さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

ヤンキー岩本くん【6】





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『ちょっと!!邪魔!!!』

『あ〜う〜〜』


汗をかきながら忙しそうに
掃除機をかけるお母さんの怒った声が聞こえる。


『夏休みだってのに毎日ゴロゴロゴロゴロ!』

『んー』

『ホラ、邪魔!』

『んー』


掃除機のヘッドでツンツンと突かれ
起き上がりもせずに
ゴロゴロと移動する。



…やる気が出ない。


…すこぶるやる気が出ない。



ふっかから、遊ぼうと誘いの電話は
かかってくるけど
なんかもう本当にやる気が出ない。


夏休みに入ってそれなりに経つのに
ひたすらジャージ姿で
ゴロゴロしてるだけ。


おまけにノーブラ。

完全に終わってるわ、あたし。




でも。

それでも。


頭に浮かぶのはやっぱり岩本くんの事。


思い出しては泣きたくなって、

思い出しては恥ずかしくなって、

思い出しては悔しくなる。



なんで元カノちゃんにあんな事
言っちゃったんだろ。

岩本くん、知ってるのかな。

ふっかから聞いたのかな。




…やり直したのかな…




考えれば考えるほど
マイナスな事しか浮かばなくて

余計にやる気が出なくなる。



やさぐれまくって
相変わらずゴロゴロしてる
あたしを見かねて、
お母さんが話しかけてくる。


『あんた友達いないの?』

『んー』

『遊びにでも行きなさいよ』

『んー』

『ホラ、前の…あの〜』

『んー?』

『岩本くん?だっけ?』


お母さんの口から出たまさかの名前に
体がピクンと反応する。


『誘ってみればぁ?』


寝返りを打ちながら
お母さんの顔を見上げると、

超ニヤニヤ顔。


『花火でもすればいいのにぃ』

『うるさい』


被せ気味にそう言って
重い身体を起こして部屋に向かう。


あたしだって岩本くんと遊びたいわ。


ふっかからの誘いに
何度“うん”と言いそうになったか。


こんなに断ってるのに
何回も誘ってくれるふっかに

“ありがとう”って
“本当は行きたいんだよ”って
何度言いそうになったか。


それでも岩本くんに会うのが
怖いと思っちゃうのは、
あたしの少しのプライドかもしれない。


これ以上カッコ悪い思いしたくない
あたしの少しのプライド。


やり直すことになったんだって
報告されたくない
あたしの少しのプライド。


部屋に入ったあたしは
ベッドに倒れ込むようにダイブして

少しだけ溢れてきた涙を隠すために
枕に顔を押し付けた。









“先輩!!!
いつ部活来てくれるんですか!!”


今日も絶好調にジャージノーブラで
ゴロゴロしてたあたしの元に
後輩から連絡が来た。


“夏休み入ってからずっと待ってるのに!!”

“何してるんですか!!”

“早く来て下さいよっ!!”


ピロリンピロリンと音を立てる
ケータイを手に取る。


『…どうしよ』


すぐに既読をつけて
暇だと思われても困るので
表示画面を見つめながら考える。


何分間かゴロゴロしながら悩んで…

外に出たくない気持ちに
可愛い後輩が連絡をくれた嬉しさが
ギリギリのところで勝って

あたしは制服に袖を通した。






『先輩っ!ここ見てください!』

『○○先輩、ちょっといいですか?』

『先輩〜!こっちもー!』


四方八方からあたしを呼ぶ声が
飛び交う。


部活に来たのは正解だったかもしれない。


家から学校に来るまでの
道はクソがつくほど暑かったし、

実際今も音楽室はもんもんして
暑いけども、


『先輩!今のところもっかい
吹いてください!』


純粋に楽しい。


一心不乱に楽器を吹いて、
後輩たちと楽しくおしゃべりして、

余計なこと考えなくて済む。


『やっぱり先輩いると
部活内の雰囲気が変わる…』


午前練習が終わって、
楽器を片付けるあたしに
後輩が声をかけてくる。


『いつも大げさだなぁ』

『本当ですもん!』

『どーだか(笑)』

『先輩午後練も参加してくださいよ』

『午後練は自分たちでがんばんなさい』

『ちぇっ』

『あたしいなくても問題ないでしょ』

『ありますよ!』

『ないよ(笑)』

『先輩、自己評価低過ぎますよ』

『そんなことないから』

『もっと自信持てばいいのに…』


後輩が何気なく言った言葉が
胸に刺さる。



自信なんてないよ。


あたしだって欲しい。


自信があったらこんな気持ちにもならない。


あの元カノちゃんに
嫉妬してあんなこと言わなかった。



そんなあたしの思いなんて
知る由もない後輩の
キラキラした羨望のまなざしを
振り切るように背を向ける。


風のせいで膨れ上がったカーテンを
まとめようと窓に近づいて、
音楽室の窓から顔を出す。


まだまだ暑い夏真っ只中だけど、
吹き抜ける風は気持ちいい。


その気持ちよさに
大きく深呼吸をしてると、


ふと、外にいる男子生徒と目が合った。



『…ん?』


バケツ片手に制服のズボンを
ひざ下まで捲り上げている男子生徒は
ポカンとした顔でこっちを見ていて…


『○○ちゃん!!!』

『ふっか!!??』


2人して馬鹿でかい声で叫んだ。


『○○ちゃん!何してんの?
学校来てたなら連絡してよ!!』


トテトテと走りながら
窓に近づいてくるふっか。

音楽室は2階にあるから
自然と見上げられて、見下ろす形になる。


『ふっかこそ何してんの?』

『プール掃除!』

『はい?』

『掃除したらアイス奢ってくれるって
先生が言うから!』


夏休みにわざわざ学校に来て
アイス1つのために
プール掃除するなんて…


そういうところがふっかが
周りから愛される理由なんだなって思う。


『○○ちゃんも一緒にやろ!』

『やだよ、暑い』

『照もいるから!』

『…ッ』


その名前にまた身を固める。


口をつぐんで、
目線を落としたあたしに
ふっかが続ける。


『やろ!今からそっち行くから!』

『……』

『迎えに行くから!』

『……』

『そこで待ってて!』

『……』

『絶対だかんね!』


最後の言葉を言う頃には
もう駆け出していたふっかを目で追う。


ふっかって本当に優しいな。

3枚目気取ってるけど
周りも見えてて、

こうやって気を回してくれる。


なのにあたしはいつまでも
ウジウジして…


さすがに音楽室の中まで
迎えに来させるのは可哀想だったから、

廊下に出てしゃがんで待ってた
あたしの元に汗だくのふっかが走って来て


『イエーーイ!お待たせ〜〜!!』


そう言いながらとびっきり笑顔で
笑いかけてくるから
ちょっとだけ泣きそうになった。



カバンとクラリネットの入ったケースを
あたしの手から取ったふっかは、


『はい、交換!』


と言ってなぜか空のバケツを
あたしに渡してきた。


『部活に来てたんだね』


あたしのカバンを肩にかけながら
歩き出したふっかの隣に並んで
あたしも一緒に歩き出す。


『後輩が声かけてくれて』

『そっか〜』

『うん』

『暑いのにお疲れ様!』

『…驚かないの?』

『ん?何に?』

『あたしが楽器吹けることとか…』


前に岩本くんがあたしが
吹奏楽部だったっていう
“意外に女らしい一面”を知って
驚いていたことを思い出して問いかける。


『いや、照に聞いてたから』

『…え?』

『結構前に聞いてたよ』

『……』

『すごい上手で先輩追い抜かしたり
してたんでしょ?』

『……』

『ソロパートとかやったり』

『……』

『でしょ?』

『…うん、そう。』

『すごいねぇ、○○ちゃんは!』


自然と無口になって
顔が赤くなるのが分かる。


またあたしの知らないところで
あたしの話して。


しかもそうやって褒めるようなこと。



…もうやだ。


岩本くんのばか。

くそヤンキー。


心臓をギュッと
掴まれたような気持ちになって
心の中で岩本くんに悪態をついた。


ふっかが渡してきた空のバケツの底に空いた
穴を眺めながら歩いた。





校舎から出て、少し歩いた先にあるプール。


まだあたし達が生まれてなかった
学校創立時には無かったらしいそのプールは
後から取って付けたものだから
校舎よりも今時なデザインで
内装もそんなに汚くない。


『てか○○ちゃんスカートだね。
大丈夫?』

『中に紺パン履いてる』

『こんぱん?』

『あー、とにかく平気』

『なら良かった』


説明するのが面倒くさくて
省いたあたしに
ふっかもそれ以上突っ込まず
プールの入り口に入っていく。


ローファーと一緒に靴下も脱ぎながら
プールに目を向けると

腰洗い槽越しに見える、

上半身裸でプールに足を突っ込んで
座っているのは


いつのまにか黒髪に戻ってた
岩本くんだった。


『…岩本、くん…』


思わず声に出してしまったあたしを
ふっかは優しく笑いながら
頭をポンとして


『そうだよ、照だよ』


って言ってきた。



『照ー!バケツ持ってきたー!!』


大きい声で叫んだふっかに
反応した岩本くんがこっちを向く。


岩本くんの顔を見た瞬間、
心臓がピョンっと
跳ね上がったのが分かった。


何を考えても

やっぱり会えた事が…

顔を見れた事が嬉しくて…


『あとオマケも連れてきたー!!』


さっきまでの気弱な態度が一変して
すこぶる元気になったあたしは

失礼にそう叫んだふっかの横で
力の限りブンブンと手を振った。


あたしの存在に気づいた岩本くんが
胸の辺りで小さく手を振り返してくれて
その可愛さに萌え禿げた。


『おい見たかよふっか、
今のスーパー可愛いお手振りを』

『すげーな、○○ちゃん。
口動かさないでしゃべるんだ』


岩本くんへ向けた笑顔を崩さずに
いっこく堂風に
喋ったあたしをバカにした
ふっかのことはシカトしておいた。


太陽の光で熱くなったプールサイドを
裸足でペチペチと歩いて
岩本くんの元に向かう。


『…部活してたのか』


ふっかが持ってるあたしのカバンと
楽器ケースを見て言う。


『そう。後輩しごいてきたの。』


フフンッと鼻を鳴らしながら
そう言ったあたしに
岩本くんは目がなくなるくらいに
しわくちゃな顔で笑って


『それは後輩も勉強になっただろうな』


って言ってきて、


やっぱりこの人の事好きだなって思った。


『バケツ寄越せ』

『はい。穴開きバケツ』

『は?』

『穴空いてるよ、そのバケツ』

『意味ねーじゃん…』

『あたしじゃないよ。ふっかだよ。』


そう言ったあたしに
岩本くんは眉をひそめる。


『○○ちゃんカバン置いとくよー』


自分がそんなこと言われてるとは
知らずに呑気に話しかけてくるふっか。


『ありがとー!』

『ここでいいー?』

『あ!クララは日陰に置いといて!』

『クララ!?』

『あたしのクラリネット
クララって言うの。可愛いでしょ?』


ふっかの方に振り返って
首をかしげながら
ワザとあざとく言ったあたしに


『やっぱりお前馬鹿だな』


って笑う岩本くんの声が後ろから聞こえた。














『終わったぁぁ〜〜〜』


農作業をするおばあちゃんのように
タオルを頭にかぶったあたしが叫ぶ。


『意外と疲れたね』


さすがのふっかも疲れたようで、

ドコドコとものすごい勢いで
プールに溜まっていく
水をながめながら
プールサイドに腰を下ろした。


『体力なさ過ぎんだよ、お前ら』


1人だけケロっとしてる岩本くん。


『趣味が筋トレの筋肉おばけと
一緒にしないで欲しいわ』

『本当。照の体力があり過ぎなんだよ』

『にしてもお前らはなさ過ぎ』


そう言い残してブラシやらホースやらを
片付けに行く岩本くんの背中に
べえっと舌を出した。




『おっ、お疲れさ〜ん』


Tシャツに半パンという
教師とは思えない格好をした
体育担当の先生がプールに入ってきた。


『先生〜疲れたよぉ〜アイス〜〜』

『へいへい、買いにいくぞー』

『俺行くー。2人は何にする?』


岩本くんに体力あり過ぎとか
言っておきながら
アイス1つのために
飛び跳ねるように立ち上がれる
ふっかもなかなかの体力おばけ…


『チョコのやつ』


岩本くんがそう言いながら
あたしの横に腰を下ろす。


『○○ちゃんは?』

『カラメルとろ〜り
こだわり卵のプリンアイスバー』

『ほぇ?』

『カラメルとろ〜り
こだわり卵のプリンアイスバー』

『なんて?』

『カラメルとろ〜り
こだわり卵のプリンアイスバー』

『え?』

『間違えたら許さないからね』

『え、無理!絶対覚えられない!
なんて言ったの!?』

『もう言わない(笑)』

『うっそ!プリン?プリンなんとか!?』


テンパりまくるふっかを
先生が早くしろーって呼ぶもんだから
結局ふっかは


『分かんなくなったら電話するから!』


って言ってから先生のあとを
追ってった。



ふっかがいなくなったプールサイドに2人。


…2人きり。

…2人、きり。


ヤバい少し緊張してきた。


『…髪』

『え!?』


ドキドキしてたところに
いきなり話しかけられたから
驚いて大きな声が出る。


『染めなかったんだな』

『え、あ…あぁ、うん…』

『ちょっとお前の金髪
見てみたかったかも』

『岩本くんは黒に戻したんだね』

『まぁな』

『なんで?』

『なんとなく』

『ふーん』



沈黙が流れる。



聞こえてくる水の音と

少し涼しくなった風と

プール掃除での疲労感と


眠くなってきたあたしは
その場にゴロンと寝っ転がる。


『おい』

『……ん?』

『制服汚れんぞ』

『…ん…』

『寝んなよ』

『…んー…』


呼びかけられる低い声も
なんだか心地よくて
ウトウトし始めたあたしに


『ふっかから聞いた』


岩本くんの声が届く。

カッと開くあたしの目。


『お前が…俺のために怒ってくれたって』

『……』

『ありがとな』


驚いてなんて言ったらいいか分からず
ひたすらに固まるあたし。


『あの子、その…俺の元、カノなんだけど…
あの子に好きな子が出来て、
分かれてさ…』

『二股だったんじゃないの?』


驚きのあまり弾丸ストレートに
そう言ったあたしに
岩本くんは少し苦笑う。


『周りはみんなそう言うけど、
それじゃ向こうだけが悪いみてぇじゃん』

『……』

『まぁ、結果はそんな感じだけど
向こうにそうさせちゃった
俺にも問題があったんだろうし…』



…涙が出てくる。


なんでそんなに優しいの?


なんで?


岩本くんは彼女を大切にしてたんでしょ?


周りから見ても分かるくらいに
彼女を大切にしてた岩本くんに
なんの責任があるっていうの?



『…なんで泣いてんだよ』


強く握った手を震わせながら
腕で顔を隠して泣くあたしの肩に
岩本くんの手が触れる。


『泣くなよ』

『…うぇ…ッ…』

『おい』

『…ひっ、…う〜…』


岩本くんが寝っ転がったまま
泣き出したあたしの背中に
腕を回して起き上がらせる。


『…泣くなって』

『う〜…ッ、』

『……』

『…うぇ…ッ…』

『……ごめんな、』





時間が止まった。






あたし、今。

振られた?




『…ごめん』





…2回も言うな





ふっかからあたしが元カノちゃんに
キレたって話を聞いてる時点で
気持ちがバレちゃったは分かった。

それはもう今さらだから
別にいいけど…



…けど…




『……』

『……』

『…なぃ…』

『…ん?』

『あたしッまだ…何も、
言わせて、もらってない…』

『……』

『あたしまだ何も
言わせてもらってないッッ!!』



大声を出しながら
顔を隠してた腕を退かすと、
目の前には困った顔をした
岩本くんがいて…


『んッ…!?』


あたしは岩本くんの顔を掴んで
彼の唇に自分の唇を
思いっきり押し当てた。


『まだ何も言わせてもらってないのに
勝手に振るなくそヤンキー!!!!』


岩本くんの胸を両手で突き飛ばして
カバンを掴んで走り出す。




告白もさせてもらえなかった。


好きって言わせてももらえなかった。



裸足のままローファーを履いて
プールから飛び出すと、


『○○ちゃん!?』


コンビニ袋を持ったふっかに呼び止められる。


『なんで泣いて…』

『帰るッ!!!』


自分が先生とアイスを買いに行ってる間に
あたしと岩本くんに何かしらが
あったことを察知したらしいふっかは
あたしの腕を掴む。


『○○ちゃん!聞いて!』

『帰るっつってんのッ!!』

『聞いて!』

『離せッ!』

『照ね!』

『離せバカッ!』

『照、元カノの告白断っ…』

『振られたッッ!!』


その言葉に
あたしの手を握っていた
ふっかの手から力が抜ける。


『…え?』

『告白してもないのに振られたッ!!』

『…○○ちゃん…』

『帰るッッ!!!』


緩まったふっかの手を
振り払って歩き出す。


『ちょっ、○○ちゃん…!』

『付いてくんなッッ!!!』


完全八つ当たりで
ふっかにそう大声で怒鳴って
走り出した。



家に着いて、
乱暴に階段を駆け上がる。

部屋に飛び込む瞬間に聞こえた
母親のうるさい!って声を
扉の音で制してベッドに飛び込んだ。



痛い。


心が痛い。


ズキズキ…


ズキズキズキズキ…




『せめて好きって言わせてよ…ッ』


言葉にすることも出来なかった
あたしの気持ちは
セミの鳴き声にかき消された。






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最近、亀更新に拍車がかかってしまって


大変申し訳ありません…

(スライディング土下座)



大した文章書いてないくせに
とんでもない亀更新…


大変申し訳ありません…

(土下寝)



ちょっと
バタバタしておりまして、

自分の要領の悪さを痛感しております(笑)



楽しみにしてますと声をかけて下さる皆さん。


いつも本当に本当に
ありがとうございます(;_;)♡

私なんぞの体調まで
お気遣い頂けて、心温まる思いです…!

身体だけは丈夫なので
ご安心ください!

それだけが取り柄です☆



相も変わらず、亀更新になりますが
これからも読んで頂けたら嬉しいです。



今回も読んでくださって、
ありがとうございました(;_;)♡