さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

福田くんってさ。【14】


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夢を見た、気がする。


夢の中の私は笑っていて
とびっきりの笑顔を見せていて

なでられる髪が気持ちよくて、
大きな手にドキドキして


すごく幸せな夢を見た、気がする。




…でも、そんな私に突き付けられるのは
どうしようもない現実で…






目を覚ました私の目の前には
福田くんの胸があった。


福田くんの頭を抱きしめていたはずなのに
起きたら福田くんの腕の中に
すっぽり埋まった状態になっていた。

私の体に両腕をガッチリ巻きつけて
なんなら右足も私の体の上に乗せている。


窮屈さと重みを感じながら、
すやすや眠る彼の左胸に手を当てる。

上下運動するその胸から
ドクドクと心臓の音を感じて
なんだか涙が出そうになった。


顔を上げるとすぐ近くにある福田くんの顔。

気持ちよさそうに寝てる、
彼の少しだけかさかさの唇に
そっと自分の唇を重ねると、


『……ふん…』


なぜか鼻を鳴らされて少し笑えた。



福田くんの左胸に当てたままの
自分の手を見つめる。


今まで、浮気とか不倫とか信じられなかった。

そういう事する方も
それを受け入れる方も。


なんでそういう事出来るんだよ、って


でも今まさに私は
“そういう事”をした人間になってて…


『…はぁ…』


深いため息が出た。


最低な事だって分かってる。
本当に最低な事だって。


でもわずかに残る下半身の痛みと、
少し目線を上げた先にある福田くんの寝顔に

気持ちが込み上げてくる。


やっぱり、嬉しくて

福田くんが何を考えてるのかなんて
知る由もないけれど

彼が私を求めてくれた事が嬉しくて、


幸せかも…なんて思った。


ああ、こうやって人は浮気や不倫に
堕ちていくんだな…なんて思った。



福田くんの腕から抜け出して
ベッドから身を起こすと、

服が床に無造作に投げられているのが見えた。


その光景にまた1つ胸が鳴る。


シーツを体にまといながら
入り口の方まで歩いて行くと
籠バックが中身が散乱した状態で落ちていた。


…て言うか、バック落としてた事すら
気づかなかったな…


そんな事を思いながらバックを拾い上げると
すぐ脇の姿見に自分の姿が映った。


鏡に映る自分の胸元には
数え切れないほどの赤いしるしが付いていて


『……嘘…』


すごくビックリした。


福田くんが私に付けたその赤いしるしは
よく見ると胸元だけじゃなくて
背中にもたくさん付いていて…


こんなに好きなのに、
どうして私のものじゃないんだろう。


キスだってあんなにしたのに、
しるしだってこんなに付けてくれたのに、
どうして人のものなんだろう。


自分から離れたくせに
やっぱり福田くんのことが好きで
でももうどうしようも出来なくて。

彼が私に付けてくれた赤いしるしを眺めながら
バックに入れていた服を着た。


ベッドに近づくと福田くんは
相変わらず気持ちよさそうに眠っていた。


『寝顔…幼いんだ…』


タレ眉で口も半開きの福田くんの寝顔は
小学生の男の子みたいで本当に可愛かった。


床に投げられた服を拾い上げて畳む。

自分の浴衣はどうせクリーニング出すし、
って思って適当に畳んだけど

福田くんのワイシャツとパンツは
綺麗にハンガーに掛けた。ネクタイも。


タンクトップもベルトも靴下も
全部綺麗にしてサイドテーブルの上に置いた。

黒のボクサーパンツを畳んだときは
すごくドキドキした。



実は広かったらしい部屋の中を見渡す。


なんだか昨日の夜にこの部屋であった事が
夢のように感じる。

もう夢だったらいいのに。
夢の中でなら何したっていいし。
誰かに何か言われたりしないし。


でもそんな都合のいい事が起こるわけもなく、
部屋を見渡す私の視界に、
赤く光るものが目に入った。


それが置いてあるテーブルに近づいて、手に取る。


『…りんご、飴…』


福田くんが買ってきたのかな。
なんでここにこれだけあるんだろ。


そんな事を思いながらりんご飴の赤色が、
福田くんが私に付けてくれた赤いしるしとかぶって
勝手に開けて食べた。


赤く光ったまるいりんご飴は
すごく美味しそうだったけど
いざ食べてみたらりんごが乾いてて
あんまり美味しくなかった。


乱れた髪を少しだけ整えて
カバンを持ってベッドの脇にしゃがみ込む。


『福田くん…?』


寝息を立てる福田くんに話しかけた。


『先に行くね…』

『……』

『りんご飴食べてごめんね…』


寝返りを打って、
うんだかふんだか言った福田くんの頬に
軽く触れてから部屋を出た。


ホテルから出ると、
早朝だからか真夏だというのに少し寒かった。


目から涙がこぼれる。


『……ふぅ…ッ…』


さっきまで彼のぬくもりを感じていた
自分の身体を抱きしめた。


…こんなに辛いなら、
もう恋なんてしたくない。


止まらない涙を流しながら
私はケータイを耳に当てた。













『もうほんっっとに緊張したの!!!』

『姐さん、それ6回目です(笑)』

『だって本当に緊張したんだもん!!!』


何食べてるか分からなかったわ〜

と、つぶやきながら姐さんが珈琲を飲む。


ホテルから出た後、
私は姐さんに電話をかけた。

早朝にもかかわらずかけたのに、
姐さんは寝起きの声で電話に出てくれた。


『はーい、もしも〜し』


姐さんの声に安心してもっと涙が溢れてきて
自分から電話をかけたくせに
最初の何分間か全く喋れなかった。


嗚咽ばかりを繰り返す私に姐さんが優しく


『ウチ、来る?』


と言ってくれて
今こうして姐さん家に来ている。


姐さんは、私が昨日と同じ服を着てることも
こんな早朝に号泣して
電話をかけてきたことの訳も尋ねなかった。


明らかに何かあった私を
いつも通りに変わらない態度で接してくれて


『服貸してあげるからシャワー浴びておいで』


と言ってくれた。

また前の時と同じように
私の中で話せるようになるまで、
待っていてくれる姐さんが本当にありがたかった。


『重役の方、○○さんは元気ですか?
って言ってたわよ』

『ええ!?私のこと覚えてるんですか!?』

『覚えててくれてたみたいねぇ。』

『なんか…恐れ多いです…』

『名誉なことだと思いなさいよ』


たわいもない会話をしていたのに
いきなり姐さんが真剣な表情になった。


『…クマから…連絡きたよね?』


姐さんの口から出たその名前に視線を落とす。


『来ま、した…』

『アタシ、余計なことしちゃったかな…』

『いや!違います!それは絶対違います!!』


私と同じように視線を落とす姐さんに
慌てて否定する。


『違うんです…私が悪くて…』

『○○ちゃんは悪くないでしょ?』

『…私が悪いです…』


姐さんは悪くない。
私が悪い。

姐さんは私が前に進めるように
手助けをしてくれようとしただけ。


…まだ私は福田くん以外の人を
好きになれる気がしない。

福田くんに想いを伝える気もないし、
そもそも彼女がいる彼と
どうにかなろうなんて気はない。

でも今はまだ福田くんが好き。


新しく恋を始めてみようかと思ったけど
顔を見たらダメだった。

やっぱり福田くんの事が好きだった。


『…ごめんなさい…』

『ううん。アタシこそごめんね…』


何も悪くないのに謝る姐さんは
私の頭を優しく撫でてくれた。


姐さんとした真剣な話はそれだけで
あとはずーっとどうでもいい話をした。

月9の話とか、ニュースの話とか、
本当にどうでもいい話をした。

姐さんと話していると自然と笑顔になれた。


『姐さん、本当にありがとうございます…
私そろそろ帰ります。』


早朝からお邪魔したくせに
途中でしっかりお昼寝もさせてもらって
日付けが変わりそうになるまで姐さん家に
居座った私はそう口にした。

微笑みながら頷く姐さん。


『電車?』

『タクシーで帰ります』

『そうだね、その方がいいよ』


そう言うと姐さんは私に5千円を握らせた。


『姐さん…いらないです』


首を横に振りながら返すけど、

何かあった時の為に持ってなさい。
って言われて半ば無理やり持たされた。


…本当はホテルに1万円置いてきてて
お金足りるか不安だったから

必ず返します!って言って借りることにした。



姐さんに何度もお礼をしながら
彼女が呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。


深夜のテンションなのか、
やたら話しかけてくるタクシーの運ちゃんに
適当に返事しながら笑っといた。


アパートに着く頃にはもう日付けが変わってた。


『ありがとうございます』


最後までやたら話しかけてきていた
運ちゃんにお礼を言うと車のドアが閉まった。


階段を登りきって部屋に入ろうと
鍵を手にしながら部屋のドアに目を向けて…


体が固まった。


踵を返して階段を駆け降りようとした
私の腕が捕まえられる。


『…逃げんな』


ドアの前に玄関に背をつけて座っていた
福田くんの声がすぐ後ろから聞こえる。


『逃げんなよ』


懇願するような彼の声に
駆け出そうとしていた体から力が抜けた。


『…部屋、上がっていい?』


本当は嫌だけど、
断ることなんて出来なくてコクリと頷く。


なんで家の前で待ち伏せしてたのか、

これから福田くんに何を言われるのか怖くて
少しだけ震える手でドアを開けた。

ドアを開けた私は後ろを気遣いもせずに
靴を脱いでさっさと部屋に上がる。


スタスタとリビングへと歩く私の腕を
後ろから追いかけてきた福田くんがまた掴んだ。


『○○…』


名前を呼ばれるだけで、泣きたくなる。


福田くんは掴んでいた私の手を引っ張って
自分の方に向かせた。

ふと合ってしまった視線を
慌てて俯くようにして外す。


『昨日のことなんだけど…』


福田くんの声とともに
見なくても分かるくらいの彼の視線が私に届く。

相変わらず俯く私に福田くんは続ける。


『…会えて嬉しかった』


…そんな目で見ないでほしい。

気持ちが込み上げてくるから。


でも気持ちなんて言えるわけもなく
ただただ下唇を強く噛んだ。

そんな私の頬に彼の手が触れる。


『言いたいことあるなら言って』

『……』

『俺、エスパーじゃないから
言ってくれなきゃ分からない』


…少しだけムカついてきた。

福田くんは私に何をさせたいんだろう。
私に何を言わせたいんだろう。

昨日のこと気にしてないよって?
誰にも言わないよって?


どこか躍起になった私は
掴まれていた腕を振りほどきながら


『…彼女、いるんでしょ?』


そう口にした。

口から一度出たその言葉は
後悔しても撤回出来るわけもなくて、
ひたすらに沈黙が流れた。

自分から言ったくせに怖くて
さらに俯く私に


『……は?』


低い声が届いた。


『お前、何言ってんの?』


完全に切れてるその声に身を震わす。

また少しの流れた沈黙の後に、
また福田くんが低い声で話し出す。


『お前がいなかったこの3ヶ月間
俺がどんな気持ちだったか分かるか』


なんでそんなに怒ってるのか意味分かんない。
なんで私が怒られなきゃなんないの。

彼女いるくせに、こんな事して。
彼女のこと大切にしろよ。


自分のことを棚に上げまくって、
福田くんにイライラし出して
もう帰れって叫ぼうと顔を上げた私は


『好きな奴が急にいなくなった俺の気持ち分かるか』


一瞬、自分の耳を疑った。


『電話しても出ない。駅で待ってても来ない。
しまいには家にもいない。』

『……』

『しかもやっと会えたと思ったら
俺のこと残して帰りやがって』


放心状態になる私に福田くんの手がまた伸びてくる。

その手は私の頬に触れて
親指で私の唇をなぞった。


視線が絡まる。

真剣な視線に目がそられなくなる。


『なんでそんな勘違いしてるか知らないけど
彼女なんていない』

『……』

『俺は好きでもない奴とホテルなんて行かない』


その言葉に今まで堪えていた涙が
堰を切ったように流れ出た。


『○○だってそうじゃん。
好きでもない奴と行くような奴じゃないじゃん。』

『…ッ…』

『俺とだから行ったんじゃん』


止まらない涙を拭いながら
無意識に福田くんに手を伸ばそうとすると
その手を強く握られた。

福田くんは握った手を少し乱暴に引き寄せて
その腕の中に私を閉じ込める。


私より少し高い彼の体温。


『…福田くん』

『…ん?』

『…好き』


胸にしまい込んだはずの想いが
口から出た。


『…うん』

『好き…ッ』

『うん。俺も好き』


福田くんが私を痛いくらいに抱きしめる。


『福田くん…』

『なに?』

『…好きッ…』

『聞いたってば』


何回言っても足りない私の肩を
福田くんが優しく離して
触れるだけのキスをした。


キスした後におでこをコツンとぶつけてきて
ニッコリ笑う彼の近さに恥ずかしくなって
真っ赤になる顔で視線を下にそらす。


『…顔赤いですよ』

『…はず、かしい…』

『キスしただけで?』

『……ん…』

『僕たち昨日エッチしてますよ?』

『…ッッ…』


不敵に笑ってからかってくる彼に抱きついて
真っ赤に染まる顔を隠した。

福田くんの肩と首の隙間に顔を埋めて
彼の匂いを胸いっぱいに吸い込む。


身いっぱいに擦り寄って
福田くんの肩にグズグズと鼻水を付けた。


それに気づいた福田くんが笑いながら
もう一度私の背中に腕を回してぎゅっと抱きしめる。


『…これからもそうやって
俺の隣で泣いててよ。』

『…普通そこッ、笑ってて…とか、
言うもんじゃないの…ッ』


こんな時でも可愛くなれない私は
泣きながら悪態を付く。

でもそんな私の悪態を
全く気にしてないような福田くんは


『あなたの場合は泣いててくれた方が安心します』


って言った。


もう身体中の水分が全部
なくなったんじゃないかってくらいに泣いて、

腰を抱いたまま、体を少し離して
顔を覗きこんできた福田くんに
泣いた顔がブスだってまた言われて、

頬を膨らませる私の髪に
福田くんが指を絡ませた。


『…○○』

『…はい』

『俺と、付き合ってください』


目の前で微笑む福田くんから告白されて
また視界が涙でいっぱいになった。

込み上げてくる気持ちに
喉の奥が熱く詰まってなかなか喋れない。

でも、答えなんて1つしかなくて
もう決まってて…


なのにやっと振り絞って出した、
“はい”って言葉は
福田くんの口の中に飲み込まれた。


昨日の夜よりももっと優しく感じるキスに
私はゆっくり瞼を閉じる。

自分から少しだけ口を開いて
舌を差し込んでくる福田くんを受け入れた。



私の髪を撫でながら唇を離した
福田くんの肩をグーで軽く殴る。


『…いたっ』

『返事くらい言わせてよ』

『遅いんですよ、あなたは』


私の口から聞かなくても、
もうこっちの気持ちなんて分かってたみたいな
態度の福田くんに少しだけ大人っぽさを感じた。

さっきからずっとからかうように笑う
福田くんの頬を両手で包む。


『福田くんってさ…』

『ん?』

『私のこと、好きだよね』


冗談交じりにそう言った私に


『むしろ愛してるけどね』


超ドヤ顔でサラッと答えた福田くんは
私の腰を引き寄せて、


また甘くて深いキスをした。





fin.

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