さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

不器用なアイツ。【10】


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外回りから帰ってきて、
いつもの通り自分のパソコンに
届いたメールを確認しようとした時
それが現れた。


『なんだこれ』


会社内の連絡用の受信トレイに入ってた
匿名の捨てアドで作られた
そのメールは、


“あの人を返して!
あなたのせいだから!
許さない!!”


シャアの暗示にかかったままの
女子社員からと思われるものだった。


『わーお。』


乾いた驚きを1つ口にして、
さっくりとそのメールを削除する。

別のメールを開くと、
その一通以外は普通の仕事用のメール。

暇な奴もいるんだなぁ…
程度に考えていた。





『…あれ?こいつどこに行ったんすか?』


ふと、隣に目をやると
いつもそこで座って仕事しているはずの
同期がいないことに気づいた。


『…あ〜、手伝いらしいよ』

『手伝いですか?』

『海外転勤になった人いるでしょ?
あの人の部署。
今人手不足らしくて』

『…そうなんですか?』

『うん、あの人の仕事量
半端無かったらしいからね』


噂には聞いてたけど、
他の部署から手伝いを頼むくらい
そいつがこなしてた仕事量にビビる。


『あ、でも、ホラ。
福ちゃんのせいじゃないから、ね?』


先輩のその言葉に
ピンと来た。

なるほど、ね。


だからあんなメールが
俺のパソコンに届いたわけだ。

上に直接報告はしていないけど、
あいつの行いが明るみになったのは

どう考えても俺が調べ始めたから。


元々は俺のせい。


どこからか、俺の名前がバレて
いろんな人の恨みを買ってるっぽい。

このメールが良い例だ。


『…なんのことっすか?』


ケロリとした顔で先輩にそう言うと、
先輩は少し安心した顔をして


『なんでもないよ』


と、言った。


誰にもばれないように
一言ため息をついた…


『…やべ…』


彼女に会いたい気持ちが強くなった。






『…あ、おかえり』

『あれ?悠太、まだ残ってたの?』

『残業大好きだから』

サービス残業なのに?』


自分のデスクに戻ってきた同期が
そう言ってクスクス笑いながら
帰り支度を始める。


『手伝いに行ってたんだって?』


同期の身体がピタリと止まった。


『なにが?』

『あいつがいた部署に』

『……』

『次からそれ、俺が行く』

『…いい。私が頼まれてんだから』

『俺が行きたい』

『……』

『俺が行きたいって言えば、
俺に回ってくるだろ』

『……』

『手伝ってくれれば
誰だっていいんだから、向こうは』


俺のその言葉に、
同期が小さく唇をきゅっと結んだ。


『…好きにすればッ』


気の強い同期の言葉に


あ、こいつも全部知ってんだな…

って悟った。



シャアのいた部署への手伝いの話は
意外とすぐにきた。

オフィスに入って、
挨拶をした俺への視線は
めっきり冷たかった。

裏でどういう話が交わされていたのか
だいたい察しはついたけど
自分が悪い事なんてした覚えは
1つもないから、


何事もないかのように、
堂々とした態度で仕事をした。

それが俺のプライドだ。







向こうの部署の手伝いを
始めてから2週間ほど経った。


元々、他の部署の手伝いなんて
出来るほど自分の仕事に余裕なんてなかった。

残業が当たり前みたいな
ところもあったし…


でも、それでも向こうの部署の仕事も
慣れないなりに頑張って
少しずつ力になれるようになってきて、

努力してる俺を見て
最初は冷たくあしらっていた人たちとも
いい感じの雰囲気になって来た。


誰よりも早く出勤して、
誰よりも遅く退勤する。

そして昼休みはデスクで爆睡する。


別に苦でもなんでもなかった。

自分がしたいようにしてるだけ。



でも、周りはそう思わないみたいで…


『悠太…!悠太!』

『…なに?』

『昼休み終わる』

『…あぁ、』


ちゃんとアラームセットしてるから
もう少し寝かせてくれても良かったのに…


起こしてくれた同期には悪いけど
少し不貞腐れながら
机から体を起こして伸びをする。

背骨からポキポキと
音を鳴らしていると、


『悠太…何をそんなにムキになってるの?』


同期の怪訝な声が聞こえる。


『…ん?』

『何をそんなにムキになってるの?』

『…ムキ?』

『うん。』

『いや、ムキになんてなってませんよ?』


何のことだかサッパリ分からなくて
そう答えた俺の言葉に
同期は眉をひそめた。


『最近の悠太、少しおかしい』


その言葉に、さすがの俺も
少しイラッとした。


『…だったら俺以外の全員がおかしいんだよ』

『……』

『俺は何1つおかしくない』


買っておいたエナジードリンク
一気飲みする。

周りからどう見られてたっていい。


それで彼女を守れるなら。


この時の俺はそう思ってた。








死ぬほど頑張って仕事をした俺へ、
神様からのご褒美なのか

彼女の会社の近くに
打ち合わせで行くことになった。


隣で同期が、
その辺にあるカフェのハンバーグが
美味しいだのなんだの言ってたけど


『俺今日外で食うわ。』


と、言いながら、


昼飯一緒に食えるかも!


瞬時にそう思った俺は、
彼女の予定なんて考える前に
誘いのラインを送っていた。


“食べたい!”


テンション高めに返ってきた
彼女からの文に疲れも吹っ飛ぶ。


『福ちゃん〜』

『はい』

『俺打ち合わせのあとすぐ会社戻るけど
福ちゃんどうする?』


課長から聞かれてニヤニヤする口元を
隠しながら


『外で昼飯食ってから戻ります』


って答えたら、
福ちゃんってそんなにタレ眉だったっけ?

って言われて、
今俺どんだけだらしない顔してんだよ
って思った。



一緒に打ち合わせに来てたメンバー
全員の前で外で飯食ってくると伝えて、

向かう先は
“あのファミレス”

彼女が深夜までパソコンとにらめっこして
途中で寝落ちした“あのファミレス”


思い出の地なんて言ったら大げさで
少し笑えるけれど、
それでもこのファミレスには
それなりに思い入れがある訳で、


『なんか緊張する…』


案内された席に座ったと同時に
小さく独り言を言った。



メニューに一通り目を通して
食べたいものが決まった頃に
お昼時を迎えた店内は混み始めた。


まだかなーおそいなー


頬杖をついて店の入り口を眺めてると、
キョロキョロと挙動不審に
店内に入ってきた女の子が目に入った。


そんなに左右に顔振らなくても
店内見渡せるだろ…


俺の視線に気づいた彼女は
俺と目が合うと
小さく手を振った俺に笑顔を向けながら
小走りで駆け寄ってきた。


『お待たせ福田くん!』


数週間ぶりに顔を合わせた彼女は
その挙動不審な行動でさえ笑えるほど
愛しくて可愛い。


向かいのソファに腰をかける彼女に
お疲れさん、と声をかけると


『福田くんもお疲れさん』


と、返ってくる。


福田くんって呼ぶのが可愛い。


お疲れさんって俺の口調を
真似するのも可愛い。


俺の好きな子は可愛い尽くし。



メニューを真剣に眺める彼女を
凝視している自分に気づいて

ハッと我に返る。


…なんか俺変態みたい…


頭を冷やすために
目の前にある水を飲んだけど

頭は冷えないし、
上がるテンションは隠しきれなくて
彼女の食べたいものが決まるまで
俺の鼻歌は止まらなかった。


『でね、姐さんがね!』


俺のテンションに負けないくらいに
彼女のテンションは高くて

そりゃもうよく喋るよく喋る。

喋ってばっかりだから
全然飯が進んでない。


話している内容は
心底どうでもいい事なんだけど

それを聞けるのが嬉しい。


『社員証見せてよ』


脈来なくそう言うと、
彼女はもろ“私の話聞いてたのかよ”って
顔をしながらポケットから社員証を取り出して
俺に渡してきてくれた。


社員証をもらって、眺める。


それに写ってる彼女の顔は
実物より目がぱっちりに、

そして小顔効果意識で顎を引いたのか、
狙い通り小顔に写っている。

ただ、目を開くのに力を入れたのか
口元に不自然な力が入っていて
それがまた笑える。


『やっぱり詐欺だなぁ(笑)』


社員証の写真と本人を
見比べながらそう言うと
少し顔を赤くしながら頬を膨らませた。



その赤くなった顔に、

ふと、泣いている時の
あのブスな顔を思い出す。


あの顔、好きなんだよなぁ…

目も鼻も真っ赤にして
ボロボロ泣いてる、あの顔。


あーあ、
早くこいつも俺の事好きになんねーかなぁ。

したらもう毎日甘やかせて
泣かせまくるのに…

もっと俺に甘えて、
俺なしじゃ
どうしようもなくなればいいのになぁ。


手に持っていた社員証に印刷されてる
彼女の顔写真を親指でなぞった瞬間、


『悠太!やっと見つけた!』


高い声が聞こえた。


声がする先には、
さっきまで一緒に仕事していた
同期が立っていた。


『おお、ビックリした』


もともと声が高いのに、
さらにおっきな声で名前を呼ばれて
驚く俺の隣に腰を下ろしてくる。


女の子って感じの
甘いボディミストの匂いがした。


『課長に聞いたの。外出かけたって。
一緒にご飯食べようと思ってたのに。
あちこち探しちゃったじゃない!』

『いや、俺今日外で食べるって
最初から言ってたじゃん』

『あら、そうだっけ?
聞いてなかったから知らない』


…聞いてないわけないのに。

わざわざ追ってきて、
何がしたいんだ。


微妙な空気になってきて
この場をどうしようかと悩んでいると


『…誰?』


同期が思いっきり感じ悪く
彼女の方を見ながらそう言った。


同期からの視線に、
彼女の瞳の奥がよく見なきゃ
分からない程度だけども
確実に怯えていた。

だから、


『ケータイ誘拐犯』


と、彼女にだけ分かる事を口にした。


その言葉に吹き出した彼女に、
ホッとしたのもつかの間。

同期は俺にグッと体を寄せてきた。


…何すんだよ。



本当にやめて欲しいのに、


『ねぇ、悠太。何食べてるの?』


そう言いながら
俺の飲み物を手にして口にする。



中学生じゃあるまいし、
間接キスだぁなんて事1ミリも思わないけど

彼女の前となると別。

すげぇ嫌。

彼女に見られたくない



…そう思うんだけど


『人の飲むなよ』


これ以上同期を怒らせて
空気が悪くなるのも嫌だから、
事を荒げないように言うのが精一杯だった。


『なんの話ししてたの?どうぞ続けて』


全く無関係のお前がいる前で
何もなかったかのように
ハイ、会話再開しますなんて
出来るわけないだろ…

マジでこいつどうしようか…


同期の扱いに悩んでいると


『…悠太、それ何?』


俺の手の中にあった、
彼女の社員証を指差しながら言った。


『ん?これ?これは…』


説明していいものか、
悩みながらも言葉を濁そうとした瞬間に


『か、返して!!』


今までずっと黙っていた彼女が
大きな声で叫んだ。


彼女のいきなりの大声に
持っていた社員証を差し出すと、

少し乱暴に引ったくられた。


その引ったくった社員証を
ポケットに突っ込んだ彼女は、


『ごめん!私仕事残してたんだった!
先に行くね!』


そう言って荷物を持ちながら立ち始めた。


…は?


呆然としている俺をよそに、
彼女は財布から抜き取ったお札を
テーブルの上に置いて


『失礼します、』


と、頭を下げてその場から走り出した。


『いや、ちょっと待て…!
…○○!?』


その背中を慌てて追おうとするけど


『どいて!』

『嫌』

『どけって!』

『嫌!』


同期に塞がれて、
立ったまま動けなくなった。


『マジでお前なんなの?』


ここまで俺がキレるのは
珍しいことで、
その言葉を言われた同期は少しうろたえながら


『…置いてったわよ』


って言いながら、
テーブルの上に置かれたままの
千円札2枚を俺に渡してきた。


『…悠太がムキになってた理由わかった』

『…は?何?』


もう追いかける気力も失くなって、
顔を覆って項垂れてた俺に
そんな声が聞こえる。


『あの子が原因なんでしょ?』

『……』

『あの子の為なんでしょ?』

『お前なんなの?本当にうるさい。』


睨みながらそう言った俺に、
同期はさすがにそれ以上
何も言ってこなかった。







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明日から!

縁 〜むかしなじみ〜

怪我なく最後まで走りきってください!


ふぉ〜ゆ〜愛してるよー!!

(((o(*゚▽゚*)o)))