さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

ヤンキー岩本くん【2】

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ウザいな…


本当にそう思う。


今日もお昼はカップルの隣で。

参加出来ない会話を聞きながら。


周りには何人かでグループになってる
女の子たちが楽しそうに
ご飯を食べている。


いいなぁって思うんだけど
今更その輪の中に入れないし、

だとしても、本当に…


『やめてよぉ!』

『だってあの時のお前さ〜』

『ちょ、言わないでよぉ!
聞いてる人いるからぁ!』


チラチラこっちを見ながら話す
カップル2人にうんざりする。


ヘイ。聞いてますとも。
というか聞きたくなくても
耳に入ってきますとも。


本当は聞かせたがってるんじゃないかって
思うくらいでかい声で話す
2人の横で頭が痛くなってくる。


最近ひどい。

前からウザかったけど
最近とてもウザい。

どうやらこのカップルはこの間の
休みに旅行に出かけて
ラブラブ度がやたら上がったらしく


『怒ってるとこ可愛いから
怒らせたくなるんだよな〜』

『もう!そんな事言われたら
許しちゃうじゃん!』


本当に気持ち悪い。


オエーオエー。
キモチワリーーー。






今日のお昼も岩本くんは教室にいない。

毎日毎日、4時間目が終わると
フラッと教室から出て行っちゃう。

そんで5時間目が始まるギリギリに
またフラッと教室に戻ってくる。


…どこに行ってんだろ。


岩本くんが出て行った
黒板の横のドアを見ながら思った。







『あんたこないだ着てきた
馬鹿でかいジャージ洗濯終わったから
ちゃんと返しなさいね』


お母さんがそう言いながら
岩本くんが貸してくれた
ダッボダボのジャージを渡してきた。


『はいよ』


受け取ったあたしをニヤニヤしながら
見つめるお母さん。


『何?』

『岩本くんっていうの?』

『は?』

『ジャージ!』

『……』

『背のおっきい子なのね〜♡』


何かを勘違いしている母を睨みつける。


そんなんじゃないし。
岩本くんヤンキーなんだぞ。


なんて思いながらも部屋から母が
出て行ったのをきちんと確認して

岩本くんのジャージを、
カラーボックスの中から厳選して
引っ張り出した可愛いショッパーに
入れた理由は自分でも分からなかった。





***




その日も岩本くんは4時間目が
終わってすぐに席を立った。

いつもならフラッと教室を出て行く
岩本くんを横目で盗み見してから
自分もお昼を食べる準備をするんだけど


今日は…



『ちょっと、先に食べててー』


言わなくても先に食べるだろうけど
一応2人にそう声をかけて
岩本くんの後を追いかけた。


柱の陰に隠れたり、
全然知らない教室に入り込んだりしながら
岩本くんの後ろをついて行くあたしを見る
周りからの視線が気になる。


好きでこんなことしてるんじゃない。

ただ、岩本くんに
ジャージを返さなきゃいけなくて、
でも名前を呼んで呼び止めることが出来なくて…


『……ん?』


隠れた壁からヒョコっと顔を出したあたしは
まんまと岩本くんを見失った。


…あーあ。
やっちまったぁ。


なんとなくこうなる気はしてたけど…


自分の右手に握られている
岩本くんのジャージが入ったショッパーを
眺めながら、


『ミッションインポッシブル失敗だぜ…』


って独り言を吐いて、
ジャージ、いつ返そう…とか思いながら
教室に戻ろうと壁の陰から出ると、


『お前はいつからスパイになったんだ?』


含み笑いで喋るそんな声が聞こえた。


振り返ると、見失ったはずの
岩本くんがあたしを見ながら立っていて


『…え?』


目を丸くするあたし。


『お前、最初からバレバレ』

『…え!?』

『面白いから気づかない振りしてたけど』

『…ええ!?』

『お前、バカだな』

『…えええ!!?』


驚きのあまり変な声しか出ないあたしに
また背を向けて歩き出した岩本くん。

慌ててすぐに追いかける。


『さ、最初って…』


おずおずと声をかけると


『教室出た瞬間から』


って言われて、すごく恥ずかしくなった。





この間のチョコプリン事件で思ったけど
やっぱり岩本くんは
全然怖い人なんかじゃなくて

話せば普通に会話してくれる。


今この現状がちょっと前からは
想像出来なすぎて
その面白さに夢中になって話してたあたしは


『あれ?こないだの?』


ふっかと呼ばれていた人の出現で
ビクッと身体を震わせた。


『…今日はこないだの子も一緒?』


2度目ましてのふっかくんは
ニコニコしながらそう問いかけてきた。


実は優しい岩本くんとの会話に
気を取られていつの間にか
彼がいつもお昼を食べてるっぽい
場所に着いちゃってたみたいで、

少し離れたところにある
人通りの少ない踊り場に着いていた。


階段に座りながら岩本くんとあたしを
見ているふっかくんは
本当に“良い人”って感じで笑ってる。


『そういえばお前どうした?』


キョロキョロしまくるあたしに
岩本くんが聞いてくる。


『あぁ、これ…』


挙動不審になりながら
昨日の夜に厳選した可愛いショッパーに
入れたジャージを岩本くんの目の前に出した。


『あー、だからスパイしてたのか』


わざわざ洗濯しなくても良かったのに
って言いながらあたしから
それを受け取った岩本くんは
ふっかくんの横に座った。


『そんなとこに立ってないで座れば?』


ふっかくんが優しく声をかけてくれて
余計にアタフタしてると


『いや、お前教室に友達待ってんだろ?
わざわざありがとな』


岩本くんがそう言った。


気を利かせてくれたんだろうけど、


…教室に帰りたくない…


ずっと我慢してたけど、
あの2人とご飯食べててもつまらない。


人目が気になるから一緒に食べてるけど、
一言も発さないでお昼休みが終わる日だってある。


…はっきり言って、
せっかくお母さんが作ってくれたお弁当なのに
美味しく感じない。




『…どうした?』


いつの間にか俯いて考え事
してたっぽいあたしに岩本くんが
優しい声で尋ねる。


『……』

『おい?』

『……待たせて、る…』

『…おう』

『…じゃあ…』


こんな女特有の話、
岩本くんに話しても仕方ない。


あたしは小さくお辞儀をして
その場を離れた。




その日はもう学校に居たくなくて
教室に戻ったと同時に
バックを取って、そのまま家に帰った。








本当に憂鬱。

毎日毎日、お昼が憂鬱。


お母さんが、朝ご飯食べてる
あたしの横にお弁当を置いて来るたびに、

憂鬱が増す。


あたしの大好きなお母さんのたまご焼きが
入ってるお弁当なのに、

憂鬱が増す。



今日もこのお弁当をあの2人の横で
食べなくちゃいけないんだ。

楽しくもない時間。

美味しく感じないお弁当。



重たい気持ちをオレンジジュースと一緒に
一気に飲み込みながら
巾着袋に包まれたお弁当を
バックに入れて、ローファーを履いた。



学校に着けば普通。

クラスメイトに挨拶して、
テレビの話とか雑誌の話とかして、

でもその普通だった気持ちも
お昼が近づくにつれて沈んでくる。


4時間目が終わってすぐに、
友人の彼氏がバック片手に
教室に入ってくる。


嫌だな…

行きたくないな…


そう思ってもあたしが
ご飯を食べる場所なんて
あの2人の隣しかなくて…


力なく席を立つ。


カバンからお弁当を出して
友人の席に向かおうとするあたしに
視線が向けられていることに気付いた。


その視線の方を見ると、
もうとっくに教室を出たと思っていた
岩本くんがいて…


『………』


2、3秒ほどあたしの方を見てから
ふいっと視線をそらして
教室から出ていった。


気付いたら、だった。

その視線に引っ張られるように
気づいたらその場から走り出していた。


興奮と緊張。

今までにない気持ちの高ぶりに
少しだけ息を切らして
飛び出した廊下には、


『辛気臭い顔してんじゃねぇよ』


ちょっと不機嫌そうな岩本くんがいて、


『行くぞ』


それだけ言って歩き出した。


『…うん!!!』


大きく返事をしてその背中を追った。







『…ふっかまだか』


無言のまま廊下を歩いて
あの少し離れたところにある踊り場に来た。


いつも通りって感じに
階段に腰掛ける岩本くんに反して、
動けないで立ちすくむあたし。


『座れよ』


何してんだ?って顔で見てくる
岩本くんに、


『ふっかくんに…許可得たの?』


ずっと気になってたことを聞いた。


『は?』

『…だ、だって…ッ』


…まさしく今この状況は
初めて友人に彼氏を連れてこられた
時のあたしと同じ状況なんだもん。

2人でお昼食べてたところに
いきなり別のもう1人が来て。

知らないうちにその場に1人じゃなくても
独りぼっちのような気分にされた
あの時と同じ状況なんだもん。


絶対ふっかくん嫌がるよ、

誰お前って思うよ、


だって実際あたしは思った。

ふざけんなよって、


だから…


『チョコプリン3つ手に入れたぜーー!!!』


あたしの葛藤を吹き飛ばすほどの
でかい声が踊り場にこだました。


『…なんか言ったか?』


ふっかくんが発したでかい声に
フリーズしたあたしに岩本くんが言う。


『いいから早く座れ』

『…でも、』

『ふっかはそんな奴じゃねぇよ』


岩本くんのその言葉に、

購買で買ってきたであろうチョコプリンを
階段に並べるふっかくんに目を向けると


『チョコプリン好きだよね?』


って笑顔で聞いてきてくれた。


その笑顔にすごく嬉しくなって、


『大好き!』


って答えながら、
岩本くんとふっかくんの間に
遠慮なく腰を下ろした。



久しぶりに楽しいお昼休みだった。

誰かと会話しながら
美味しいご飯を食べる。


普通のことなんだろうけど
こんなに楽しいことなんだって思えた。



岩本くんがトイレに行ってる間に、


『なんでチョコプリン、
あたしの分も買ってきてくれたの?』


ってふっかくんに聞いたら、


『照が言ったから』


って、想像もしなかった答えが返ってきた。


『岩本くんが…?』

『うん』

『…なんて?』


質問攻めするあたしに
ふっかくんが、う〜ん…って言いながら
顎に手を当てて


『昨日照と放課後遊んだんだけどさ、』

『……』

『昨日、○○ちゃんここ来たけど
照にジャージ渡して帰って行ったじゃん?』

『……』

『その話になってさ』

『……』

『そしたら、照がいきなり
明日あいつここ連れてくるって言うからさ』

『…は?』

『元々今日は照にチョコプリン
奢るって約束してたから
○○ちゃんの分も買ってきた!』

『…なんで!?』


岩本くんがなんで昨日のうちから
あたしをここに連れてくるって
言ってたのか、その理由が分からなくて
そう聞いたのに


『こないだゲーセンのバスケのゲームで
負けちゃったからさ〜〜』


って、チョコプリンをおごらされた
理由を話されて


ちっげーよ!バカふっか!!!


って心の中で思った。


岩本くんが帰ってきたから
それ以上のことは聞けなくて、


それでも、気になりまくって
悶々しているあたしの横で

へらへら笑うふっかのポテチを
食う音がうるさくて


『ふっかうるせぇ』


って言ったら、


『え?俺もうそんな扱いなの!?』


って言うふっかに岩本くんが爆笑してた。




予鈴が鳴って、荷物をまとめて
反対側の校舎に教室があるふっかと別れて
岩本くんと2人で教室に歩き出す。


『岩本くん、ありがとね』

『何がだよ』

『優しいんだね、岩本くんって』

『だから何がだって』

『見た目クッソ怖いけど』

『何お前喧嘩売ってんの?』


睨んでくるけど、もう全然怖くない。


『…明日も踊り場来てもいい?』


背の高い岩本くんを見上げながら
言ったあたしに、


『勝手に来ればいいだろーが』


岩本くんが怖い顔しながら
優しくそう言った。






『お前、放課後空いてる?』


教室に入る寸前に、
岩本くんにいきなりそう言われた。


『え?何?あたしシメられんの?』


ついつい口を滑らせて
そう言ったあたしに


『本当にシメてやろーか?』


って笑った岩本くんは


『放課後ふっかに奢ってもらうから
お前も来れば?』


と言った。


『え?さっきのプリンも奢ってもらったんでしょ?』

『あいつ昨日バッティングセンターでも
俺に負けたから奢り二回なんだよ。』


本当に、岩本くんはふっかのことを
話すときは楽しそうに話す。

ふっかのことが好きで仕方ないって
顔する岩本くんに、
教室でもその顔してればいいのに…

って思いながら
奢ってもらいたさに


『あたしも行く〜奢ってもらう〜』


って、二つ返事で答えた。




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