さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

後輩の宮舘くん 〜春〜 【中】


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ゴスン




ってすごい音がして
宮舘くんの持っていた瓶が
シンクの中に落ちた。


「…え?」

「……」

「どうしました…?」

「……」

「先輩?」


宮舘くんの身体を
もっと自分の方に引き寄せるように
ギューッと抱きしめて、


「違うの」


少し裏返った声が出た。


「…違う…?」

「違う。全然違う。」

「…な、にが?」

「何もかもが」

「…え、すみません…何言ってるか
全然分からない…」


宮舘くんは少し戸惑いながら
左手で私の背中をポンポンして、


「…何が、違うんですか?」


優しい声で、そう聞いてくれた。


「宮舘くんには、可愛いって思われたいの」

「…へ?」


宮舘くんの前では可愛い女の子でいたい。

ずっとそう思ってた。



言葉遣いも

ご飯の食べ方も

歩き方も

全部全部気を使っちゃうのは
宮舘くんに“可愛い”って思われたいから。


女友達や、同級生の男の子たちと
一緒にいる時は
そんなこと一つも思わない。


私の気持ちの在り方の問題。


思い返してみれば高校3年生の頃。

宮舘くんと話すようになったばっかの頃。


あの頃は宮舘くんの前なのに
言葉遣いもガサツだったし
パンツが見えたりしてもへっちゃらだった。


なぜならそれは
あの頃の私は

彼のことをなんとも思っていなかったから。


今は違う。

彼氏であり、好きな人であり、

1番、“可愛い”って思ってもらいたい人。


抱いてる気持ちが違う人間に
全く同じ態度を取るわけがない。


『好きな人には可愛いって思われたい』


それは女の子には必ずある気持ちで、
ごく自然なこと。


「だから…違うの」

「…ん?」

「どう思われてもいい人たちとは違う…」

「…うん」

「全部適当な返事で相手する
あいつなんかと違うの…」

「うん」

「宮舘くんには、可愛いって思われたいから」

「……」

「ちょっと恥ずかしいような
嬉しい言葉とか言われちゃうと」

「……」

「なんて言っていいか分からなくなって」

「…ん」

「いつも下向いちゃうの…ッ」

「…うん」

「一緒にいて、つまんないとか
楽しくないなんて思ってない」

「……」

「すごく楽しいって思ってる…!
もっと一緒にいたいって…
いっつも思ってる…ッ」

「……」

「…ちゃんと伝えなくて…
ごめんなさい…」


言い終わると同時に、
宮舘くんに両手で抱きしめられた。


宮舘くんの胸に顔を埋める私の髪に
優しくキスした彼は


「○○ちゃん」


優しい声で私の名前を呼んだ。


「ありがとう、全部話してくれて」

「…ん…」

「すごく嬉しい」


ごめんね、宮舘くん。

こんな私でごめんね。




宮舘くんが、


少しずつ敬語で話さなくなったこと。

指を絡めて手を繋いでくるようになったこと。

隣に立つ時の距離が10センチくらい近くなったこと。

触れてくる回数が多くなったこと。


その度に、

泣きたいくらい嬉しくて
幸せだったのに。

なんですぐに伝えなかったんだろう。


そして、言葉にしなきゃ
伝わらないことを

宮舘くんに悲しい思いをさせるまで
なんで気づかなかったんだろう。


「○○ちゃん」

「…はい」


抱きしめていた腕を解いて
顔を真っ赤にした私を見て
嬉しそうに笑った彼は、


「大好きだよ」


いきなりそう言った。


反射的に思わず下を向きそうになった
顔を無理やり上に引き上げて
宮舘くんの顔を見つめる。


「…ッ…」


限界を超えた恥ずかしさに
頬を震わせながら耐えていたら、

宮舘くんが豪快に笑いながら
私の後頭部を掴んで顔を下に向けさせた。


「下向いていいよ」


止めていた息を吐き出して
ハァハァと荒い呼吸を繰り返すと、


「無理しなくていいから」


宮舘くんは楽しそうに笑いながら
私の頬に優しく触れた。


「そういう事なら、むしろ嬉しいよ」

「そういう事…?」


宮舘くんの服の裾を握りながら聞き返す。


「俺に可愛いって思われたくて
どういう顔していいか分からないから
下向いちゃうんでしょ?」

「…う、うん…」


自分で言った事だけど
改めて口にされるとなんだかとても恥ずかしい。


「そんなの嬉しいに決まってんじゃん」

「……」

「て言うか、可愛すぎるでしょ」

「…か、可愛いくは…」

「俺こそ、何も知らないのに
八つ当たりしちゃってごめんね」

「…宮舘くんは、何も悪くないよ」

「ううん。今回はお互いが悪かった」

「…いや、」

「仲直りしよ、ね?」


頬に触れていた手で
顔を上げられた。

身を屈めて少しずつ近づいてくる彼に
まぶたを下ろした。


唇が触れる直前で


「大好きだよ」


ってもう一度言ってくれた。

だから、


「私も大好き…」


って答えた。






***





2人で夜ご飯を食べるときは
宮舘くんの家で
手作りのご飯を食べることが多い。


私は料理が全く出来ないから、
キッチンに入って何か手伝おうと思っても
邪魔になるのは目に見えてる。


「いい子で待っててね」


って宮舘くんは言ってくれるんだけど
さすがに申し訳なくて
キッチンの前を行ったり来たりする私に


「じゃあ後片付けは全部お願いする。
それでいい?」


って提案してきてくれた。


その日から、後片付けは
全部私の担当。


食べ終わった食器を洗っていると、
私の隣に立った宮舘くんが
肩に額を置いてきた。


「ビックリした…」

「適当でいいよ」

「だめ」

「真面目だね」

「あなたほどじゃありません」


前よりも恥ずかしさに慣れて来た私が
笑いながらそういうと

宮舘くんは、
「確かに俺って真面目だよね」
なんて言って、もっと私を笑わせた。


「そう言えば明日の飲み会、
どこのお店に行くの?」

「へ?」

「前に言ってたじゃん
ゼミで飲み会あるって。明日でしょ?」

「…うん、まぁ」

「どこのお店行くの?」

「…学校の近くに最近できたイタリアンのお店。
あそこらしいよ」

「へぇ。あそこ行くんだ」

「…うん」

「楽しみだね」


洗ったお皿を全部拭き終わって
ふぅ、と息を吐きながら


「まぁ、私行かないけどね」


そう言った私に


「え?」


心底びっくりした声を出しながら
顔を上げて驚いた。


「…なんで?」

「まぁ、色々…」

「“ゼミ”の飲み会だから?」

「……」

「俺に気使ってるの?」


ゼミの飲み会…となれば
メンバーはもちろん同じゼミの人たち。

て、ことは宮舘くんを不安にさせた
あいつも飲み会に来るわけで…


私は宮舘くんの方を向いて
彼のお腹に両手を回して抱きついた。


「そんなんじゃないよ」

「じゃあなんで?」

「……」

「○○ちゃん?」


もう、伝えなきゃいけない事を飲み込んで
宮舘くんを悲しませるのは嫌だ…


「…あいつ今、ものすごく機嫌悪いの」

「あいつ…ってあの時の人?」


確認するように、問いかけてきた彼に
私は「うん」と言いながら首を縦に振った。

少し暗くなった私の声に気づいて
顔を髪に埋めながら
抱きしめ返してくれる。


「今まではね、それなりに相手したり
愛想笑いしたりしてたんだけど
今はもう全然相手してないの、私。」

「…相手してない…?」

「…うん、基本無視。
何言われても無視。」

「…そうなんだ…」


きっと今まで下に見て
“話しかけてやってる”くらいの気持ちで
私に話しかけていたであろうあいつは

格下に見ていた私から無視を食らって
すごいムカついているみたいだった。

常に1人でプリプリ怒っている状態で

私を含めた周りは
ますます彼への無視を決め込んだ。


「だから行きたくないの。
あーゆう場に言ったら絶対捕まっちゃう」

「…そっか」

「私のこと気にくわないんだよ、あいつ」


宮舘くんの胸に顔を埋めて、
さっきよりも身を寄せる。

香水のいい匂いを嗅いでいると


「…そうじゃないと思うけどなぁ…」


小さく呟かれた。

「ん?」って聞き返すけど、


「あー、ううん。
○○ちゃんは気にしなくていい事」


なんだかよく分からないまま
笑ってはぐらかされた。


「ね、やっぱり行きなよ飲み会」

「…行かない」

「なんで?」

「行きたくないの」

「美味しいって噂だよ?あのお店」

「宮舘くんが作ってくれる
ご飯の方が美味しいもん」

「また可愛いことを言うなぁ」


嬉しそうに笑った宮舘くんだけど、

それでも…


「行ってきなって」


なんだか絶対に譲らない。


「…嫌だよ」

「大丈夫だから」

「…嫌…」

「絶対大丈夫」

「……」

「俺のこと信じて」


優しく髪を撫でてから
頬にキスする宮舘くんに、


「…うん」


って返事したけど
やっぱり行きたくない気持ちは拭えなかった。












宮舘くんのことを信じていなかった…

訳ではない。


ではない、けど。


「おーい!みんなー!
○○に彼氏いるって知ってたかぁー?」

「……」

「こんな男っ気なさそーな奴がよー!
ちゃっかりいんだぜー!しかも年下ー!」

「……」

「隅に置けないよなぁーっ?」

「…チッ…」


ほら、やっぱり。

捕まった。



お店に入ってすぐに、
あいつとは一番遠い席に座った。

20人近くもいれば
ひとつの話題をみんなで話したりしない。

周りの人とそれぞれの話題で話す。

だからあいつの事なんて
視界にも入れないで周りの人たちと
この間先生に出された課題の話とか
この間の発表の話とかをしていた。


関わらないのが1番。


そう思っていたけれど、


「おい!聞こえないのかよ!」


肩を掴まれたらどうやって逃げたらいいか
さっぱり分からなくて。


「……え?」


肩に感じる痛みで
反応してしまったのが運の尽きだった。


それからそいつは私の前の席に座って
いつの間にかちゃっかりビールまで持って
ずーっとずーっと
人を見下す事ばっかり言ってきた。


お前は行動がトロいだの。

今持ってるレポート見せてみろ
俺がダメなとこ指摘してやるからだの。

勉強全然出来なくて
なんでこの大学入れたのか謎だの。


けちょんけちょんに言われ続けた。


…だから来たくなかったんだよ…


ムカつくとか悲しいとか
色々な感情を通り越してきた。

もうこいつに感情を動かされるのさえも
もったいなく感じてくる。


無気力な顔でピクリとも動かずに
一点をボーッと見つめる私に
変な焦りを感じたのか、


「○○ちゃん…レポートまとめるの上手だよ…」


隣に座っていた友達が私をかばってくれようと
反論してくれた。

でもこいつはその反論を食らうどころか、


「いーや!こいつのレポート見たことある?
すっげーの!まじで!悪い意味でね!」


私を指差しながらゲラゲラ笑い出す始末。


顔を真っ赤にしながら
プルプル震える友達の手を
机の下の見えないところでぎゅっと握った。


「ありがとう」


ちっちゃい声でそう言うと、


「帰りたいね」


って声が帰って来て、
本当にその通りだなって思った。




そいつの大声はいつまでも続いた。




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