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さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

福田くんってさ。【8】


---------------



『落ち着きましたか?』


叫ぶような泣き声が止んで
グズグズと鼻水をすする音が聞こえてきた頃に
福田くんは私を抱き締めていた
腕の力を緩めながら聞いてきた。


私がコクン、と頷くと
福田くんは私の肩を優しく押して
顔を覗き込んできた。


…恥ずかしい。
半端ない恥ずかしい。
この状況が恥ずかし過ぎる。


福田くんの視線から逃れるように下を向く。


『相変わらず不細工な泣き顔だなぁ』

『…うるさいっ』


人の顔を見て、笑いながら言ってきた
福田くんの胸板ら辺をグーパンチする。


『殴れる元気があって安心だわ』


福田くんにそう言われていつも通りの
自分になってることに気づいて
ハッとした、ら。


『…え?』


俯いてる私の視線にいきなり
福田くんの頭とくるくる天パの髪の毛が
飛び込んできた。


『…え?え?え?』


いきなりの展開に状況がつかめない私そっちのけで
福田くんは小さな声で


『せーのっ』


と言うと、私のお腹に腕を回し
そのまま担ぎ上げた。


『…ッッギャァァアアア!!!???』


驚いて大声を出す私。


『何!?何何!!??』

『うるせぇ!近所迷惑だ!』

『そう思うなら下ろしてよ!!!!!』


福田くんは大声を出すたびに自分の肩から
落ちそうになる私の身体を
腕でしっかりと支えながら歩き出すと
リビングの隣にある寝室の襖を器用に足で開けた。

ベッドの側までいくと、担いでいた私の身体を
思いっきりそこに放り投げた。


『ぎゃっ!!!!』


担がれて運ばれて放り投げられて…
視界がグラグラする私の目の前に
今度は布団が飛んできた。


『寝ろー!もう今日は寝ろー!!』


笑いながら楽しそうにそう言う
福田くんの声が聞こえて


『もう!なんなの!?やめてよ!!』


頭に被せられた布団をどかすと、
案の定笑いながら枕を投げようとしている
福田くんがいた。


『それ投げたら怒るからね!!!』

『怒ってみろよ(笑)』


わりとガチめに全力投球して来た枕が
ベッドの脇のテーブルの上に置いてある
時計に当たって時計が床に落ちた。

それを見て何が楽しいのか福田くんはお腹を抱えて
ゲラゲラ笑った。


なんなの…この人…


脱力しながら時計に手を伸ばして
元の位置に戻そうとすると


『こないだも思ったけど、
○○って見た目よか意外と重いのな!』


今日の天気は晴れですね。
みたいなテンションでさらりと
超失礼な事ぶっこかれた。


ムッキィィィィイイ!!!!!
まじムカつく!!まじムカつく!!
んな事女子に言うんじゃねぇよ!!!


『まじムカつく!!!』


イライラがピークに達して
さっき福田くんに投げられた枕を投げ返した。

体に当たってから床に落ちた枕を拾いながら
ベッドの方に歩いてくる福田くん。


『○○〜』

『何』


口を尖らせながら返事をする。

私に背中を向けるようにして
ベッドに腰掛けた福田くんが
壁に掛けられてるカレンダーを見ながら口を開いた。


『…誕生日、やり直さない?』

『は?』


福田くんの話はいつも唐突で理解に困る。


『誕生日、やり直そうよ』

『やり直すって?』


ベッドの上に投げ飛ばされた身体を
モソモソと移動して
福田くんの隣に自分も腰掛けた。


『誕生日、俺が祝ってあげる』

『…はぁ』

『週末…ってか、明日明後日か…バイトは?』

『明日は入ってるけど明後日は休み…』


今週の土日のカレンダーの
日付欄を見ながら答える。


『なら日曜。』

『…』

『クラゲでも見に行こうよ』

『…クラゲ限定?』

『あとイルカとか』

『…あと深海魚も見たい』


そう言った私に、
マニアックだなーと笑いながら
福田くんがベッドから立ち上がった。


『…帰るの?』


座ったまま、福田くんを見上げる。


『…今日のところは帰ります』


眉毛を垂らしながら少し困った顔をした
福田くんが私の頭をポンとした。

ちょっと寂しい気持ちになりながら
玄関へ歩き出す彼の後ろを付いていく。


『福田くん…本当にありがとう』


玄関で靴を履く福田くんにお礼を言う。


本当はこんなありがとうって言葉1つじゃ足りない。
福田くんが来てくれなかったら、
何されてたか分からない。
殴られるだけじゃない。
もっともっと酷いことされていたかもしれない。

今でこそ普通でいられるのも
福田くんが泣かせてくれたから。
ずっと抱き締めてくれてたから。
あんな風に面白おかしい雰囲気にしたのも
私を気遣っての事だって分からないほど
私だって馬鹿じゃない。

その感謝を伝えたいのに、
ありがとうって言葉しか浮かばなくて
それがすごい歯がゆい。
もっと、もっと伝えたいのに。


『何が?』


なのに当の福田くんと来たら、
私の葛藤なんてなんのその。

ケロっとした顔でそう言われた。

その彼の態度にちょっと拍子抜けしていると
私の左頬に彼の手が触れた。


…ああ。福田くんは全部分かってるんだ。
わざと掘り返さないように、
私の記憶が少しでも戻らないように
してくれてるんだ。

目の前で微笑む福田くんに
なんだか胸がいっぱいになる。


『誕生日に何か欲しいものある?』


私に触れていない方の手をポケットに
突っ込みながら、聞いてくる。


『…欲しいもの?』

『そう、俺サプライズとか無理だから
直接聞いとこうと思って』


あまりの正直さに思わず吹き出した。


『じゃあケーキがいい』

『ケーキ?』

『イチゴがたっぷりのったまあるいケーキ』

『ケーキでいいの?』


意外そうな顔をする福田くんに、
何を欲しがると思われてたのか
ちょっと気になった。


『うん。とびっきり大きいサイズのね。』


追加注文をする私に
目尻をしわくちゃにして笑いながら


『りょーかい』


そう言って私の頬に触れていた手を
そっと離した。


『じゃあまた』


玄関のドアノブに手をかけた福田くんが
くるりと振り返って


『ちゃんと冷やせよ』


一言残してから私の家を出て行った。


福田くんが出て行った玄関のドアを
少しの間ぼーっと見つめてから鍵を閉めた。

福田くんに言われた通り、
冷蔵庫から保冷剤を出して
左頬に当てながらベットに潜り込んだ。

福田くんが座っていたところから
ほんのり彼の匂いがしてドキドキして
帰り道にあったことなんてすっかり気にもとめず
福田くんの事だけ考えながら眠りについた。






***




『おはよ、○○ちゃん。
あれ?珍しく化粧してる。』


福田くんのおかげで
すこぶる元気を取り戻した私は
翌朝何事もなかったかのように
オフィスワークのバイトへと出勤した。

ただひとつ。左頬に残るあざ。
だいぶ色味は引いたものの、
やっぱり少し目立つそのあざのせいで
ファンデーションをすごく厚塗りする羽目になった。


『いや、いつも一応してますよ』


曖昧に笑ってごまかす。


『やだ〜いつもはすっぴんかと思ってたぁ〜』


なんて言いながらしっかりと、
可愛いわよ。って言ってくれる
姐さんがいい女の鏡すぎて
本気で恋人にしたいと思った。


『そういえばさっきアキラさんが
○○ちゃん出勤したら教えてって言ってたわよ』

『アキラさんがですか?』


上司のアキラさんに探されるなんて
私なんかミスしちゃったかな…


ちょっと焦る。


『うん!会議室にいるみたいよ。』

『分かりました。ありがとうございます。』


手を振る姐さんにペコッとしてから
会議室に向かった。



コンコン、


会議室のドアをノックすると
はーい、と言う声が聞こえた。


『失礼します』


ドアを開けると、中にはアキラさんと
見たことないけどちょっとお偉いさんっぽそうな
お年を召した、白ひげのおじいさんがいた。


『おはようございます』


挨拶をすると、アキラさんに
お偉いじーちゃんの向かいの席を勧められた。


『まぁ、座って座って』

『…失礼します…』


少し戸惑いながら椅子に腰掛けると
お偉いじーちゃんが微笑みながら
私に名刺を出してきた。


『本部から来たものです』


渡された名刺を見てみると、
名前の上にとんでもなく重役の肩書きが
書いてあって目ん玉飛び出るかと思った。


お偉いじーちゃんなんて呼べねぇ!!
スーパーお偉い様じゃねぇか!!!


『君、ここでアルバイトし始めて
何年くらいになるの?』


どひーーっ!となってる私に
スーパーお偉い様は優しい口調で聞いてくる。


『ら、来月で4年目になります』


緊張のせいで少し声が上ずった。


『そっかぁ。うちの会社は好き?』

『はい、とても好きです。
尊敬できる上司や先輩に囲まれて
自分自身成長させていただいてます。』


隣にいるアキラさんや
姐さんの顔を思い浮かべながら
そう答えると、スーパーお偉い様は
そうかそうか、と微笑みながらコクコクと頷いた。

そしてアキラさんの方へ目線を向けると
今度はさっきと違いゆっくり一度だけ
深く頷いて、


『僕は今日ね、○○くんに話があって
本部から来たんだ』


戻ってきたスーパーお偉い様の目線と
少しだけ固くなった口調に
背筋がすっと伸びた。


『単刀直入に言うんだけどね…』


スーパーお偉い様から出た言葉に


開いた口が塞がらなかった。











『○○ちゃぁぁぁんんん!!!』


半分放心状態で廊下を歩いていると
後ろから姐さんにタックルされた。


『アキラさんから聞いたわよ!!!
うちの社員になるんでしょう!?
アタシの本当の後輩になるんでしょう!?』


鼻息荒く興奮気味の姐さんに
ひたすらに圧倒される。


そう、そうなのだ。


さっき会議室でスーパーお偉い様が
話してくれたのは、正社員昇格の話だった。


『君がしっかりうちの会社に貢献してくれているのは
隣にいる君の上司からよぉーく聞いていたよ。

だけど結構前に少しだけかもしれないけど
正社員に迎えたいって話をしたら
君があまり乗り気じゃなかった、
っていう話もしててだねぇ…』


私の隣でアキラさんが恥ずかしそうに
笑いながら頭をかいた。

そう言えばそんな話されていたかも…
自分自身すっかり忘れていた。

思い出してみればあの時は、
私を正社員になんて何言ってんだこの人。
褒め言葉ならもう少しリアリティある
褒め方してくれよ。
とか思いながら曖昧に返事をしたような記憶がある。


今思えば上司にその態度なんて…
舐めてんな、当時の私。


『でも今日君に会ってみて、
話してみて、すぐ君の事が分かったよ。
ぜひ一緒にうちで働いて欲しい。』


そう言うスーパーお偉い様に


話してみてって…
全然会話してないじゃん…


と思う。

私の言いたいことが分かったのか


『50年もこの会社に勤めているとね
その人が本当にうちの会社を愛してくれているか
少し話すだけでも分かっちゃうんだよ』


白ひげを触りながら少し自慢気に言ってきた。


その後、アキラさんが

今まで勤めていた女の子が1人、
産休を取りたいと言っていたのが
急に寿退社したいと言い出したから
1つ枠が空いたんだよ、とか。

もう来年の新入社員は決まってるから
前からアルバイトしてた○○ちゃんに
話が来たんだよ、とか。

こんなこと滅多にないんだよ〜!
試験なしに入社なんて〜!!

と、事の真意を話しながら
私の隣で興奮していたけれど、


私は目の前で白ひげを触って微笑みながら
強い瞳で私を見つめるその人から目が離せなかった。


『無理にとは言わないよ、
ゆっくり自分で考えてから決めなさい』


スーパーお偉い様にそう言われてから
失礼しますと一礼して会議室から出た。


そして今に至る。




そして目の前にいる姐さんは少し泣いていた。


『アタシは待ってるからね。
○○ちゃんが一緒に働くこと。』


上機嫌でオフィスに戻る姐さんに
私はなんだかぼんやりしたまま
手を引かれながら歩いた。






ブー、ブー、


オフィスワークのバイトを終えて、
家に着いた私のケータイが
いつもより早い時間に鳴った。


『はい』


ツーコールもしないうちに
ケータイをとった。


『早いな』


電話の向こうの福田くんの声に
思わず笑顔になる。


『今どこ?』

『家だよ』

『無事家に着きましたか?』


私の勘違いかもしれないけど
もしかして福田くん、心配して
電話してきてくれたのかな…


そう思うとまた胸がじんわり暖かくなった。


『無事ですよ(笑)』


笑いながらそう答えると


『そーですか』


別に気にしてませんよ、
風を装う福田くんの口調に笑いをこらえる。


『福田くんはどこにいるの?』

『まだ会社』

『残業かい?』

『ご名答』


やってらんねーよーって嘆く福田くんに
ケタケタ笑う。


『明日さ』


福田くんが話し出す。


『ん?』

『明日』

『うん、深海魚でしょ?』

『クラゲだって』

『深海魚』

『クラゲ』

『もうどっちだっていいわ』

『お前が言い出したんだろ』


どちらともなく吹き出して笑う。


『11時に迎えに行くから』

『ありがとう』

『目一杯オシャレしてこいよ〜』


相変わらずの柔らかい声でそう言った福田くんは
じゃあ、僕は明日のために仕事してきます。
ため息とともにそう言い残して電話を切った。


『…オシャレ…』


ボソッと呟いてから
タンスの引き出しを開いた。







『着いたよ』


11時に迎えに来るって言っていた福田くんは
その3分前に迎えに来た。

到着の電話を受けて家から出て階段を降りると
パステルカラーの軽自動車じゃない
黒い普通車が停まっていた。


オシャレしてこいよ


そう言った福田くんの言葉を
そのまま受け止めた私は

胸元に花の刺繍が入った白ワンピースに
紺のカーディガンを羽織り、
ショートブーツを履いた。
無理して大人っぽい服を着たと思われたくなくて
ピアスは飴細工をモチーフにした
ちょっと可愛い系のデザインのものをつけた。


『オシャレしてきたね』


いかにもデート服コーデな服を着た私を見て、
福田くんは吹き出すのをこらえているような
口元を手で隠していた。


『今日はお願いします』


そう言いながら助手席に乗り込むと


『バック駐車出来ないけど安全運転には
自信あります』


とか言ってきて車に乗って早々に爆笑した。


昨日のうちに用意しておいた
コーヒーと軽いお菓子を食べながら
水族館へと向かった。


お昼過ぎに水族館についた。
本当にバック駐車出来なかった福田くんは
頭からブチ込んで駐車した。

大きな水族館なのと休日ということもあって
家族連れが多くまぁまぁ混んでいた。


『さぁ福田くん、深海魚に会いに行こう!』


張り切る私を笑う福田くんを連れて
深海魚コーナーへ向かった。

深海魚コーナーはやたら暗く、
ハラハラドキドキしながら
水槽の前まで歩いて行った。

その水槽の中には深海魚のレプリカがあった。


明らかに偽物。
明らかにプラスチック製。


子供も騙せないような針金で吊るされているそれに
めちゃくちゃガッカリした。

後ろで人のこと指差しながら
ゲラゲラ笑う福田くんが


『だから言ったじゃん、クラゲだって!』


って言いながら私の腕を掴んで
クラゲの水槽の前まで歩いて行った。

悔しいけどクラゲはすごい飼育が盛んで
すごく綺麗だった。
特にウリクラゲが丸っこくて可愛かった。


大きな水族館と言っても意外と回り終わるもので
3時間くらいで全て見終わってしまった。


最後に寄ったお土産屋さんで
福田くんが気持ち悪い
深海魚のストラップを買ってくれた。

ストラップ自体は微妙だったけど
福田くんが買ってくれたことがすごい嬉しかった。



水族館を見終わっちゃって、
特にすることもなくなったので
何となく少し車を走らせて海まで来てみた。


風は少し冷たいけれど
傾いてきた太陽が映える海がすごく綺麗。


『○○』


海に見入っていると、
後ろから福田くんに呼ばれた。

近くまで歩いて行くと
頭にちっちゃい子供用の麦わら帽子を被せられた。


『何これ』

『兄貴の車ん中にあった』

『お兄さんの?』

『いや、多分姉ちゃんの子供の』

『通りで小さい』

『被れてないもんね』

『うん、乗ってるだけ』


頭の上で半分浮いた状態の
麦わら帽子があまりに不格好で笑う私を
福田くんがなぜか写メった。


くるりと振り返ると
夕暮れにすっかり真っ赤になった海が見える。

私はその赤い海に何となく惹かれて
おもむろに靴を脱いで、
ワンピースの裾が濡れないように
手で少したくし上げながら海へと歩いていく。


『何してんの?』


後ろから福田くんの声がする。


『寒中みそぎ』

『…みそぎ?』

『そう。シャアの邪気を落とすの』

『みそぎの意味少し違くない?』


少し笑いを含みながらそう言う福田くん。


『そう?なんだっていいの。
気持ちの持ちようだもん。』


足を海水に濡らしながら夕暮れが
反射する水辺線をじっと見てると


『なんか、入水自殺するみたい』


白いワンピースで海に立ってると、
と付け足した福田くんの声に振り返ると
真っ赤に照らされた彼がいた。


『本当にしたらどうする?』

『死ぬまでずっと見ててあげる』

『はは。優しいね』

『まぁね』


そして福田くんは何故かまた
寒中みそぎする私を写メっていた。


海から上がると福田くんがタオルを渡してきてくれて
足を綺麗に拭いてから車に乗った。

さすがに3月に足だけとはいえ海に入るのは
早かったらしく、


『足が寒い…』


車の中でそう言う私に福田くんは


『馬鹿だろ(笑)』


と言いながら車の後部座席に置いてあった
福田くんのだと思われるパーカーを
私のひざに掛けてくれた。



そのあと家の近くまで戻って、
ちょっとオシャレなイタリアンのお店で
パスタをご馳走してくれた。


『こんなオシャレなお店知ってたんだ』


ってちょっと驚きながら言ったら


『コッシーに聞いた』


って言ってて、
ああ、やっぱりな。って思った。


越岡さんが教えてくれたそのお店は
普通に美味しくて女の子が好きそうな
料理がたくさんあった。

美味しい料理に会話も弾んで、
私はずっと自分の中で引っかかってた事を
福田くんに話してみることにした。


『福田くん…急なんだけどさ』

『はいよ』


やたら伸びるピザのチーズに
苦戦しながら食べる福田くんが返事をした。


『オフィスワークのバイトからね
正社員にならないかって言われたの…』

『おお!』


福田くんの目が輝く。


『…すごく嬉しいんだけど』

『嬉しいとか言って…なんでそんなに
考え込んでるんですか?』


福田くんが2枚目のピザを手に取りながら
聞いてくる。


『私がバイトたくさんしてる理由、
前に話したよね…?』

『ウン』

『そんな理由でバイトしてた自分が、
こんな特別採用みたいな形で
その会社の正社員になっていいのかなって…』

『…』

『本気でその会社に入りたくて
ちゃんと試験受けて、でも落とされちゃった人も
いるのに私なんかがって』

『…』

『そもそも今まで数字の管理だけだった
から出来てたけど…アパレル関係の仕事なんて
想像出来な過ぎて…ッ』

『…めんどくさいなぁ』


ストローで飲み物の中にある氷を
クルクル回しながら話してた私に
容赦なくそんな言葉が降ってきた。


『向こうが必要としてくれてるなら
答えるべきだよ。』


笑顔の福田くんが続いて言う、


『飛び込んでみないと見えない世界もあるよ』

『…見えない世界?』

『思い切って飛び込んで、
初めて見る世界を楽しんでおいで』


その言葉に、何か1つ越えた気がした。

結局私は誰かに背中を
押して欲しかっただけだったんだ。

迷っていても半分心は決まっていて。


そしてやっぱり背中を押してくれるのは
福田くんなんだ。そう思った。


すっかりその気になった私は
正社員しか首から掛けられない
社員証があるんだよ、とか
どうでもいい話をしながら
モリモリご飯を食べた。


そろそろ出ようか、と言って
伝票をとってお会計を済ます
福田くんにご馳走様って伝えて
お店を出て、車に乗った。


楽しかった時間に終わりが近づいていた。


…帰りたく、ないな…。


そう思っても終わりは来るもので、


『到着しましたー』


車は私の家の前で停まった。

福田くんが買ってくれた気持ち悪い深海魚の
ストラップを両手でギュッと握りながらお礼を言う。


『福田くん…今日本当にありがとう』


しっかり彼の目を見ながらそう言うと、
優しく微笑んだ彼が後部座席に手を伸ばして


『はい、どうぞ』


その言葉と共に白い箱を差し出してきた。


『…貰っていいの?』

『あなたが欲しがってたやつですよ』


少し冷えている白い箱を開けると
中にはホールケーキが入っていた。


『ケーキ!!!』

『イチゴがたっぷりのったまあるいケーキ』

『うん!!』

『とびっきり大きいサイズ』

『うん!!!』

『はは』

『いつの間に!?』

『さっき飯食ったお店で』

『全然気づかなかった!!!』

『それで合ってる?』


箱の中を覗き込みながら
少しだけ不安そうに訪ねてくる福田くんに、


『完璧ッ!!!』


と笑顔で親指を立てた。


ケーキを大切に扱いながら
箱を閉める私の髪に福田くんの手が触れて
優しく耳にかけた。


『誕生日おめでとう』


見上げた先にある彼の瞳に
吸い込まれそうになって…


ハッとして急いで身を引く。


『あ、あの…ッ、本当にありがとう!』


逃げるように車から降りる。


『あ、いや、こちらこそ』


首の方をしきりに触りながら
福田くんが答える。


『あの、とりあえず…また電話する』


そう言ってくれた福田くんに大きく頷いて
もう一度お礼を言ってから車のドアを閉めた。


小さくなる車を見送ってから
早足に階段を駆け上がる。

乱暴に閉めたドアに背をつけて
ズルズルと玄関に座り込んだ。

熱を帯びる頬を抑える。
足元に置かれた、
白い箱とストラップが目に入る。



…どうしよう。
…嘘でしょ…いや、でも…
…どうしよう…私…



『…福田くんが、好きだ…』





------------







…やっと認めたか。
私だったら福田くんと目が合った瞬間に
恋に落ちる自信あるけどな。ケッ。





余談ですが、次の記事で
恐縮ながらご挨拶をさせて頂きました。
読まなくてもなんら支障はございませんが、
もしよろしければ覗いてやって下さい。
ぺこり〜。