さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

不器用なアイツ。【2】

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あれは多分もう3年以上前になると思う。


会社の先輩と一緒に別の会社に
訪問に行ったときの事だった。


入社してから何年か経って、
やっと1人で大体の仕事が出来るようになって。

じゃあ次のステップ…
って感じで、先輩に連れられて
少し離れたところにある会社に来た。


俺を連れてきてくれた先輩は
すごく話しやすい人で、


『俺に何かあったら頼む…』

『何かってなんすか(笑)』

『福ちゃん、お前なら出来る』

『なんすかその根拠のない期待(笑)』


いつもと変わらずそんな会話をしていた。


訪問先であるオフィスに入って
挨拶しながら会議室に案内されて
先輩の営業会話を横で聞きながら勉強して。

話がまとまったところで先方にまた挨拶をして。


先輩すげーなー。
俺これやれんのかなー。


とか心の中で思いながら
会議室から出た瞬間に


『これだから若い子はッ!!!!!!』


甲高い怒鳴り声が聞こえた。


ビクッと肩を震わす先輩と俺。


振り返った先には
指差しで怒鳴り続けるおばさんと、

俯きながらその罵声を浴びる女の子がいた。


その光景に思わず足を止める先輩と俺。


『あぁ、いつもの事だから。
口うるさくて有名だしあのおばさん。』


そう先方が言う。


いや、それよりも……


俺の怪訝な表情に気づいたのか、


『○○ちゃんもだよ。
あ、○○ちゃんってあの女の子の名前ね!

怒鳴られても何言われても
いつもずーっと俯いてんの。
きっともう右から左状態なんじゃないかな。』


耳をトントンしながら言う先方。


なんか、ある意味すげぇな。
今時の若い子ってそんなもんなのかな…


そう思いながらその女の子を見た瞬間に


『……あ、』


思わず声が出てしまった。


『…どうかしました?』


にこやかに聞いてくる先方にブンブンと
手を振って、いえいえと否定する。


『お恥ずかしいところ見せちゃいましたね。
今日はありがとうございました!』


早く帰れと言わんばかりに
無理やりエレベーターの前まで案内したその人は


『じゃあ、僕はここで失礼します』


と、俺らをその場に残して
そそくさと去って行った。


『…ビックリしたねぇ』


先輩の声にコクンと頷く。


『…あの子、大丈夫かねぇ』


本当にそれ。

あの時おばさんの背中越しに一瞬だけ見えた
あの子の表情に思わず声を出してしまった。

下唇をギュッと噛んで、
自分の手首をギュッと握って。

明らかにあの罵声を耐えていた。


さっきの先方はあの子のどこをどう見て
“右から左状態”なんて言ったんだろうか。

あんなに我慢していたあの子のどこを見て
そんな無責任なこと言えたんだろうか。


いつの間にか考え込んでた俺は


『福ちゃん?福ちゃん?』


先輩に肩を叩かれてふと我に帰った。


『あ、すいません…』

『大丈夫大丈夫。福ちゃんごめん、
俺ちょっとトイレ行ってくるから
ここで待っててもらえる?』

『分かりました』

『ごめんね〜』


先輩のバックを預かって、
トイレに向かう先輩を見送る。


1人ぼーっとしながら
エレベーター横のT字型の廊下を眺めていると
そこを歩いていく女の子が見えた。


…あれ?…あの子…


多分さっきの女の子だと思われる
その姿を無意識のうちに追う。

T字型の廊下を曲がると、
その子の姿は見えなかったけど
すぐ近くにある給湯室から
カチャカチャという音が聞こえたから
そっとその中を覗いた。


覗いた先には、お盆の上に
何個か並べられたコップに
コーヒーを淹れようとしている
さっきの女の子がいた。


ふと目が合い、
お互い会釈をする。


追いかけてきたのはいいものの、
なんで追いかけてきちゃったのか謎だし
何を話せばいいか分からず
ただその場に立ったままの俺に


『コーヒー、飲みますか?』


彼女の方から声をかけてきてくれた。


『え、いいの?』

『いいんじゃないですか?』


…なんで疑問系なんだよ(笑)


なんて思いながら彼女が差し出してきた
コーヒーをもらって一口飲んだ。

ちょっと美味い。


コーヒーをすすりながら
残りのインサートカップに
コーヒーを注ぐ彼女の後ろ姿をじっと見つめる。


…なんか新入社員っぽいな。


まだ入ってそんなに経ってないであろう
この子にあそこまで怒鳴ってた
おばさんにちょっとビビる。


『…あの、』

『…はい』


思わずかけた俺の声に
振り返ってこっちを見た彼女は
色白の肌に映える
真っ黒い瞳が印象的な顔をしていた。


『さっき…大丈夫でしたか?』

『……ッ…』


その言葉に彼女が俺に背を向けながら
小さく下唇を噛んだ。


我慢している時
大丈夫?と聞かれると気は緩むもので、

例外なくそうなったらしい彼女の目には
少し涙が滲んでて…

めちゃくちゃ焦る俺。


『え、ちょっ、え、待って…!
ごめん!泣かないで!!!』


やっぱり右から左なんかじゃない。
この子はしっかり傷付いてる。

慌てながら彼女の肩に
触れようとしたら


『泣きませんよ』


ハッキリとした口調で言われた。

行き場をなくす俺の手。

それでも、横から見ても分かるくらい
潤んでいる彼女の目が気になって


『…本当に?』


余計な一言をかけてみる。


『はい。泣きません。』

『…な、んでそんなに』


泣けば許されるって訳じゃないし、
むしろちょっと怒られただけで
すぐ泣く女とかあんま好きじゃないけど

泣くことを頑なに否定する彼女は


『あんな人のせいで泣きたくないんです、私。』


と言った。


…泣けばいいのに。


そう思った。

あんなに下唇ギュッと噛んで、
自分の手首ギュッと握って、

それでこうやって1人で目に涙溜めて…


そこまでするなら泣けばいいのにって思った。


『私、負けず嫌いなんで。』

『負けず嫌いっていうか…』

『…?』

『……頑固…』


ついつい口から出てしまった俺の言葉に
彼女が目を見開く。

あ、しまった。
と思った時にはすでに時遅しで


『て言うか何なんですかあなた!!!』


女特有の“すぐキレる芸”をお見舞いされた。

でもさっきまで少しだけ彼女の弱さを
見ていた俺からしたら
そんな風にキレられてもむしろ逆に面白くて


『何笑ってんですか!!!』


クスクスと笑う俺は
彼女の怒りを余計に煽ってしまう。


『そんなに怒れるなら
あのおばさんにもやり返せよ』

『してますよ!』

『してなかったじゃん』

『バレないようにやってるんですよ!』

『例えば?』

『……コーヒーに雑巾の絞り汁入れたりとか』


急に冷静な顔になって
そう言った彼女にビックリした。


『……まじで?』

『さぁ?どうでしょうね』


ニヤリと笑った彼女が向けた目線の先には
給湯室の隅に置いてある物干し竿。
そしてそこに掛けられている雑巾。

口を少しだけ開けて何も言えなくなった俺に
彼女はくるりと振り返って
初めて体ごと俺の方を向いて


『ご想像にお任せします』


と、満足そうに言った。


こっちを向いた彼女の左胸には名札が付いていて、
そこには彼女の名字と
さっき先方が呼んでいた名前が書いてあって


こういう字書くんだ…


とか思いながら名札を眺めていた
俺のポケットの中でケータイが震えた。


『あ、やば…!』


先輩の存在一瞬忘れてた。

ん?って顔をした彼女に


『ご馳走様!』


とお礼をしながらカップを渡して
給湯室を出た。




『すいません先輩!』

『全然。ここの会社広いね
たかがトイレで迷っちゃったよ〜』


この歳で迷子になったらしい先輩と
エレベーターに乗り込む。

世間話をしながら、


これからあの子が泣けることが
出来ればいいのにな、と小さく願った。






…ずっと忘れてた。

忘れたことすら忘れてた。


でも顔を見た瞬間にブワーっと記憶が蘇った。


あまりにビックリして
『あっ…』と言いそうになった声を飲み込んで
なんか適当なこと言って
彼女の手からケータイを抜き取って…


部屋まで帰ってきて、辰巳の


『おかえり!』


の声でやっと平常心に戻った。


『良かったね〜ケータイ無事で!』

『…あーうん、』

『可愛い子だったー?』

『…ん?…ああ。』


俺のおかげだね!と自慢げに言ってくる
辰巳にお礼を言いながら
借りていたケータイを返した。


絶対にあの時の子だよな…


辰巳と会話しながらも
ずっと月明かりに照らされた
彼女の顔が忘れられなかった。








『そしたら付き合おうとか言い出すのよ!?』


朝からイライラする。

俺の隣のデスクに座る同期の女は
一応社内ではマドンナとか言われていて
確かに顔は可愛い。スタイルもいい。


『こっちはそんな気ないのに付き合おうって!
1人で盛り上がっててやんなっちゃう!』


どうやら彼女は気のない男に
言い寄られてるのが気に食わないらしい。

でも思う。
お前にも原因があるんじゃないかって。


確か今言い寄られてる男、
少し前にマドンナといい感じかもって
言ってたのを見かけた事がある。

向こうにそう思わせるような
態度とってるお前が原因だろ。

って思うけどふんふんと頷きながら


『それは困りましたね〜』


って言ってあげる。


『それだけじゃないのよ!
勝手に向こうが1人で盛り上がってるだけなのに
なんか女子社員の間で
私良く言われてないらしいの!』

『ほぉ』

『男たぶらかしたとか言われてるの!』


あながち間違ってねーじゃん…


『こんな噂立てられるなら
彼氏作ったほうがいいのかなぁ…』


チラチラ俺の方を見ながら言ってくる。


あー、イライラする。
仕事をしろ、仕事を。


『おーおー、作れ作れ。
お前ならすぐ作れるだろ。』


適当に返事をすると、


『…悠太の鈍感!』


ディスられた。


『何がだよ』

『なんでもないわよ!』


ちょっとつまんなそうにそう言って
プイッとそっぽを向いてやっと仕事をし始める。


…こいつの言いたいことは分かる。

会社に入った頃はこんな美人が隣にいれば
やっぱりそれは俺も男だからドキドキして
これが恋かな?とか思ったけど
そうではなかったらしく。


『言いたい奴には言わせとけ〜』


今はもうこの扱い。


お前の男関係とか知らん。
俺に逐一報告するな。


まだどこかイライラが取れない
俺のケータイが鳴った。

それは辰巳からのラインで、


“福ちゃーん。今日飯行こー”


昨日も行ったじゃん(笑)
とか思いながらもイライラする気持ちを
拭うためにその誘いに乗った。






『結局4人(笑)』


仕事が終わって辰巳に指定された集合場所に
向かったらまるっきり昨日と同じメンバーがいた。


『なんだよ、仲良しかよ!』


叫んだ俺に


『福ちゃんケータイ返ってきたんだって?
ちょっとつまんないけど良かったね』


ってコッシーが言ってきて、
やっぱり昨日半笑いだったのは
楽しんでたのかって確信した。


『どこ行くの?』


ニコニコしながら言ったマツの言葉に


『昨日の店がいい』


間髪入れずにそう言った俺に
振り返る3人。


『昨日の?』

『ウン。』

『福ちゃんがケータイ忘れたお店?』

『ウン。』

『別にいいけど、どうして?』

『あそこはいぶりがっこがウマい』


質問してくる辰巳は
俺の適当な返事に納得はしてるけど
なんでだろって表情を隠せてなかった。



4人で歩いて、
昨日の俺がケータイ忘れた店に着いて、
席に案内されて…

スタッフ達にいらっしゃいませー!
って言われたけど、
あの子の姿はどこにもなかった。


ちぇー。いねーのかー。


そう思いながらメニューをパラパラ見て
とりあえずいぶりがっこ
食わないとな。って思っていたら
扉をノックする音が聞こえて


『失礼しまーす!』


という声と共に…彼女が現れた。


『あ、ケータイ誘拐犯だ(笑)』


固まる彼女と笑顔の俺。


『え?どゆこと?(笑)』


辰巳のその声に、
彼女の視線が俺と辰巳を行き来する。


『この子が俺のケータイ持ち帰った子。』

『あー!この子が!』

『そうそう!』

『こんばんは〜また来ちゃいました!つって!(笑)』


彼女はビックリしながらも
こんばんはと言いながら
ペコっと頭を下げた。


『電話の声聞く限り
もっと幼いのかと思ってた(笑)』


昨日電話で彼女の声を聞いていた
辰巳は彼女がもっと子供だと思っていたらしい。


下げていた頭を上げた彼女を
チラリと盗み見する。

昨日思った通り、
どっからどう見てもあの時給湯室で
涙をこらえてたあの子に間違いなくて、

また会えたことに
少しテンションが上がった。


『ビール4つと〜いぶりがっこと〜
枝豆と〜軟骨の唐揚げと〜』


そのテンションをごまかす為に
メニュー片手にどんどん注文すると、


『ちょっと、たちゅみさんストップ!!』


慌てた彼女が急に叫んだ。

ピタリと止まって
彼女に向けられる俺ら4人の視線。

その視線に気づいたのか
どんどん真っ赤になる彼女に


『…俺?』


辰巳が声をかけた。


『俺、辰巳。』

『…え?』


彼女は辰巳に向けていた真っ赤な顔を
俺に向ける。

一瞬なんで辰巳の名前知ってんの?
しかもなんで俺に?って、
訳が分からなかったけど

昨日の俺のせいか、と
理解した瞬間に思わず吹き出した。


『最高なんだけど…』


面白すぎて涙まで出てきた俺は
ゲラゲラ爆笑する。


『え、ちょっと福ちゃんどゆこと?』


何が何だか全く分かっていないコッシーが
俺の肩を叩きながら聞いてくる。


『たちゅみゆだ〜いですって名乗ったけどさ、
自分のケータイに自分から電話かかってくるって
普通に考えたらあり得ないでしょ(笑)』


爆笑しながらそう説明した俺の言葉に
事の真相をいろいろ理解したらしい
彼女はまた顔を赤くした。


『まさか呼ばれると思わなかった(笑)』


恥ずかしがる彼女には悪いと思うんだけど
ツボにハマってなかなか笑い止まなくなった俺に
辰巳が助け舟を出してくれる。


『…でも。たちゅみって女の子の口から
言われるとドキドキするね(笑)』


真っ赤になった彼女に
辰巳がそう言いながら頭をポンポンした。


『せっかくだからそのまま俺のこと
たちゅみって呼んでよ』


ずーっと赤いままの顔で
辰巳に笑いかけた彼女は、


『生4つ、すぐ持ってきますね』


と言って立ち上がって、
未だにツボから抜け出せない
俺の方を一度睨んでから扉を閉めた。

素直なその態度に、


『…可愛いなぁ(笑)』


思わずそう呟いた言葉に
他の3人が食いついたのは言うまでもない。





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次回「福田くんの長編書かせて頂いていたじゃないですか。そしたらずっと前からちょいちょいと書き溜めてた他の方達の妄想話をいつ更新していいか分からなくなりましてどうしようと思っていたら福田くんサイドの話始めちゃってもうどうしよういつ更新すりゃいいんだ…!ってなってしまったのでとりあえず福田くんの間にちょいちょい挟んでしまおうという結論に至りましたので次回福田くんおやすみしますスペシャル」やります。

さうでした。

サンキューサンキューでーす。