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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

ヤンキー岩本くん 〜ライバル編〜 【下】





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『いいよ』

『は!?』


自分から告白してきたくせに
あたしの返事に盛大に驚くえーくん。


『は!?え、なん!?はぁ!!??』

『別にいいよ、えーくんと付き合っても』

『え!?岩本は!?』

『だって別に岩本くんと
付き合ってるわけじゃないし』

『いやッ!あ…はぁ!?え!?』


テンパリまくりのえーくんは
あたしの肩をガシッと掴むんで
顔を覗き込んで、


『本当に付き合ってくれんの!?』


唾が飛ぶくらいな勢いで
そう聞いてくる。


『いいよ』

『は!?マジで…!?』

『うん』

『は!?』

『ただ』

『ただ!?』

『一つ条件があるけど』


肩を掴んだ指に力が入って、
ゴクンと生唾を飲んだえーくんに
伝える条件はただ一つ。


『岩本くんより夢中にさせて』



それだけ。


たったそれだけ。



『岩本くんより夢中にさせてくれるなら
付き合ってあげてもいいよ』


えーくんの全身から力が抜けていく。

肩を掴む力も弱まって、
その口元には笑みが浮かぶ。


『俺が?』

『うん』

『ははっ』

『ん?』

『岩本との話した後に
そんなこと言うなんてお前鬼だな』

『そう?』


首をかしげると
えーくんはあたしに手を伸ばして
優しく髪を撫でた。


『じゃあ無理だわ』

『え〜』

『岩本よりなんて無理』

『諦めるの早くない?』

『お前の条件が鬼畜過ぎんだよ』


大げさに嫌な顔をしたえーくんに
思わず笑いとばした。


『えーくんさ、岩本くんのこと
前から知ってるから
カラオケ屋であたし見たときに
あーやって声かけてきたの?』


その場から立ち上がって
スカートについた砂を払いながら
問いかけるあたしに
えーくんが『いや…』と、言いながら
顎に手を添えてたじろいだ。


『お前のことは前から知ってた』

『前から?』

『ああ』

『なんで?』

『……』

『なんで??』


言いにくそうにあたしから目を背けるから
意地でも目の前に回り込んで
目を合わせてやる。

くるくる回るえーくんに合わせて
えーくんの周りをくるくる回るあたし。


目が回ったのか、
えーくんはついに観念して
あたしに目を合わせながら


『お前の写メ、出回ってるから』


予想外のことを口にした。


『あたしの写メ?』

『ああ』

『どれ?見せて!』


あたしのケータイは
未だに返してくれないくせに

自分のケータイはあっさりと
手渡してきたえーくんは、


『コレ』


と、苦い顔をしながら
あたしの写メを見せてくれた。

画面の向こうに映るあたしはカフェにいて、
岩本くんとふっかに囲まれながら
談笑していた。


いつの間に撮られたのか…
全然気づかなかった。

週刊誌とかに載る芸能人の
スクープ写真とかって
こうやって撮られてるのかなって思うけど
それ以上に放っておけない事実がある。


『…うっわ』

『……』

『めっちゃ微妙なんだけど!』

『…は?』

『もっと可愛い顔で写ってる写真が良かった』

『お前…』

『あたしもっと可愛いやい』

『マジで付き合いてーわ、お前』


あたしの手からケータイを
取りながら笑ってそう言うえーくんは、


『でも条件が無理難題過ぎる』


と、付け足した。



『でもさ、出回ってるかもしんないけど
あたし今までなんもないよ』

『ん?』

『こんなのえーくんが初めて。』

『…だろうな』

『なんで?』

『お前、ここんとこ1人で家帰ったか?』

『それは…っ』



…帰ってない。



言われて気づいたけど
帰ってない。


なんかしらの理由をつけて
いつも岩本くんかふっかか
どっちかが家まで付いて来た。


別に送らなくていいよって
どんなに言っても

家まできっちり送られていた。


こんな裏が隠されていたなんて知らなかった。

しつこいな、なんて思った日もあった。



あたしは2人に守られてた。



『だからきっと今頃血眼になって
お前のこと探してるよ』


あたしに向けられるその笑顔は
嫌味っぽくも見えるし
嬉しそうにも見える。


『でも…写真の出回りって…
あたし大丈夫なの?
これから何かされたりすんの?』


やっぱり拭いきれない不安。


小さくなった声でうつむきながら
ぽそっとこぼしたあたしの頭に
えーくんの手がポンと乗った。


『そこはもう心配しなくていい』

『なんで?』

『俺が止めとく』

『へ?そんなこと出来んの?』

『お前俺のことなんだと思ってんの』

『そんな権力がある人間だとは思ってなかった』

『こう見えてすげぇんだよ、俺は』

『…へぇ』

『だからもう大丈夫。お前は安心してろ』


あたしのケータイを
あたかも自分のもののように
ポケットから取り出しながら

頼もしいことを言ってくれるえーくんに


『やっぱりえーくんは優しいね』


って言ったら、


『付き合う?』


って意地悪な笑顔で言われた。


もう傾きかけてる太陽は
昼間の時と違ってオレンジ色。

その太陽の色を見て
ふっかとカフェにいた時から
だいぶ時間が経っているのかわかる。


そろそろ帰りたいなぁ。

“えーくん帰ろうよ”

そう彼に声をかけようとした瞬間、
あたしに背中を向けて立つえーくんから
『ふふッ』と笑い声が聞こえる。


『どうしたの?』

『お前、岩本のこと
“ひーくん”で登録してんだよな?』

『うん』

『ほら』


見せられたあたしのケータイの画面には
“ひーくん”の表示。


『この“ひーくん”っての…
お前が寝てる間も、俺とお前が話してる間も
糞ほどに電話かけて来てたなぁ』

『そうなの?』

『岩本って分かってれば電話出たのによ』


ブツブツと文句を言いながら
あたしのケータイを持ち直す。

岩本くんからの電話に出たくて
返して返してって言いながら
ケータイを奪い返そうとするあたしを
手のひらで制しながら


『出るわ』


って、あたしへの報告なのか
独り言なのかそんな言葉を口にしてから
えーくんはケータイを耳に当てた。


『はい』とか『あ?』とか
強気に電話口の向こうに
言葉を発してたえーくんは、

急にケータイを耳から離して
画面を数秒見つめて
本当に驚いたって顔をした後に
口元に小さく笑みを浮かべた。


無事に電話が終わったからなのか、

さっきまであんなに返してくれなかった
ケータイをあたしに渡して来た。


見上げた先にあるえーくんの口元には
未だに笑みが浮かんでて、

むしろさっきよりもだらしない
口元になっている気さえする。


『……』

『えーくん』

『んだよ』

『顔キモいんだけど』

『…ふっ』

『きもい』


対照的なあたしたちのテンション。

それでもえーくんの
だらしない口元はそのまま。


『今お前のケータイで
岩本と電話したじゃん?』

『うん』

『したらさぁ』

『うん』

『俺の事、声だけで分かったって』


岩本は俺のことなんて
覚えてないと思ってた…

って小さく呟くえーくんの顔は
口には出さないけれど
“嬉しい”って感情を隠しきれてなくて、


『でもさ、えーくんの事
声で分かるくらい知ってるのに
カラオケ屋であたしといるとこ見たときに
なんでえーくん何も言わなかったんだろ』

『あー…』

『すごい謎』

『多分俺の事視界に入ってなかったんじゃね?』

『なんで?』

『お前に意識行き過ぎて』

『…ふぉっ』

『照れてんなよ、うぜぇ』


憎まれ口を叩いても
やっぱり顔はニヤニヤしてた。


『さーて、帰りましょうかお姫様』

『んだそりゃ』

『岩本に守られてるお姫様』

『あたしお姫様って柄じゃないんだけど』

『じゃご主人さまか?
岩本も王子様っていうより番犬っぽいしな』


唇の端を片方だけ上げて
ニヤリと笑うえーくんは
あたしにヘルメットを被せると
そのまま頭を鷲掴んであたしを抱き締める。


『なぁ』

『なんだい?』


抱きしめながら真剣な声で
そう言ってくるから

また告白されんのかな?
なんて思ってたら


『岩本、すげぇキレてる』


ある意味とんでもない告白をされた。


『それはそれは恐ろしいくらい』


はわわ〜

まじかよーい


『先に謝っとく。悪いな。』


あたし以上に“キレた”時の岩本くんの
怖さを知ってるえーくんが
ガチっぽく謝るから

なんだか憂鬱な気分になった。







岩本くんを焦らせて
もう一回喧嘩するのが狙いだったえーくんだけど

岩本くんが自分を覚えていることを知って
満足したらしく
『帰らせてやるよ』って言ってくれた。


どっかの倉庫だったらしいその場から
えーくんの運転するバイクに乗せられて

見慣れた街並みまで来ると、
いきなりバイクが止まった。


『○○』

『ん?』

『前見てみ』


捕まってたえーくんの背中から
ひょっこり顔を出すと
一本道をまっすぐ見据えた遠くに
岩本くんが見えた。

もちろんその隣にはふっかもいる。

もう結構離れた距離からでも
分かるくらいに岩本くんは機嫌が悪そうで
めちゃくちゃイラついてる。


『あはっ、すげー怒ってね?』


ゲラゲラ笑うえーくんを睨みながら
あたしはもういっそのこと
バイクと同化したいとさえ思い始めてた。

あたしなんも悪くないのに。

えーくんと岩本くんの喧嘩なのに。

マジで巻き込まれた感半端ない。


同化することが出来なかった
バイクからのろのろと降りて
力なくえーくんにヘルメットを返す。


『んじゃ、俺帰るから』

『え!?』

『なんだよ』

『一緒に来てよぅ…』

『岩本にもうお前に関わるなって
さっき電話で言われたから』


…なんて無責任なッ!


巻き込まれた上に
この無責任さ!

許せん…!!


もう関わるなって言われたから
一緒に行けないって言ったくせに、

ヘルメットをあたしから受け取りながら


『また電話するな』


って言葉を残してえーくんは本当に
あたしを置いて去っていった。


まだ岩本くんとふっかは
あたしに気づいてない。


岩本くんに一歩近づくたびに
心臓がドキドキとなる。

それはときめきとかの類の
良い意味のドキドキじゃなくて

親とかに怒られる前に感じるドキドキ。

だからひたすらに心臓が痛くなる。


それでも凄まじい怒りオーラを纏った
岩本くんに近づいていくあたしは

心のどこかで腹を括ってるみたい。


岩本くんとあたしとの間が
100メートルあたりになった瞬間…

ふっかが『アッ』と、声を上げて
岩本くんがあたしの方に振り返った。


向けられた目線に
息が止まりそうになってるあたしの元に
岩本くんがダッシュで駆け寄って来て


『今までどこにいた!?』


地響きが何かと勘違いするほど
低い声で怒鳴られた。


同時に掴まれた腕も
もう手跡が付くんじゃないかって
くらいの力で握られる。

あまりの迫力に掴まれた腕を
引っ張りながら体を小さくする。


『い、いたい…』

『んでこんなマフラー付けてんだよ!!』

『痛いってば…』

『おいふっか!!!』

『はいぃぃッ!!』


今まで見たことないくらいに
声を荒げる岩本くんにビビってたのは
あたしだけじゃないみたいで

いきなり名前を呼ばれたふっかは
声を裏返しながら返事をする。


『東高行くぞ』

『な、なんで!?何すんの!?』


岩本くんにしがみついて
問いかけるあたしに、
彼は冷たい視線で見下ろしながら


『ぶっ殺す』


戦慄するような言葉を吐いた。


『だ、だめだめだめだめ!!』

『うるせぇな』

『殺しちゃだめだよ!!』

『本当に殺すわけねぇだろ』

『あ、当たり前じゃん!!』

『話つけに行くだけだ』

『絶対話だけで終わるわけないじゃん!!』

『あ?』

『だめだって!』

『1発くらい殴ったっていいだろ』

『それを辞めてって言ってんじゃん!!!』

『はぁ!?』

『えーくん、悪い人じゃないよ!!
優しい人だよ!!!』


もはや最後は叫び声に近かった。

いろんな感情が入り混じって
叫んだあたしを岩本くんは
さっき以上に冷たい視線を向けて


『お前、自分が何言ってっか
分かってんの?』


そう言う。


岩本くんの視線から逃げるように俯いて、
肩で息をするあたしの手を
払いのけるように自分の体から外した
岩本くんは、


『…知らね』


って言いながら
あたしに背中を向けて歩き出した。




…あ、




少しずつ遠くなってく広い背中を見つめながら
呆然と立ち尽くすあたし。


すると今まで徹底して空気のように
気配を消していたふっかが隣に並んできた。

ふっかの方を見ると、
少し困った顔をしながら…

でも笑ってて、


『○○ちゃん…』

『ん…?』

『照ね、すごく心配してたんだよ?』

『……』

『すごく必死に探してたんだよ?』

『……』


分かってる。

そんなこと分かってる。


あんな形相になって…

あんな力ずくであたしの腕を掴むなんて…


優しい岩本くんがするわけない。


そんな“するわけない”ことをするくらい、
あたしを心配してたってこと。

余裕なくなるくらい
あたしを探してくれてたってこと。


そんなことは分かってる。


えーくんを庇うわけじゃないけど、
あんなに嬉しそうに笑ってた
えーくんを傷つけて欲しくなかった。


どっちかと言うと、
えーくんの中に存在している“岩本”像を
あたしなんかの為に
岩本くん本人が壊しに行こうとしてるのが
すごくすごく嫌だった。

だから東高に行くなんて言い出した彼を
えーくんを理由にして
止めてしまった。

彼が1番気に入らない方法で
止めてしまった。


自分勝手さとどうしようもなさに
呆れて泣きそうになるあたしの首から、
ふっかが優しくマフラーを外す。


『照のとこに行ってあげて?』

『……』

『ね?』

『……よ』

『ん?なぁに?』

『嫌われた…よ、絶対』


涙声まじりのあたしに
ふっかが盛大に吹き出した。


『なんでそう思うの?』

『めっちゃ睨んでた…』

『あはは』

『めっちゃ怒鳴ってた…』

『うんうん』

『めっちゃ怒ってた…』

『怒ってたねぇ』

『絶対嫌われた…』


ふっかはさっきよりも
盛大に吹き出してから


『照がそんな奴じゃないって事は
○○ちゃんも知ってるでしょ?』


前にふっかに対して“嫌がられる”って
思った時も

岩本くんは『ふっかはそんな奴じゃない』
ってあたしに言った。

そして実際そうだった。

ふっかはそんな奴じゃなかった。


だから、ふっかが伝えてくれる
岩本くんに対してのことは
誰の言葉よりも信用出来る。


『よし、出来た』


そう言ったふっかの手があたしから離れた。

さっきまで東高の指定マフラーを
巻いていたあたしの首には、
黄色のデザインのマフラーが巻かれていて、

見覚えのあるマフラーを
キュッと握って
ふっかを見つめると


『ついでにそれ照に渡しといて』


満面の笑みでそう言われた。


『岩本くんに?』

『そう。それ照の』

『……』

『走り回って探してたせいで
暑いって言って外したんだよね、照。
俺が預かってたの忘れてた。』

『…そっか』

『うん。冷え込んできたし
いくら照でも寒いだろうから』

『…ん…』

『多分学校戻ってるはずだから
渡しに言ってあげて』

『学校?なんで…?』

『照、俺が連絡した途端
学校から飛び出してきたっぽくて。
マフラーは巻いてたくせに
鞄とか全部置いてきてやんの』


笑いながらふっかはそう言うけど
あたしはもう泣きそうだった。

目の下がプルプル震えて、
鼻水はもう垂れる寸前だった。


『バカだよなぁ、照』

『…バカだね』

『て事で、よろしくね○○ちゃん』

『うん』

『後で俺も学校行くから』


ふっかのその言葉は
少し不安だったあたしの背中を押すには
十分すぎるほどのものだったみたいで


『絶対だからね!!絶対来てね!!!』


って、鼻息荒く言った後に
学校へと走り出した。









少しだけ残る太陽のオレンジと、
周りにつき始めた街灯。

校門に立つあたしに近づいてくる影は
まだあたしに気づいていないみたいで


『岩本くん』


思いきって呼びかけてみると、
少しびっくりしながら


『なんでいんの?』


って、ぶっきらぼうに答えた。


『…えと、』

『危ねぇだろーが』

『…うん』

『学習能力ねぇのか馬鹿が』


言い方はキツイかもしれないけど
その言葉は全部あたしを心配する言葉。

もう誰もいなくなった校舎を背に
『帰んぞ』って言いながら
あたしの横を通り過ぎようとする
岩本くんの腕をとっさに掴んだ。


『……』

『……』

『…んだよ』

『…ごめんね』

『……』

『あと、』

『……』

『ありがとう』


不機嫌そうな顔は変わらないけど
あたしの頬に伸びて来た
岩本くんの手は優しくてあったかい。


『怪我は?』

『してないよ』

『どこか痛むか?』

『ううん』

『気分悪くないか?』

『平気だよ』


一通りあたしに質問すると、
岩本くんは少し安心したかのように
笑みをこぼした。

その笑顔につられて
あたしも安心して一息はくと、

今まで頬に触れていた岩本くんの手が
後頭部に回って

そのまま強引に、
でも優しく抱き締められた。


『…心配した』

『うん』

『すげぇ心配した』

『ごめんね』


広い背中に腕を回すと
岩本くんはあたしの首に顔を埋めながら


『えーくんとか呼んでるし』


さっきとは打って変わって
弱気な声を出す。


『なにが?』

『えーくんなんて呼んでんじゃねぇよ』

『……』

『つか、なんだよえーくんって』

『…名前知らなくて』

『は?』

『だから少年Aのえーくん…
って意味で、呼んでたんだ…けど…』


えーくんにした通りの説明を
岩本くんにしてあげると

岩本くんはため息を吐いた。


『下の名前で呼んでんのかと思った』

『へ?』

『あいつの下の名前“え”から始まるんだよ。
だからお前のそのあだ名、
あながち間違ってねぇんだよ』

『はー、そうなんだ…』


なんて言っていいか分からなくて
とりあえず相槌を打つと、

岩本くんはあたしの体を離して
真剣な顔をしながらあたしを見る。


肩に乗せられたままの手と
真剣な目にゴクンと唾を飲み込む。


『なんか…ここんとこお前が隣にいるの
当たり前すぎて
俺ん中でなぁなぁになってた』

『…うん』

『ちゃんと言葉にしなきゃなんねぇんだって
気付かされた…
認めたくねぇけど』


ふて腐れたようにそう言った
岩本くんの心理は、あたしに対してじゃなくて
えーくんに対して何だと思った。

えーくん“なんか”に
正論を突きつけられて
自分の心を動かされたことに対して。

その事実を認めたくないんだなって思った。


岩本くんは一度大きく息を吸うと、
ふぅ、だか。はぁ、だか。
言いながら息を吐き出して、


『俺、お前のことが好き。』


そう言った。


『お前が隣にいないとか…想像出来ない』


岩本くんのことを考えていたあたしは
いつの間にか彼をジーっと見ていたらしい。


あたしのあまりの凝視に
少し恥ずかしくなったのか

岩本くんはちょっと低い声で
『返事は』って言って来た。


付き合ってくれ。とか
隣にいてくれ。とか

返事するような言葉で
告白されなかったから

なにに対しての返事だか分からなかったけど、


岩本くんが自分と同じ気持ちだって
事だけはしっかりわかったから


『うん!』


って答えた。

あたしの声は思ったよりも大きくて、

自分が思う以上に今のこの現状が
嬉しくて仕方ないみたいだった。

でも、


『そんなに嬉しいのかよ』


って笑いながら言って
あたしの頭をなでる岩本くんも
結構嬉しそうだった。


超ニコニコ顔のあたしを見て
鼻で笑った岩本くんは
帰るぞって言いながら
あたしの手を握って歩き出した。

どんなに近い距離にいても
手を繋いで歩いたことなんてなかったから
これが岩本くんの中の
彼氏彼女の在り方なのかなって思った。


右手に感じる岩本くんの
大きな手の感触が彼女の特権である
ことを噛み締めていると、


『俺も仲間にい〜れてっ』


って言いながらふっかが
あたしの左手を握って来た。


今までどこに隠れてた!?

どこから目撃してた!?

恥ずかし過ぎる!!


なんてアワアワするあたしをよそに
ふっかは握ったあたしの手を
ブンブンと前後に振り回す。


あたしの目が口以上に
モノを言っていたのか、


『こんな夜遅い時間に学校までって言っても
1人で歩かせるわけ無いじゃん。

ずっと付けてたよ。』


って説明してくれて、
えーくんが教えてくれた写メの話を思い出して

そう言えばそうか。って納得した。


岩本くんは、
あたしの手をふっかが握っても
嫌な顔なんてしない。

楽しそうに笑い声を上げて
『車の邪魔になんだろ』
って言って右手を握る岩本くん。

『だって仲間はずれみたいで
寂しかったんだもん』
って言って左手を握るふっか。


むしろあたしのが邪魔者じゃね?

この2人の方がよっぽどカップルっぽくね?


なんてことを思っていると、
不意にあたしの首元に岩本くんが触れて来た。


『ん?何?』

『変なふうになってた』


知らないうちに変なふうになってたらしい
マフラーを綺麗に直してくれた
岩本くんは、満足そうに笑って
自分のであるあたしの首に巻かれた
マフラーを指差して


『似合ってんな、それ。』


って言ったから
このままパクっちまおうと思った。


『あ…そうだ、ふっか』

『ん?』

『さっきの、あの…』


ふっかはあたしの言いたいことが
すぐに分かったらしく『あぁ、マフラー?』
と言ったあとに、


『燃やしといたよ』


って言った。


驚きのあまり声も出せずに
目丸くするあたしに


『捨てるくらいじゃ生ぬるいからね』


って笑顔で言い張るから

マジかよ…
岩本くんよりふっかのが怖ぇかも…

って思ってたら


『東高行くくらいだから
家金もってんだろ。
マフラーくらいすぐ買い直すだろ。』


って横から岩本くんが冷静に言うから
ちょっと視点がずれてるな…って思った。





右手に岩本くん。

左手にふっか。


両手に感じる優しさに、
ルンルンになりながら歩く。


『ねぇ、岩本くん』

『あ?』

『岩本くんにとってふっかはなぁに?』

『家族みてぇなもん』

『じゃあえーくんは?』

『ライバルみてぇなもん』

『そっかそっか』


えーくんは、岩本くんに対しての
『ライバルなんて言えない』って言ってたけど

岩本くんにとって、
えーくんはちゃんとしたライバルだった。


それが嬉しくて
タニタしてると、

隣から


『因みにお前は彼女みてぇなもん』


っていうヤンキーの
甘いささやきが聞こえた。







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