さう日和。

ファニーフェイスなオナゴ。ジャニーズ中心生活。

ヤンキー岩本くん 〜喧嘩編①〜




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付き合う前の方が楽しかった。



誰かがそう言っていたのを
昔聞いたことがある気がする。







「お前スカート短けぇ」

「そんなことない」

「短けぇんだよ」

「あたしより短い子他にもっといるじゃん」

「他の女がどうとか言ってねぇよ馬鹿。
お前だよお前。」

「なにそれっ」

「とにかくもう少し長くしろや」

「嫌だ」

「しろや」

「いーやーだー」

「てめぇなぁ…コラ」


最近の岩本くんは
小言がうるさい。

いちいち小言がうるさい。


「まぁまぁ」


ふっかがなだめてくれるけど
効果は一切なし。

岩本くんは階段に座るあたしを
上から見下ろして「チッ」って舌打ちした。


こんなにうるさくなかった。

付き合う前はこんなにうるさくなかった。


あたしのことを想って
言ってくれてる事くらい分かるけど

頑固ジジイみたいなその小言に
ちょっと頭が痛くなってくる。

自分を縛られてるような
気がしてくる。


そんな岩本くんの小言だけでも
十分過ぎるくらい疲れるのに、

あたしの悩みのタネは
それひとつだけじゃない。


実は、
あたしは最近バイトを始めた。


特に理由はないけど
今まで部活に専念してた分、
家と学校の往復しかしない生活に
変な焦りを感じていた。

焦り…と言っても変な意味じゃない。

何かしなきゃ!とか、
こんな生活ダメだ!とかじゃなく…

なんていうか、、

手持ち無沙汰?

兎にも角にも。

自分の時間が多くなったおかげで
何かをしたくなった。


あと、

“ごめん!今日バイト!”

っていう学生っぽいフレーズを
使ってみたかった。


だからバイトを始めた。


でもバイトするまでも大変だった。


「バイトしようと思うんだよね〜」
なんて軽く言ったあたしを
あのヤンキーが放任してくれるわけがなかった。


「遅くまでシフト入れさせられるところはヤメろ」
「変な奴が来そうなところはヤメろ」
「酒を出すところはヤメろ」
「男が多いところはヤメろ」
「家から遠いところはヤメろ」


まさかバイトひとつするだけで
こんなに条件を出されると思ってなかった。

ヒィヒィ言いながら
いろんな求人募集を見たけど

岩本くんから出された条件に
合うバイト先がなかなか見つからなかった。



「別にバイトなんて
しなくたっていいだろーが」


って言いながらチョコケーキを
食べる岩本くんの隣に座って、


「…働ける場所がない…」


絶望の中そう零したあたしに、


「バイト先探してるの?」


声をかけて来たのは
最近よく行くようになった
カフェの店長さんだった。

ちょっと前に岩本くんが見つけて来たカフェで、
できたばっかのおしゃれなお店。


お店の看板メニューは
店長手作りのチーズケーキ。

もちろん、味もとても絶品。


「そうなんです。でも条件が合わないんです。」


しょんぼりしながらチラッと
横目で岩本くんを見ると死ぬほど睨み返された。


「条件そんなキツイの?」


全てを察知したかのような店長さんは
岩本くんに視線を向けてクスクス笑う。


「そうなんです」

「ふーん」

「もう無理。あんな条件合うお店ない。」

「そうなんだぁ」

「…はぁ…」

「そういえばウチさ…
ちょっと前から募集始めたんだよね」


あたしの前に看板メニューの
チーズケーキを置いた後に、

そのままその手で入り口付近の
ガラス壁に貼ってある紙を指差した。


太陽の光に透けたおかげで読める
反転してる文字をじっと見ると

“バイト募集”の文字。


「人手が欲しくなってさ」

「そうなんですか…」

「そうなの。困ってるの。」


顎に手を当てながら
大げさに「う〜〜ん」って言いながら
こっちをチラ見してくる店長。

何をそんなに唸っているんだろ…

ぼーっと店長のことを
見つめていたら、


「○○ちゃん!○○ちゃん!
気づいて!気づいてあげて!!」


向かいに座っていた
ふっかの言葉にハッとした。


グリン!っと岩本くんに目線を向けると
苦い顔をした岩本くんがこっちを見ていた。


「…んだよ」

「バイトしたい!」

「……」

「バイト!したい!」

「……」

「したい!!ここで!!」

「……」

「したい!!!!」

「……」


怯んでいる!!

何でもかんでも頭ごなしに
ダメだと言っていた岩本くんが

怯んでいる!!!!!!


ここぞとばかりに
熱い視線を送り畳み掛けるあたしに
岩本くんは決まり悪そうに頬をかく。


「……」

「したいぃぃ〜〜ッッ」

「で、その条件ってなぁに?」


いつの間にか岩本くんの顔が
超至近距離になるくらいまで
顔を近づけて視線を送っていたあたしに
店長さんの声が届く。


「…ヒェッ」


自分から顔を近づけたくせに
今やっと気付いたあたしはアホな声を出しながら
岩本くんから離れる。

最初に座った距離よりも
岩本くんからちょっとだけ離れて
店長さんへ向き直った。


こんな条件揃う方が難しいと思うけど
この機会を逃したくない…!

そんな気持ちを抱いて
岩本くんから出された条件を口にすると、

店長さんは「うわぁ…」って言いながら
顔をピクピク引きつらせた。


「照、お前それ流石に引くわ」


店長がゲラゲラ笑いながら
岩本くんの頭をポンポンと叩いた。


「やめろよ」


嫌がって店長の手を
払いのける岩本くん。


…ん?

なんだ、この感じは…。


「○○ちゃん。大丈夫だよ、安心して」

「はい…?」

「照、俺には絶対逆らえないから」

「へ?」

「あれ?聞いてない?」

「何をですか…?」

「俺ら、いとこなんだよ」

「は!?」


目ん玉が飛び出るかと思った。


びっくりしすぎて膝をテーブルの
裏側に思いっきりぶつけた。

その衝動でグラついたオレンジジュースを
慌てて両手で掴む。


ものすごい音がするくらい
強く打ったはずの膝の痛みなんて感じないくらい
びっくりしたあたしは


「いと、こ?」


と、生唾を飲みながら
店長さんに問いかける。


「うん、いとこ。
俺の父親と照の父親が兄弟なんだよ。
その感じだと知らなかったみたいだね」


初耳だわ!

と言いたい気持ちを飲み込んで、
ふっかと岩本くんの方を見ると


『あれ?言ってなかったっけ?』


って顔しながらこっちを見ていた。


「だから大丈夫。安心して!」

「…はぁ…」


あんなに頑なにどんなバイトも
ダメって言っていた岩本くんが
なんであんなに怯んでいたのかやっと納得した。

でも、逆らえないって言っても
岩本くんはゴリゴリのヤンキー。


店長さんはどっちかって言うと

背だって…
あたしよりはもちろん高いけど
男の人にしてはそんなに高くないし
喧嘩とかもしなそうな雰囲気。


逆らえないって…本当?


胸に残る少しの不安に、
オロオロとしていると
それに気づいたのか店長さんが笑い出した。


「もっかい言おうか?
大丈夫だよ、本当に。」


脳内を覗かれて焦るあたしに


「照に喧嘩の仕方教えたの、俺だから」


爽やかな笑顔で物騒な事ぬかしやがった。


軽いジョークかなとか
思いたかったけど、


「俺マジで怒ると照なんかより
100億倍怖いよ」


って言った店長さんに
岩本くんがアイスココアを
無言、無表情のまま
ストローでじゅるじゅる飲んでいたから
本当のことなんだと思わざるを得なかった。


「○○ちゃん、いつ来れるの?」

「へっ!?」

「いつからバイト来る?」


あぁ、もうダメだ。

岩本くんより怖いって思うだけで
もうダメだ。

ここでバイトするのが嫌になってきた。


「あ、明日からでも…」


引きつりながら笑顔を向けて
そう言うと、


「じゃあまず明日来てもらおうかな。
そこで出勤の日とかいろいろ決めようか」


白い歯を見せてそう返された。

そして店長はいつまでも不貞腐れてる
岩本くんの方をチラ見すると、


「本当は○○ちゃんがバイトしちゃうと
一緒にいる時間が減るから嫌だったんだろ?
素直にそう言えよな」


って言い出すからビックリした。


「うっせぇな…」


って言いながら少し顔を赤らめる
岩本くんにもっとビックリした。

そして正直少し…

いや、かなり嬉しい気持ちになった。








それが1ヶ月ほど前の出来事。


火曜と木曜。
あと隔週で土日のどっちか…

って感じのペースで週に2、3回
シフトを入れられている。

もちろん、早めに上がらせられる。

従業員は店長さんと店長さんの奥さんと
あたしの3人だけ。

お酒はメニューに含まれていないし
お店は学校とうちの間にある。


条件はきっちり満たしていた。


怒るとクソ怖い岩本くんのいとこ…
もとい、店長さんは
怒らないとすごく優しい良い人で
丁寧かつ分かりやすく仕事を教えてくれた。

あたしはコーヒーを淹れたり
ケーキを作ったりなんてできないから

オーダーを取ってきて、
出来上がったものを運ぶだけの仕事だけど
すごく楽しくバイトをしていた。




…そんな中、
ちょっとした事件が起こった。


えーくんがいきなり
私のバイトするカフェにやってきたのだった。






「いらっしゃいま……」


開いた扉に目を向けたまま
固まったあたしをえーくんは
ゲラゲラ笑いながら店に入ってきた。


店の中に唯一いた女の子2人組が

えーくんの着ている制服と
その整った顔を見て、

「やばっ」ってちっちゃく
声を上げているのが聞こえた。

えーくんはその声が聞こえているはずなのに
照れてもいないし喜んでもいない
普通の顔で近くの空いている椅子に座る。

きっと言われ慣れているんだろうな感が
安易に感じ取れてなんだか腹立たしかった。


「ホット1つ」


メニューも見ずに人差し指を
自分の顔の前に立ててオーダーして来た。


「…なんでいんの」

「来ちゃダメなのかよ」

「ダメ」

「テスト勉強しにきたんだよ」

「家でやりなよ」

「家だと寝ちまうからここでやんの」

「はぁ!?」

「ホラ、僕のとこ進学校なんで
勉強しなきゃヤバイんですよぉ」


ワザとらしく語尾をのばしたえーくんに
ため息が溢れる。


「ホットだけ?」

「オススメあんの?」

「チーズケーキ」

「甘いの好きじゃねぇんだけど」

「知らん」

「じゃあホットだけでいーや」

「ヘイ」


あたしが席を離れると、
えーくんはリュックから
参考書やらノートやらを出し始めたので

勉強するって言うのは
本当だったんだ。って思った。


岩本くんになんて言おう…って
すごく悩んだ。


あたし1人じゃ決められなくて


「○○ちゃんの友達?」


って聞いてきた店長に
サクッと事の流れを話した。

岩本くんと仲が悪いっていうか
ライバル的な存在の人で、
ちょっと前にその2人の
因縁に板挟みにされて
いざこざに巻き込まれた…と。

告白されたこととかは
自分で言うのが恥ずかしいから
言わないでおいた。


「面白そうな話すぎるんだけど」


店長はクスクスと笑いながら
あたしの話を聞いていた。


「結構真剣に悩んでるんですけど…」

「あははっ。まぁ、別にわざわざ
言わなくてもいいと思うけど」

「そうですかね…」

「うん、だってホラ彼見てみなよ。
普通に勉強してるだけじゃん」

「まぁ」

「別に悪いことしてる訳じゃないし
大切なお客様の1人に変わりはないし、ね?」

「…はい」

「人の気持ちを思いやってあげよう」


店長の言ってることが正論すぎて
大人しく頷いた。


それまでは良かった。

それまでは別に良かった。



でも、そのえーくんは


「よっ!」


あの日から毎週お店に来るようになった。


そう、これがあたしの
もう1つの悩みのタネ。


なんでこうみんなして
ありとあらゆるめんどくさいことを
してくるのかなぁ…


いつも以上にげんなりしながら
えーくんお気に入りの端っこの席に
オーダー用の小さいバインダーを持ちながら近づく。


「えーくんまた来たの?」

「悪いのかよ」

「暇人かよ」

「接客態度がなってねぇなぁ」


腕を組んで踏ん反り返って座る彼は、
バイト先の制服に身を包んだあたしを


「相変わらず似合わねえ」


って馬鹿にしたように笑う。


「そんなおしゃれなエプロンより
割烹着姿の方が合ってるだろ」

「注文は?」

「給食当番みたいなやつ」

「注文!」

「はいはい。ホットね」

「フンッ」

「てめぇクレーム入れんぞ」


言葉とは裏腹に
楽しそうな声を出すえーくんの机から
メニューを回収してカウンターにいる
店長の元へ向かう。

カウンターの中に入って
店長に、「ホット1つです」って声をかけると
ニヤニヤした顔で振り返ってくる。


「ありゃりゃ〜
今週もしっかり来ちゃってんな〜」


私の心内を知ってか知らずか
楽しそうな店長に頬を膨らます。


「あの男の子さ、明らか狙ってるよね」

「何をですか」


膨らました頬のまま
問いかける。


「何もかもだよ」


店長は慣れた手つきで
中挽きにしたコーヒー豆を
サイフォンの中に入れた。


「彼がお店に来るのは毎週木曜日。
その曜日は照はジム行ってて
絶対ここには来ないでしょ?」

「……」

「勉強する為に来ているのが
事実だとしても、なんでこの曜日だけ?
他の曜日はどうしてるの?
どこで勉強してるの?」


フラスコのお湯が沸騰して
ゴポゴポと音を立てる。


「騙されやすいなぁ、○○ちゃんは。」

「あの…」

「ね、全部狙ってのこと。
照に邪魔されないように
○○ちゃんに会うために。」


コーヒーのいい匂いと、
店長からの甘くて重い言葉に
頭がクラクラしてくる。


「さしずめ、照にやり返す為に
手出した女の子に
本気で惚れちゃったってやつかな?」


話していないはずの事まで
言い当てられてギョッとするあたしの前に
抽出されたコーヒーを注いだカップを置く。


「こりゃますます照に言いにくくなったね」

「…あ、あたし悪いこと
1つもしてません!」

「うん。してない。
なーにも悪いことしてない」

「し、てない」

「分かってるって、俺は」

「それに…ッ、店長さんが言わなくても
いいって言いました…ッ」

「うん、俺がそう言った。
もし照に聞かれたらちゃんとそう答えるよ」

「なら」

「でも、照はどう思うのかね、
あの筋肉馬鹿はそこまで器が広いとは思えないな。」

「え…」

「いくら俺が照に彼がお店に来てることを
言わなくてもいいって言ったって伝えても
あいつは怒ると思うよ」

「でも岩本くんは大人だからッ」


身を乗り出して反論しようとしたあたしに
店長さんは優しく笑いながら
コーヒーカップを指差した。


「冷めないうちに、持ってってあげて?」

「……はい」


仕事が最優先。


おとなしく横の棚から
ソーサーとなるお皿と
ティースプーンを取り出す。


ソーサーの上にカップ
その脇にティースプーンも乗せる。


「○○ちゃん」


不意に呼ばれて振り返ると
さっきと変わらず笑顔の店長。


「照が大人に見えてるなら、
それは照がカッコつけてるからだよ」

「岩本くんはカッコつけなくても
カッコいいです。」

「うん、そういう惚気はいらない」

「……」

「とにかく…他のことはカッコつけられてても
多分、○○ちゃんに関しては
無理だと思うんだ。」

「……」

「いつもはでかい器も
○○ちゃんに関しては小さくなっちゃう。」

「…あたしに関してはって
どういう意味ですか…?」

「今回のバイトの条件がいい例。
過保護すぎる。ホント独占欲強すぎ。」


「ただのクソガキだよなぁ」って
含み笑いをした店長は、


「今度こそ冷めるからヨロシク」


って言いながら奥へと消えた。


トレンチにコーヒーを乗せて
えーくんの席に向かう。


席に近づくあたしに気づいたえーくんは
目を細めて開いていた参考書を閉じる。


「お待たせ」

「サンキュ」

「ちょっと冷めたかも」

「なんだそれ」

「あたし悪くないけど」

「まぁいーよ。俺猫舌だし。」


あたしがこのカフェに来ていることを
岩本くんに告げ口をしたら

えーくんのあたしに向ける
とびっきりの笑顔は消えてしまうのだろうか。


誰が悪いとかじゃない。


でも、人の気持ちを思いやるって
こんなにも難しい。


あたしは曖昧に笑って、
えーくんの前にコーヒーをそっと置いた。





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実は書きためていた
ヤンキー岩本くん。

書いていて1番楽しい人…


1話で終わらせるつもりだったのに
またしても。

岩本くんったら罪な人。笑


お付き合い頂ければ。
いつもすみません。