さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

Love Liar 【5】

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迎えられた家の中に入れば、
立ち込めるいい香りが腹の虫を鳴かせる。


「座って待ってていいよ」


何が楽しいのか、
家の主人は立ち尽くす私を見ながら
ニコニコと笑う。


「もうすぐ出せるから」

「…ありがと…」

「あ、でも手洗いうがいはしっかりね」

「……」

「風邪引いちゃうから」

「…う、うん」


洗面台に向かう前に
チラリと目を向ければ鼻歌まで歌ってる。


…雄大くんって、本当に謎。



ほんとついさっき。

仕事が終わった私は
とりあえず雄大くんにラインを入れてみた。


送った瞬間秒で付いた“既読”の文字に


「ひぃッ」


と、小さく漏らしてしまった。


寝てるかもしれないって言ったくせに
バリバリ起きてたらしい。


おいでって言われた手前、
行かないわけにもいかないし…


って思いながら雄大くんの家に行った。


扉を開けた雄大くんは
やたらとニコニコしていた。


「やっと来てくれたね」
「いらっしゃい!」
「ご飯用意出来てるよ!」


夜勤明けでボヤけたままの私に
ガンガンと話しかけながら
腕を引っ張って私を家に上げた。


手を洗ってテーブルのある部屋に
私が戻って来ても

雄大くんは変わらず鼻歌を歌ってた。


「夜勤って何時に終わるの?」


あぐびをしながら椅子に座った私に
雄大くんが問いかけてくる。


「8時」

「え?今10時半だよ?」

「残業してたの」

「やっぱり大変なんだね、看護師さん」

「…もう慣れた」


まぶたが落ちかかって来た私の目の前に
パスタがのったお皿が置かれた。


「お疲れ。たんとお食べ。」

「いい匂い」

「野菜たっぷりにしてみた」

「いただきます」


自信ありげな雄大くんが作ってくれたパスタは
彼の言った通り、野菜たっぷりで
夜勤明けの私にはとってもありがたい。


「おいしい?」


もぐもぐと口を動かす私に
そう聞いてくる。


自惚れっぽくなっちゃうから
思わないようにしてたけど…

やっぱり雄大くん、
どことなく嬉しそう。


「寝てくでしょ?」

「…え?」

「ベッド使っていいよ」

「いや…」

「寝ていきなよ」

「あの」

「気にしなくていいよ、俺も後で少し寝るし」


なんでこの人はこんなに私を
家に来させたいんだろう。


「…じゃあそうする。ありがとう。」


でも、なんだか空気感が居心地良くて
私は素直に頷いていた。



洗い物を手伝って、
トイレし終わった私に迫り来るのは
とてつもないほどの睡魔。

止まらないあくびに
もう手で押さえるのもめんどくさくなる。


「すぐ寝たら牛になる…豚にもなる…」って
椅子に座ってむにゃむにゃしながら
言う私を雄大くんは笑いながら見てた。


それからすぐに睡魔に負けて、
ベッドに潜り込んだのが数時間前。

今は目の前に雄大くんの顔がある。

さっき寝てる私のベッドに


「ちょっと詰めて。ごめんね。」


って言いながら入ってきた。


横向きに寝る私と向かい合って寝る雄大くん。


やっぱりさっきと変わらないで
ニコニコ笑ってる。

その顔をじーっと見ていると、
超近距離のまま雄大くんが話し出す。


「起こしちゃった?」

「…大丈夫」

「明日は?」

「夜勤明けは休みだよ…」

「そっか。明後日は?」

「普通に日勤」

「じゃあお店おいで」

「…ん…」


そとは昼間のはずなのに
この部屋はカーテンのせいで真っ暗に近い。

そのせいで、雄大くんの顔が
いつも以上に整って見える。


「ご飯作ってあげるから」

「…お店なのに?」

「新メニューの開発付き合ってよ」

「…んー…」

「ごめんね、寝ていいよ」


雄大くんの手がまぶたに被さって
私はされるがままに目を閉じた。


なんで、この人は。

私を自分の目の届くところに
置いておこうとするんだろう。

私に1人の時間を与えないように
しているんだろう。


それは“似ている”と言った
その言葉に何か関係するのだろうか。


考えても分からない。

なんでこんなにモテそうな人が
私なんかに構ってくれるのかも。

何もかも。


分からない。


でも、雄大くんとの時間は
やっぱり居心地がいい。


「おやすみ」


雄大くんの優しい声を最後に、
私は彼の胸に顔を埋めて

そのいい匂いの中で眠りについた。













生活が変わった。

前みたいに、仕事帰りにスーパーで
30%引きのお弁当を買わなくなった。

夜勤明けの重い身体で
眠い目こすりながら電車に乗ることもなくなった。


その代わりに、


仕事終わりに雄大くんのお店に寄って
晩御飯を食べるようになった。

夜勤明けは雄大くんの家で一眠りしてから
自分の家に帰るようになった。


毎日じゃないけどほとんどの日、
雄大くんの顔を見てる。


きっと今までの私を知ってる人に
この現状を話したらビックリするんだろうな。

あんたが!?
って思われるんだろうな。


バーのカウンターに何脚か並んでいる
一番端っこの椅子に座る。

背もたれが少しだけしかない上に
座るところの面積も小さいその椅子の
珍しい座り心地が面白い。


明日休みだからお酒飲んじゃおう!


意気込んで頼んだシャンディガフ。

下からパチパチと湧き上がる
小さな泡を眺めていると
目の前にバーのマスターがやって来た。


「こんばんは」


長い髪を一本に縛って髭を生やした
いかにも“マスター”って雰囲気。

長髪の男の人は苦手だけど、
マスターの場合は清潔感があるし
その1つ縛りが彼にとても似合っているから
むしろ魅力的に見える。


「こんばんは」

「仕事お疲れ様」

「お疲れ様です」

「今日も飯食いに来たの?」

「雄大くんが来いって言うから」

「よっぽど雄大に頼りにされてんだね」

「頼りにされているのかは
分からないけどご飯食べさせてくれるのは
ありがたいです。」

「はははっ、面白いなぁキミは。」


趣味がサーフィンらしいマスターは
肌が焼けていて、
笑うと店内の照明も相まって
白い歯がやたらと目立つ。


「あ、そうだ」


グラスを握ってお酒を一口飲んでから
マスターに小さいポチ袋を渡す。


「…これ、なんですけど…」


目の前に差し出しているのに
受け取らないまま
マスターは私に目を向けた。


「何かな、これは」

「ご飯代です」

「…はぁ」


ため息をついて腰に手を当てたマスターは
少し怒った顔をしながら
私の差し出したそれを手で制しながら押し返して来た。


「雄大に言われてます」

「知ってます」

「もらえません」

「受け取ってください」


まただ。

もう何回もやってるこのやり取り。


雄大くんのご飯は美味しいし、
新メニューの開発に関わるのも普通に楽しい。

だからこそ一円も払わないで
ご馳走になってることが申し訳ない。


「て言うか、元々は雄大が新メニュー作りたい
からってキミを付き合わせてるわけでしょ?」

「…はぁ」

「むしろ俺は雄大の給料から
抜くべきだと思うんだけど」

「え!?」

「君がどうしても払いたいって言うなら
雄大の給料から抜かせてもらうよ」

「…えっとぉ」

「どうする?」


にっこり笑うその顔が怖い。

もうアウアウ言うしかなくて
大人しくポチ袋をカバンに入れた。


ちっくしょーーー。

ニカといい雄大くんといい
マスターといい…

男の人に奢られた時に
どんな顔していいか分からないから
払っちゃった方が楽だと思うタイプなのに。

どんなに笑ってありがとうって言っても、
『笑顔嘘くさくないかな!?』とか
『奢ってもらう気でいたくせに
ありがとうとかうぜぇんだよ』とか
思われてないか考えちゃう。


ニカ以外の男の人とご飯行ったことなんて
数える程しかないけど
そうやって考えちゃうから
ずっと割り勘にして来たのに。


ブッスーと不貞腐れながら
お酒を飲む私にマスターは
「おかわりは?」って聞いて来た。


「同じのお願いします」

「かしこまりました」

「ご飯代出させてもらえないんで
飲んでお店に貢献します」

「本当に良い子だね」

「そう思うならご飯代出させてください」

「それは出来ません」


カウンターに頬杖ついてそっぽ向く私の前に
スマートにグラスを置いたマスターは


「その代わりいっぱい飲んでね」


って言った。


「商売上手」って聞こえないように
ちっちゃい声で言っといた。


「はーい、お待たせー!!」


声のする方に視線を向けると、
雄大くんが出来上がったばかりの
試作品を運んで来ていた。


「待たせちゃったね〜
って、真っ赤!!」


カウンターの上に試作品を置いて
私の顔を見た瞬間
ビックリしたように声を上げた。


「ちょ、マスター!
飲ませ過ぎですよ!」

「だって飲みたいって言うんだもん」

「だからって…!」


申し訳なさそうにマスターから
私へとチラリと視線を移した雄大くんは
私の肩に手を置いた。


「身体まであっついな」

「見た目ほど酔ってないよ」

「でも真っ赤っかだよ」

「呂律だって普通に回ってるでしょ?」

「まぁ、そうだけど…」


何を言っても心配そうな雄大くんを無視して
くるりと料理に向き直る。


「グラタン?」

「うん、そうなんだけど…」


歯切れの悪い雄大くんに
マスターがケタケタと笑い出す。


「まーこんなにオーダー受けてから出すまでに
時間かかるのは考えものだよなぁ」

「本当それっすよね」

「なかなか来なくて空きっ腹で飲んで…
ってまさしくこうなっちゃうなぁ」


マスターの大きな手が
私の頭をポンとした。



今まで私の隣に立っていた
雄大くんがカウンターの中に入る。

2人が私には分からない
仕事の話をし始めたのを確認してから
カバンから出した小さなノートとシャーペンを
横に置いてグラタンにフォークを入れた。


「…んま」


私のその一言に雄大くんが
飛びつくように身を乗り出す。


「でしょ!?でしょ!?」

「雄大うるせぇ。味よりも時間だろ」


私とはまた違った口調で話すマスターは
それでもどこか嬉しそう。


やっぱり自分のお店のために
一生懸命働く雄大くんが
可愛くて仕方ないんだな…

マスターから働かないか?って
雄大くんを誘ったらしいし。


「雄大くんの人望が羨ましい」


私から試作品の感想を一通り聞いて、

厨房へと向かう雄大くんの背中に
ポツリとそう呟くと
マスターが「ん?」と、私に聞き返して来た。


「雄大くんが羨ましいです」

「雄大のなにが羨ましいの?」

「人望とか…いろいろ」

「人望かぁ」

「マスターはなんでこのお店に
雄大くんを誘ったんですか?」


何気なく質問したつもりだったけど
マスターが一瞬ピクリと眉を動かしたから
思わずビクッとした。


「あ、ごめんなさ…」

「自由」

「へっ!?」


謝ろうとした私の声にかぶせて
マスターの声が放たれた。


「自由にしてあげたかったから」


想像もしていなかった答えに
ポカンと口を開けたまま動けなくなった。


「でもそれが雄大の為になったのかは
分からない…
俺の自分勝手なお節介なだけかもしれない」

「……」

「だから雄大のしたいってことは
出来るだけ手を貸してあげる」

「……」

「雄大が新メニュー作ってみたいっていうなら
厨房好きに使っていいって言うし」

「……」

「雄大がキミをお店に連れて来て
試作品食べてもらいたいって言うなら
喜んでキミをお店に受け入れる」

「……」

「だからそこはキミの特等席」

「私の…」

「そうだよ」


未だに湯気が立ち上るグラタンに
目を落とすと、「なんてね」っていう
マスターの声が頭の上から聞こえた。


ご飯を食べ終えてノートに
感想を書き込んでいると、
横から雄大くんがお皿を下げた。


「あ、ありがと。ごちそうさま。」

「いーえ」


いつまでも私の隣から動かない雄大くんに
「ん?」と言う顔をする。


「また書いてるの?」

「いや…」


書くのを一旦中断して
腕でノートを隠す。


「それ読ませてよ」

「やだよ」

「なんで?それにも感想書いてあるんでしょ?」

「さっき伝えたことと大して変わんないよ」


早く戻ってくれって顔する私を無視して
雄大くんは私の腕から
ノートをひったくった。


「ちょっと!返してよ!」


大きな声を出しちゃって
慌てて口を押さえた私の横で雄大くんは
食い入るようにノートを見る。


「ねぇ、本当…やめて」

「……」

「勝手に私が書いてることだから」

「……」

「…あの」

「すご」


ノートをパタンと閉じて
私に向けられた目はキラキラ光っている。


「これ何!?」

「病院で患者さんにご飯出してる時に
感じたこと書いてる…やつ…
もう本当返して…」


やっと酔いでの顔の赤みが引いたと思ったのに
それ以上に赤面していくのがわかる。

試作品食べて欲しいとは言われたけど
それ以上のことにまで首を突っ込んで
感じたことを書いたノート。


人の料理食べるようになって、
病院で患者さんに出してるご飯にも
目を向けるようになった。


どんなのが美味しいかとか
こうしたらもっと食べやすいとか


そう言うコミュニケーションも
取るようになった。

それを試作品の感想と交えて
こっそり書き記していた。

頼まれてないことなのに、
やたら張り切って。

本当恥ずかしい。


「めっちゃ勉強になる…」


さっき以上に熱を帯びた頬を抑える私に
雄大くんは顔を近づけてくる。


「このノート借りていい!?」

「やだ!」

「なんで!?」


なんでって…


「熟読したい!できればコピーさせて欲しい!」


誰かに見せるために書いたわけじゃないから
字は書き殴り気味で汚くて読みづらいだろうし、
なんてったって恥ずかしい。


でも、雄大くんがそんなに喜んでくれるなら。


“雄大のしたいってことは
出来るだけ手を貸してあげる”


さっきのマスターの言葉を思い出して、


「分かった…」


頷いた。


「マジで!?ありがとう!!
明日休みなんだよね?
俺も明日休みなの!!
今日泊まってきなよ!
いろいろ質問しながら読みたい!!」


ただ、今は雄大くんの近くで感じる
この居心地の良さに甘えていたかった。





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