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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

Love Liar 【7】


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マスターが、
雄大くんがそう思ってることを知ったのは
つい最近の事だったらしい。


人間観察が好きで、
自他共に認めるほどに勘の鋭いマスターは
私と雄大くんの関係に
少しだけ勘付いていたそう。


雄大くんが私に向ける気持ちは
恋じゃなかったとしても
他の人よりもは特別な好意で

私が雄大くんに向ける気持ちは
恋愛としての好意そのものだと。


私より先に私の気持ちに気づいていた。


そしてとある日に、
何気なく私のことを雄大くんに聞いたら、


「あの子、俺と似てるんですよ」


と、雄大くんが完全なる勘違いを
ご丁寧に説明してくれたらしい。



勘違い雄大くんが
マスターに話した内容によると


彼が早めに仕事が終わった日に
お店に来ていたニカと合流して
そのままお店で飲んだ時のこと。


その日は夜勤明けの私が雄大くんの家に押しかけた
次の日だったらしい。


ふとなんかの拍子に
2人の話の話題が私のことになった。


その日に限らず今までも


「俺の一番仲のいい女友達の話なんだけど…」


って、私の元彼についてのことを
雄大くんにあれやこれやと話していたらしいニカは
その日も私の話題とともに元彼の話に触れたそうな。


なに勝手に話してんだよ!


って思う人もいるかもしれないけど、
こういう人の内側の話って
当事者を全く知らない人の方が
誰かに話したり…というか
むしろ話す人もいないから
漏洩の心配がなく
深く細かに話せちゃったりするもんで。

例外なく私と雄大くんとの間も、
この間自分を迎えにきた時に
顔を合わせた程度だと思っていたニカは

私たちが知り合う前同様
私以上に怒りながら雄大くんに
私の元彼が酷いやつだった。
ということを熱弁したらしい。


今までは雄大くんも
“よく名前を聞くニカの仲良い友達の子”
くらいにしか認識のなかった私の話だけど。

もはやその時、私と雄大くんは

前日に1つのベッドで一緒に寝た仲。


今までなら「ふーん」と軽く流しながら
聞いていた話も
改めて真剣に聞いたそう。


そして話の途中に私の元彼の名前を
ニカがポロっと口にした瞬間に、


「○○ちゃんの元彼って
やっぱりその名前だよね…」


と思わず聞き返してしまったらしい。




そこまでなら
なんだなんだ?って程度の話なんだけど、
重要なのはここから。



雄大くん家に押しかけたあの日、
私は眠さのあまり家に上げてもらってすぐに
ソファにダイブして眠りに入った。


優しい彼は
ソファで寝たら体が痛くなるんじゃないかと
私の身体を心配してくれて、

私に「こんなとこで寝たら身体痛くなっちゃうよ」
と、声をかけてくれた。


でも、起きるどころか反応もしない私に
やれやれ…と思って
ブランケットを被せて自分も寝ようした。


でもその時。


ブランケットを被せて、
私に背を向けた時。


私が男の人の名前を呼んだらしい。


男の人の…下の名前を。

呼び捨てで。


ビックリした雄大くんは
思わずソファで寝てる私に
もう一度声を掛けたらしいんだけど

私はもう一度その名前を小さく呼んでから
一粒だけ涙を流して
いびきをかきはじめたらしい。


そしてそのあとは予想通りというか
なんというか…

私が寝ぼけながら呼んだ名前と
元彼の名前が一緒だったと。


しかも泣いちゃったりなんか
したらしいから

雄大くんは私がまだ元彼に未練があると
思ったらしい。



まぁー…

そう思うのが妥当だろう。

むしろそれ以外無いだろう。


…なんてこった。


雄大くんから見た私への
人物像がどんどん明確になるにつれて

私の肩はガックリと下に落ちていく。



雄大くんが私を“俺と似てる”って言った意味が
やっと分かった。


お互いに辛い恋愛をしてる


だから“似てる”んだ。


だから“似てる”って言ったんだ。



マスターからその話を聞き終わったあと、
店内は呼吸音さえ目立つくらい
静かで暗い空気が漂った。

その空気に耐えられなくなった私は
申し訳なさそうな顔をするマスターに
笑って見せてから足早にお店を出た。


お店のドアが完全に閉まる音がしてから
私は息を大きく吐き出した。





雄大くんの優しさは
私への同情だった。







***






トントンと肩を叩かれて重たい瞼をあけると
雄大くんの顔が逆さまになって
目の前に現れた。


「俺も寝る」

「…はいよ」


いつもの通り雄大くんは
私がベッドに潜り込んでから
少し経って、自分も寝ると言って
ベッドに入り込んできた。


マスターからあの話を聞かされてもなお

私は雄大くん家に行くことも、
お店に行くこともやめられなかった。

何事もなかったかのように
お店に顔を出す私に、

マスターはいつもと変わらずに
笑顔で迎えてくれた。


「ふぁぁ」


あくびをする雄大くんは
きっと今日もあの“先輩”と呼ぶ
女の人のことが好き。


そして私は今日も雄大くんの家に来て
一つのベッドで寝てる。


何もされないし、
何もしない。

でも、2人で寝てる。


雄大くんが寝ポジを確保したのを
確認してから目を閉じると、

またトントンと肩を叩かれた。


今度は瞼を閉じたまま
「んー…」返事をする。


「この間開店前にお店来てたんだって?」

「…ん」

「マスターのお手伝いしたんだってね」

「…そう」

「最近まで俺知らなかったよ」

「…マスターから、聞いたの?」

「そう。謝っといてって言われたけど
何かあったの?」

「……」

「…ん?」

「……」

「どうした?マスターに意地悪でもされた?」

「雄大くん…」

「うん、どうした?」

「恋愛って…面倒くさいよね」


目をこすりながら閉じていた
瞼をうっすら開けると

雄大くんが少しびっくりした顔をしてた。


「なんで、上手くいかないんだろう」

「……」

「…ね?」


いつもより強く、雄大くんの匂いを感じる。

2人しかいないこの部屋で、

まるで2人だけの秘め事を
話しているように
小さく密かに話す。

私の頬に雄大くんの手が触れた。


目と目が合う。


雄大くんは私に触れていた手を引いて
私の顔を自分の胸に押し当てた。


「そうだね」


そう言った彼の声と一緒に、
触れている胸からも振動を感じる。


「……」

「……」

「大丈夫?」

「…大丈、夫…」


絞り出した声は
随分と聞き取りづらかったと思う。


頭を撫でてくれる雄大くんの
優しい手の温もりを感じる。

雄大くんのTシャツを
力一杯握りしめながら、

頭では冷静に物事が整理されていった。


負け試合って最初から分かってるなら
何も失うものなんてない。


雄大くんはあの人のことが好きで、
私は元彼に未練があると思い込んでる。


…なら、このままでいい。

このままそのふりをしていれば
雄大くんのそばにいる事ができる。


誰よりも。

あの人よりも。


心はそばに置けないなら、
体だけでもそばに置きたい。


それが出来るなら、
彼の勘違いしているままに私は動く。


「本当に似てるよね」


独り言のように呟いた
雄大くんの言葉に、


「うん」


ってはっきりと口にした。


この瞬間から私は、

元彼に未練がある女になった。

絶対に届かない人を好きになった雄大くんと
同じような境遇であるがゆえに
辛い気持ちを分かち合うことができる女になった。

そんな女になったからこそ
雄大くんのそばにいて、
こうやって触れ合うことができる。


好きになった人のそばにいるために
私は嘘をつき続けることを決めた。








その日を皮切りに
私は嘘が好きになった。


『嘘をついてはいけません』
『自分を偽る言葉はやめましょう』
『嘘つきは泥棒の始まり』


今まで生きてきた中で、
嘘に関しては
肯定されるより否定される
言葉の方が多く聞かされてきた気がする。

でも、私は今嘘のおかげで
こうして生きている。

好きな人のそばにいることが出来ている。


嘘をついてでも。


それでも、私は彼のそばにいたい。




来る日も来る日も嘘をつき続けるていたら
私の頬をかすめる風が暖かくなった。

春を迎えても
お店にも顔を出して
雄大くんの家にも泊まりに行った。



「あれ?こんな時計持ってたっけ?」


いつもの特等席に座って
ご飯を食べる私の左腕を掴みながら
雄大くんは不思議そうに尋ねる。


「…可愛い時計でしょ?」

「うん。あんまり○○ちゃんが
選ばなそうなデザインだけど…可愛いね」

「今までは付けられなかったんだけど
今は雄大くんがいるから付けられるの」


少し困った顔をして
そう言ってみせれば、

雄大くんは嬉しそうに笑って
私の頭を撫でる。


「そっか…」

「うん」


私が思い描いた通りに、
事は進んでいく。


今私がついた嘘で
雄大くんは私に対して、

『元彼への未練を
前向きに捉え始めることができてる』

って思ってくれた。


「今日も泊まってく?」

「そうしようかな。
お酒飲んじゃったし」

「了解」


はたから見たら付き合ってると思われても

おかしくない会話。

おかしくない距離。


これが私の求めていたもの。



でも、その関係は
とても大きなリスクも背負うことになる。


「ねぇ、○○ちゃん。
休みってどうなってるの?」

「…どうって?」

「再来週、お花見行かない?」

「お花見?」

「うん。誘われたの。
だから○○ちゃんも
一緒に行かないかなーって思って」


突拍子もないお誘いに
私の心は嬉しくて跳ね上がった。


「再来週ならまだシフト出てないから
調整出来ると思うよ」

「本当?じゃあ行こう」


喜んでいたのも束の間で、


「大学の時のサークルの人たちに
誘われたんだけどさ、」

「え?」


ピタッと固まってしまった。


「あれ?もしかして嫌だった?」

「…嫌、というか…」


むしろ、雄大くんは嫌じゃないのかな。

だって、大学の時の
サークルのメンバーって事は

雄大くんが想いを寄せている
あの人の彼氏だっているはず。

会いたくないって思わないのかな。

気まずくなったりしないのかな。


「あ、もしかして
行きにくいって思ってる?」

「えっ」

「大丈夫大丈夫!
奥さんとか彼女とか友達とか
どんどん誘って連れて来てって言われてるの!
だから色んな人くるよ。安心していいよ。」


雄大くんの言葉に
私は全身の毛穴がブワッと開いたのが分かった。


…て事は、あの人も来るんだよね?

来ない訳、ないよね?


「お花見なんて何年ぶりだろ。
すげぇ楽しみ!」


いつもより少しだけトーンの上がった
声を出す雄大くんは
一体何が嬉しくてそんな声を出すんだろう。


純粋にお花見が楽しみなの?

サークルの人たちに久しぶりに会えるから?


…それとも、

あの人に、会えるから?


私をそのお花見に連れて行こうとしてるのも、
もしかしたら

あの人と、
あの人の彼氏であるお世話になった先輩

そのツーショットを見て
万が一傷ついたとしても
すぐに傷を舐め合えるように
連れていくだけかもしれない。


本当はそんな場所行きたくない。

絶対に行きたくない。


でも、そうしたら

私が今まで雄大くんに
嘘をつき続けてきた意味なんてなくなる。


私はとびっきりの笑顔を
顔に張り付かせて


「私も!楽しみ!」


はしゃいだ声を出した。


大好きな人に嘘を重ねていく私は
どれだけ滑稽なんだろう。


ピエロのような自分を
心の中で嘲笑った。




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