さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

不器用なアイツ。【5】

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彼女の涙と鼻水で
びっしゃびしゃになった袖の
冷たさを感じながら運転する。


助手席に座る彼女は
鼻が詰まった声で、


『そこのコンビニ左…』


丁寧に自宅までのナビをしてくれるんだけど…


『次の信号も左…』


何故か俺ん家に向かってナビされる。



え?なんで?
俺ん家?なんで?ええ?


何が何だか分からないけど
彼女に従ってとりあえず運転する。


直線の道に入って、


…あぁ、もうこのまま真っ直ぐ行ったら
駅じゃん。俺ん家の前じゃん。


って思ってたら


『あのボロいアパート…が、ウチ…』


彼女が10mほど先に見える
確かにちょっと古めのアパートを
指差しながら言った。


…超近所(笑)


マジかよ…って笑いを堪えながら
アパートの前に車を停めると

彼女がシートベルトを外して俺の方を見た。

真っ赤になった鼻と目。


『福田くん、今日はごめんなさい。』


出た、またごめんなさい。

この謝る癖どうにかなんねーかな。
って今度は少しイラついた俺に、


『本当に、ありがとう…』


彼女が初めてお礼を言った。


今までも“ありがとう”って
言われたことはあったんだけど、
それは軽いものだったから

こんなに素直にちゃんとした
“ありがとう”を言った彼女に少し驚いた。


『どういたしまして』


ニンマリ笑ってまた頭を撫でる。


『家まで送ってもらっちゃって…
暗いから福田くんも気をつけて帰ってね』


ペコリと頭を下げながら
車を降りた彼女に心の中で


大丈夫です。
ここから車で5分もかからないんで。


って答えておいた。






彼女がアパートの方に歩いて行って、
姿が見えなくなってから
車を発進させる。



…最初は多分、自分のために近かった。


1人の女の子の泣き場所を作ってあげてる自分。


泣ければいいのにって
思ってた女の子ともう一度再会して、

3年という月日が経っても
何1つ変わってなかった、
むしろもっと泣けなくなっていた彼女に、

泣き場所を作ってあげてる自分。


それが好きだったかもしれない。

でもそれは本当に最初の少しの期間だけで。


『…完全に好きだわ…』


独り言のように自分の気持ちを呟いて、
その辺をウロウロしてから帰ったら、

家に着くのに30分もかかった。






***





『福田くんの会社、なかなか社畜だよね』


今日も絶好調に残業させられて
明日も休日出勤だってボヤいた俺に
彼女は皮肉めいてそんなことを言ってくる。


最近、暇さえあれば夜彼女に
電話をかけている。

毎日ではないけれど、結構頻繁にかけても
電話に出てくれる彼女。


『そう、俺会社の犬だから』

『何言ってんの』


電話の向こうから聞こえる
彼女の笑い声。

相変わらずバイト詰めまくって
朝から晩まで働いてるみたいだけど
俺の電話に出て笑うくらいには
それなりに余裕はあるみたいで安心する。


あと、


『ねぇ、福田くん』

『んー?』


この“福田くん”呼び。

俺は何気に気に入ってたりする。

ずっと福ちゃんって呼ばれてきたし、

最初は福田さん、とか呼んできた人がいても
気がつけばその人も
いつの間にか福ちゃんって呼んでたりして、

本当にずーっと昔から
福ちゃん呼びで生きてきたから

初めて呼ばれた日からブレずに
『福田くん』って呼ぶ彼女の“福田くん”は
なんだか特別な気がしていた。


『じゃあ私お風呂入ってくるから』

『入浴中の写真送ってください』

『はい、さよなら』


プツンと切れた電話に笑う。


電話をするようになって
意外と彼女が、

表情豊かな子で、毒を吐く事を知った。


こないだなんておっさんって言われた。


でもそれも俺からすれば
ただただ、ツボにハマるだけで。

そう言ったあとに聞こえる彼女の笑い声に
こっちもつられて笑顔になる。
笑ってくれれば嬉しくなる。


まぁでもやっぱり、
泣いているのを見る方が好きなんだけど。









年末に向けてみんなでバタバタと
仕事をこなしていると、
隣に座る同期が俺に聞いてきた。


『悠太、会費出した?』

『ん?』

『忘年会の。今日よ。』

『あー…忘れてた』

『シマさんに4000円だって』


同期がシマさんと呼んで
指差す方を見ると、
年内に仕事を全て終わらせようと
奮起している1人の男が目に入った。


はいよー、って思いながら
ぼーっと“シマさん”を眺めていると
こっちの視線に気づいたシマさんが
飛びっきりの笑顔で手を振ってきた。


…お?


あまりの笑顔のお手振りに
反射的に手を振りそうになった俺の隣で
同期がヒラヒラと手を振ってるのが見えて
慌てて自分の手を引っ込める。


冷静に考えれば
そりゃ話したこともない俺に
手なんて振るわけないよな。


『……シマさん、私のこと好きなんだって』


振っていた手を下ろして
パソコンに目を向けたまま喋る同期。


『……』

『ご飯とか誘ってくるの』

『……』

『何度も断ってるのに』

『……』

『…悠太』

『…え?』

『私の話聞いてる?』

『聞いてない』


じゃあ手なんか振り返してんじゃねーよ。

しかもこないだの男はどうした。


隣で頬を膨らましてる同期に
気づきながらも、
知らんぷりをしてキーボードを叩いた。





『福ちゃん彼女つくんないの?』


隣にいる上司からそう聞かれる。

因みにもう12回目。


『またそれっすか?』

『だって福ちゃんイケメンじゃない。
背も高いし、羨ましいよ〜』

『ははっ』

『僕も福ちゃんみたいな容姿だったら
もっとモテたのかなぁ〜〜』


そう言いながら焼酎を煽る上司。

確かに上司は俺より10センチ以上
身長も低いし、腹も出てる
いわゆる典型的な“中年”って感じの人。

でも俺はこの人の人柄がすげぇ好きだったりする。


『いいじゃないっすか、
もう愛する人がいるんだから』


左の薬指に光る指輪を指差しながら
言う俺に、


『結婚して20年も経つと
冷たく扱われるようになるんだよ』


小さくぼやくと、また


『福ちゃん彼女つくんないの?』


って聞いてきた。


そのしつこさに、
冷たくされる原因はそれなんじゃねーか?
ってちょっと思った。


元々酒が好きなのと、
仕事納めという開放感から
ひたすらに飲んだ俺はベロンベロンに
酔っ払って、


『起きてっかなー』


独り言のように呟いて、
ケータイを取り出した。





『ーーー…ふぁ、い…』


呼び出し音が途切れて、
彼女が電話に出た。


『仕事納めだぁー!明日から休みだぁー!』


テンション高くそう叫んだ俺に
彼女が小さくため息を吐く。


『福田くん…今何時だと思ってんの…?』


彼女が心の底から迷惑そうな声を出した。

でもひたすらに楽しい俺は
そのままのテンションで話す。


『○○は年末年始の休みあるのっ?』

『一応バイトだから休みにしてくれた…』

『待遇いいね』

『私は休むより働きたいんだけどね…』

『ふーん!』


どんどん小さくなる彼女の声。


…そっか、年末年始暇なのか。


『ならさ、ウチに雑煮だけ食いにこれば?』


滅多に自分から人を、
しかも女子を誘ったりしない俺の口から
自然とそんな言葉が飛び出していた。


『…は…!?』

『だって実家帰らないんでしょ?』

『か、帰らないけど…』

『ならいいじゃん。おいでよ。』

『いやぁ、それは…』

『なんで?ウチ、家で餅つくから美味いよ』


酔った勢い。
でも本心。

せっかく休みなら、会いたい。
顔見たい。


『あのねぇ、福田くん…』


さっきまで今にも寝そうな声を出してたくせに
ハッキリとした口調になってきた
彼女の声に、断られるのをビビって


『あ、ごめん。タクシー来たわ〜
じゃあね〜〜!』


と、来てもないタクシーが来たと
嘘をついて電話を切った。


…てか断られるのビビって電話切るとか、
どんだけ小心者だよ、俺。

こみ上げてくる自嘲的な笑いを
手で隠しながら店の前で
もう帰るー?次行っちゃうー?
なんて言ってる
上司や同僚たちの元に戻ると、


『福ちゃんって、男が好きとか?』


って上司に言われて、

まだ俺の彼女いない話題
引っ張ってたのかよって
上司相手に思いっきり突っ込んだ。










『で、年末年始の事なんだけど。
1日でいい?ウチに来るの。』


休み初日の午前中を二日酔いで
まるまる潰した俺は、
やっと体調がマシになってきた夜に
また彼女に電話をかけた。


刷り込み、と言うのとは
また違うかもしれないけど
もう決定事項のように話を進める俺に、


『え、いいよ…悪いし』


しっかりと断ってくる彼女。


『なんで?いいじゃん。』

『いやぁ…』

『1人で家にいんのも寂しくない?』

『はぁ…』

『辰巳とかも来るよ』

『え?そうなの?』


自分の身体がピクンと動いたのが分かる。


『なんだよー辰巳がいたら来るのかよぉ』


つまんない。

なんだよ、そんなに辰巳がいいか。


『いや、そういう訳じゃないけど』

『けどぉ?』


いつそんなに辰巳のこと
気にするようになった?

俺が辰巳の家に彼女を預けた時?

やっぱり優しい男がいいの?


考えれば考えるほど
彼女に向ける声がトゲを増して…


辰巳がいれば会話に困らないから、
って言う彼女に


ウチに来るの辰巳だけじゃないよって
言ったのは、
ただの俺の嫉妬心からだった。








元旦当日。

家の前まで迎えに行った俺に
彼女はすごく驚いていた。


『なんか暇だったから家まで迎えに来てみた』


そう言うと、驚いていた顔は
今度は困惑顔になる。

その百面相っぷりに笑いながら
彼女の手首を掴んで歩き出した。


『え?福田くんなんでウチ知ってるの!?』

『こないだ送ったじゃん』

『て言うかなんで福田くん歩きなの!?』

『まぁまぁ、そんなに騒ぐなって』

『騒いでないよっ!』

『うるせぇな〜(笑)』


俺の後ろでピャーピャー喚く彼女を
ちょっと嬉しく思う。

辰巳がいるから来たとしても
彼女の顔を見れる事を嬉しく思う。


電話ももちろん嬉しいけれど
やっぱり面と向かうのは違う。


最初こそいろいろうるさかったものの、
途中から諦めモードに入ったのか、
大人しく俺に手首を引かれる彼女を
鼻歌まじりに家まで連れて行く。


『ショートカット』


駅前の公園をぶった切って
家の前に着いた瞬間に、


『…ふ、くだ…?』


彼女が固まる。


『ウン。ここ、俺ん家。』

『…き、近所…!?』

『そうだよ』


固まっていた彼女がキッと
俺の方を睨んできたのが分かる。


…んだよ、辰巳ならもう少ししたら
来るからそんなに睨むなよ。


彼女の視線をフルシカトして


『お酒ちょーだーい』


と、叫んだ。


“行かない”と、言っておきながら
ウチに来た彼女は餅を3個も食った。

特別痩せているわけではないけど
体型な割にはよく食うなって思いながら、

あの、肩に担いだ時の彼女の重さに
少しだけ納得した。


彼女がウチに来る決定打になった
辰巳の存在だったけれど、

彼女から辰巳に話しかけることは
一回もなくて
1人で2人の様子を気にしてる自分の
器の小ささになんだか少しだけ恥ずかしくなった。




パラパラと親戚達が帰り始めた頃に、


『そろそろ私も…』


と言って腰を上げた彼女。


もっといろよ…
送ってやるから遅くまでウチにいろよ…


腕を掴んでそう言いそうになるのを
グッとこらえる。


『…ご馳走様でした。
お先に失礼します。』


笑顔で荷物を持って言った彼女に、


『ん?帰るの?じゃあ…』


と言って立ち上がろうとした辰巳を制した。


『送ってきますよ〜』


辰巳じゃなくて、俺が送ってく。
俺が送りたい。


部屋の隅にハンガーに掛けておいた
上着を彼女に渡しながらそう言って、
いつまでも辰巳達や俺の家族に
ペコペコお礼を言いまくってる彼女を
半強制的に引っ張りながら家を出た。




『なんで家が近いって教えてくれなかったの?』


家を出て少し経った頃に
彼女が少しだけ怒りながら聞いてくる。


『なんか面白いかなって思って』

『なんも面白くないわ』


そう言えば言ってなかったなぁ。
家が近所ってこと。


彼女が寝ていた、
あの時の事を説明すると

何度も瞬きを繰り返していた彼女が
思いっきり爆笑し始めた。


『え?何?どうした?』


いきなりの事に何が何だか
状況がつかめない俺。


『いや、何でもない。こっちの話!』


彼女が半泣きで爆笑する理由は

彼女を家まで送り届けて、
よく笑うようになったその笑顔を見ても

全く分からないままだった。





『悠ちゃん』


自分の家に帰ってくると、
甥っ子に声をかけられた。


『どした?』

『あいつかえったの?』

『…あいつ?』


甥っ子の目の前にしゃがんで
目線を合わせると、


『○○!』


甥っ子の口から飛び出した
彼女の名前にビックリした。


『呼び捨てにしちゃダメだろ。』

『ともだちになったからいいんだもん!』

『友達!?』

『うん!ともだちになった!
だからなまえでよんでいいよって!』


…あいつ、やっぱりウチの甥っ子と
精神年齢一緒(笑)


甥っ子の頭を撫でながら、
嬉しそうに話す目の前の笑顔に
つられて笑顔になった俺に

甥っ子がガバッと抱きついてきた。


『そんなに嬉しかったのか?』


小さなその背中をポンポン叩いていると、


『ともだちのしるしなんだって』


俺の首に回る短い腕に
ギュッと力が入った。


『友達の印?』

『うん。○○がそういってこうしてくれた』


…なぬっ

甥っ子に負けているだなんて。
俺もまだ抱きしめたことないのに。


この間我慢したけど
今度会ったら“友達の印”っつって
抱き付いてやろーかな、って目論みながら

甥っ子を担ぎ上げた。


彼女よりも全然軽い甥っ子の身体を
肩に担ぎながら家に入る。


キャッキャッ笑いながら
楽しそうに足をバタバタする甥っ子に、


やっぱり彼女、ウチの甥っ子と
根本的なものが似てる(笑)


扱いやすい。


と、1人で笑った。




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次回、「福田悠太氏のことを旦那と呼ぶ頭のおかしい痛いツイートをヲタクを一切出していないリアルなアカウントの方で間違ってつぶやいちゃっていつの間に結婚してたのみたいなリプが来て初めてアカウント間違えたことに気づいたよ。それはそれはビックリしまくってとりあえずツイート消したよ。じゃあこれからは福田さうちゃんだねって嬉しい勘違いしてくれてんじゃねーか。って思ったよ。スペシャル!」やります。