崎くんが立っていた。


『遅いから迎えに来た!』


髪の毛ツンツンの松崎くんは
なぜかドヤ顔で腰に手を当てながらそう言った。


『あ…ごめんなさい。
トイレすごい混んでて』


謝ると、松崎くんは私の方をしっかり見て


『福ちゃんが心配してるから早く戻ろう』


そう言った。


なんで福田くん…?
あんなに私に興味なさそうにしてたのに。
こっち見てもくれなかったのに。


疑問を抱えながら
目の前を歩く松崎くんのピンクのTシャツで
濡れた手を拭いた。

それに気づいた松崎くんが
振り返りながら少し驚く。


『ハンカチ持ってないの?』

『うん』

『なら仕方ないか…』


謎の納得をしてまたTシャツで
手を拭かせてくれた。

普通勝手にTシャツで手を拭かれたら
怒ってもいいのに…
松崎くんってやっぱり少しズレてるなって思った。



『俺、福ちゃんと○○ちゃんが
仲良くしてるの好きだったよ…』


なんの前触れもなく彼から発せられた言葉に
思わず足を止めた。


『……へ…?』

『2人が仲良くしてるの見るのが
好きだった…』

『……』

『…○○ちゃん、』


そんな事言われても、どうしようもない。

あの人彼女いるじゃない。
あんなに美人でハッキリもの事言える
彼女いるじゃない。


私がどんな気持ちでここまでやってきたのか
分かってんの?

私があの日からどんな気持ちで…


でもそんな事松崎くんに言える訳もなく
彼をひと睨みだけして
足早に歩き出した。


私の後ろを慌てて追いかけてくる
松崎くんをガン無視して
テーブルまで歩いて行くと、

もう花火は終わっていて、
テーブルの上も綺麗に片付けられていた。


『すいません、片付け手伝えなくて…』


ゴミを捨てて来てくれたっぽい
越岡さんにそう声をかけると爽やかに、


『いいんだよ、女の子は変な気使わなくて』


って言われてその爽やかさに
一瞬今夏なのか疑わしくなった。


『さーて、花火も終わったし帰りますかぁ』


たちゅみさんがそう言いながら
私の方に視線を向ける。


『○○ちゃん、車乗ってくでしょ?送るよ!』


そのたちゅみさんの後ろで


『俺の車だけどな』


って言う越岡さんに少し笑いながら、

浴衣で電車乗るのも引けるし
甘えさせてもらおうと思ったら


腕を掴まれて軽く後ろに引っ張られた。


『俺ら家近いからタクシーで一緒に帰るよ』

『……え?』


背中にあたる福田くんの胸と
すぐ横から聞こえる福田くんの声。


『ふ、福田くん…?』


そのあまりの近さに振り返る事が
出来ないままの私。


『コッシーの家、逆方向だから』

『…あ、そう…なんだ、』


困惑する私の前に立つ3人は
なぜかすごい笑顔。


『じゃあ福ちゃん、○○ちゃん頼む!
ちゃんと送ってあげてね!』


そう言い残してその場から離れてく。


え、待って!ちょっと待って!
福田くんと2人にしないで!
帰ってきて!!


そう心で思っても3人は
背中を向けてどんどん歩いて行っちゃって…


『とりあえず駅前行こ』


福田くんは私の手をとって歩き出す。

前を歩く福田くんの顔は見えなくて
彼が今どんな表情してるのかすごく気になった。


少し歩くと駅が見えてきた。

もう少しで駅に着くんだけど、
でもそれよりも福田くんの
歩くスピードが早くて


『…痛っ』


私は声を出した。

歩くのを止めてこっちに振り返る福田くん。


『…どした?』

『ごめんなさい…
ちょっと、履き慣れてないから…』


しゃがみ込んで下駄を少し脱いでみると、
案の定、親指と人差し指の間が少し切れて
そこから血が出ていた。


『…怪我してんなよ』


私の前に同じようにしゃがみ込んだ福田くんが
その傷を見ながら言う。

近くから聞こえる福田くんの声に
思わず顔を上げると
結構近い距離で福田くんも私を見ていた。


絡まる視線。

福田くんの手がそっと私の頬に触れる。


『…痩せた。』

『…え?』

『前より』

『あ、仕事忙しくて…』

『何痩せてんだよ…
前はもっとぽちゃっとしてたのに』


褒められてるんだかけなされてるんだが
分からなくて首をかしげる私に
立ち上がった福田くんが手を差し伸べる。

反射的にその手を取ると、
さっきよりもゆっくりと歩き出してくれた。


それでもやっぱり先を歩く彼の顔は見えなかった。


駅前に着くと、
運よくタクシーが1台だけ停まってた。

タクシーに乗ろうと手を上げていると
ケータイが鳴った。

姐さんからのラインで
会食無事に終わった、との報告ラインだった。


めったに絵文字やスタンプを送ってこない
姐さんからのスタンプ連打に
どれだけ楽しかったのか伝わってきて
思わずケータイを見ながら顔を緩ませていると


『さっきの奴から?』


福田くんの声が聞こえた。

その声はすごく低くて、
私を見る目もちょっと怖い。


『…いや、違くて…』


否定の言葉を口にしようとした私の声は
目の前で開いたタクシーのドアの音にかき消される。


私の言葉が聞こえてたのかどうなのか、
福田くんはちょっと乱暴に私を
タクシーに押し入れた。

私の後からタクシーに乗り込んで来た
福田くんは、私の手をギュッと握る。


『出してください』


福田くんがタクシーの運ちゃんに
向かうように告げた場所は明らかに
私の家の方向とは違っていた。


『え?福田くん…?』


訳が分からず困惑する私。


『…絶対帰らせない』

『……』

『もう後悔すんのはいやだ。』

『福田くん…?』


どんなに彼に目で訴えてみても
一切答えてくれなくて、

いろんなことが頭の中に渦巻く。




…彼女、出来たんでしょ?

…ちょっと性格キツイけど、
すごく美人な彼女じゃない。




言いたいことはたくさんある。

色んな言葉が頭に浮かぶ。

でも、握られたその手を握り返しながら



もう、
福田くんのことしか考えられなかった。





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