さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

越岡くんと元彼。【後編】



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大きなエビフライが乗った
ランチプレートが人気のこのお店は、

夜になるとランチの時よりも
メニューが増える上に、
色々なワインが楽しめる
おしゃれな飲み屋に顔を変える。


私はあまりお酒が飲めるタイプじゃない。

でもこのお店に置いてある
スパークリングワインが
お酒の弱い私にも飲みやすくて
すごく美味しいから


友達とよく、
軽く飲みたいねってなった時は
いつもこのお店に来ている。


昼も来たのに夜も来たり…
1日に2回行くこともたまにあるから
多分店員さんには顔を覚えられてると思う。

ちょっと恥ずかしいけど
その恥ずかしさを受けても尚、
来たいと思うくらいには
このお店は私のお気に入り。


アンティークなドアの取っ手を引いて
店内に入ると

ゆっくりと流れるBGMと
鼻をかすめるいい匂い。


『腹減った』


超絶オシャレ女子気分だったのに、

駅から一緒に歩いて来た友達が
鼻水をすすりながら
低い声でそう言ったから
一瞬にして雰囲気がぶち壊れた。


『もっと可愛く言ってよ』

『なんでよ』

『せっかくグータンヌーボみたいな
気持ちになってたのに』

『もうやってないからその番組。
年齢バレるから辞めて』


何度も見たことある顔の店員さんが
私たちの可愛げのない会話を聞いて
肩を揺らしながら案内してくれた席に着く。


テーブルに並ぶのは

お気に入りのスパークリングワインと
イカの一夜干し。

それとオシャレぶった友達が頼んだ
ナッツと生ハム。


音を鳴らしながら
軽く重ね合わせたワイングラスで
グイグイとお酒が進んで、

会話も弾んで
ほろほろと酔いが回ってきた。


その時、ケータイが鳴った。


画面に映るのは、知らない番号。

かかってきた電話には
片っ端から出る私は

ちょっとごめん。
と、友達に一言添えてから
通話ボタンを押して
ケータイを耳に当てた。


『もしも』


ブチッ


切れた。


そしてすぐまた鳴る。


『はい』

『……』

『もしもーし』


ブチッ



今度は少し間を空けてから切れた。


『え?なに?大丈夫?』


心配そうに友達が言う。


『なんだろうね。』


間違い電話か何かかな…

なんて思いながら気にも留めないで
友達との会話を再開した。









間違いかなと思った
電話はそれから何日か続いた。

出た瞬間に切れるその電話に、


…あ。これは間違い電話じゃないな…


って思い始めた。


でも知らない番号だし、
正体不明の相手からの着信に
戦う気も起こらずに
かかってくる電話に片っ端から出て

相手の通話料金を上げることだけに
全力を努めていた。


イタズラでやってるなら
そのうち飽きるだろ。

呑気に考えていたある日、


『……うわ』


アパートのポストが
紙で溢れかえっていた。

仕事から帰ってきていつものように
ポストを確認してから部屋に行こうと思ったら

明らかに容量オーバーの紙が
私の家の番号が書かれているポストに
ギチギチに詰め込まれていた。


その紙には、
とある人物しか知り得ない
昔の私の事が書かれていたり
写真がたくさん貼られていて…


『あいつじゃん…』


焼肉屋での不敵な笑みを浮かべてた
あの元彼の顔が浮かんだ。


鳥肌がブワーっと
全身に立った。


別れてすぐに
着信拒否したけれど、

そりゃあ番号を変えられたら
そんなの意味を成さない。


力なくポストから紙を剥がす
私の口から漏れるのは


『暇なのかな、あいつ』


元彼への嫌味。



あ〜裕貴に癒されたい。

裕貴に甘やかされたい。



いまいち危機感が湧かない私は
ポストから紙を抜き取りながら
片手で裕貴に電話をかけた。



裕貴は私のワガママ全開の呼び出しに、
すぐ行くね。
って、言ってくれた。

裕貴が家にいるときに
ケータイが鳴ったら嫌だから
電源をオフにしといた。


それから30分もしないで
私の好きなチーズケーキを片手に
裕貴は私の家に来た。

仕事終わりに来てくれたらしく
スーツ姿はたまらなくカッコよかった。

玄関で靴を脱いでる裕貴の背中に
思いっきり抱きつく私の頭を
優しく撫でてくれる彼は
やっぱりすごく優しくて


この人のこと悲しむ顔は見たくないな…

そう思って、
元彼からの電話のことは
言わない方がいいかな…って思った。




…本当に、なんで今更?って思う。


付き合っていた頃は
ひとつも私に執着なんてしなかったのに。

むしろ邪魔者のように扱って
他の子ばかり相手にしてたくせに。


元彼は言っていた。

私以上に自分を好きでいてくれて
自分を尊重してくれた女他にいなかったと。


それは完全に勘違いだ。


尊重してたんじゃない
言わないで我慢してただけ。


捨てられるのが怖くて
言えなかっただけ。

だから我慢してた。

それもなんで我慢出来てたって…
裕貴が私の話を聞いてくれてたから。


こんなどうしようもない私の
側にいてくれたから。

八つ当たりしても、
いきなり泣き出しても、

いつだって私を気にかけてくれてたから。


昔だって今だって
私には裕貴が必要なんだ。


今になってはこう思う。

元彼への我慢だって、
裕貴に対しての気持ちを
誤魔化すためのものだった。

だから尊重してもらえてたなんて、
勘違いもいいところ。



嫌な顔ひとつしないで、
私の家に来てくれた裕貴は

ご飯を食べると帰って行った。


急な呼び出しだったのに、
たかがご飯を食べるだけの
何十分かのために来てくれるなんて…


裕貴の優しさに
浮かれに浮かれまくった
浮かれポンチな私は
イタズラ電話のことなんて
すっかり頭の隅に追いやれていて

ケータイの電源を入れた瞬間に


『…どっひー…』


不在着信62件


その文字に驚愕した。


もちろん全部あの番号。


ここまでくるとさすがにヤバイ

ちょっと冷や汗までかいてきた。


言わない方がいいかなって思ったけど、
私1人でどうにか出来る問題じゃ
無い気がしてきた。


いや、でもその前に
友達に相談しよう。

とりあえず友達に言ってから
裕貴にも…


ピンポーン


部屋にインターホンの音が鳴り響く。


このタイミングでの、
呼び鈴の音に体がビクつく。

跳ね上がった身体を落ち着かせて
どくどくとなる鼓動を感じながら
玄関の方に向かう。

手汗をびっしゃりとかいた手で
取っ手を掴んで
のぞき穴を覗くけど…


『…あれ?』


誰もいない。


恐る恐るドアを開けて確認しても、
そこには誰もいなくて


『…え、謎…。』


ドアを閉めようとした瞬間に
ものすごい勢いで
体が引っ張られた。

全開に開けられた扉の向こうには
どこに隠れてたのか

今までのイタズラの犯人、
元彼がいた。


『ぎゃぁぁあああ!!!!』


いきなりの登場にビビって
大声を出した私を奴は
部屋に押し込んだ。


そして鍵を閉める。


やっばーー!!!!

この状況超やっばーー!!!!


『俺からの電話って
気づかなかったの?』


あの焼肉屋以来に見る元彼は
目が血走っていて髪もボサボサで

焼肉屋で見たときの姿の
面影がほとんどなかった。


『さっき気づいたわ!暇かお前は!!』


この上なくやばい状況に、
相手を落ち着かせるどころか
逆に口が悪くなる私。


俺女の子みんなに振られちゃってさぁ』


だろうな!
だろうな!!

お前みたいなやつ、
一枚皮剥がれれば
振られまくるに決まってんだろ!!!


『やり直そうよ、○○』


死んでも嫌だわ!!!
こちとら今幸せなんだよ!!!


『結婚しよう?』


タハー!

一発ギャグ?
ねぇ、今の一発ギャグ??


完全にいっちゃった目をした
元彼がジリジリと距離を詰めてくる。


ケータイを手に取ろうとしたけど、
モタついてうまく取れなくて
元彼に奪われてしまった。


『別れてからすぐに何回かかけたんだよ?
なのに着信拒否だもん。酷いよなぁ。』


元彼の意識が私のケータイに
行った隙を見計らって
ベランダがある窓へとダッシュした私は、

その窓を勢いよく開けて、


『ゆうきーーッッ!!!!!
助けてーーー!!!!!!』


人生で一番ってくらいの大声で
そう叫んだ。


『おい!!』


後ろから口を塞がれて
家の中に再び引きずり込まれる。


『誰だよその男!!
今付き合ってる奴か!?』


手加減なしの力強さに
息が苦しくなってくる。


…し、死ぬ…かも…


意識が遠のきそうになった瞬間に、
パトカーのサイレンが聞こえた。


『は!?警察!?』


サイレンの音にビビったのか、
少し緩んだ元彼の力に、

奴の腕からすり抜けた私は
瞬時に男性のシンボル的な場所を
思いっきり蹴り上げた。


『…ぐぉ…ッ』


その場に倒れこんだ元彼に
大声で怒鳴る。


『お前のこと警察に突き出してやる!!』


私のその言葉に、
今自分がどれだけ不利な状況か。

私と自分の立場が一変したかに
気づいた元彼は
立ち上がって一目散に逃げ出した。


でも、これで元彼からの
イタズラがなくなるなんて
保証はどこにもない。

きっちり警察に突き出してやる。


玄関へ走って行って、
鍵を開けて外に飛び出した元彼の背中を
蹴り飛ばす。


前に倒れこんだ元彼に飛び乗って、
ヘッドロックをかまして
腕を後ろに引っ張って
ねじりあげようとしたその時…


『○○!』


優しい声と共に、
後ろから抱き締められた。


女子プロの選手並みの
戦いを繰り広げていた私だけど、


その声の持ち主に
触れられた瞬間に、


『裕貴ぃぃ〜〜』


か弱い女の子になった。


元彼の上に乗ったまま
裕貴の方に体を向けて
ぎゅっと抱き着くと、


『怪我ない?』


聞こえてくる優しい声に
涙腺が緩む。

泣きながらよく周りを見てみると
ギャラリーの数が半端なかった上に、
私のケツの下の元彼は
完全に気を失って伸びきっていた。


私の元に駆け寄ってきたお巡りさんが、


『大丈夫ですか?』


と、言いながら


たまたま近くをパトカーで通っていたら
助けてー!って声が聞こえて、
急いで声のする方へ来てみたら
男の上に馬乗りになって
ヘッドロックかましてる女がいて
何が何だか一瞬分からなかった。


って、
事の経緯を説明してくれた。


ここぞとばかりに、
お巡りさんに伸びきった状態で
パトカーに運ばれていく
元彼のことをあれやこれやと告げ口した。


裕貴は、お巡りさんでさえ、
飛び込むのを躊躇った
元彼と私の戦いっぷりに
迷うことなく駆け寄ってくれたらしい。


『お嬢さん、いい彼氏持ったね』


裕貴に聞こえないように
私だけにそう耳打ちしたお巡りさんに
私は照れ笑いするのが精一杯だった。









目の前には胡座をかいて、
腕を組む裕貴。

そしてその前で
小さくなって正座する私。


『……』

『……』

『……』

『どういう事か説明して』


少しの沈黙を置いて、
そう言った裕貴に私は


『ちゃんと言おうと思ったんだよ…』


って、ほとんど意味のない
保険をかけながら
今までのことを話し出した。


最後まで話し終わると、
裕貴は優しく私を抱き締めてくれた。


『なんでもっと早く言わなかったの』

『ごめんなさい』

『○○のアパートの方から
サイレンの音したから焦って戻ってみれば…』

『うん』

『心臓止まるかと思ったわ』

『ごめんなさい』


謝ることしか出来ない私を、
もっと強く抱き締めて
髪を撫でてくれる。


『…俺のこと好き?』


小さな声でそう聞く裕貴。


これは私の憶測かもしれないけれど、
裕貴は元彼に
コンプレックスがあるのかもしれない。


昔の事だとしても、
裕貴よりあいつを選んだことがある過去を
裕貴は気にしているのかもしれない。

自分じゃない男を
私が選んだという過去を。



私は、裕貴の事が好きだ。



実は細身に見える彼の腕が
しっかり筋肉がついてることも知ってる。

キスするときにくすぐったい
長いまつげだって。

顔を埋めたときにいい匂いがする
サラサラの髪だって。


全部大好きだ。


『好き。大好き。』


迷う事なくそう口にした私に、
小さく息を吐き出した裕貴は

私の顔を覗き込みながら


『もう二度とあんなことすんな』


って、ちょっと説教してきて…


さっきまでの自分のプロレスラー並みの
戦いっぷりを思い出して
恥ずかしさに顔を赤らめた。







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多分この主人公の女の子は、
ガチで戦えば越岡さんより
遥かに強い(笑)