さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

ヤンキー岩本くん。【7】


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『みんな飲み物いったーー???』


いや、だから…


『食べ物まだ来てないけど
とりあえず始めちゃおっかー!』


だからさ…


『ウェェーーーイ!!!
今日は楽しみまっしょーーいッ!!!』


なにが…


『カンパーーーイッッ!!!』



あたしを励ます女子会だ、コラーー!!



横には自分と同じ制服を着た女の子達。

そして向かいには自分が通う学校とは
違う制服を着た男の子達。


これは完全に俗に言う…


『ちょっと、○○。
もう少し楽しそうにしなさいよ。
あんたの為に他校の男の子呼んだんだから』


主催者である友達が
コッソリと耳打ちしてくる。


彼女は中学から一緒の友達。

高校に入ってから同じクラスには
ならなかったけども
ちょいちょいと連絡を取っていた間柄。

だからあたしが学校内でも有名なヤンキーと
仲良くしていた事も知っていた。


いい意味で程よく無関心な彼女は
深く干渉したり、
興味本位であれこれ聞いてきたりしてこない。

だからその彼女の性格に感謝しながら
この夏休みにあったことを
電話で話したところ、


“女子会でもして励ますよ”


って言ってくれた。



なんだか照れくささもあったけれど、
ちょっと気持ちが弱って時だったから

ありがとう、と返事をして
指定されたカラオケ屋に来たのに…


こんなの完全に…




合同コンパニオンというやつじゃねーか。



『…あたしを励ます会だと
お伺いしたのですが?』


ウーロン茶の入ったコップを
握りながら友達を睨みつける。


『励ましてるじゃん』

『女子会だってお伺いしたのですが』

『励ますのに男も女も関係ないでしょ』

『むぅ…』

『しかも東高よ?進学校!』

『……』

『顔だっていいの揃えたのにっ』

『……』

『むしろ感謝して欲しいくらいだわ』


プイッとそっぽを向いた友達の
ロングヘアが頬に当たる。


友達の言う通り、

目の前にいる人たちをカッコいいとは思う。


確かにみんな顔だって整ってるし、
頭の良い雰囲気も出てる。



でも、私は




誰よりもカッコ良い人を

もう知ってる。


『…はぁ、』


誰にも聞こえないくらいの
小さいため息をひとつ吐いて
背もたれに倒れる。


アゲアゲなテンションの歌を
盛り上がりながら歌ってるみんなを
少し離れたところでボーッと見ていると

右側の席がポスンと沈んだ。


ウーロン茶を口にしながら沈んだ方に
チラリと目線だけを向けると

爽やかなツーブロックショートヘアの
男の子が笑いながらあたしを見ていた。


『どーも』

『あ、どうも』

『○○ちゃん、つまんない?』


さっき自己紹介した時に言った
自分の名前をナチュラルに呼ばれる。

あたしはもうすっかり男性陣の
名前なんて忘れたのに、

…て言うか覚える気もなかったけど


彼はしっかり覚えて、呼んでくる。


『つまんないとゆーか…』

『ん?』

『ノリがいまいち分かんない』

『ははっ、確かに今この部屋
パリピ感半端ないもんね〜』


軽く笑ったツーブロの彼は
テーブルに手を伸ばしてコーラを飲んだ。


『友達の子から聞いたけど、
○○ちゃん、ヤンキーに振られたんだって?』


はうあ!

いきなりの発言に
胸がゴリッとエグられる。


『キスした上に怒鳴りつけて逃げたんでしょ?』


うっせーな!!!


どこまで知ってんだよ!!!


つーか、誰だ貴様は!!!


『やべーじゃん!俺そーゆうの超好き!』


知んねーよ、お前の好みなんて!!!



ぐびぐびぐび!


握っていたウーロン茶を一気飲みした。



忘れたいんだよ!その事は!!


空になったコップをテーブルに乱暴に置いて
部屋を出た。


くっそー、くっそー。


なんだあのツーブロ野郎。


爽やかな顔面しながら
人の心に土足でドカドカと!!


イライラする気持ちとは裏腹に
なんか笑えてくる。


『そっか、あたし岩本くんに
キスしたんだった。なんかウケる。』


1人でクスクス笑っていると、
肩をトントンと叩かれた。



振り返った先には、


『…付いてくんなよ、マジで。』


さっきのツーブロ野郎。


『そんなに邪険にしなくてもいいじゃん』

『何か用ですか?』

『会ってみたかったんだよね、俺。』

『は?』

『○○ちゃんに。』


本当になんなんだろう、こいつは。


眉をひそめながらそいつを
睨むあたしとは正反対に
ニコニコと楽しそうに話し始める。


『○○ちゃんが振られたヤンキーくん、
普通に俺らの学校でも有名でさ』

『……』

『あんないかつくて怖いヤンキーくんと
仲良くしてたってだけでビックリなのに
キスした上に怒鳴りつけるなんて』

『……』

『どんな子なんだろうって
会ってみたくなっちゃってさぁ』

『…わざわざ会うほどの女でも
なかったでしょ?』

『わざわざ会うほどの女だったよ』

『は?』

『気に入っちゃった。』

『は??』

『2人で抜け出そうよ』




18年間生きてきたけど、
なんかすごい世界だ。


顔も見たことない人間に対して
話を聞いただけで興味を持って、

会ったその日に2人で抜け出そうなんて
言っちゃうとか。


誘ってくれた友達には悪いけど
もう帰らせてもらおう。


そう思って目の前のツーブロ野郎から
目を逸らして、
部屋に戻って荷物を取りに行こうと
思ったあたしの視界に


『…っ、』


進学校である東高でも
知られているくらいに、

有名なヤンキーが映った。


『ね?2人で話そーよ。』


目の前のツーブロ野郎の声なんて
耳に入って来ない。


白いTシャツに黒スキニーにリュック
っていうシンプルな格好なんだけど、

そのスタイルの良さとオーラで
迫力は満点のヤンキー…

もとい、こないだ振られた相手。


岩本くん。





『おーい。○○ちゃーん?』


ガッツリと合ってしまった目をそらす。


なんでこんな時に限って。


そりゃあ岩本くんだって
夏休みだし友達と
カラオケにくらい来るだろうけどさ。


なんで今日。

しかもなんで同じカラオケ屋。


しかもよりによって、

こんなツーブロ野郎と
2人でいるところに。



落とした視線の先にある
ローファーが滲んできた。


あごに梅干しが出来るくらいに
ギュッと唇を噛み締める。



軽い奴って思われたかな…

勝手にキスして怒鳴りつけたくせに
こんなとこで他の男の子と2人でいて。


あたしは指定されたカラオケ屋に来ただけ。

女子会って聞いてた。

励ましてくれる女子会だって。

男の子がいるなんて聞いてない。


言い訳する言葉なんてたくさんある。

本当のこと。


でもそんなこと岩本くんは知らないし、
言ったところで

彼からしたら、だから?って話。



…でも。


軽い奴って思われるなんて、

悲しすぎる。



告白させてもらえなかったけど、

勝手に振られたけど、


やっぱりあれからも
心のどこかでは岩本くんに会いたくて
仕方なかった。



今はもう遅いけどさ。



自嘲的な笑いがこみ上げてくる。


一周回って自分のタイミングの悪さが
面白すぎる。



もー、なんだっていーや。


投げやりな気持ちになって
この目の前にいる
顔と頭だけは良いツーブロ野郎に
愚痴くらい聞いてもらおうかと
思った次の瞬間、


あたしの腕が痛いくらいに引っ張られた。


『…ッ!?』


もつれる足にあわてながらも
無理やり動かされる身体についていく。


『え、ちょっと!』


いきなり起きた出来事に、
ツーブロ野郎がとっさに反応したけど…


『あぁ?』

『あ、なんでもないです。』


…はえーな。


振り返りながらドスの効きまくった
超絶低音を発したヤンキーに
ビビりまくりのツーブロ野郎は
あたしだけを生贄にすることを
即座に選んだらしい。


いい判断だよ。


だって、このヤンキー。

あたしの腕を引っ張るこのヤンキー。


超怖い顔してるもん。


多分人ひとりくらい殺してきたな。


そんくらい怖い顔してる。


あたしも殺されるかもしれん。



岩本よ…

やるなら一思いにやってくれ…



馬鹿のことを考えながら
されるがままのあたしを
岩本くんは店の外まで連れてきた。


スタッフが出入りするだろう
裏口付近まで歩いたところで、


『岩本くん…腕痛い…』


やっと声を発したあたしに


『あ、悪ィ…』


岩本くんも反応してくれた。



『……』

『……』



気まず〜。



お互い黙り込む気まずい空気が
少し流れたところで、


『急に、悪い』


岩本くんが話し出した。


『……』

『腕、大丈夫か?』


コクリと頷くあたし。


『そっか、良かった。』

『…何?』


ホッと胸をなでおろす岩本くんに
向かって出たあたしの声は
ビックリするくらい低かった。


『…え、』

『…岩本くんが…
何がしたいのか分からない』

『……』

『プールでの事なら…謝る…』

『……』

『だからもう気まぐれに優しくしないで…』


告白してもないのに振られた相手に
優しくされたくない。


あたしの気持ちに応えるつもりもないのに
なんでこんなことするのか

期待させるだけさせて
どうせまた“ごめん”って言ってくるんでしょ?


『帰るから…手、放して』


ずっと掴まれたままだった腕を
振り払おうとした瞬間に
グッと力を入れてまた握り直された。


『嫌だった』

『…え?』

『お前が男と2人でいるのが』

『…なに、』

『すげぇ嫌だった…』


岩本くんはその容姿に似合わない
小さな声でポソポソと喋る。


『何度もお前に連絡しようと思った。

…でも、出来なくて…

ふっかに頼んで連絡してもらってたけど
お前全然誘いに乗ってくれないって
ふっかに言われて…』

『……』

『プール掃除してた時に
ふっかがお前連れてきてくれて、
すげぇ嬉しかった。

…久々にお前に会えて。』

『……』

『ずっとお前に会いたかったから。
夏休み中、ずっと。』

『…いわも、』

『でも、これが好きなのか
分かんねぇんだよ…』


目にかかった前髪をガシガシと
手でかきむしる。

苦しそうな顔に、苦しそうな声。


『会いたいと思うし…
男と2人でいたら嫌だとも思う…』

『……』

『でも、お前を好きだからそう思うのか
それが分かんねぇんだよ…』

『……』

『プールでの事だって、謝んなくていい。
つーか、謝んな。』


…開いた口がふさがらない。


なんなのこいつ。


何言ってんの?



『今だって、手ぇ放したくねえ。
離したらさっきの奴のとこ行くんだろ?』

『……』

『そんなの絶対嫌なんだよ…』


…目の前にいるこいつは、
あたしのことを好きかどうか分からない言う。



でも、

夏休み中あたしに会いたくて仕方なくて。


会えた時は嬉しくて。


キスされた事は謝られたくなくて。


他の男と2人でいたら嫌らしくて。



でも。それでも。


あたしのことを好きかどうか分からないと言う。


本当に、馬鹿なんじゃないの?

そんなの、
好きって言ってるようなもんじゃん。


告白してるようなもんじゃん。


どうしようもない、こいつ…

どうしようもないけど、


どうしようもないくらいに…


愛おしい。



込み上げる気持ちを抑えきれなくて
あたしは目の前のその
たくましい体に抱き付いた。


『…うぉッ!』


ビックリしながらも反射的に
あたしの背中に手をまわす岩本くん。


『岩本くん…勝手過ぎるよ』

『……』

『あたしの気持ち考えた?』

『…悪い…』


申し訳なさそうな岩本くんが
あたしの背中に回していた手に
力を入れた。


『お前、ちっちゃいな…』


…またそんなこと言う。


本当にどこまでも最低で
無神経でどうしようもない奴…


でも、
あたしの好きな人。


『岩本くんがおっきいんだよ』

『かもな』


半笑いでそう答えた岩本くんの
厚い胸板に顔を押し付ける。



覚悟しとけヤンキー野郎。


堕としてやる。


あたしのこと好きで好きで
たまらなくしてやる。



早く夏休みが終わればいい。


そしたら、毎日会えるから。


またあの踊り場で、
一緒にご飯たべれるから。



君はもうあたしだけのもの。





岩本くんの背中に回した腕に力を入れて
その広い背中に少し爪たてた。








fin.



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