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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

Love Liar 【3】

ジャニーズ 妄想

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少し急ぎめにコートを羽織って
今まで着ていた白衣を洗濯機の中に投げ込む。


病院の裏口から出れば、
すぐ近くに見える駅の電気。

夏には虫が群がる駅の電気だけど、
今は冷たい空気が照らされるだけ。


カバンを持ち直して歩くスピードを上げる。


ほんの数分歩けばすぐに着く駅。

誰もいないホームで1つだけ置かれた
ベンチに座ってやっと一息。


「…ねっむ…」


思わず口から出る言葉は

誰かに言ってるわけでも
自分に言い聞かせているわけでもなくて
とりあえず口にしたいだけ。


日勤の日で、外が明るいうちに
帰れたことなんてあったかな…


手元のケータイに映る時間は、
日勤の定時から3時間は軽々と過ぎていた。


こんな時間に帰ってるのには理由がある。


残業。


看護師をやっている上で、
残業がないなんて人、いないと思う。


少なくとも、私の病院では残業が当たり前。


今すぐにでも寝たいけれど
これから10分ほど電車に揺られて、

駅から15分ほど歩かなきゃ
家には着かない。


最初は病院に勤めると同時に
病院の近辺に引っ越す予定だった。


でも、まぁありがちな理由。

家賃がなかなか高かった。


不動産屋で変な汗をかきながら


「もっと…あの、こう…
安いところあったりしますか…ね…」


縮こまった私に、
少しぽっちゃりしたおじさんが
勧めてくれたアパートは
ちょっとボロめのアパートだった。

しかも、病院からは何駅か離れている上に
最寄りの駅から少し歩くからか

最初に目をつけていた
病院の近くのアパートより
格段に良心的なお値段だった。


「でも若い子にはちょっと古いかな?」

「ここにします」


たった10分ならなんてことは無い。


むしろ毎日歩くって健康的じゃない?

ダイエットにもなるじゃん!


なんて軽率な考えを持った
あの時の自分を呪いたい。


家賃を少し高く出してでも
近くに住めばよかったと切実に思う。


夜勤の恐ろしさを知らなかった。

残業の辛さを舐めていた。


何度、電車の中で隣の人に寄りかかって
寝てしまっただろうか。


『本当にちっちゃい頃から寝つきが良くてね〜
寝かしつけるのが楽だったわ。』


って言っていたママの言葉を思い出す。


電車に乗り込んで座った瞬間に
意識が飛ぶなんて日常茶飯事。


片道合計で25分の通勤。

自分が決めたことだけれど、
やっぱりめんどくさいと感じてしまう。


なんでこんなことしなきゃならんのだ…


って思うけど、
ずっとなりたかった看護師。


辞めるなんて選択肢は無い。


…から、
今日も愚痴だけは一人前に吐いて電車を待つ。


数分待つ私の元に来た電車に乗り込んで
唯一空いていた椅子に座る。

最初は車内に人はまぁまぁいたけど
自分の降りる駅名がアナウンスされる頃には
もう人は乗った時に比べて半分以下になっていた。


駅前のスーパーで買った
“スタミナ弁当”と書かれた場所に
30%引きのシールが貼られたお弁当を
持ちながらやっと着いた自身のアパート。

そこでバッタリ会うのは、


「あら、あんたか」

「…オネーさん」


多分、男。でもとても綺麗な
女の人の格好をした隣人。


「相変わらずぶっさいくな顔してるわね」

「オネーさんは今日も綺麗だね」

「当たり前でしょ!誰だと思ってんのよ!」


全くもってその通りだ。


オネーさんは絶対男だと思う。

でも、すごい綺麗。


乳は偽物かもしれないけど

肌だって綺麗だし、
髪の毛もツヤツヤだし

『どうやって歩くの!?』
って聞きたくなるくらいのピンヒールだって
軽やかに履きこなす。


「…なによ」


自分との違いを見せつけられて
思わず見とれていた私に
オネーさんが怪訝な目を私に向けた。


「いや…」

「あんた早く寝れば?タダでさえぶさいくなのに
今日はいつも以上に救いようのない顔してるわよ」

「そうだね」

「しかもなにそれ!夜ご飯?
はぁ、信じらんない!」

「え?」

「そんなカロリーの塊みたいなもの
よく食べれるわね!しかも夜に!」

「…夜だから食べるんじゃないの?」

「はいダメ、はい馬鹿。
あんた男と付き合ったことないでしょ?」


…あるよ。

未だに処女だけど。


「だから足太いのよ、あんた」

「かもね」

「あーもう、あんたと話してる暇なんて
ないんだった。遅刻する!」


思う存分私をディスったオネーさんは
私では歩き方さえ疑問を持つようなヒールで
階段を駆け足で降りて行く。


「オネーさん!」

「なによ!急いでんだけど!」

「仕事頑張って」

「あんたも早く寝な!」


言い方はキツイけど
間違ったことは言ってないし、

今だって少し嬉しそうに笑ってたから
オネーさんは悪い人じゃないと思う。


バックから鍵を取り出して、
鍵穴に差し込む。

家に入って内鍵を閉めて、
玄関のすぐ横にある靴箱に鍵を乗せる。


そこでふと思い出す。


…雄大くんの家の鍵、カッコよかったなぁ。


ガチャガチャしないで、
こう…シュッとしたらすぐ開く感じ。


手洗いうがいをしながら、
適当な部屋着に着替えて
温めたお弁当をテーブルの上で開く。


ごま塩のかかった白いご飯の横には、
玉ねぎとともに甘辛く焼かれたお肉。

そして白身フライに唐揚げが二個。

生野菜は全く無くて、
一番隅っこに申し訳ない程度に
置かれていたポテトサラダも
温めたたせいでビシャビシャになっている。


「確かにカロリーの塊かも…」


さっきオネーさんに言われた言葉を思い出して
少し気後れしたけれど、

そんなのは一瞬で、
お肉の匂いにまんまとやられた私は
30%引きされたスタミナ弁当をペロリと平らげた。







***






隣から聞こえて来る溜息は、
気のせいではないくらいうるさくて、


「ちょっと」


無視できないくらいに耳障り。


「なーんだーい…」

「溜息」

「あぁ、ごめん」


謝ったその言葉とともに、
彼女はまた大きな溜息をつく。


でもその溜息を責めることが出来ない。


なぜなら、溜息を吐いたのが
たまたま彼女が先だったから
私は吐かずに済んだだけであって

もし自分が先だったら彼女以上に大きな溜息を
吐いていたかもしれないから。


「疲れたよぉ…」

「疲れたねぇ」

「帰りたいよぉ…」

「帰りたいねぇ」


今は夜勤明け。

仕事は終わった。


でも、やっぱり残業。


愚痴と肯定を繰り返しながら
指はキーボードを弾き続けて

やっと終わった頃には
横長の窓からは太陽の光が
眩しいほどに入り込んでいた。


私よりも少し早く終わった同期は、
用事があるからと言って
私を残してそそくさと帰っていった。


残された私は眠気と戦いながら
ノロノロと帰り支度をする。


眠い。

いつにも増して眠気がやばい。


早く帰って寝よう。


でもこんな時は

やっぱり…思ってしまう。

何度だって…思ってしまう。



もっと近いところに住めばよかった…

って。


家賃が多少高ついても、
もっと病院から近いところ。

電車に乗らなくて済むような…


そうだな…

例えていうなら…


「……あ…」


気付いた時には、アパートの前にいた。

私の理想とする場所にある、
雄大くんの住むアパートの前。


「何してんの、私…」


意味が分からなすぎる自分自身の行動に
思わず独り言。


本当に意味が分からないぞ、私。


帰ろう。

家に帰ろう。


頑張って帰ればゆっくり寝れるし、
明日は丸一日休みだ。


頭では分かっているはずなんだけど、
私の右手はインターフォンに手をのばして


ピンポーン


そのボタンを押していた。


て言うか平日の…
しかもこんな時間にいるわけないじゃん。


呼び鈴のボタンを押した右手を
宙ぶらりんにさせながら

身体を駅方向に向かせようとした瞬間…


『…はい』


扉の向こうの彼が反応した。


「…お、おはよう」

『…おはよー…』

「…おはよう…」

『…○○ちゃん…』

「へい」

『何してんの?』


隠しているつもりかも知れないけれど
全然隠せていない笑いを含む
雄大くんの声が聞こえる。


なんで私って分かったの?


言いかけた言葉を飲み込む。


よくよく見れば、
カメラが付いたインターフォン。

きっと今、雄大くんには
下からのアングルでばっちりブサイクに映った
私が見えているはず。


恥ずかしいなぁ…


そう思った私の目の前のドアが開く。


「とりあえず入りなよ」

「おじゃましまんもす」

「いらっしゃいまんもす」


前回とは比べ物にならないくらい
ズカズカと入り込んで、

靴を揃えた私を確認してから
雄大くんは内鍵を閉めた。


「どうしたの?」

「…寝かせて」

「へ?」

「ごめん…あとで、説明する」

「え?なに?」

「とりあえず、寝かせて…」

「え、○○ちゃん!?」

「…ぐっない…」


この間コーヒーをご馳走になった
ソファにダイブした。


…いま私、とんでもないことしてる。

…ありえないことしてる。

…超迷惑なことしてる。


頭では分かっているけど
とりあえず、すごくすごく眠くって

身体も口も動かすのがめんどくさくて


欲のままに意識を手放す私に、
フワッと何かが掛かったような気がした。













体のあちこちに痛さを感じて、
むくりと起き上がる。

身体からパサっと落ちたブランケットを
拾い上げて周りを見渡せば…


「雄大くん…家…」


テレビの上にある壁掛けの時計を見ると、
どうやら30分くらいこのソファで
爆睡していたらしい。


コキコキと音を鳴らしながら
首を回してソファから立ち上がって
すりガラス製の引き戸に手をかける。


「ゆうだいくーん…?」


この間は目にしなかった、
引き戸の向こうは意外と狭めの部屋で
ベッドだけが置いてあった。


音を立てないようにゆっくりベッドに近くと、
ベッドの上の布団は上下に小さく動いている。


「雄大くん?」

「……」

「雄大くん?」

「…ん…」


寝起きの雄大くんの顔は
私がときめいた“イケメン”の顔からは程遠い。


「いきなり押しかけてごめんね。
帰るから鍵閉めてね…」


それが面白くて
ついクスクス笑ってしまう私の顔を
雄大くんはまだ半分しか開いてない
ボヤッとした目で数秒見つめたあと、


「ちょっと、待って」


私を引き止める。


「…ん?」

「…話、ある」

「え?話?」

「…ん、だから待って」

「待つって…どこで?」


話があるって言ったくせに
一向に起きそうにない雄大くんに、

キョロキョロと周りを見渡していると
目の前の布団がガバッと開いた。


「…とりあえずここにいて」

「は!?」

「…ソファ寝にくいでしょ…」

「なに、言って…」

「…ここ」

「……」

「寒い…」

「……」

「早くして…」

「……」

「○○ちゃん」

「……」

「…聞いてる?」

「あ、はい」


ついうっかり。

あの、ダメな口癖。



またやってしまった…


そう後悔した時には
既に私は腕を掴まれて、

布団の中に引っ張り込まれていた。


「…ん…」


雄大くんは布団の中に
引っ張り込んだ私の体をぎゅっと抱きしめて


「…おやすみ…」


また深い眠りへと落ちていく。


目がぐるぐる回る。

なにが起きてるのか。


て言うか…

雄大くん、なんでド平日の
こんな時間に家にいて寝てるんだろ…

仕事休みなの?

はたまたあなたはニート



緊張みたいなものはしているんだけど、

でも、何故か雄大くんの腕と匂いに
不思議とこころは落ち着いてくる。


「…おやすみ…」



この日私は初めて、
男の人の腕の中で眠りについた。

それも、付き合ってもない
男の人の腕の中で眠りについた。







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